ガンダムビルドファイターズAWAKENING INSTINCT 作:Hetzer愛好家
『りょ、両者ともに戦闘不能です! これはいよいよ分からなくなって来ました!』
『此処で一分間の補修作業を与えられますが……どうするんですかね? 何方のガンプラも大破して使い物になりませんよ』
実況と解説。そして観客が口々に騒ぐ中、俺は黙ってリュックから二つ目のガンプラを取り出した。
今さっきの戦いで大破してしまった俺の愛機であるZガンダムは、この一分間ではとてもではないが戦闘可能状態に復元することは不可能だ。機体の原型が残っている方が不可思議なぐらいに激しく凄まじい戦いだった。
俺が超一流のガンプラビルダーなら話は違ったかもしれないが、そんな夢物語を今さら考えても仕方がない。
此処までよく戦い抜いてくれたなあ……と思い、感謝をしながら愛機Zガンダムを丁寧に袋に包んでリュックの中に入れた。
この大会は激戦に次ぐ激戦であった。ちょっと特殊なパーツを組み込んでいるZガンダムでなければ、俺はきっと一回戦負けだっただろう。いや、この世界大会の出場すら叶わなかったかもしれないな。
Zガンダムを一緒に組み立ててくれた兄さん。このパーツの大まかな部分を生み出した幼馴染みのお姉さん。生み出された試作品や研究ノートを解析し、完成品までこぎ着けた大切な後輩と恋人。誰か一人でも欠けていたら不可能だった。
……ああ、そこに居るな。観客席の最前列。相変わらず元気いっぱいで、よく通る声で応援してくれているのが俺の後輩。その隣で神に祈るような姿勢で座っているのが俺の恋人だ。
「せんぱぁぁあい! ファイトでぇぇえす!」
「……頑張って!」
相変わらず元気な後輩と、物静かだけど芯の通った声を出す恋人。二人の姿に思わず苦笑して、しかし元気づけられる。
よくよく見れば、観客席の最前列には俺の友人や恩師が勢揃いしていた。こんな遠い会場までわざわざ来てくれていたのか、と感動を覚える。
『補修作業終了です。選手はお戻りください』
アナウンスが入った。俺はもう一つの愛機を手にして台の前へ移動する。
何時ものようにガンプラを置くと共に、青い粒子がバトルフィールドを形成していく。何千、何万と見た光景だが、この最高の舞台で見ると中々に素晴らしく美しい物に見えてくる。
視覚が操縦席のような場所を映し出す。一つずつスイッチを入れていき、モニターやらエンジンやらを全て起動させる。
モニター画面に映るのはついさっきまで戦闘していたステージ。しかし再出撃扱いだからなのか、倉庫の壁が一面に広がっていた。それを見た俺は一つため息をついて苦笑いする。
「トリントン基地の倉庫か。全く、この機体を見てわざわざ此処に送ったのか? だとしたら粋な計らいだな……」
トリントン基地。この戦闘を行うステージに選ばれた、ガンダム好きなら有名な場所を模したバトルフィールドだ。砂漠に沿岸部。そして通常の地上。様々な地形が用意されており、戦闘方法も人によって多種多様だ。
機体のバーニアが一気に火を噴く。光球状の操縦桿をグイッと引くと、愛機は倉庫の天井をアッサリと突き破り、そのまま大空へ向かって飛翔して行った。
『あ、あの機体は……まさかっ!?』
『解説の○○さん、あの機体を知ってるんですか?』
『勿論ですよ! 私は彼のことをずっと追いかけているファンでもあるので、あの機体を知らなかったらファン失格です! あれは……!』
興奮する解説者の声が聞こえる。そんなことはお構いなしに大空へ駆け上がり、満足のいく高さまで昇ると俺は機体を止める。
雲一つ浮かんでいないこの大空に、俺はこうして支配者のように飛んでいる。この感覚が何よりも俺は好きだった。
特徴的なバイザー。背後にはプロペラントタンク、スラスター、武器を一纏めにしたムーバブル・バインダー。ムーバブル・バインダーに一門ずつ装備されたビーム・キャノン。腕にはメガ粒子砲とロング・ライフル。踵にはクローアーム。腰に提げられた銃に装填されている特徴的な切断型のCファンネルたち。
随分とゴテゴテで、かつかなり特徴的な見た目をしていると自負している。しかし、こんな合成獣のような見た目をしていても大空を支配できる素晴らしい機体だ。
その名をバイアラン・カスタム。大切な人が遺してくれた、俺の一番の愛機だ。
「……見つけた」
大空からなら索敵は容易だ。すぐさま敵を発見した俺は、高度有利のまま近づいていく。敵も気がついたのか、高度差を埋めようとグイグイ空へ昇ってくる。
大空を支配するのはこの機体だけで十分だ。頂点は二人も要らない。片方は蹴り落とされる運命だと決まっている。
二つのロング・ライフルのビーム出力を調整してサーベル状へ変形させる。初めから二刀流なのはこの舞台が最高の物だからである。
世界一を決めるこの大会の決勝戦が、最高以外の何物でもないだろう?
ガンプラのプラスチックのみに反応するプラフスキー粒子。これを最大限活用し、普段は動くはずのないガンプラを生き物のように動かして対戦するスポーツである“ガンプラバトル”。
俺が出場しているのは、その最高峰の大会とも言われるガンプラバトル選手権世界大会だ。そして今は決勝戦の最中である。
とある出来事から、一度はお互いに戦闘続行が不可能になったこの試合。しかし、このまま引き分けで終わるなんて俺が許さない。中途半端な結末は俺を含めて誰も望んじゃいないのだ。
この狂った世界大会を元の正しい形に戻すためにも。この大会に出場して気を病んでしまった人たちの心を救うためにも。此処で終わらせるわけにはいかないのだ。
「一ノ瀬
そう告げて、俺は敵機体へ向かっていく。
……思えば、あの日があったから俺のガンプラバトルへの熱は最高潮に燃えることになった。あの人が居たから。あの発言があったから。俺は此処まで来れた。
『さあ行こうか、梓。お前ならやれるよ。なんたって俺の弟だからな』
『ふふ、あの小さかった梓くんが此処まで来れるなんてね。お姉ちゃん嬉しいよ』
誰よりも強かった兄と、誰よりも優しかった兄の恋人の声。
『凄いなあ。本当に凄いよ。流石は俺の自慢の息子だ!』
思い出はとても少ないけど、立派な背中と眼差しを持つ父さんの声。
『もう少しだぞアズくん! 頑張るんだ!』
『アズちゃんファイト! あんな機体、アズちゃんなら余裕よ!』
『小僧、行けるぞ! やっちまえ!』
『アンタならやれるよ。ほら、もう目の前にゴールが見えてるだろう? 最後まで走り抜くんだ!』
『おにいちゃんならできる! だって、おにいちゃんはテンサイなんだもん!』
憧れだった兄の恋人の家族の声。そして、病院で世話になった老人夫婦の声。自分を慕ってくれた女の子の声。
そして……
『梓は死神なんかじゃないよ。ちょっと運が悪かっただけ。これからは幸せになれるって、ボクは確信してる。だから……』
甘酸っぱい、完熟したイチゴのような恋をした女の子の声。
『こんな所で勝ちから逃げたらダメ。梓ならきっと出来る。ボクは信じてるよ』
故人に支えられて、俺はこうしてこの最高の舞台に立つことが出来ている。
格闘戦が始まるまであと数秒。その短い時の切れ目で、俺は走馬灯のように高校に入学した頃から今に至るまでの自分を思い出すのだった。
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春はあけぼの。かの枕草子の有名な一節だが、俺はこの曙……というか明け方と言うのがどうしても昔から苦手だ。早起きは三文の得なんて諺もあるが、絶対に俺には当てはまらない。二度寝は最高なのは譲れない。
それは高校の入学式があったとしても変わらない。春休み後であれば尚更である。母親に叩き起こされ、寝ぼけまなこのまま学校へ向かった俺は半ば寝たまま入学式を終えた。
新しいクラスメイトとも特に話さず、俺は予てより決めていた場所へ向かう。
辿り着いた部屋に提げられたプレート。そこに書かれているのは「ガンプラ模型部」である。この部に入るため、やりたくもない勉強を頑張ってこの高校に入学した。
扉をノックしてから開けるの、既に部員が何人かたむろしている。
「あら、体験入部希望者かしら? 入学初日からやって来るなんて珍しいわね」
部長らしき人が出迎えてくれた。俺よりも背が高いのが羨ましい……ではなくて。
「入部希望です。ガンプラ、持ってきました」
リュックの中からバイアラン・カスタムを取り出す。それを見た部長らしき人は一つ頷いてから自分の物であろうガンプラを手に取った。
そして俺を部屋へ招き入れると、見慣れた台座の前に案内してくれた。
「私は三条凪。ガンプラ模型部の部長をしているわ。早速だけど、すぐにでもガンプラを動かせる?」
「問題ないですけど……何故ですか」
「入部希望者は試験を受ける決まりがあるの。ステージは
「なるほど。分かりました」
「随分と落ち着いてるわね。可愛い顔と身長なのに、面白くないわ……」
俺の顔は中性よりも女性寄りだ。ちなみに名前も女性っぽい。身長もそこまで高くない。声も高いので、女装すればまずバレない。
コンプレックスではあるが、気にしては負けなので無視して俺は台座の前に立った。
『Please set your GP BASE』
音声に従いGPベースをガンプラバトルの筐体、バトルシステムに接続する。このGPベースには、これまでの戦績やガンプラの状態が記録されている。
続いてGPベースにバイアラン・カスタムをセット。目の前が操縦席画面に変わる。
パチパチとスイッチを一つずつ入れていき、出撃準備が整ったら俺は出撃の合図を送った。
「一ノ瀬梓。バイアラン・カスタム。行きます!」
カタパルトから発進。そのまま宇宙へ飛翔していった。
簡易変形を取って高速移動形態になり、みるみるうちに加速していく。敵はおそらく小惑星を影に待ち構えている。小惑星を狙撃しても良いが、生憎なことに俺は射撃自体がそこまで得意ではない。的が大きくても外す可能性がある。
故に、俺は速度を落とすことなく小惑星帯に突入した。バイアラン・カスタムはかなり大型な機体なため小惑星に時々ぶつかりそうになる。しかし臆さず前へ進むと、背中側に何となくだが殺気を感じた。
迷わず操縦桿を引いて急上昇すると、さっきまで居た場所をビームが通過して小惑星を撃ち抜いた。どうやら直感は間違っていなかったらしい。
「だけど、一度発砲すれば場所は筒抜けってね」
人型に再度変形させて上昇の頂点で反転。ロング・ライフルの出力を弄くってサーベル状にすると、フルブーストで突撃。そして敵が潜伏しているであろう小惑星をぶった切った。
ロング・ライフルを使ってるだけに刀身が長く、あっという間に小惑星ごと試験官搭乗のジムを真っ二つにして戦闘不能に追い込む。
爆発から逃れるためにまた変形して離脱すると、今度は左前方の小惑星に向かって突撃する。此方からも殺気が感じられた。昔から勘だけは良いので間違いないだろう。
二つのロング・ライフル。そしてビーム・キャノン。四つの砲が一つに集束することで戦艦並みのビームと化する。
ドォオン! ドォオン!
「うわ、あぶな……って、掠っただけで!?」
「隙アリです」
「うおわああああ!?」
掠っただけで近くの腕や脚を破壊していくビームの威力に試験官が驚いている間に人型へ戻ってから接近し、すれ違いざまにメガ粒子砲を浴びせてそのまま離脱。爆発したジムの残骸を避けながら最後の一機を捜す。
モニターを拡大しても一向に敵が映らない。殺気も感じられないので、俺は索敵に難儀し始めて少し動くことにした。
と、それを待っていたかのように放たれるビームが一閃。
咄嗟にビームコーティングを施した腕で弾くが、またすぐに殺気が消えてしまう。これは中々に厄介だ。
もう焦れったい。宇宙空間のステージはその場に居るだけでも集中力が削られてしまう。戦闘中はそうでもないが、こうして索敵をしている最中はどうしても苛立ってくる。
あまり長い時間こうして肉眼で索敵するのも精神衛生上よろしくない。奥の手を使ってでも早く終わらせよう。
「ファンネルミサイル、行け!」
腰に提げられた銃を手に取って引き金を引けば、ダンダンダン! と特徴的な形をしたファンネルミサイルが飛び出す。
基本的には万能な武器だが、人の殺気を感じ取れるサイコミュ兵器なので実は索敵にも使える。まあ、索敵に使うのは今も昔も自分だけであろうが……。
それぞれが独立した生き物のように宇宙を駆け回る。小惑星を爆散させながら、それでも尚前進するその姿は、誰かが「悪魔みたいだ」と言っていた。
「……そこだ、見つけたぞ!」
一瞬だけだが頭部が小惑星からはみ出たのを見逃さない。全速力で目標の小惑星に接近し、ファンネルミサイルを一発だけ残して回収。残した一発は単純機動をさせることであくまでも囮としての役割を与えた。撃墜する役割を担うのはこちら側だ。
左腕のメガ粒子砲を構える。右腕はロング・ビームサーベルがスタンバイ。
「終わりだっ」
「うわ、しまった。ここは逃げ――」
「遅い!」
このバイアラン・カスタムから初速のみで逃げ切れるのは、それこそフルバーニアンやペーネロペー並の化け物のようなダッシュ力がないと不可能だ。ジム程度の機体で逃げようだなんて愚かでしかない。
横回転することで遠心力を持ち、万に一つも斬り損ねることのないようにして激突。ジムを胴体から真っ二つにすると、トドメと言わんばかりにメガ粒子砲を発射した。
少しの時間差の後に爆発するジム。と、同時に周囲が部室へと戻り始めた。どうやらこれで入部試験は終わりらしい。
軽く息を吐きながらガンプラを手に取ると、凪先輩を含めた試験官が近づいてきた。何用だ?
「合格よ。素晴らしい操縦技術と判断力だったわ」
ちょっと身構えたのは杞憂だった。アッサリと合格を告げられたので拍子抜けである。
が、次に発された言葉はこれまたアッサリと俺の逆鱗に触れた。
「梓って女の名前みたいだから少し油断しちまったけどなあ。けど実際はめっちゃ速い機体だわ火力高いわであっという間にやられちまったぜ!」
「マジでそれな! 顔も女みたいだし、割と楽に落とせると思ったんだけどな!」
ブチリッ。何かが切れる音がした。
「ちょっと、それは梓くんに失礼でしょ? 確かに女の子みたいだなとは思ったけど……」
「……かよ」
「え、何か言っヒィ!?」
「梓が男の名前で悪いかよ! 俺は男だよ!!」
俺の名前を“女みたいだ”と口にした男の先輩に向かって飛び掛かった。勢いを載せたタックルで先輩を押し倒すと、そのまま力任せに顔面を殴ろうとする。
無論と言うべきか、俺の握り拳はもう一人の男の先輩によって無理矢理に止められる。
俺はお構いなしに邪魔をしてきた先輩をぶっ飛ばしたので、場が更に混沌を極めてしまった。
ちなみに凪先輩は腰を抜かしていた。思いっきり睨みつけたから仕方ない。
結局、俺の暴走は数十分にも渡って続いた末に漸く収まった。最初以外はは口汚く罵り合っただけなので実害は皆無だったが、その代わりに先輩たちと確執が生まれてしまった。
大体は自分が悪いとは言えこれは中々に悲しい。本当にやってしまった。
沸点の低すぎる自分の精神をとことん呪った。こんな調子で三年間もやってられるか! ……と、泣き言を吐いてみるがもう後の祭りである。
トホホ、と俺は入学初日から嘆くのだった。
梓はカミーユみたいな部分があります。後半のやり取りは単純にやってみたかった()
ファンネルミサイルは悪ノリしてます。最初は身体に貼り付けるつもりでした。メガ粒子砲に関しては「行けるだろ」ぐらいのつもりで装着してます。見た目的には二号機ですがお許しを。