マギのアラジンと雁夜おじさん行く聖杯戦争 作:ロマニ
降り注ぐ宝剣、宝槍たち。地べたに這いつくばる、まさに虫けらとも言える存在を屠るため、アーチャーが放った無数の礫がそれだった。
残り数秒もしないうち、虫けら——アラジンたちの命はかき消えるだろう。肉が焼けた匂いと、濃密な魔力だけが場を支配し、彼らの肉片は一片たりとも残りはしない。それほどまでに、アーチャーの攻撃は無慈悲で残虐性を帯びていた。
5、4、3……。
着弾までのカウントダウン。と言っても、それは誰かが数えているわけでもなければ、誰かが認知しているわけでもない。ただ、この場で表現するにはこれが正しいだけの話である。
1秒1秒がまさに静止画の如く低速で流れていく光景。絶望的なまでの力の差が生んだタキサイキア現象である。
2、1……。
喉をはち切れんばかりに叫ぶアラジンの後頸部。そこ目掛けて走った宝剣が、わずか一本の指ほどの幅まで近づいた時であった——それは現れる。
大きな門。
堅牢で、厳かで、輝かしい門。
罪深き者は誰一人として足が竦みそうなその門は、確かにアラジンと宝剣の間に割って入り出現したのだ。
「ほう?」
興味深げにアーチャーは目を剥いた。
さっきまで落胆の色を隠せずにいた彼が、再度、その瞳に揺らめく灯火を再燃させたのだ。赤く、紅く、どこまでも緋いその瞳は、やがて門から視線を離し、ゆっくりとアラジンを庇い立つウーゴへ向けられる。
「ウーゴくん?」
アラジンもまた、この光景に理解が追いつかず、呆然とウーゴを見つめた。
依然として体に空いた穴からは魔力が漏れ出ている。人間が血液を噴出していると思えば、ウーゴの現状はとても痛ましいように映った。されど、ウーゴはそんなことも気にしない様子で、両手を大きく掲げる。
これが最後の力だ。
アラジンだけでなく、その場で敵対しているアーチャーですら、その真意を汲み取れた。ウーゴが今から放つ一撃。それは彼がこの世に干渉できる最大で、最後の力。神代はとうに終わりを告げ、今やその残骸すらも世界は許容しない。抑止力が働き、反発し、ウーゴという存在を消し去ろうとする。
それを見越していたウーゴはさらにもう一手、奥の手を仕掛けた。
「ここ、は」
アラジンが呟けば、扉から広がった懐かしい光景。
いや、懐かしいには懐かしいが、正確にはアラジンの知っている場所とは違う。
立ち並ぶ本棚。その中に所蔵されている数えきれないほどの書庫群。アラジンが世界を旅する前、ウーゴと友達になる前から過ごしていた「がんじょうな部屋」そっくりな空間。
されど、アラジンはそれが本当の「がんじょうな部屋」でないことを察する。何故なら、ウーゴの首から上は戻っていないし、目の前にはさも愉快そうに笑みを浮かべるアーチャーの存在が確認できたからだ。
「フハハ、いいぞ、番犬! 余興としては十二分な舞台だ! 固有結界で魔術王の神殿、その一旦を真似るとは! ほとほと貴様の愚昧さは見てて飽きん! ようやく、悦を見い出したか!」
「————」
アーチャーの高笑いが、ウーゴの癇に障ったのが分かった。
ウーゴは明らかに、目の前の英雄王を毛嫌いしている。それは、さっきから彼の口から吐き出されている「魔術王」というのが原因らしい。
されど、アラジンにはその魔術王が一体全体誰を指した言葉なのか理解できなかった。所詮、アラジンは魔術や魔法とは無縁だった存在だ。生まれた時からルフが見え、物心着いた時にはルフから感情を読み取れていた。普段使ってる「熱魔法」だって、ウーゴを通して体が勝手に覚ただけである。
アラジンには知識が絶望的に足りなかった。
アーチャーが嘲笑する理由も、ウーゴが怒っている理由も、自身が何者であるかも。
アラジンは少しも知らない。
けれど、友人が無理をしていることだけは分かる。アラジンはウーゴの頸部に生えた笛に力を吹き込み、目一杯の応援をした。ここで勝たなければウーゴも、桜も、誰も救えない。アラジンはなりふり構ってなどいられない。助けるためには無理をするしかない。それが微々たるものであっても、もしかしたら無駄なことだったとしても。今ここで動かなければいけないと分かっているから。
ウーゴはアラジンの奮起を感じながら両手をあげる。天に浮かぶ光の帯。そこから発せられる魔力濃度は肌を引き裂くほどに刺々しい。
「————」
「そう急くな。しっかり殺してやる」
ウーゴが両手を上げれば、アーチャーもまた己の蔵から鍵剣を取り出した。そして、彼の宝物庫が解錠される。取り出したのは、ただ一振りの剣。刀身は筒状で、果たしてそれを剣と呼んでいいのかも分からぬほど、奇抜で、されど美しい宝剣であった。
ウーゴの体が止まる。
アーチャーの持つ宝具が、いかに危ないものなのか判断できたのだ。咄嗟に頸部の笛にしがみついていたアラジンを片手で覆い、残った片手を光帯に掲げる。
「さぁ、起きろエア」
円筒が廻る。刀身の形をせぬそれは、天体の動きを再現するように、天地を軋ませるほどのパワーを生み出す。圧倒的という言葉では足りない。絶望的という言葉でもまだ足りない。人が文明を築くよりも昔、神々が創造したそれは、天地を裂いたという。
故に乖離剣。
天と地を判別できる姿へと切り分けた原初の剣。
傲然と旋転した原初の剣は、たった一人の精霊を殺し得るほどの威力を持って、振り上げられた。
「魔術王の成否を問うつもりはない……だが知っていたか? 妄執に取り憑かれた愚者は、やがて友を忘れ。また、失った悲しみに気づくこともない。ただの機械に成り下がった者に待つのは、あの神らと同じ結末だと。それはもはや人間ではない」
アーチャーはそこで口を噤み、一息置いてから、再度声を漏らす。
「ならばこそ、我が裁定を下す」
「——————」
「余興は終わりだ。いざ知れ、
小さく放たれた言葉を合図に、両者の最大威力がぶつかり合う。
光帯から発射される膨大なエネルギーと、原初の剣により生み出された絶対の力。
がんじょうな部屋に似た空間にはヒビが入り、天地は堂々と裂けていく。小さな箱庭で吹き荒ぶ台風のように、地は抉れ、大気を揺れる。
ウーゴに庇われたアラジンですら、その光景は見るまでもなく凄惨なものだと感じた。呼吸をするだけでやっと。一瞬でも気を抜けば、体内から爆発してしまいそうな重圧感。夥しい量のルフが舞い上がり、やがて一箇所に凝縮される。
その瞬間、光が爆ぜた。
文字通り、眼球を焼くほどの凄まじい熱量と光量。近場にいた物がそれを直視すれば、誰もが失明するほどの圧倒的な暴力。そんな常人では耐えきれぬほどの熱を浴びて、ギルガメッシュは口角をニヤリとあげる。
「フハハッ、やるではないか番犬!」
英雄王ギルガメッシュは、眼前に広がる光景を眺めて笑みを浮かべた。喜色満面、というには些か獰悪さが垣間見えるその笑みは。されど、ヒトという存在そのものであるかのようにすら思える。事実、ギルガメッシュが持つ深紅の瞳は、悦が混じり、心を踊らせる類のもの。このぶつかり合いを心の奥底から渇望し、それらを一滴も残さず平らげようとする我欲そのものであった。
対して、ウーゴは地面に膝をつく。光帯から発射されるエネルギーは次第に萎んでいき、エアに飲み込まれそうになっていた。
格が違うなんてものじゃない。
相手はたかだかサーヴァントではあるが、されど今のウーゴもそれと対して変わらないただの精霊である。勝敗の決め所など、いくら考えても多すぎる。今回はそれが、たまたま奥の手だったというだけだ。
「——」
ウーゴの片足が消し飛ぶ。
次に脇腹が。
胸部に穴が空き。
肩口は抉り取られる。
それでもウーゴは諦めない。アラジンのためか。それとも他でもない自分のためか。はたまた、彼の主のためなのか。これをここで語ってしまえば、今のウーゴの頑張りは非常に安っぽいものになってしまうだろう。だからこそ、これはあえて語らず、想像するしかない。
段々、消し飛ばされていく体。最後まで残っていた頸部と片腕が、突風の衝撃で吹き飛ばされる。
アラジンはそこで、初めて今の現状を自身の目で捉えた。
崩壊を始める「がんじょうな部屋」に似た空間。飛来するウーゴの腕部分。自身の眼前で空中に舞う金笛。少し遠くの場所に佇む、黄金の甲冑を着込んだアーチャーのサーヴァント。
殺されたのだ——跡形もなく。
アラジンはそこまで頭で理解すると、堪えきれず背負っていた杖を引き抜く。そのまま魔力の塊を形成し、敵うはずもないと分かっていながら、アーチャーに向かって射出した。
「……たわけ」
アーチャーはそれだけ呟くと、首を逸らすだけで魔力弾を躱す。
「もう我に用はない。この空間も直に崩れ、今宵はそれで終わりだ。お前のやっていることがどれだけ無謀であるか、分からぬほど道化でもあるまい。あの番犬めが、貴様を生かした理由を少しは考えぬのか」
「先に手を出してきたのは君じゃないか!」
「つくづく、我を呆れさせる……言ったであろう、これは余興だと。それはもう済んだともな。これ以上、お前と戯れる道理がどこにある? それとも、今度はさっきお前が逃したあの雑種も交えて、我に挑むか」
「っ」
アーチャーの言葉は、言外に桜の危険を知らせるものであった。戦えば敗北は必然。これ以上、この男の不興を買って仕舞えば、間桐邸やウーゴだけじゃない。もっと多くのものを失うと教えられているのだ。
だからこそ、アラジンは口を閉じるしかできなかった。
例え笛からウーゴの星が消えていようとも、その悲しみを堪えるしかできなかった。
でなければ、
”ウーゴくんが守ってくれたものまで……”
ぎゅっと笛を握り、耐え忍ぶ。アーチャーはアラジンのその様子を見て、目を細めた。彼にはまだ、何か違う物が視えているのかもしれない。そんな薄寒さすら感じるのを肌で感じながら、アラジンは小さく佇んだまま黙す。
やがてウーゴが施したであろう固有結界が消失した。
つまりは、ウーゴがこの世に残した残骸が全て消えたということである。
アラジンはそれに悲しみを抱きつつ、されど、何もできない自分に唇を噛んだ。アーチャーはそんなアラジンに目もくれず、さっさと霊体化して姿を消す。本当に呆気ない。悲しみをぶつけることもできず、怒りに身を焦がすこともできない。
アラジンはただ祈ることしかできなかった。
この程度でウーゴくんが死ぬわけないと。
ランスロットが言っていたサーヴァントの仕組み。ウーゴは他の者から精霊と言われていたことからも、望みはある。アラジンはぎゅっと笛を握って目を瞑る。
”ウーゴくんにもっと力をあげなきゃ……!”
そうして、ターバンに乗せられ遠くへ飛ばされていた桜が帰ってくるまでの間。アラジンは休むことなく、ウーゴのいなくなった笛へ力を注ぎ続けた。
その結果は語るまでもない。
この物語とは別の場所。
§
時は同じくして、雁夜は道に迷っていた。
なんということはない。アインツベルンは魔術の秘匿が並ではないというだけで話である。最低でも、雁夜のような、どヘボ魔術師では見つけられないほどに。
『はぁ、やはりカリヤでしたか……』
「おい待て。その言い方だと、俺の名前が悪口に聞こえる」
そもそも、アインツベルンがどこに根城を構えているのか。森ということだけしか、雁夜は知らない。本来の聖杯戦争であれば、余念なく相手のことを調べ上げるのが鉄則なのだろうが、間桐の陣営はそもそも勝つ気などさらさら無かったのである。監督役を通じて事情を説明し、そして体よく聖杯戦争を利用する。それが雁夜たちの第二手段であった。(第一手段はランスロットの派手に暴れるというものだったが、失敗している)
ここまで四回は聖杯戦争を開催してきたが、此度の間桐陣営のように、コネクションを作るためだけに参加した魔術師など一人もいないであろう。賢いと言えばいいのか、やはり馬鹿と罵るべきなのか。
ひとまず、雁夜は下水管から地上へと戻ることにした。
御三家のひとつであるアインツベルンであれば、分かりやすい場所にいると思ったのが、そもそもの間違いである。
これは、先にライダー陣営を尋ねるべきかな、と雁夜は頭を掻いた。
しかし、雁夜からすればライダーのマスターは非常に凡庸な人間にしか映っていない。あまり魔術師らしくないと言えばいいだろうか。アラジンみたいに、臓硯のような醜悪さが一切感じられなかったのだ。
別にそれ自体は雁夜にとっても良い印象ではある。
けれど、桜を救えるほどの魔術師である可能性は? と聞かれると不思議と言葉が出ない。だから、潜伏地も踏まえ、アインツベルンよりも後に回していたのだが……。
「先にライダー陣営だな、こりゃ」
雁夜はそう言って、夜の街を歩くことにした。
あの豪胆なサーヴァントであれば、現世を物見遊山しているに違いない。ふらふらっと歩いていれば、いつかは出会えるだろう。雁夜がそう思いながら、徘徊し、倒壊した間桐邸に戻ったのは日が登った頃である。
同じジン(魔神)のウーゴくんとゲーティアくんを融合してみた戦いをしてみたい!
という思いつきで書かれたのが、ギルガメVSウーゴくん
最初はギルガメVSヘラクレを出しつつ、本命はこれがしたかっただけ。
本当はコンテナでやりあうつもりだったのですが、こっちにしました。
コンテナはランスロおじさんに出番を譲る!!
ウーゴくんがゲーティアと融合した部分
扉……聖宮へ行くためのゲート、または時空神殿ソロモンへと繋がるゲート(マギのアニメ勢にわかるように言えば、ソロモンの知恵を授けられるときに潜ったやつでも想像してくれ、開けゴマ!)
固有結界……聖宮に連れて行くことができないため、聖宮に似た固有結界を作る。(言うなれば、「戴冠の時きたれり、其は全てを始めるもの」)
光帯……ウーゴくんが笛に溜め込んでいたものと、アラジンのありったけをぱちって放つエセ逆光運河(言うなれば、「光帯収束環」)
以上、元ネタ!!
ということで、またしばしの間お別れです。