マギのアラジンと雁夜おじさん行く聖杯戦争   作:ロマニ

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第十七夜

 雁夜はアラジンと桜を連れて、ビジネスホテルの一部屋を借りた。

 ランスロットの助言から、部屋を取る際は偽名を使い、念の為、隣の部屋を入れ替えている。時臣に狙われているということから、余念ない準備が必要だった。

 その後、ランスロットに倒壊した間桐邸を調べてさせた。

 あの日、間桐邸にいたのはアラジンと桜だけではない。壊れてしまった間桐臓硯が、己の部屋に引きこもっていたはずだったからだ。しかし、間桐邸を調べてきたランスロットの口からは、「何もありませんでした」という淡白な答えが返ってくる。

 一年前の間桐臓硯ならともかく、今のあの老人では助かっていないだろう。

 肉片ひとつ見つかっていないことは奇妙だったが、雁夜は間桐臓硯を死んだものとした。

 

「……意外だな。ジジイが死んで喜びを感じないとは」

 

 寝息を立てる二人の子供を見ながら、雁夜はそうごちる。

 間桐臓硯の死亡を、世界で一番願っていたはずの雁夜は、歓喜の声を漏らさなかった。どころか、なんの感情の起伏も起こらなかったのである。

 どうでもいいわけではない。関心が無いというよりは、実感がわかないせいであろう。間桐臓硯が死ぬ瞬間をこの目で見届けたわけでもないし、死体を確認したわけでもない。やはり、心のどこかでは生きているのかもしれないと思えた。

 

「カリヤの父上のことも気がかりですが、今は今夜の動きを確認しましょう」

「あぁ……そうだな。時臣を殺すには、かなり準備がいる」

「迷っていますか」

「まさか。あいつは俺から全てを奪った、クソ野郎だぞ」

 

 雁夜はアラジンと桜を見て、更なる義憤を駆り立てる。

 

「今は教会からルールの変更が出ており、全陣営はキャスター討伐に心血を注ぐよう言われています。しかし、そのルールを先に破ったのは紛れもないアーチャー陣営。私たちがルールを無視してアーチャーと争っても、咎められ無いでしょう」

 

 ランスロットは落ち着いた声色で現在の状況を分かりやすく説明した。

 教会は基本的に中立の立場だ。キャスター討伐という新ルールで責め立てるにしても、今回はあっちが悪い。こちらは防衛のために、アーチャーを討ったと言えば、罰則を課せられることもない。

 できるだけ、時臣殺害以外のことで気を逸らしたくない雁夜は、ふっと息を吐く。

 

「狙うなら、どのタイミングだ?」

「キャスターが暴れている時、その騒動に紛れて討つべきかと」

「騒動を起こす確証はあるのか」

「分かりません。しかし、教会からの言伝を見る限り、魔術隠匿を度外視しているのが今回のキャスターだそうです。何か一波乱起こすとは考えられます」

 

 それは騎士としての勘か。

 生前、多くの戦で武勇を誇ったランスロットだからこそ、重みのある言葉だった。

 

「分かった。それまでにすることは、できるだけお前とセイバーを合わせないことか」

「ええ。我が王と再び会合すれば、私自身どうなるか分かりませんので、それが良いかと」

 

 これまた淀みなく答えるランスロットに、雁夜は頷きで返した。

 雁夜としても、あのような激痛に襲われれば、時臣とまともに戦うことは出来ない。

 魔術での勝負など、のっけから勝ち目がないのは知っている。だからこそ、雁夜が持ち込むのは純粋な殺し合い。魔術師が現代科学に疎いのを言いことに、雁夜は十全にそれらを活かすつもりでいた。

 具体的な方策としては、現代武器である拳銃だ。護身用にと、兄である鶴野が仕入れてくれた殺人道具は、今も雁夜の腰ポケットに納められている。真正面から言葉を交わす必要もない。サーヴァントの戦いで目を奪われた所を、腹づもりであった。

 頭の中で何度も時臣を殺す瞬間を想像すれば、ランスロットが気がついたように口を開く。

 

「あと、カリヤ。アラジンや桜をきちんとした魔術師に見てもらった方がいい。私やカリヤだけでは判然としないことがありますから」

「確かにそうだな。頼れるとしたら、共闘を申し込んできたライダー陣営か。マスターは……ウェイバーくん、だったよな」

 

 コンテナターミナルでの一件を思い返し、なんとか記憶の端にぶら下がっていた名前を引っ張り出す。

 

「よし、今夜もライダーを探すところから始めるか」

 

 雁夜がそう告げれば、ランスロットも異議がないらしく、静かに頷いた。

 さて、簡単に見つかるといいのだが。

 昨晩は結局、ライダーの影すら捉えることができずに終わった。キャスターがいつ派手に動くか分からない現状、雁夜の心にじわじわとした焦りが浮き彫りになっていく。昨日まで悠長に考えていた自分を、殴りたくなる衝動に襲われた。

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、雁夜の焦りは杞憂に終わった。

 夜になって雁夜がビジネスホテルから出れば、ライダーが似つかわしくない一張羅で買い物をしている。厳密には、今にも張り裂けそうな白Tを着て、酒樽を吟味している。ランスロットの言う通り、気配に誘われて出てきた雁夜の開口は、些か間抜けな形となった。

 

「なんか凡俗だな」

「ん? なんだ? 随分と草臥れた顔をしておるな、貴様」

 

 ライダーも雁夜に気がついたのか、下顎をしごきながら言う。

 雁夜はまたもやその姿に、まぁ英霊も元は人間か、と思い直すことにした。ランスロットも雁夜に心ない毒舌を吐くし、意外と英霊は高尚な存在じゃないのかもしれない。

 

「一応初めまして、ライダー。俺はバーサーカーのマスターで間桐雁夜と言う」

「おぉう! 貴様があの童の後見人か! ふぅん、意外だな」

 

 悪びれもせず白い歯を見せながら笑うライダー。雁夜も軽い苦笑いで返す。アラジンと比べられてしまえば、自分はあまりにちっぽけな存在だろう。そう自覚しているからこそ、雁夜は反論も抗弁もする気はなかった。逆に、ライダーがアラジンを気に入っているのが分かれば、それで十分である。

 

「これも縁というやつだ。どうだ、バーサーカーのマスター! あの童も連れて、余と一献交わすか? 今からセイバーめのところへ行こうと思っておるんだが」

「セイバーの? 魅力的な提案だが、うちはちょっと事情が混み入ってるんだ」

 

 雁夜はそう言って、顔を引き締める。

 

「……ライダー、あなたとマスターにお願いがある。昨晩、俺たちの家が襲撃された。その際、アラジンは意識不明の重体、救いたかった少女もまた同様に体調を悪くしている。どうか、そちらのマスターに診察をお願いできないか」

「うぅん?」

 

 突然の頼みにライダーは驚きはせず、目を若干細めるに留めた。

 

「あの童が危機とな……それは困ったのぅ。彼奴を無くすのは余にとっても惜しい」

 

 うんうん、と悩ましげに腕を組んだライダーを、雁夜は静かに見守る。

 こちらから差し出せるものはな何もない。ここで余計なことを口走り、ライダーの顰蹙を買うのは避けたかった。

 

「仕方ない。セイバーとの酒盛りはまたの機会としよう。バーサーカーのマスターよ。さっさと、あの童のところに案内せい」

 

 ライダーは酒樽を一つだけ買うと、筋骨隆々な片腕で抱き抱える。側から見れば、酒屋の若大将と言ったところか。雁夜と霊体となっているランスロットは、豪快なライダーに言葉を無くしつつ、言われた通りに後を追った。

 店を出てから少し歩いて、ライダーに首根っこを掴まれる雁夜。

 何事かと声を上げるよりも前に、ライダーは盛大にビルの屋上へ向かって跳んだ。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉおぉぉ!!」

 

 夜の街に反響する絶叫。それをさも愉快そうに聞きながら、ライダーは屋上へと着地する。

 出迎えたのは、彼のマスターであるウェイバーと、ライダーが顕現させいたのだろうチャリオットだった。ウェイバーは見知らぬ雁夜を見て「お前、魂喰いでもする気か!?」と慌てるも、すぐさま、マスターであることに気が付く。

 

「酒を買いに行っていたお前が、なんで他のマスターを連れてるんだよ!?」

「気にするな、坊主。此奴はバーサーカーのマスターだ。未だ共闘関係に至ってはおらんが、何やら魔法使いの童の身が危険らしくてなぁ。ちと、力を貸してやってくれんか」

「え、あの子供の?」

 

 ウェイバーは恐る恐ると言った様子で、吐きそうになっている雁夜を見た。

 

「あ、あぁ……昨日、アーチャーと思われるサーヴァントの襲撃を受けた。俺とバーサーカーが不在の時だったから、アラジンが対処したが……それのせいで今は意識不明の重体だ」

「アーチャー? もしかして、あの黄金のサーヴァントか?」

「知っているのか?」

 

 雁夜は吐き気を飲み込んで、ウェイバーと向かい合った。

 

「知ってるも何も……聖杯戦争で初めに戦闘を起こしたところだ。遠坂の家に忍び込んだアサシンが、そのサーヴァントに撃破されている。でも——」

「さっき、キャスターの工房を破壊してきたが、アサシンに余も坊主も襲われてな」

 

 目を光らせたライダーが食いついた。

 アーチャーとアサシンの戦闘。それは大抵の陣営なら知っていて当然の事柄だ。雁夜たちは召喚の余波で寝込んでいたため知らなかったが、やはり、アーチャーでまず間違いなさそうである。

 雁夜はさらなる怒りに呑み込まれそうになるが、なんとか冷静を保つ。

 

「どうもきな臭いな。それより、ライダー。キャスターの工房を破壊というのは」

「ああ、坊主のお手柄でな。キャスターめの根城を見つけ、今さっきぶっ潰してきたところよ。ああなってしまっては、逃げも隠れもできん。彼奴らに引導を渡すのも、そう遠い話じゃないさ」

 

 ライダーが己のマスターを褒めるように、いかつい手で撫で回しながら言った。ウェイバーはさも鬱陶しそうに反抗しているが、体格差がありすぎる。ライダーが飽きるまで、彼は撫で回されるだろう。雁夜もそれを外野から止めようと思わなかった。

 

「情報の共有はここまでだな。さて、さっさと童のいるところへ行くとしよう」

 

 ライダーの言われるがまま雁夜とウェイバーはチャリオットに乗り込んだ。

 

 

§

 

 

「どっちも魔力切れだな。女の子の方はまだ軽いけど、こっちはかなり衰弱してる」

 

 ウェイバーの声がビジネスホテルの一室で響いた。

 一目見た時から、ウェイバーにはある程度の予測があった。目元に浮かんだ隈、尋常じゃな発汗と体温。呼吸も薄いことから、似たような症状を見たことがあった。

 魔術師としては初歩の初歩。時計塔の初等部でも教えられるほど基礎の症状に、「なんだよ」と言いたくならない訳ではない。しかし、診断結果を聞いたライダーと雁夜は、ともに目尻を吊り上げる。

 

「治りそうか?」

「今は安定してるよ。放っておいても死にはしない。ちゃんと水分と栄養を与えてやればいいさ。魔力を生成するための生命力を癒すんだ」

 

 もうここまで来れば、魔術の出る幕ではない。こんなのは一般的に溢れている医療科学でなんとかできるレベルだ。意識不明の重体というからには、見たこともない呪いでもかけられたと思っていたが、見事に肩透かしを食らってしまった気分である。

 ウェイバーは気怠げに近くに設置された椅子に腰掛ける。

 魔法使いの少年——アラジンがどうしてここまで消耗しているかは知らないが、サーヴァントとやり合ったのだ。この程度で生還できているのを褒めてやるべきだろう。

 だが、同時にウェイバーは少女の方に目を向けた。

 

「どっちかと言えば、そいつよりもこっちの娘の方が分からない」

「と言うと?」

「あまりに回復が遅いんだよ」

 

 ウェイバーは桜と呼ばれる少女を見て思案した。

 

「アラジンよりは絶っ対に軽症だ。魔力が枯渇はしているけど、ただ体液を与えただけでここまで弱るわけがない。もっと他の原因があるんじゃないのか?」

 

 まるで責め立てる刑事のように、ウェイバーは雁夜を見る。

 理由があるならさっさと吐け。でなければ、助けてやることもできないぞ、と目で語っていた。

 

「……ある奴に蟲を仕込まれているかもしれない。アラジンはその蟲が暴走して、桜ちゃんの魔力を奪っているって言っていた」

「蟲? なんかの使い魔かな……かなり低位のやつに、魔力を溜め込むのがいた気がする」

「っ、取り出す方法はあるのかい!?」

「え? ま、まぁ、どこにいるかによるけど、場所によっては僕でもなんとか……できなくても、魔術協会の動物科とか呪詛科に依頼すれば、誰かしらは解決できるんじゃないか」

 

 ウェイバーの言葉に雁夜は涙を流しそうになった。

 この聖杯戦争の本来の目的は、桜を助け出すこと。この少年の言葉を信じるのであれば、桜はようやく普通の少女として過ごすことができるという。もう、いつ来るかも分からない体調の乱れに悩まなくて済む。どこにでもいる一人の女の子として、恋をしたり、友達を作ったり、勉強したりできるのだ。

 雁夜はそれを想像できただけで、今もなお嗚咽を漏らしそうになった。

 霊体となっているランスロットが温かい感情を送ってくれる。彼も桜の身を共に案じてくれた仲間だ。

 

「これで——俺は心置きなく戦える」

 

 アラジンも時間はかかるが回復傾向にあり、桜はウェイバーに任せれば治る。

 雁夜にとって憂いは全て取り除かれたようなものだ。聖杯戦争でやるべきことは、全て解決したと言ってもいい。

 雁夜は意を結したように拳を硬く握りしめた。

 

「待て、バーサーカーのマスターよ。坊主は場所によってはと言った。安心するには、ちと、早計ではないか?」

 

 ライダーの言葉に、あまりに大きなプレッシャーを掛けられたウェイバーが激しく首肯する。なんたって、特別な道具もなしに触診しただけの結果だ。しかも、ウェイバーは自分のことを三流とまではいかないも、二流だと思っている。もしかしたら、診断結果に誤りがあるかもしれない。

 流石のウェイバーも、一人の少女の未来を背負うには若すぎた。いつもは「馬鹿にするな!」と怒号をあげる彼だが、今だけは「いいぞ、ライダー!」と応援するくらいにはチキンである。

 もう一度言おう、ウェイバーはチキンである。

 

「それにのぅ、ずっと気になっていたんだが、貴様は何を焦っているのだ? 聖杯に興味はないのであろう。それとも、今更になって聖杯を欲するか?」

 

 ライダーが厳しい顔つきで雁夜を見た。

 いま自分は見定められている。雁夜にもそれは分かった。

 もし聖杯を望むのであれば、ライダーは競争相手として雁夜を害することを心に決めるだろう。また、己の理に反した行動原理であったとしても、ライダーの機嫌は悪くなる。

 あくまでライダーが気に入ったのは、アラジンという存在だ。魔法使いアラジンを好いているのではなく、彼はアラジンのあり方を好いている。ここにマスターを連れてきたのだって、ライダーからしてみれば、雁夜のためではなく、アラジンのためであった。

 

「俺は……」

 

 雁夜は慎重に考える。

 ここで間違えれば、せっかく垂らされた蜘蛛の糸が切れるかもしれない。

 そんな戦々恐々とした心境に支配された。

 

「俺はアーチャーのマスター、遠坂時臣を殺したい。何もかもを奪うアイツが許せないからだ。アラジンをこんな目に遭わし、娘であった桜ちゃんを捨てた彼奴を——俺は許せない」

 

 雁夜はライダーの瞳を射抜きながら言った。

 力強く、体を強張らせながら、自分を大きく見せようと。

 

「なるほど、復讐か」

 

 聞いていたライダーは、失笑しながら肩を竦める。

 

「実にくだらん理由だわな」

「なに!?」

 

 そして、強く言い切られた。

 

「貴様の復讐は願いではない。ただ追い詰められ、怒りをぶつける対象もなく、ただ彷徨った結果にすぎん。もはや、それは義務でもなければ、ただの惰性よ。くだらん、実にくだらん。貴様が真にそれを願うなら、その復讐もまた一興。だが、ただの惰性であるならば、それは最早、自慰行為にすら劣る自己欺瞞だろうよ」

「何も知らないくせに……あんたが俺たちの苦しみを理解できるのか!?」

 

 雁夜の言葉に、ライダーは瞠目すらもしない。異様に冷たい眼差しを向けるだけで、その表情に感情の起伏は窺えなかった。

 けれど。

 

「ふんっ」

「ひぎゃっ!」

 

 ライダーは雁夜を殴り飛ばした。

 

「うわグーで!? グーでいった!? つーか死んじゃわないかそれ!?」

 

 咄嗟に霊体化していたランスロットが出るか迷う。ここでライダーが暴れるつもりであれば、戦うしか残された道はないからだ。

 しかし、そうはならなかった。

 殴り飛ばしたライダーが、つまらなさそうに床へ腰掛けたのだ。

 雁夜は痛みに耐えながらも、身を起こす。この征服王というサーヴァントは、どこまでも相手の心を蹂躙し、征服するのに長けているようだった。雁夜も自然と、熱されていた頭が冷えていくのが分かる。

 

「おい、間桐雁夜とか言ったな。貴様がまず守りたいと願ったものは何だ? 真っ先に救うべき相手は?」

「それは……アラジンと、桜ちゃんで」

「じゃあ、その時臣ってのを仕留めれば、即座に童どもの体は治るのか?」

「う、ぐ……だが、放っておいたらまたアラジンたちは……」

「聞けば、童に外傷はない。裏を返せば、アーチャーめに童を殺すつもりは無かったのであろう。目的は何か知らんが、もう襲われる心配は無い。それなのに、貴様はその時臣を仕留めるのに固執する意味はあるのか?」

「……」

 

 反論はそこで尽きた。

 雁夜だって心の何処かでは分かっていた。アラジンに目立った外傷がないと言われた時点で察していた。時臣の思惑はどうあれ、きっと、アラジンと桜は殺される危険性などなかったであろうことは。

 もしかしたら、間桐臓硯のやってきた事を知った時臣が、報復しにきたのかもしれない。

 その可能性だって十二分にありえた。だから、間桐臓硯の姿だけが見つからず、桜のトラウマとも言える間桐邸が悉く破壊されていた。

 辻褄は合う。それが真実かどうかはさておき、客観的に見ればそう判断もできる。

 なのに、雁夜は時臣を悪と断じた。それだけではない、時臣を諸悪の根源と捉え、桜の実の父親を、葵や凛にとって唯一の家族を殺そうと企てもした。この澱みない意思決定に、雁夜自身の私怨が混じっていないか、と聞かれれば首を捻らざるを得ない。

 

「ったく、やりたい事とやるべき事と出来る事が、何一つ噛み合っておらん大馬鹿者め。バーサーカーもそれに呼応しているのであれば、やはり彼奴もただの狂犬か。貴様らの目は未来を見ておらぬ」

 

 雁夜と同じく口撃の標的となったランスロットも黙すしかできない。いくら狂化が限定的に暴発するとは言え、彼もバーサーカーだ。一部の思考回路が発狂に繋がってしまっている。もし、セイバーなどのクラスで呼ばれていたならば、騎士たる粛然さで雁夜を宥めていたことだろう。

 ランスロットと雁夜は、突然の出来事にまともな考えが及ばなかったのである。

 ライダーはそれを見抜いていた。

 故にこう言うのだ「頭を冷やせ」と。

 

「帰るぞ、坊主」

「え? え、いいのか?」

「アラジンが助かるだけで余は満足したしな。今夜は陰気な奴らを相手しすぎた。帰ってセイバーと酒盛りする」

 

 ライダーは、よっこらせと腰を上げる。

 

「ま、待ってくれ、俺はどうすればいい!」

「知らん。余は聖職者ではなく征服王だ。蹂躙し略奪する。それ以外のことに興味などない」

 

 冷たいとも思える返しであったが、それこそライダーを体現したような言葉だ。

 此度、雁夜に説教紛いのことをしたのも、アラジンと共闘する男の格を知りたかっただけ。しかし、その男の底も見えた。ライダーにとって、ここからの問答はただの不毛である。

 

 

 

 ライダーとウェイバーが出て行った部屋で、雁夜はただ力なく首を垂らした。

 どうすればいいんだ、と自問自答するが答えは出ない。

 時臣の使役するアーチャーがアラジンを襲ったことに変わりはない。けれど、理由がもし臓硯を排するためであったならば、それは娘を思ったがための行動となる。

 

『カリヤ、私も前のめりになっていました。未だアーチャーに対する怒りはありますが』

「俺も同じだ、バーサーカー。俺だって時臣が憎いのに変わりない……」

 

 雁夜は痛む頬を摩りながら、物思いに耽る。

 ライダーがどれだけ弁を振るおうと、雁夜の心から憎悪を取り出すことなど不可能だった。これは長年染み付いてしまった、癌と言ってもいいもの。易々と取り除けるものではない。

 

『アラジンなら……この状況をなんと言うんでしょうね』

 

 ふと、ランスロットの何気ない一言が雁夜の心である思い出を想起させた。

 

『おじさんは、僕にとって大切な家族さ』

『僕たちが本当に考えるべきなのは、お爺ちゃんを殺すかどうかじゃない。桜ちゃんが、そしておじさんがこれからどうするかさ。殺すとか、裁くとか、そういうのは少し違うはずだよ』

 

 危険を承知でこの聖杯戦争に臨んでくれたアラジン。

 きっと、こうなることは分かっていたのかもしれない。

 そんなアラジンの思いを踏み躙ってまで、アラジンの望まないであろう復讐をやり遂げるべきなのか。

 

「ふっ、いつもお前は大事なことを言ってくれる」

 

 雁夜はアラジンの顔を見ながら、そう呟いた。

 でも、やっぱり時臣の憎しみは完全には消えない。だから雁夜は少しだけ趣向を変えることにした。

 

「バーサーカー。やっぱ俺は時臣をぶっ飛ばさなきゃ、気が済まんらしい」

『ええ。それならば、今の私も大いに賛成です。ギタギタにしてやりましょう』

 

 殺すでも、裁くでもない。

 復讐とも少し違う。

 雁夜はこれまで溜まった鬱憤を晴らすために、いや、過去との因縁をつけるために。時臣に挑むことを決意した。




二次創作でよく見かける聖杯問答とオリ主によるセイバーのフォロー。
そんなものはない。

次話はライダーとセイバーのサシのみ対決だ!
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