マギのアラジンと雁夜おじさん行く聖杯戦争   作:ロマニ

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第十一夜

 バーサーカーが沈黙し、そのまま霊体化した後のことである。

 

「……どういうことだ、少年」

 

 自然とそんな言葉がケイネスから出ていた。

 魔術師と思わしき少年をケイネスはその慧眼で見据える。

 青い巨人でサーヴァントを叩き飛ばしたこともそうだが、ケイネスが目に付けたのはその次……光の粒が杖へと集約されていた現象についてであった。

 間桐臓硯はかの光の粒をルフと呼称した。

 ルフとは命の流動。魂の最小単位。生命の鳥。呼び名はそれぞれなれど、普通の魔術師にまず見える者ではない。

 ならば、そんなものが見えるほど濃密なルフの大群をアラジンは呼び寄せたことになる。常人が視認できないはずのものを、夥しい量で視認させたことになる。

 そもそも魂の単位が存在し、それが現世に出現していることこそが魔術世界にとって異例でしかない。

 魂の物質化——いや、物質化された魂の活用と言ったほうがいい。

 それは聖杯と同じ第三魔法「天の杯」と何ら遜色ない代物である。

 ならば、アラジンは魔術師なのか。

 否、アラジンは魔術師などでは断じてない。

 

「もしや貴様、魔法使いなのか?」

 

 ケイネスがその言葉を放てば、矢継ぎ早にウェイバーが取り乱した。それだけじゃない、闇夜に紛れている遠坂時臣や衛宮切嗣ですら息を呑んでいる。

 

「? その声は確かランサーのマスターさんかい? ごめんよ。僕は魔術師と魔法使いの違いがわからないんだ」

「何? 分からないだと?」

「うん。僕も自分が何者なのか探している途中なんだ」

 

 アラジンが虚空に向かって言えば、ケイネスは静かに目を伏せる。

 魔術師と魔法使いの違いなど、魔術師となって初めに知る事柄だ。魔法使いは魔術師にとっての到達点。いいや、その到達点に至るための手段なのだから。

 であるならば、アラジンは異端者だ。最初から完成されてしまった存在と言ってもいい。アインツベルンの突然変異種や、生まれながらに到達してしまった者たちと同種。根源を目指す魔術師が最も恐れ、嫌い、妬む存在である。

 

「よろしい。ならば私も君がどういう者なのか深く聞くまい。ただ、少年よ。貴様は私の手で必ず討ち果たす……これは絶対だ。この聖杯戦争において私の宿敵は君としよう」

「えっ」

 

 ケイネスはそれだけを告げると、ランサーに退散の命を出した。

 ——今宵は気分が良い。魔法使いと思わしき少年と出会えたのだから。

 かの絶対的存在を討ち果たし、ケイネスは自身の功績に華をつける。それだけじゃない。万能の願望器を使えば自身も根源へ至ることができる。

 根源への到達は魔術師としての命題だ。時計塔の老害どもに文句を言われるだろうが、魔法使いを討ち果たした己に勝る存在などいないも同然。

 そうなれば、ランサーの毒牙にかけられたあの娘もきっと……。

 

「ふん……せいぜい、私が上に至るための踏み台にしてくれる」

 

 ケイネスはそう言ってほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 

 ウェイバーは混乱していた。

 あの冷徹——だと勝手に思っている——ケイネスが目の前の少年を名指しし、あろうことか魔法使いであるかと問いかけた。

 意味がわからないわけではないが、正直意味がわからない。

 ウェイバーは先ほどから目まぐるしく転換する出来事に、脳の限界を感じている。

 

「おい、童。予からもいいか?」

「えーと……なんだい、イスカンダルおじさん」

 

 アラジンに問いかけたイスカンダルは、その見た目とは不釣り合いなほど可愛らしい笑みを溢す。

 

「バーサーカーが言っていた同盟の件。あれはまだ有効か?」

「ライダーァ!?」

 

 何を言い出すかと思えば、ライダーがバーサーカーの協定を掘り返したのだ。

 これにはウェイバーも、驚きの声を漏らさざるを得ない。ライダーが羽織っている紅蓮のマントを力一杯に引っ張り抗議する。

 

「お前、さっきのバーサーカーの暴走を見てなかったのかよ! あんなのと共闘できるわけないだろ!!」

「何を言っておる。バーサーカーの暴走はこの童が止められるではないか」

「いざって時に止めてくれるとは限らないだろ!?」

 

 ウェイバーの慟哭は正しいだろう。

 バーサーカーの協定は確かに魅力的だった。令呪を一画、さらに望めば第二のサーヴァントとして協力してくれる。破格、と言っても差し支えのない提案だ。値千金である。

 だがしかし、あの暴走を見た今は話が違う。

 令呪を一画バーサーカーのマスターから奪えば、バーサーカーの暴走を止める回数が減ってしまうかもしれない。さらに、共闘すると言っても、いつ爆発するかも分からないものを付き従えるほど、ウェイバーの器量は大きくなかった。

 相対的に見て、関わり合わない方がいいと思える。

 決して、目の前の少年が自分の畏敬するケイネスに目をつけられているから、という私怨ではないと名義しておこう。

 

「分かっておらんなぁ、坊主は。爆弾も使いよう。特攻なり、物見なり、盾なり使いこなせば良かろう。とりわけ、予はライダーのサーヴァントとして現界した。脚に関しちゃ、予の右に出るものはおるまい」

「ぐ、そうかもだけどさぁ!」

「そもそも、それだけ危険と思うのであれば、さっきの魔術師が言っていた通り、同盟後はすぐ自刃なり何なりさせれば良いではないか」

「うぐぐぐ……!」

 

 ライダーからの後押しもあり、ウェイバーが頭を抱えていると、アラジンが申し訳なさそうに声を出す。

 

「ごめんよ、イスカンダルおじさん。バーサーカーおじさんに自殺はお願いしないでおくれ。どうやら聖杯戦争はサーヴァントがいなくなった後でも、命を狙われるらしいから、バーサーカーおじさんには僕たちを守ってほしいんだ」

「む、そうなのか?」

「うん。監督役の人がそう言ってたのさ」

 

 アラジンの言葉に間違いがないか、ライダーは自身のマスターを見た。

 ウェイバーはその視線から逃れようと必死に海馬を働かせ、「再契約」という言葉を思い出す。

 

「うん。そいつの言っていることは正しい。確かにはぐれサーヴァントとの再契約を防ぐために、狙われる可能性もある」

「なら、迂闊にバーサーカーを退去させることもできまい。まぁ、元より自刃させる気など予にはなかったがな」

 

 ライダーは磊落に笑いながら、深く考え込んでいたウェイバーの背中を引っ叩いた。衝撃に背骨から徐骨まで揺さぶられて、矮躯の魔術師は咽せかかる。こういう荒々しいスキンシップは願い下げしたいウェイバーであった。

 

「すまない、ライダー。その話、私たちも乗せてもらおう」

 

 円滑な話し合いが進みそうだと思っていた矢先、隣からそう声を掛けられた。

 ウェイバーがそちらへ目を逸らしてみれば、さっきバーサーカーに襲い掛かられていたセイバーが肅然な態度で立っている。群青に染められた衣装に、銀色に光る鎧姿は、まるで御伽噺に出てくる戦乙女そのもの。隣に控えているマスターである麗人も、儚さと美しさを兼ね備えた姫君だった。

 

「うぬら……セイバーの陣営で相違ないか?」

「いかにも。私は此度の聖杯戦争においてセイバーとして現界した」

「ならば、セイバー。再度問う。貴様はさっきバーサーカーに襲われたが、それでも奴と協定を結ぶと?」

「ああ。確かに暴走機関車という言葉が似合うサーヴァントではあるが、ライダー……貴公の言った通り、要は使いようだと私も考える」

 

 ライダーはそれを聞き、不敵に笑う。

 

「あいわかった。ならばこの協定。セイバーと予、どちらか生き残った者が受けるとしよう」

「ふざけるな! 何でそうなるんだよ!」

 

 あまりにもあっけらかんとした言い分に、黙っていたウェイバーも思わず口を出してしまった。

 ライダーの今の言葉は、ただの挑発でしかない。最優とされるセイバー陣営から集中的に狙われるなど、彼からしたらたまったものじゃないのだ。

 

「勘違いするな、坊主。この協定、予が持ちかけたものでもなければ、セイバーらが持ちかけたものでもない。提案したのはバーサーカーであり、決定権もまたバーサーカーとその仲間にある。違うか?」

「……」

「先程の協定条件は誰が聞いても好条件。結ぶことができれば、それだけで大きく聖杯へ近づく。そんなもの、他陣営が黙って見過ごすわけなかろう」

「そうだけど……」

 

 ライダーが危惧していることは他陣営とバーサーカー陣営が手を組むことだ。それを防ぐため、ランサーとバーサーカーの話し合いにも颯爽と姿を現した。

 決して、バーサーカーと手を組むことが主目的ではない。バーサーカーといち早く協定を結ぶことで、他陣営が甘い汁を吸わせないことにこそ、この協定には意味がある。

 だが、忘れてはいけない。

 ライダーがそう考えているように、他陣営もまた同じ思いであることを。ライダーが協定を結びに行こうとすれば、それを邪魔するようにどこかの陣営が立ちはだかる。

 戦争とはそういうものだ。

 決して目の前のことにだけ集中していれば良いわけではない。時には横から、もしかしたら後ろから刺されることだってある。

 戦の何たるかを知っている二人の英霊だからこそ、ライダーとセイバーは相制するのだ。

 

「ということになった。悪いが協定はそれまで持ち越しだ、童」

「う、うん。何だか難しい話で僕にはわからなかったよ」

「ヌハハハ、バーサーカーを沈黙させた猛者が、何を言う」

 

 ライダーがそう笑ってアラジンの背中を叩けば、ウェイバーと同じく、いやそれ以上にアラジンは咽せた。

 哀れなり。その言葉がウェイバーの脳内に刻まれる。

 

「最後に童、名を聞こう」

 

 神妙な面持ちになったライダーが、王たる雰囲気を身に纏い問いかけた。

 

「僕かい? 僕はアラジン。旅をしていたものさ」

 

 それだけ聞いて、ライダーとウェイバーは夜の街へと消えていく。

 二人の胸中にあるのは、きっと別々の感情だろう。

 ウェイバーからすれば気苦労が絶えない一夜だった。これから一生、決してこの夜のことは忘れないであろう。

 魔法使いと思わしき少年、アラジン。

 ウェイバーは彼のことを思い出しながら、深い深いため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 ランサー陣営とライダー陣営が去って、アラジンは困ったようにぽりぽりと頭を掻いた。アラジンとしては聖杯戦争で戦うつもりは毛頭なく、ただ桜を助けるために尽力するつもりだった。

 それがどうしてこうなったのか。

 同盟を組もうと思っていたランサー陣営からは敵対宣言され、かのライダー陣営からは保留を言い渡された。目の前にいるセイバー陣営も、ライダー陣営と決着がつくまで助力を願えない。本命であるキャスターは最後の最後まで姿を現さずじまいだ。

 明らかに空回りしてしまっている。

 はるか上空でターバンに包まれている雁夜を思いながら、アラジンは苦い笑みを浮かべた。

 

「あ、そうだ。さっきはごめんね、セイバーおねえさん。バーサーカーおじさんも、わざとじゃないと思うんだ」

「いえ。怪我もしていないのでお気になさらず。それより、先程のあの巨人は……」

 

 アラジンの謝罪を軽く受け止めると、セイバーはウーゴが気になったらしく、アラジンの首にかけられている笛を注視した。

 

「あ、ウーゴくんのことかい? フフフ、ウーゴくんは僕の友達なんだ」

「友達、ですか?」

 

 セイバーはそこで訝しげな表情を浮かべて黙った。何かを探るような目でアラジンを見つめている。

 しかし、アラジンからすればセイバーが何を聞きたいのか分かっている。ウーゴのような強力な存在をつれている子供。その正体を聞きたいと思っているのだろう。

 故にアラジンはこう問いかける。

 

「おねえさんこそ、誰だい?」

「え?」

「バーサーカーおじさんはおねえさんを見て、悲しそうに、怒っているように見えたんだ。きっと、バーサーカーおじさんはおねえさんを知っているんだと思う。おねえさんはどこかの国の『王様』なのかい? バーサーカーおじさんの『敵』なのかい?」

「……」

 

 アラジンの言葉にセイバーは何も喋らない。

 彼女には彼女なりの想いというものがあるのだろう。アラジンにもそれは分かっている。

 

「もしそうなら、バーサーカー……『ランスロット』おじさんときちんと話し合って欲しいんだ。僕たちに力を貸してくれている、大好きな、とってもいい人だから」

 

 アラジンはそこまで言って、静かな眼差しでセイバーの瞳を射抜く。

 

「殺さないで」

「………………」

 

 セイバーがそこまで聞けば、すっとアラジンの目の高さまで膝を折った。

 

「話してみましょう、彼と」

 

 その言葉は、彼女が迷いながらも下した一つの決断だ。

 生前から色々な因縁があるのはアラジンも知っている。一部はバーサーカーの口から聞いたりもした。決して、簡単に解決する問題などではないし、解消していい事柄でもない。

 それでも、セイバーはそれを精算する覚悟をしたらしい。

 アラジンはそんな彼女の覚悟に耳を傾けた。

 

「私は生前、多くの者の後悔を聞いた。失敗をし、国は滅び、民を苦しめました。

 だからこそ、私はこの聖杯戦争に勝ち残り、滅びの運命を変えたいと思っています。

 誰も死なぬ国を、誰も怯えぬ国を作り直す。そのためにも、ランスロット卿の力は必要です」

 

 ルフが見えるアラジンは気づく。セイバーが告げている言葉の重みを。彼女が抱いている覚悟の大きさを。

 きっとそれは易々と乗り越えられるものではなかったはずだ。一人の少女が王となり、その小さな身で一国を背負った。

 セイバーの心全てを見透かしたわけではない。アラジンには彼女がどのような経緯で王になったのかは知っていても、どのような理由で王になったのかは知らないのだから。

 だからこそ、アラジンは自分の目にした事を基準に考える。

 

「フフ、おねえさんのまわりのルフは、いたいほど迷いがないね」

「えっ?」

「分かったよ、おねえさん」

 

 笛を口にくわえ、プーと力を注いでやれば、青い巨人がそこから姿を現した。

 

「今の話、ランスロットおじさんにもしてみるね!」

 

 アラジンはそう言ってウーゴの肩に乗り込む。

 早いところ間桐邸に帰り雁夜の容態を確認しなければならない。

 

「またね! 僕、おねえさんはきっとすてきな王様だったと思うよ! また会おうね!」

 

 アラジンがそう言って去った後のことである。

 アイリスフィールはふと横にいるセイバーを盗み見た。

 そこには、この聖杯戦争中、ずっと気難しい顔をしていた英霊とは別に、

 ——月光に濡れ、穏やかな笑みを浮かべた一人の少女がいたと言う。

 

 

 

§

 

 

 

 ギルガメッシュは帰路につくなか、一人せせら笑いを浮かべていた。

 この聖杯戦争と呼ばれる催し、退屈するとばかり思っていた彼の心に一滴の愉悦が垂らされたのだ。

 

「くくく、存外悪くない」

 

 そう喉を震わせれば、自然と口角が上がる。

 時臣の召喚に応じたものの、ギルガメッシュの御眼鏡に適うものはほとんどなかった。

 退屈もいいところ。何かしらの余興を探していた彼としては、今日見たアレは大きな収穫があったと言えるだろう。

 

「人間の知恵、人間の叡智の頂。魔術王とやらもやるではないか」

 

 思い出す黄金の笛——いや、そこに収納されている一つの存在。

 悪くない。余興としては十分に見合う。

 

「神をも零落させる存在。余興だ……我がてずから裁定してやる」

 

 その時、ギルガメッシュはどのような表情を浮かべていたのか。

 それを知る者はいない。

 




ようやく一日目が終わりました(?)

ウーゴくんの秘密を知りたい方は、マギの原作を見るか、検索してみてください(他人任せ)

あと、セイバーが救われるかどうかはわかりません。
ランスロットが救われるかもわかりません。
ただ、間桐家は救われます。
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