マギのアラジンと雁夜おじさん行く聖杯戦争   作:ロマニ

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前話から当話までにカットした原作シーン
・ジルとセイバーの邂逅
・切嗣によるビル爆破事件
・言峰神父から全陣営にキャスター討伐を打診
・征服王イスカンダル、服を買う(どうでもいい)
・征服王イスカンダル、パンツ欲しがる(本当にどうでもいい)


第十二夜

 嘆きを聞いた。苦しそうに唸る男の嘆きだ。

 腹の底から響き、喉の芯まで震えたその声は、雁夜にとって怒りの象徴にも聞こえた。

 やがて、嘆きは限界を知ったのか次第に掠れていって消えた。

 代わりに現れたのは、見るも無残な皮と骨の男。頬は痩け、眼窩には闇が覆い、手足の一本一本が枯れ木のように萎びれている。

 雁夜はその男を見て、確信のようなものを覚えた。

 

「——これは、夢か」

 

 痩せた男は雁夜に気がつかないのか、焦点が合わない瞳をぐるぐると回し続ける。失意の感情が全身を支配し、生気のない瞳でただただ闇を探る。

 見ていて痛ましいという感情しか出てこない。どれだけこの男が絶望し、怒り、そして嘆いたのか。雁夜にはそれが理解できるような気がした。

 

 憎い……ギネヴィア様を不幸にした王が憎い……。

 

 誰もいない空虚な空間で男はそう呟いた。

 嘆きは次第に憎しみへと変異する。その過程を雁夜はいやというほど知っていた。

 だからこそ、雁夜は問うてしまう。

 ——それは本当に王に対しての感情か、と。

 けれども、その言葉は宙を彷徨い、やがて誰も聞こえなかったように霧散した。この夢の中で雁夜の言葉は誰にも届かないのだ。

 雁夜はそれを知って、静かに目を背ける。

 

 私を罰しなかった王がとにかく恨めしい……王の正しさが、ただ苦しい……。私を罰してさえいれば、貴方が正しさの奴隷でなければ、誰も悲劇を迎えなくて済んだかもしれないのに。

 

 誰よりも罰してほしい人に許されてしまった。その惨めさは言葉で表せるものではないだろう。王への罪悪感が鬱積した泥のようになって、もう王を憎むことでしか、男の救われる道はなかった。

 男の考えは確かにキレやすい若者の暴走だ。

 だが、それを誰が咎められようか。彼が暴走する理由は、ただ一人の王に対する純粋な尊敬と愛に満ちている。なぜなら、男は妻を寝取られてもなお、王であり続けなければならなかった一人の人間の強さを憎んでいる。人間としての性を、己の人生をも封印し、王として人を救い続けた者を彼は否定したかったのだろう。

 

 何もかもを取りこぼしてしまった男の末路とはなんとも哀れなものか。

 きっと、アラジンと出会わなかった自分もこうなっていたのだと、雁夜は心中で察した。

 時臣を憎み、臓硯を恨み、そして己の弱さそのものを許せなかった。

 

「ああ……コイツは俺だ。俺なんだ」

 

 相性にも限度があるだろう、と雁夜は思う。毛色は違うくとも、根本的なものがどこかで似ている。誰かを恨むことで解決を求め、誰かを愛することでしか救われない。そんな弱い自分が目の前にいるような気がした。

 だから、全くもってこの夢は嫌がらせだった。アラジンに出会い、桜と過ごして、少しは己の惨めさと向き合えた気がした雁夜からしてみれば、最悪の厄ネタだった。

 夢が覚めるのを待ちながら、雁夜は男の傍で腰を下ろす。そして、ただぼんやりと何もない空虚な闇をその虚な瞳で眺めていた——。

 

 

 

§

 

 

 

 朝が来て目を開ければ、開口一番にランスロットは雁夜に詫びを入れた。

 

「昨晩はすみませんでした。どうもカリヤの魔力提供では、全開の”ぜ”の字も出せないようで」

「お前……謝る気ないだろ」

 

 雁夜はゆったりと体を起こしながら昨晩のことを思い出す。

 記憶に残っているのは、自分の命令でランスロットを霊体化させ、そのままアラジンに連れ帰られたところまでだ。途中、幾度か痛みによって記憶の欠損が見られる。気がついた時には、なぜかアラジンのターバンに包まれていたのを思い出した。

 

「昨日、何があったんだ」

「……」

 

 確認がてらランスロットに雁夜が問いかければ、彼は難しそうな表情を浮かべた。

 

「アラジンが私たちを助けてくれました。暴走中、彼の魔力が私に届き、カリヤも命令する余裕が生まれたのでしょう」

「なるほど、急に痛みが和らいだのはそれか」

 

 手を開閉しながら、体に異常がないことを確かめる雁夜。所々、筋肉痛のように動かしにくい部位はあるものの、概ね日常生活に支障は無い範囲だ。

 ランスロットもそれは承知しているのか、特に雁夜の体を気にかけている様子はなかった。マスターとして、それはそれでどうなんだと思っているが、この不躾な騎士にそこまで求める気は雁夜にも無い。

 

「そういえば、アラジンは?」

 

 ふと、間桐邸が静かなことに気が付く。

 いつもであれば、アラジンが臓硯なり桜なりと話している声が聞こえるのだが、今朝はやけに静かだ。まるで、ランスロットと雁夜しか家にいないような感じがする。

 まさかな、と思いながらも雁夜は確認のためにランスロットを見た。そうすれば彼は浅く目を伏せる。

 

「サクラを連れて外に出ていますよ」

「ったく、あいつはこんな時に……」

「今更でしょう」

 

 それを聞いて、雁夜はどこか諦めたように息を漏らした。

 昨晩の一戦。アラジンがバーサーカーを庇うべく参上した時点で、間桐雁夜がバーサーカーのマスターであることは他陣営に露見しているに違いない。ここ一年でアラジンと雁夜の接点など、探せばいくらでも出てくるのだ。逆に察しが悪い連中は、特に警戒するまでもない間抜けどもである。

 また、アラジンの特異性についても同じことが言える。雁夜は朧げな意識下でしか話を聞いていなかったが、どうやらアラジンは魔法使いという者らしい。道理であの時の臓硯が欲しがったわけだ。

 

「今後の方針をどうしますか?」

「どうって言われても。お前はどうしたいんだ」

「私は……」

 

 そこで言葉を詰まらせるランスロット。

 まあ、言いにくいこともあるのは雁夜も承知していた。なぜなら、間桐の協定を受けようとしている陣営は二つ。そのうちの一つに、ランスロットが崇拝し、憎しみを抱いている王がいるのだから。

 

「アラジンから何か言われたんだろ」

「ええ……我が王と話をしろ、と」

「なら、それを済ませてからまた考えよう」

 

 雁夜がため息混じりにそう漏らせば、ランスロットは驚き顔をした。

 

「いいのですか?」

「いいも何も……協力してもらってるのはこっちの方だ。桜ちゃんのことは早くなんとかしたいけど、それと同じくらい俺たちはお前にも恩を返したい」

 

 ランスロットは召喚されてからと言うもの、自分の願いを蔑みにしているところがある。彼は、雁夜の願いを聞き届けたが故に馳せ参じたと言ったが、全く願望が無いというわけでもないはずだ。

 此度、たまたま彼の望みでもある王が一緒に現界を果たした。ならば、この好機を見逃させるわけにはいかないであろう。

 それに、アラジンならきっとこんなことを言うに決まっている。雁夜にはその確信があった。

 

「そもそも、まだ本命のキャスターも出てきてないし、どこの陣営が桜ちゃんをきちんと治してくれるのか見極めないといけない。腕はいいけど、性格に難ありとか一番面倒だろ?」

「……全く、貴方たちと言う人は」

 

 雁夜が御託を並べれば、ランスロットは困惑したように笑みを浮かべ、丸椅子から腰を上げる。多分、雁夜の回復を優先するべく、今から霊体化するのだろう。彼はアラジンが家を出てしまったため、雁夜が目覚めるまで待っていただけに過ぎなかった。

 

「それだけ他人の心配ができるのです。大丈夫だと思いますが、しっかりと休んでください、カリヤ」

「あぁ……お前もな」

 

 二人で軽く言葉を交わし合えば、静けさだけがその場に残る。雁夜はランスロットに言われた通り、体を休めようと再度ベッドに潜り込んだ。

 

 そうして雁夜が目を閉ざして数分後。

 監督役がいる教会から、「キャスター討伐」の旨を聞かされるのだった。

 

 

 

§

 

 

 

 冬木市新都の通り。そこにアラジンと桜は二人並んで歩いていた。

 目的、と言うには些か二人の足取りが覚束ない。右へ行っては左に行き、前に進んだかと思えば時折後退する。当てのない散歩をアラジンは楽しんでいるように見えた。

 そんな中、桜だけは昨晩のことを聞くのに躊躇いを見せていた。

 吐血しながら運ばれて帰ってきた雁夜。それを担いでいるランスロットと言う浮浪者。

 自分の知らないところで何かが起こっている。

 幼いながらも聡い桜はそれに感づいていた。もちろん、桜が感づいていることをアラジンも気が付いているだろう。いつも通りニコニコと笑っているアラジンに一抹の影が窺える。

 けれど、桜はその影に踏み込んでいいものか思案していた。もし、それがアラジンの逆鱗だった場合、桜は間違いなくアラジンからの叱責を喰らってしまうだろう。

 この一年、少しのことでは揺るがない関係を築いたつもりではいる。アラジンが穏やかで優しい少年だと桜は重々承知しているのだ。

 しかし、これとそれとは話が別でもある。

 普段優しいからこそ、アラジンに嫌な気持ちをさせたくない。怒らせたくないと言うのが桜の本音であった。

 アラジンが話してくれないのには、それ相応の理由があるのだろう、と桜は自身に蓋をする。雁夜とアラジン、それに鶴野やその子供も優しい人だと桜は知っている。あれだけ恐怖の温床だった臓硯も、最近では軽い挨拶ならできるようにもなってきた。そんな桜にとっては新しい居場所とも言える間桐家。それが自分の知らないところで、何かをしているのが、正直たまらなく怖かった。

 まるで、遠坂家から追い出された時のことを思い出させるようで……。

 だからこそ、桜はそっとアラジンの手を掴み取る。

 

「桜さん?」

「アラジンくん……アラジンくんはどこにもいかない?」

 

 これは桜なりの抵抗だ。

 直接聞くことはできない————怖いから、

 直接話すことはできない————苦しいから、

 直接見ることはできない————捨てられるから、

 直接ぶつかることはできない————失いたくないから、

 そんな弱虫な少女が、弱虫なりに見せた抵抗なのだ。

 

「…………うん、どこにもいかないよ。僕も雁夜おじさんも。桜さんのことが大好きだから」

 

 ニコッと笑ったアラジン。その笑顔はあの日見せてくれたものと変わらない輝きを放っていた。

 桜はそれだけで満たされるような気がして、それだけで幸福な気持ちになれて。人形のように無機質な、空虚で昏い眼差しに、光が灯ったかのように錯覚してしまう。この一年を通して時折見せる喜怒哀楽の情。それが桜にも少しずつだが宿るようになってきた。

 

「それにしてもいきなりどうしたんだい?」

「ううん、なんでもない」

 

 アラジンからの追及から逃れるべく、桜は軽く首を横に振った。

 もはや大したことではない、と桜も思っている。アラジンたちが自分の元から消えないと言ってくれた、それだけで少女は満たされた。

 彼女にとってそれ以上の言葉はいらないし、それ以上の慰めも要らない。二度失う経験をしなくて済むとわかったのなら、それだけで僥倖だ。

 アラジンは桜の満足したような瞳に、少し首を捻っているが、彼も彼で追い討ちをかけることはしなかった。桜が納得しているのであれば、それでいいと思えたのだろう。

 

「あれ?」

 

 ふと、何かに気が付いたのかアラジンが声を上げる。

 桜も気になってアラジンが向いた方向をみれば、そこには倒壊した建物があった。

 

「桜さん、あそこって何があったっけ?」

「確か——ホテル」

「完全に壊れてるね。何か事故でもあったのかな」

 

 少し気にはなったものの、特段調べる気も起きなかった二人、それだけの会話を交わせば、また街中を散策するべく足を動かし始めた。

 

 

 

 

 

 かなりの時間が経ち、気がつけば日が落ちようとする時刻。アラジンと桜は顔馴染みの人達から様々な手土産を渡され帰路についた。

 家に帰ってみれば、リビングにて雁夜が一人頭を抱えているのが目に入る。アラジンと桜は心配になって声をかけたが、雁夜は力なく笑うだけだった。

 

「桜さん、少しお部屋に戻っていておくれよ。僕は雁夜おじさんとお話をするから」

「——うん」

 

 一瞬、何かを言いかけた桜だが、特に文句を言うこともなく自室へと戻っていく。

 アラジンは悪いことしたな、と言う自覚はあるものの、桜を危険に巻き込まないためにと割り切った。

 

「で、おじさん。何があったんだい?」

 

 人払いも済まして再度問い掛ければ、雁夜から一通の手紙がアラジンに差し出される。

 

「見てみろ」

「?」

 

 不思議に思いながら手紙を広げてみるアラジン。

 そこには綺麗な筆跡で書かれた日本語の文字が羅列していた。几帳面な性格の人間が書いたのだろうことが分かる。文字の一つ一つから、その厳格さがうかがえた。

 手紙を読み進めていけば、次第にアラジンの顔は険しくなった。殊更、名状し難い難題がそこには書かれている。

 手紙を要約するとこうだ。

『キャスターは魔術の秘匿を無視して暴走している。聖杯戦争のルールを少し変更し、全陣営キャスターの討伐に勤しんで欲しい。キャスターを討伐した陣営には報酬として、令呪一画が与えられる』

 ふざけるな、とは誰の言葉だったのだろう。

 アラジンも雁夜と同様に頭を抱えたくなった。

 頼みの綱であったキャスターはまさかの乱心。監督役から討伐命令が下されるほどの暴走状態にあると書かれている。さらに、キャスター討伐には報酬として令呪一画が贈呈されるとのことらしい。誰だって嬉々としてキャスターを討伐しにいくだろう。

 

「どうしよう、おじさん」

「ホントどうしようかなぁ……」

 

 大人しくライダー陣営とセイバー陣営、どちらかに与することを考えた方がいいかもしれない。両者ともに魔術師としてのレベルは未知数だが、協定に名乗りをあげてくれたのは、ここの二つだけなのだ。贅沢は言っていられない。

 片方は一応、間桐と同じく御三家のアインツベルン。

 もう片方は素性も知らない少年。

 今のところ、傾くとすればやはりセイバー陣営ではある。

 

「とりあえず、セイバー陣営と話をしに行こう」

「いいのかい? イスカンダルのおじさんは」

「別に協定を結ぶ訳じゃない。キャスターがダメになった現状、あちらのマスターが桜ちゃんを助けられるかどうか判断する必要が出てきた。それを確かめるだけだ」

 

 雁夜はそう言って薄手のジップパーカーを取り出せば、それを羽織だす。外に出るのはほぼ確定事項だろう。アラジンから見ても、確かにキャスターの協力を仰げないとわかった時点で、次の手を打つ必要がある。

 

「ランスロットおじさんは?」

「またあっちのサーヴァントと出会った瞬間に暴走されても困るし、いざと言うとき以外は霊体化だ。悪いけど、アイツの話し合いの場はまた今度設けよう」

 

 そう締めくくり、雁夜は間桐で雇っている使用人に声をかけた。

 態度からして、多分雁夜は一人でセイバー陣営のところにいくつもりである。一応、ランスロットがいるから敵襲などは大丈夫だと思うが、それでもアラジンはなぜか胸騒ぎがした。

 

「なんだか嫌な予感がする。気をつけてね、おじさん」

「ああ、そっちも留守は頼んだぞ」

 

 別れの挨拶をし、玄関口から出ていく雁夜。ゆっくりと閉まる扉を見ながら、やはり悪い予感がしてならないアラジンは、そっと金の笛を握った。

 

 

 

§

 

 

 

 今宵は酒宴である。

 誰もが酔いしれ、誰もが踊り明かし、誰もが揺蕩う。

 儚き一夜の想いに、かの男はただ嗤った。

 神すらも零落せし存在。この世全てを己が理に染めようとした傲慢なる一人の罪人を思って。

 

「さぁ、王であるこの我がてずから出向いてやったぞ、番犬」

 

 彼の名は、英雄王ギルガメッシュ。

 人の領分を超え、森羅万象を己が手中にあると豪語するバビロニアの王。

 かの王は咲う。

 かの王は謳う。

 かの王は囁く。

 いくつもの宝槍、宝剣、宝杖を携えて————。

 

「さぁ、天を仰ぎみろ」

 

 神秘の秘匿など考えず、かの王はそうして裁定を下した。

 降り注ぐは黄金の雨。

 自然災害の如く、悉くを滅し、讃え、摘み取るもの。

 故にそれは絶対の審判である。




久々に桜を出した。
桜は聖杯戦争なんて知りません。
なんかみんなバタバタしてる、、、みたいな感じです。

次回、英雄王VSアラジン……になればいいな
どっちが勝つって?
んなもん、わかりきってるでしょ。
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