ガンダムビルドファイターズAWAKENING INSTINCT 作:Hetzer愛好家
「ええ、それではこの数式を解いてもらいましょうかね。一ノ瀬くん、答えられますか?」
「X=3。Y=9。これで良いですか」
「正解です。彼は簡単に解いてくれましたが、この問題はテストに出ますよ。答えを写すだけではなく、しっかり自力で解けるように……」
「ふあぁぁ……」
当てずっぽうに言った答えが正解だったので、俺はこれ幸いと欠伸をしてから眼下のノートを見つめる。ノートには数式なんて物は一つも書かれておらず、俺のガンプラをどうやったら強化できるのかがきめ細かく記されている。
現在考えているのはCファンネルの使い方についてだ。ごく短時間限定なら、俺は戦闘しながらでもファンネルを操ることが可能だ。しかし、どうしても集中力が続かないのと中途半端な戦闘機動になってしまう欠点がある。
それを解決する方法をかれこれ数年は模索しているのだが、答えは未だに出てこない。
こんな時に兄さんや父さんが生きていたら……と、常々思う。俺が小学生の頃に亡くなってしまった兄さんと父さんは超一流のガンプラファイターだった。彼らに質問ができたらあっという間に解決しただろう。
が、たらればだけを考えても仕方がない。きっと道はあるはずだ。
兄さんが生前使っていたのはZガンダムで、父さんはスタークジェガンだった。ファンネルの回避方法ならすぐに教えてくれたかもしれないが、ファンネルその物の扱い方までは咄嗟に出てこなかったに違いない。
「難しいなあ……」
ポツリと零れた本音は誰の耳に入ることなく消えていく。仮に聞こえていたとしても、きっと数式が難しいのだと勘違いされただろうから問題ないが。
キーンコーンカーンコーン……
「では、今日の授業はこれで終わります。五時間目は体育だから遅れないように」
ガヤガヤとした喧騒が教室に戻る。俺はリュックから弁当を取り出すと、それを手に取って教室を出た。
向かったのは図書室だ。それなりに広く、冬でも夏でも快適に過ごせて静かな空間という素晴らしい場所だ。入学から数週間経過したが、俺は毎日この図書室で昼食を摂っていた。
「あら、梓くんいらっしゃい」
「どうも。今日もお邪魔します」
「今日は先客が居るわよ。仲良く食べてあげてね」
司書さんが口にした先客という言葉に「おや?」と感じる。こうして昼食を摂るようになってから初めての出来事だ。一人で食べるのが常なだけに誰がやって来たのが気になる。
なるほど、既に長机の上には一つの弁当箱が置いてある。包みが可愛らしいので女の子であろう。尚のこと、どんな人なのか気になるところだ。
置いてある弁当箱の向かい側に俺は座り、手拭きを使ってから箸を取り出す。
母子家庭であるが故、仕事で疲れている母さんに負担を掛けないためにも自分で作った弁当をパクつく。ちなみに一番得意な料理は甘めの卵焼きである。
「あ、あれ? 貴方は……」
「んぐっ。どうも、初めまして」
視界に入ったのは、弁当箱の包みの可愛さに違わぬ美少女であった。
セミロングの黒髪。整った位置にある目口鼻。綺麗な二重まぶた。鈴の鳴るような声。メガネこそしているが、俺的にはとても可憐な少女に見える。
ちょっとオドオドおしている所が気になるが、俺は特に気にすることなく挨拶をして食事に戻った。女の子が困惑してるのは知らん。
俺が話す気がないことを悟ったのか、女の子も黙って食事に戻った。一足先に食事を始めていた俺は早々に食べ終わり、席を立って本棚を物色することにした。
「お、新刊出てるじゃん」
俺が手に取ったのはガンプラの雑誌だ。この雑誌に直近の大会情報やオススメのガンプラビルド方法などが載っている。
直近の大会は五月の地区大会か。どうやら個人戦とタッグ戦があるらしいが、一年生はタッグ戦限定と聞いているのでペアを作らなくてはいけない。確執のある先輩たちとは組める気がしないので割と危機的状況なのはさて置く。
オススメのガンプラビルド方法の中にファンネルについての記載があったので、長机に戻ってゆっくり読もうとする。
「あの……貴方もガンプラを作るんですか?」
が、女の子に声を掛けられたので読書を中断することになった。
小さく頷くと、女の子は少し目を輝かせる。
「私もガンプラ作るんですよ。まだそこまで上手じゃないですけど……」
「ふーん。それじゃあ模型部に所属してる?」
「ですね。でも、操縦が下手なので大会には出たことないです」
伏し目がちな女の子。自分に自信がないのか、力無く「あはは」と笑っている。
あまりの自信のなさに俺は顔を顰めた。ガンプラというのは他人と出来栄えを競う物ではない。自分自身が一番納得する物を作れたらそれで良いのだ。オンリーワン。これに尽きる。
考え方は人それぞれで違うんだなあ……なんて思ったが、それよりもまだお互いに名を名乗ってないことに気がついた。
「まあ、これからはガンプラを嗜む者同士仲良くしてくれ。俺は高校一年生の一ノ瀬梓だ」
「あ、はい。私は中学三年生の宇崎時雨です。よろしくお願いします」
中学三年生と聞いて不思議に思った君には申し訳ない。説明していなかったが、俺が入学した学校は中高一貫校である。
ペコリとお辞儀をして名乗った彼女に好印象を持つ。見た目や言動に違わず真面目な性格をしているらしい。堅苦しいのはそのうち直して欲しいが、ファーストコンタクトでここまで話せるなら問題ないだろう。
と、ここで俺は彼女が自分のガンプラに兎に角自信を持ってなかったことを思い出した。そこまで自虐をするなら寧ろ見てみたい。
「なあ、ガンプラは持ってきてるか? そんなに自信がないなら何処が悪いかを見たい」
俺の言葉に何故か呆気を取られている時雨に「どうした?」と一声掛けると彼女はワタワタとしながら告げた。
「そ、そんなの悪いですよ! あんなガンプラ、見ただけできっと……!」
「先輩命令。持ってきてよ」
「は、はいぃ!」
冗談めかして「先輩命令」と口にしてみたが、それを本気にして時雨は図書室を出て行った。真面目な性分だからか、人の言ったことをかなり真に受けるタイプらしい。
何となく放っておけない気分になり、俺は走って行く時雨の後を追うことにする。小動物みたいで可愛らしいのだが、なんだか目を離しておけない危うさみたいな物を彼女は持っている気がした。
気がつけば中学三年生の教室前である。俺は廊下の壁に寄り掛かりながら時雨が出てくるのを待つ。
……つもりであったのだが、教室内から聞こえてきた声によってそれを中断してしまった。
「おいおい宇崎。何だよこれぇ?」
「うわ、相変わらずお前のガンプラはダッセえな! 何だよこの塗装!」
「や、止めてよ。返してっ!」
声が耳に入った瞬間に俺の身体は動いてた。チラリと教室内を覗くと、何やら時雨と複数人の男子が揉めている様子が見える。
あまり良い気分はしないのだが、部外者の俺が割って入るのもお門違いな気がして静観を貫く。
「どう見ても地味すぎるだろ! ガンプラならもっと派手に行くべきじゃね? てかジムなんてダサすぎるわ!」
「俺ならもっと格好良くできるぜ! 折角だし今からやってみねえか?」
「お、良いなそれ!」
男子生徒が手にしてるのはジムスナイパー・カスタム。おそらく時雨が制作したガンプラだろう。
パッと見ただけだが、彼女が言うほど酷い出来とは思えないガンプラである。むしろ素晴らしい完成度だ。塗装もムラが有るわけではない。あのガンプラの何処が出来が悪いのか聞いてみたい。
いや、それよりも問題なのは目の前の光景だ。ガンプラを何も知らなさそうなDQN共が何か訳の分からぬことをほざいている。
もう黙って居られない。DQN共は時雨のジムを今にも壊してしまいそうである。
ドガンッ!!!
人の作ったガンプラを勝手な理由で壊そうとする。そんな行為を許すことは出来ない。
俺は教室に足を踏み入れると、一番近くにあった教室の扉を力任せに蹴り飛ばした。
騒音によって教室が静まり返る。誰一人として身動きを取らない。俺はスタスタと教室内を歩き、黙って男子生徒の手にしたガンプラを奪い取るとそのまま優しく時雨に手渡す。
「んなっ、ちょ、おい! 何すんだよ!」
そこまで来て漸く我に返ったのか、男子生徒の一人がギャーギャーと騒ぎ立てる。
「何って、お前らが人の作ったガンプラを壊そうとしたからそれを止めただけだ」
「い、一ノ瀬先輩……」
騒ぎ立てた男子生徒を思いっきり睨みつけて物理的に黙らせる。とことん激情家なためか、腹が立つと人を威圧するような表情に変わってしまうのだが……どうも今回はそれが役に立ってるらしい。
先ほどの口調からして、男子生徒たちはガンプラ制作を多少は出来るらしい。何なら中等部のガンプラ模型部員なのかもしれない。
一方的に自分の制作したガンプラを壊される心の痛さと怖さを教えてやることも出来るが、それよりも此処はガンプラバトルで黙らせるべきだ。
「言いたいことは沢山ある。だが、腰を据えて真正面から殴り合うのはお互いにとっても有益ではない。分かるな?」
「何を言いたい……!」
「簡単な話だ。放課後に俺とこの娘とのペアとガンプラバトルをするのさ。相方は好きに選んでくれて構わない」
困惑する男子生徒。いや、困惑しているのは時雨も同じらしい。突然何を言い出すんだ? なんて間抜けな面を晒している
俺は続けて告げた。
「それだけガンプラ制作に自信があるんだろ?
なら、俺程度のガンプラファイターを出来の良いガンプラでバトルに勝利。そのまま黙らせるのは簡単なはずだ。違うか? それとも出来ないのか?」
「……上等じゃねえか、やってやるよ。二度とそんな減らず口叩けなくしてやらぁ!」
分かりやすいぐらいに乗ってきた。小馬鹿にしたような口調で煽ったのが幸いしたらしい。唾を飛ばしながら宣言してきた。
未だに困惑から抜け出せない時雨の頭をポンと叩いた。彼女は不安げな瞳で俺を見つめる。
俺は「また放課後」とだけ伝え、後は何も言うことなく自教室に戻るため足を運ぶのだった。
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放課後。残りの授業を軽く受け流した俺は、終礼学活が終わったのを確認するとバイアラン・カスタムを手にして部室へ向かった。
部室には既に時雨が来ており、椅子に座って自身のガンプラの最終調整をしている。時雨は集中しているのか、俺に気がつかない。
「よっ」
「わわ、先輩!?」
ビクッ! と肩を跳ねさせる時雨が可愛いらしい。こちらを向くと、少しだけ頬を膨らませてくる辺りがもの凄く小動物みたいである。
彼女の隣に腰を掛け、俺もバイアラン・カスタムの最終調整を始める。と言っても確認するのは間接部が外れてないか、塗装は剥げてないかを見るだけだ。やることは少ない。
「あの……先輩。私、バトルは本当にヘタクソですよ? 足引っ張って負けたら……」
調整が終わったのか、時雨は俺の手元を見ながらもそんなことを言ってくる。
チラリと彼女の顔を窺い見れば、瞳には不安が宿っていた。本当にヘタクソなのかはさて置き、バトルに不安があるのは違いないらしい。
そんな時雨の手元にあるジムスナイパー・カスタムを見た俺は、あることを決断した。
なに、決断と言っても簡単なことだ。彼女は後方支援だけに徹してもらい、俺が前線で二機の相手をする。それだけである。
「心配しなくて良いよ。俺が前線で殴り合うから、敵をひたすらその狙撃銃で撃ち抜いてくれれば良い」
「え、でも……そうしたら先輩が」
「おいおい、俺の機体は一撃離脱向きのバイアランだぞ? 二機ぐらい相手するのは余裕さ」
ウソだ。余裕ではない。が、ここはウソをついた方が良い。ウソも方便と言うだろう?
俺の言葉を受けた時雨の表情が少し緩む。完全とまでは行かないが、俺の戯けた態度は彼女の不安を拭うことに成功したらしい。
……普段からそんな感じで、緩んだ表情をしていれば絶対に時雨はモテると思う。メガネと暗めの雰囲気が合わさってマイナス寄りのイメージになってしまうが。
と、まあどうでも良いことを考えていた俺だがガンプラの最終調整を怠ることはない。何故なら、俺が部室にやって来てからそれなりに時間が経っているから。もうすぐバトルが始まる気がするから。手は抜かない。
その予想通り、部室の扉が音を立てて開かれた。
俺は黙って立ち上がる。そして、静かな声で告げた。
「始めようか」
次回、梓&時雨vsDQNたち