マギのアラジンと雁夜おじさん行く聖杯戦争   作:ロマニ

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原作と同じ部分は基本全カットです。
軽い説明は入れていきますが。


第九夜

 聖杯戦争——それは魔術師による奇跡の競い合い。七体目のサーヴァントであるランスロットが召喚されたことにより、昨夜、その戦端が遠坂時臣と言峰綺礼によって開かれた。

 脱落者はアサシンということになっている。無遠慮に遠坂邸内へと踏み込んだ暗殺者が、遠坂時臣のサーヴァントによって屠られた。客観的に見れば、ただそれだけのことである。アサシン消失を目撃していた()()の陣営も、各々その意図を汲み取っていた。

 

 その結果、ここコンテナターミナルでも新しい動きがあった。日は落ち、冷気が閉じ込められている空間で、聞こえてくるのは二つの息遣い。真っ暗闇に浮かぶのは、二本の槍を持った痩躯な男と、黒いスーツ姿で着飾っている色白な男。見る人によっては、なんと絵になるワンシーンだろうか。二人の男を月光が照らすことで、息を呑むほどの鮮烈さへと昇華していた。

 槍を持った痩躯な男——ランサーが小さく息を吸う。

 

「誘っていた者は違うが……よくぞ来た、というべきか。一日中、この街を練り歩いていたが、俺の前に立ちはだかった猛者はお前だけだ」

 

 鋭い眼光。そこには隠しきれない闘気が秘められている。

 対して、熱烈な視線を受けた黒スーツの男——ランスロットはなぜこのようなことになっていたのかを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『まずはサクラを救えるであろうキャスター、あるいは魔術師を探すのが先決ですね』

 

 コンテナターミナルでの一幕から少し時を遡った頃。間桐邸のリビングにて、戦いの「た」の字もしらなさそうな二人の素人を相手に、そう告げるのはランスロットだった。雁夜、アラジンは真剣な面持ちで、ランスロットが書き記す紙へと視線を落としている。紙の上には、これからの方針で最も大切な「キャスター」という文字が書かれていた。

 

『でも、どうやって探すんだい?』

 

 アラジンからの純粋な問いかけに全員が少しばかり目を閉じ思案する。彼の疑問はそれだけ核心をついたものだった。

 

『誘き寄せるっていうのはどうだ』雁夜が言う。

『でも、キャスターさんは工房から離れたくないサーヴァントさんじゃないか』アラジンが答えた。

 

 穴熊を決め込まれてしまえば、いかにランスロットといえどもキャスターを見つけるのは一苦労である。雁夜がもし高位の魔術師であるのなら、魔力の痕跡から工房を見つけたりすることが出来たかもしれないが、相手はキャスター。隠匿の面においても優れているであろうことは易々と想像できた。

 

『ここは一つ派手なことをするのがいいかもしれませんね』

『派手なこと? 一体何をする気だ、ラン……バーサーカー』

 

 真名を出しそうになった口をすぐに噤み、雁夜はじとっとした目でランスロットを見た。

 

『昔、引きこもっていた姫を外へ出すため、大人数で朝までどんちゃん騒ぎをした事がありました。外の歓声に興味を示し、顔だけ出した姫を無理矢理引っ張りだしたのです。人間、外に全く関心を向けないなんてことは無理という話です』

『そんな古典的な……』

『ですが有効でもあります。さらに、私は史実通り最強ですので、まだ見ぬキャスターにアピールできるかもしれません』

『おい、さらっと自惚れが入ったぞ』

 

 ランスロットはそこまで話して一息ついた。彼の力を持ってすれば、多少の荒事はなんなく切り抜けられるであろう。それこそ円卓最強とまで言わしめる程の実力者である。雁夜の言った「自惚れ」でもなければ慢心でもない。ランスロットの言葉はただただ事実であった。

 

『じゃあ、ランスロットおじさんはその派手なことを起こすんだね?』

『ええ……できれば今直ぐにでも。ここ二日間は召喚の影響で瀕死状態であったカリヤのため大人しくしていましたが、魔術師に時間を与えると厄介なのを私は知っています』

『……』

 

 そう言ってランスロットの頭で思い出されるのは、虹色の髪をした混血児である。合わせて雁夜も同様、誰かしらの顔が頭に浮かんだのだろう。渋い顔を浮かべていた。

 

『はぁ、バーサーカーの言い分は重々理解できたよ。でも、何をするのかくらい俺たちに教えてくれ』

『そうですね、まずは簡単に——

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——一騎、落として来ます。

 

 その言葉を思い出しながら、ランスロットは目の前に佇むランサーから目を離さず、肩に掛けてあった竹刀袋から木刀を取り出した。彼の宝具にかかれば商店で売っているこの木刀も十分な凶器と変容する。

 騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーダー)。詳細は省くが、彼の手にある武具は全て彼の宝具として昇華される。その効果通り、ランスロットの手に収まっていた木刀が薄黒い靄に包まれ、不気味な存在感を溢した。

 

「その底気味悪い闘気。セイバーではない……ならば、狂気の英雄とお見受けするが、如何に?」

「如何にも。そういう貴公はランサーに見えるが、相違ないか?」

 

 ランスロットの問いかけにランサーはただ頷いて返す。ランサーからすれば、ランスロットの姿は二重にも三重にもぶれる奇妙な人間に見えているのだろう。それを理解してか、ランスロットは堂々とした振る舞いで、木刀を構えた。

 

「バーサーカーの割に話が出来るとは面妖な奴だ。しかし、これより尋常に死合おうという相手の顔も見れないとは、中々興が乗らぬ術もある」

「ほう——貴公は騎士としての果たし合いを望むと?」

「ふっ、それが叶わぬことくらい俺にも分かる」

 

 ランサーが片方の槍を肩に乗せると、自嘲するように鼻で笑った。ランスロットもそれを見て力無い笑みで返す。聖杯戦争のシステム上、自分の素性を隠すのは当然の行為。ならば、ランスロットのような姿隠しも、こと聖杯戦争においては褒められるべきものである。

 ランサーが担いだ槍を手元に引けば、その端正な顔付きを笑みから好戦的なものへと変えた。

 

「戯言はここまで。さぁ、あとはこれで語るとしよう」

 

 突きつける槍。真紅に彩られたそれは、まさに歴戦の姿を映し出しているように見える。

 

「異存は無い」

 

 対して突き出される黒い木刀。ランスロットの底知れなさが、闇として顕現しているようだった。 

 

「「いざ、尋常に」」

 

 

 

 その言葉を合図として、戦いは始まった。

 最初に切り込んだのはランサー。ランスロットの頭部目掛けて半身で長槍を突き出す。突きのスピードから、長槍が横へ薙ぎ払われることがないと確信。その突きを慌てることもなく、ランスロットは顔を左にずらすだけで躱した。

 ランスロットの計算通り、ランサーが次に放ったのは短槍での突き技である。それもランスロットの死角となる足元を狙ったもの。ランスロットはそれを、ランサーの左側へ身を捩り入れることで回避し、その勢いを利用して木刀を逆袈裟——右脇腹から左肩——へと振り上げた。

 

「甘い!」

 

 しかし、ランサーの反応速度も尋常ではない。突き出していた長槍を手首だけで回転させ、ランスロットの木刀を止める。さらにそのまま木刀を力だけで振り払い、ランサーは短槍をより短く持ち直した。一歩後退。利き足を軸にランサーがランスロットへ向き直る。木刀を振り払われ体がガラ空きになったランスロットへ、短槍を目にも止まらぬ連続攻撃で繰り出した。

 当然、そんなことをされればランスロットの足は止まる。槍使いに距離を保たれる危険性を彼は嫌というほど知っていた。

 そのため、ランスロットは咄嗟に身を低くしランサーの視界から消える。足蹴りでランサーの脛を狙い体制を崩すと、跳ねあげられた二段階目の蹴りが相手の首筋を刈りにいった。

 

「っ」

「ちっ」

 

 思わず同時に呼気が漏れる二人。ランサーは長槍を持っていた手で、蹴り込まれる足と受け止めた。

 ランサーの顔が顰められる。しかし、すぐさま受け止めた足を鬼気迫る表情で跳ね除けた。ランスロットはその運動量を利用して、一転、二転と空中回転し距離を取る。

 

 

 

 最初に感嘆の声を漏らしたのはランサーだった。自身が持つ二本の槍を警戒するどころか、バーサーカーは恐れなく間合いを詰めてくる。普通のサーヴァントであれば、相手の奥の手を探るのが定石だ。ただの恐れ知らずとは違う。きっと、宝具がどのようなものであったとしても、対応できるという慢心があるのだろう。

 嘗められたものだ、とランサーは内心で吐露した。

 数々の武勇をあげてきた自負は己にもある。が、目の前にいる男ほど自惚れる気はしない。どんなものであれ、知らないということはそれだけで恐怖を生み出す要因となるものだ。それなのに、そもそも恐怖という感情が欠如したようにバーサーカーは動く。

 狂戦士とはよく言ったものだ。あれを狂っていると言わず、なんと言う。ランサーが相対せしサーヴァントはまさしく発狂を体現したようなもの。理性があるのは表面上だけかと、ランサーは嘲笑った。それとは逆にランサーはこうも思う。

 ——この男、ここで倒さなければ必ず主の害となる。

 と。

 

 

 

 足を跳ね返されたランスロットは逆に平坦な心境だった。気配に誘われて流れのまま一騎討ちをしているが、中々どうして、目の前のランサーは手強い。かつての同胞たちと比肩しうる槍捌きをランサーは見せていた。

 だからこそ、懐かしくもあり、寂しくもある感情を押し殺す。平坦さを装う。いつどこで発狂を始めるのか分からない己を厳しく律し続ける。

 今は木刀だけで戦って魔力消費を抑えているが、それでも雁夜に掛かる負担が大きいのは変わらない。もし、アラジンがマスターであったならば、そんなことも気にしなくて済んだであろう。けれど、子供を戦場に駆り出すなど、雁夜はおろかランスロットも許容できなかった。

 それに、この戦いは勝つためのものではない。桜という少女を生かすため、救うための戦いである。今ここでランサーを倒すことに固執する必要はなかった。

 

 九……いや、かなり遠いがあの辺りに二人いる。

 

 ランスロットは己の勇姿を遠見から眺める人間の気配を割り出した。

 十一人中二人はランスロットを遠くから見守っている雁夜とアラジンだ。さらにそこからランサーのマスターであろう人物も引く。となれば、この戦いとは関係のない者が九人。単純計算で四つの陣営がこちらを覗き見ていることになる。

 ランサー、バーサーカー以外の四つ、または五つの陣営。つまり、この場に聖杯戦争の参加者が一同に会したこととなる。

 ならば、あとはそいつらを全員もれなく炙り出せば、ランスロットの「騒ぎを起こす」という目的は達成するわけだ。

 

「ランサー、一つ聞きたい」

「死合いの最中に問答とは随分と余裕だな、バーサーカー……して、なんだ?」

「貴公のマスターは魔術師として優秀か?」

 

 一瞬、バーサーカーの問いかけの意味が分からなかったのだろう。ランサーは数舜素っ頓狂な表情を浮かべるも、すぐさま表情筋を引き締める。

 

「それを聞いてどうする?」

「腕が立つようであれば協定を持ちかけたい。私のマスターは聖杯を求めていない身。故に、そちらが望むのであれば共闘でも、令呪一画でも渡す覚悟が私達にはある」

 

 さて、どう反応する。

 ランスロットはランサーだけでなく、こちらの動向を伺っている九人に意識を集中させた。

 

 

 

 まず、バーサーカーの言葉に驚いたのはランサーのマスターであるケイネスである。

 バーサーカーからの提案は正直に言えば拍子抜けもいいところ。腰抜けなマスターの顔を見てやりたいはと素直に思うほどには肩透かしを食らった。

 だが、よくよく考えてみれば挙げられた条件は決して悪くない。いや、悪くないどころむしろ好条件すぎる。バーサーカーから挙げられた提案で最も心惹かれたのは令呪一画というところだ。相手に令呪を差し出すところを見る限り、本当に聖杯を欲してはいないのだろう。裏にどのような思惑があるにしろ、自身の実力であれば問題無いとケイネスは勝手に判断した。

 だから、ケイネスは声を拡散する魔術を施し言葉を紡ぐ。

 

「問う。それに応じた場合、こちらから差し出すものはなんだ?」

 

 腕のいい魔術師というのが、あちらが求める人材なのであろう。時計塔において、最年少で降霊科講師になった天才魔術師であるケイネスはそれに当て嵌まる。いや、彼以上に腕のいい魔術師はこの聖杯戦争にいないとも言える。

 だからこそ、そんな人材を求め、相手が何をしたいのかがケイネスは気になった。

 

「その声……ランサーのマスターか。であるならば、応えよう。我がマスターが望むのは魔術によって苦しむ娘を救ってほしい。ただ、それだけである。決して聖杯に願わなければ叶わないものではない。時間をかければ私のマスターであろうと問題は解決できるだろうが、苦しみは早く解き放つのに越したことはない」

 

 その言葉にケイネスは、ふんと鼻を鳴らした。

 所詮は魔術もろくに使えないマスターからの嘆願である。その娘の症状は分からないが、聖杯に願うまでもない時点でお察しであろう。みっともなく相手に助けを乞うている時点で、バーサーカーのマスター像は見窄らしい醜悪な人間となった。同じ魔術師というだけで腹が捩れてしまいそうである。

 

「その娘を助ければ、貴様のマスターから令呪を貰えるのか?」

「それだけではない。そちらが望むのであれば私が第二のサーヴァントとして聖杯戦争に協力しよう」

「バーサーカーなど私の刀にいらぬ。協力するというのであれば、その首を刎ねろ」

 

 さて、ここまで来ればあとは問答する意味もない。ランサーもケイネスが話を飲むのであればと黙っている。どこか寂しげな雰囲気がパスを通して伝わってくるものの、それはケイネスにとって判断材料にはならないものだ。

 この提案を受けるか否か。所詮はそこに掛かっている。

 聖杯戦争中に無駄な仕事を増やされるのは癪だが、娘を助けるだけならば、時計塔に送りつければ済む。それこそ、これだけでアサシンに次いで、バーサーカー陣営を一つ落とせるのだ。やはり、どこからどう見ても悪い話ではない。

 

「決めたぞ、バーサーカー。貴様のマスターの願いを受け止め———」

 

 その時だった。

 空気を伝い、大気を切り裂くほど濃密な魔力が吹き荒れたのは。

 目の前に降り立つのは一つの影。稲光とともに現代ではまず見ないチャリオットに乗ってそいつは現れた。

 

「ちと早計すぎるのではないか、バーサーカー。その話、この征服王イスカンダルが聞き届ける!」

 

 こうして、波紋はさらに広がる。




ランサーとランスロットは相性悪い。
でも、ランサーの宝具開帳してないから、まだ戦えるっ!
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