マギのアラジンと雁夜おじさん行く聖杯戦争   作:ロマニ

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第二十夜

 ランサー陣営は川で感じたマナの異常な乱れについて、思案していた。

 考えられる原因は多分、あの狂乱したキャスターだろう。川で何かしらの大規模魔術を行使しているとなれば、納得のいく現象だった。

 ランサーからキャスターの宝具について聞かされていたケイネスは、現状を冷静に分析する。魔そのものを絶え間なく召喚する宝具。物量という面においても、神秘の秘匿という面においても最悪の代物と言えた。

 ——君主を冠する魔術師として、この横暴を見逃してはならない。

 ケイネスとしてもそういった使命感に似た義憤は沸き立っている。

 けれど、今のケイネスに重要な事案は最愛であるソラウを守り通すことだ。

 ここで気の向くままケイネスとランサーが遠征にでも出てみろl。誰がソラウを守る? ケイネスにとってのアキレス腱を、あの非道極まった男が見逃す筈もない。

 

「どうされますか、我が主よ」

 

 ランサーは顔を隠すように首を垂れて、指示を仰いだ。その姿と経路(パス)からは焦燥感のようなものが伝わってくる。

 彼も直接キャスターと相対したが故に、その悪烈さは身をもって体験しているのだ。騎士として、一人の英霊として、あの誇りなきサーヴァントの在り方は胸が悪いのだろう。野放しにしておいて、いい類のモノではない。

 けれど、ランサーもケイネスの心情は理解できている。

 ケイネスが何に憂いており、そしてこの陣営で何が最も足りていないのかを。

 一昨日の,晩、ケイネスが臥せてからというもの、ランサー陣営はまさに専守防衛で臨んでいた。その方針に則るのであれば、キャスターがこの廃工場へ攻撃を仕掛けない限り、こちらも無干渉を続けるべきだ。下手に飛び出して、痛い目にあったのは一昨日のことでもある。

 

「チッ、つくづく面倒なものが呼ばれたものだな」

 

 車椅子で頬杖をつき、自然と舌打ちが繰り出された。

 魔術師として矜持などあの時に捨てたと思っていたが、やはり腐ってもアーチボルトの男。そう簡単には、これまで染み付いてきた貴族としての感覚は拭い取れない。

 

「ランサー、貴様に問う」

「はっ」

「私とソラウを守りながら、キャスターめの討伐は可能か?」

「容易……と言いたいところですが、あれの宝具は物量に秀でております。前回の戦闘で我が槍がアレの魔本に有効なのは確かですが、憚りながら、その隙を狙うためには」

 

 決して不可能とは口にしないまでも、ランサーは言外に「難しい」と語った。

 あの量の怪魔たちから二人を守りつつ、さらにはトドメの一撃を穿つために奮戦しなければならない。片や、下半身付随に陥っているマスター。片や自身に魔力を割いてしまっている女性。そんな二人を庇いながらとなると、流石のランサーの双槍だけでは手数が足りない。

 さらに、今回のマナの乱れは異常だ。アインツベルンの森で力の片鱗を目にしたが、あれ以上のものが顕現していることは、まず間違い無いだろう。ケイネスとの軋轢を解消したランサーは、盲目的ではなく実際的に物事を判断した上で、そう結論を出した。

 

「だろうな。そも、貴様の性能上、差し向かいでの戦いが最も真価を発揮する場だ。だから私も、この工房から出ることを禁じた」

「では……」

「私としては業腹だが、どれだけ思案しても妙案が浮かばん以上、他の参加者に任せるほかない」

 ”まぁ、アインツベルンが雇っているあの男だけは、この騒動を撒き餌にマスター狩りをするのだろうが。”

 

 と、ケイネスは憎たらしい切嗣の顔を思い浮かべた。

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 折しも、雁夜が未遠川へ向かって走っている道路に、其奴は降りてきた。

 聞き覚えのある雷鳴の轟きに、雁夜の頬がピクリと疼く。手綱を握る巨漢のサーヴァントが雁夜の走行に合わせ速度を落とし、不遜な笑みを投げかけた。

 

「よぉ、バーサーカーのマスター。良い夜だ——と言いたいところだが、どうやら気取った挨拶を交わしている場合じゃなさそうでな」

「ライダー……あぁ、どうやら川で何かが起きているらしい」

 

 魔術師として下の下である雁夜は、川で起きていることに冷や汗を垂らしながら言う。

 

「今夜ばかりはセイバーとどちらが協定を結ぶかを競っている暇ではないらしい。

 貴様も川に向かっているということは、キャスターの討伐に向かうのであろう? 余も、色々と呼びかけて廻っていたとこだ」

「他のサーヴァントは?」

「ふん、どういう了見か、ランサーは穴熊を決めこんでおる。アーチャーと思われる金ピカも姿が見えん。アサシンは昨日、余がぶち殺したから無理だのう。遠目で見えたが、セイバーは既に到着しているようだ」

「つまり、俺とあんたたちと、アインツベルンしか来てないってことか!?」

「端的にまとめると、そういうことだわな」

 

 雁夜は疾走しながらも、悲痛な顔を歪めた。

 最悪の状況である。キャスターが何をしでかそうとしているが知らないが、聞けば、昨今の児童誘拐事件は奴等の仕業らしい。魔術を悪用し、罪もない子供たちを騙くらかす。

 そんな外道極まった連中が、仔細までは分からぬも、何か大掛かりに事を進めているのだ。

 最悪、この街全ての生命体が失われることになる。

 

「言ってなかったが、セイバーと俺のバーサーカーの相性は最悪だっ! できれば、同じ場で共闘させたくない! 下手をしなくても暴走する!」

「そんなこと言われんでも気づいておったわ。だから余も頭を悩ませておる」

 

 ライダーが手綱を握りながら、思案するように顔を歪ませた。

 バーサーカーの狂化の正体を知っていたとは、流石に驚きだ。

 だが、雁夜以上に驚いたのはどうやらライダーのマスターだったらしい。

 

「はぁっ!? お前、いつから気づいてたんだよ!」

「昨日、セイバーが騎士王だと気づいた時からだな」

「なんで僕にも、そういう重要なことを言わないんだ!」

 

 ウェイバーが必死に怒鳴り声をあげるか、ライダーは聞く耳を持たなかった。

 まぁ、今ここでそれについての論争を繰り広げるのは無駄だ。目下の問題ごとと言えば、キャスターの暴走をどう止めるか。さらに言えば、セイバー、ライダー、バーサーカーという、なんとも不安定な手札だけで切り抜けなければならない。

 最悪、バーサーカーとセイバー、どちらかは戦闘に参加できない可能性もあった。

 

「——カリヤ」

 

 並走する雁夜の横に、いつの間にか実体となったランスロットが現れる。

 息を切らさず駆ける姿は、まさに清廉な騎士をイメージさせた。

 

「うぎゃ、バーサーカー!?」

 

 と、ヘンテコな叫び声をあげたウェイバー。どうやら、心底バーサーカーを警戒しているらしい。即座にライダーの背へと隠れてしまった。

 まぁ、暴走している姿を最後に見てないので、そのイメージが強すぎるのだろう。理知的に喋っている方が、逆に不気味と思われても仕方ない。

 雁夜はそんなウェイバーに苦笑いを漏らしつつ、隣のランスロットへ目配せした。

 

「何か考えがあるのか、バーサーカー!?」

「ええ。現状、私の狂化は抑えられるものではありません。アラジンという潤沢な魔力リソースがあれば話は別ですが……今はそれに期待するだけ無駄です。

 ——であれば、そもそも狂化を発動させなければいい」

 

 意味のわからない暴論に、雁夜とウェイバーは脳内で「?」を浮かべる。

 いや、それが出来たら最初から苦労してねーよ、とは誰の言葉であろうか。

 しかし、この只中において、一人だけランスロットの説明に得心が行ったライダーは、「ほう」と感心の声を漏らした。

 

「して、それを成す手立ては?」

「あれだ」

 

 ランスロットは臆さずに民家に置かれている一台のアレを目線で指した。

 

「お前……まさか」

 

 雁夜がひくひくと頬を引き攣らせる。

 ランスロットが目線で指したものは、一般家庭にあっても不思議ではないもの。ただし、それを買うために多くの人間が大金を支払う。言わば、家屋の次に大切で価値のある家財だ。

 悪魔の所業だ。

 素直にそう思った。騎士として埒外な方向で狂ってしまっている。やはり、こいつがバーアーカーなのだと、聖杯戦争中何度目かの再認識が行われた。

 一体、どのように生きてくれば、そのような発想に至るのか分からない。

 

「大丈夫ですよ、カリヤ。私の時代ではこういう言葉がありました。死ぬよりはマシ——と」

 

 ちなみにそれは、普通に嘘である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にあれを、ラン……バーサーカーが?」

 

 セイバーは目の前で繰り広げられている光景に唖然とした。

 誰よりも騎士らしく、最強と謳われ、他の騎士たちからも清廉潔白な理想の騎士と持て囃された。それがランスロットという人物のはずだ。

 しかし、現在進行形で敢行されている無差別テロのごとき猛攻。

 ビルやら民家やらからパチってきた自動車ないしはバスを、スキルによって自身の宝具とし、ライダー顔負けの騎乗能力で神風特攻する。

 スキルによってDランク相当に格上げされた鉄の馬の爆発力は素晴らしい。

 怪魔の一端を暴風と火炎で蹴散らしている。

 効果的であり合理的だ、とはセイバーも思う。

 けれど、他人のことを歯牙にも掛けないその攻撃方法は、まさにバーサークだった。

 

「あ、あぁ……今のランスロットは車とあの怪魔しか目に映らないよう行動を縛ってある。セイバーはその……できるだけあいつとは真逆から攻撃をしてくれ」

 

 雁夜は言い淀みながら、一画を消費した令呪を見せて苦笑いを浮かべた。

 

「……そうです、か。いえ、今は戦闘中。余計な思考は省きましょう。バーサーカーのマスター並びに、ライダーのマスターには助力の感謝を。私もそろそろ戦線に復帰します」

「ああ、できれば冬木市内から全ての自動車が消える前に、決着してくれ」

「…………善処します」

 

 現在、ランスロットによって破壊された台数32。

 とうとう普通の自動車では威力不足を感じたのか、しまいには重機での吶喊を始めたランスロットを見て、雁夜は涙を浮かべそうになった。

 一つ当たり数百万円の車は、なんの慈悲もなくたった数秒で爆散し続ける。

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 アラジンは美しい花畑を彷徨っていた。

 見渡す限りの花園。地平線まで続く光景は、まさに楽園と言っても差し支えのない美麗さがある。膝を折ってまじまじと見てみれば、一輪一輪が可憐な花弁を揺らしてみせた。

 

「フフ、桜さんが見たら大はしゃぎするかな?」

 

 頭の中で桜が微笑み、端正な花冠を作るところまで想像したアラジンは、ふっと横になった。

 蒼穹の彼方はどこまでも続いていた。雲一つ存在しない快晴に目を細めながら、太陽の暖かさを一身で受け止める。

 アラジンは自分がどうしてこの場にいるかを知らなかった。

 気がついたら、この花園にいて、気の向くままに歩いた。

 けれど、いつまで経っても変化は訪れない。

 疲れも感じなければ、空腹も乾きも感じない己の体に、アラジンは不思議と納得していた。

 

「僕、死んじゃったんだね」

 

 アラジンはここが俗に言う『天国』なのかと思った。

 昔、旅をしていた時にある僧侶から聞き及んだことがある。この世には地獄と天国というものがあり、死んだ人間はそのどちらかへと送られると。

 ならば、ここはきっと天国だ。これほどまでに美しい空間が、地獄なはずもない。

 寂しさを堪えながらも、アラジンはずぅと奥の、そのまた奥を見つめ続けた。どこまでも広い蒼天は、アラジンを歓迎するように暖かな日差しを送ってくれる。

 悪い気はしない。

 そう思った矢先だった。

 

「残念ながら、君はまだ死んでないよ」

 

 声が聞こえた。

 ここにきて初めて、人の声がアラジンの鼓膜を打ったのである。

 がばり、と身を起こしたアラジンは「誰だい!?」と喜色を孕んで振り返る。

 そこにいたのは……。

 

「やぁ、初めましてアラジン。僕は——そうだな、花のお兄さんとでも呼んでくれ」

 

 虹色の髪を生やした混血児が佇んでいた。

 

「さて、どこから話そうかな……まずはここのことでも話そうか? いい場所だろう」

 

 花のお兄さんと名乗る不審者は、アラジンの横に腰をかけて言った。

 アラジンはそんな男の周りにいるルフを見て、不思議と懐かしい気持ちになる。

 

「うん、とってもキレイな場所だね。ここはお兄さんが作ったのかい?」

「そうだね、ある意味そうとも言える。でも、僕はただ真似をしただけに過ぎないんだ」

「へぇ、じゃあこの場所の元となった場所があるんだね。見てみたいな〜」

「君なら遠くない未来に見えるかもしれないよ? ちょっと遠いけどね」

 

 花のお兄さんは、そう言って足が疲れたように自分の脚を揉みしだいた。

 どこかそれがジジ臭く、雁夜の動きを彷彿とさせたため、アラジンは笑ってしまう。やっぱり目の前にいる花のお兄さんは、アラジンのナニカを刺激する。

 

「お兄さんはなんだかいい人そうだね」

「残念ながら、そうとも言えない。何せ、僕は人でなしと良く周りから言われるんだ」

「そうなのかい?」

「ああ、僕としてはそこまで悪いことをしていると思わないんだけどね」

 

 男はそう言って微笑むと、ある物が目に入ったらしく「あぁ、そうそう」と切り出した。

 

「ウーゴくんのこと、僕もよーく知ってるよ」

「!?」

 

 指さしたのは、アラジンがいつの間にか首にかけていた金の笛。

 今は術式が刻まれておらず、ただの笛と成り下がったそれを見て、男は変わらぬ笑みを浮かべ続けた。

 

「ウーゴくんだって!?」

「うん。あの聖宮の番人はかなり僕らの界隈じゃ有名でね。今回、僕がこうして君の前に現れたのも、無理を言って案内役を申し出たからだ」

 

 花のお兄さんは己の目を指さすと、徐に立ち上がった。

 

「さて、続きは歩きながら話そうか。こんな機会は滅多にない」

 

 男が手をすっと差し伸べれば、アラジンも迷わずその手を取った。

 

「お兄さんは何者なんだい?」

「ははは、君は率直だねぇ! 魔術師たるもの、知識欲には貪欲でなければならない。そういう意味では、君は大いに素質があるさ」

「と言うことは、お兄さんも魔術師なの?」

「まぁね。君と同じさ」

「んー、でも僕は魔術があまり使えないのさ。ルフ(みんな)から教えてもらえることもあるけど、うまく行かなくてね」

「心配しなくていい。君は言うなれば、生まれたての赤ん坊みたいなものだ。それが普通だよ。成熟するのにはそれなりの時間が必要なものさ。まぁ……その成熟を迎える前に、あんな暴君と出会ったのは単純に運が悪い」

「アーチャーさんを知ってるのかい?」

「ああ、知ってるとも。彼も僕らの界隈じゃ有名だからね」

「じゃあ、花のお兄さんも魔術王っていうのが誰なのか分かるのかい?」

 

 そこで男の足が止められた。

 必然、アラジンも立ち止まる。

 

「それはウーゴくんから聞くといい。僕は答えを与える者じゃない、君を案内するだけの者だ。残念ながら、今回は自分の道楽で君に会いにきただけで、そこまで権利がないんだよ」

 

 男はそう言ってまた歩き出した。

 今度は男の方からアラジンへと質問を投げかける。

 

「魔術は楽しいかい?」

「うん。こう新しいことが出来ると、おなかの奥からぶわ〜とワクワクが出てくるのさ!」

「それは良いことだ。君は普通の魔術師よりも知的探究心が強いのかもしれない。良かったら、今度いい先生を紹介してあげようか?」

「えぇ、本当!? それは助かるよ!」

「ふふふ、君のことが好きそうなお姉さんを一人知っていてね。僕と彼女は直接会えないけど、彼女も僕のことは見えているから、興味本意で飛んでくるかもしれない」

「へぇ〜、一体それはどんな人なんだい?」

「んー、僕の姉……いや、妹とでも言っておこうかな」

 

 と、そこまで話し終えるとアラジンと男の目の前に、大きな一つの門扉が現れた。

 アラジンにとっては見覚えのあるソレ。

 ウーゴとアーチャーが戦った際に出現した、堅牢で厳かな門扉が、そこに鎮座していた。

 

「あぁ、もう着いてしまった。意外と近かったか……少し、口惜しいけど、ここで君とはお別れだ」

「え? お兄さんも一緒に入るんじゃないのかい?」

「ここからは限られた者しか入れないようになっていてね。まさしく『罪なき者のみ通るがいい』と言ったところさ」

 

 男は肩を竦めると、一歩後ろに下がる。

 

「さぁ、合図は分かるだろう? あとはアラジン、君のタイミングで入るといい」

 

 そんなことを言われても、アラジンが知っていることなんて高が知れている。門扉を開くための呪文など、特段教わったこともない。

 うーん、うーんと頭を悩ませていると、不思議と一つの単語が浮かんできた。

 

「……開け、ゴマ!」

 

 その呪文と同時に開き始めた門扉。どうやら間違いではなかったらしい。

 ホッと胸を撫で下ろすと、アラジンは笑顔を浮かべて花のお兄さんへと振り返った。

 

「あれ?」

 

 だが、さっきまでいたはずの男の姿は既にない。最初からそこにいなかったように、塵一つ残さずに消え去っていた。

 

『お話ができて楽しかったよ、アラジン。今度は本物の楽園で会おう。

 それと、あの娘には——————……いや、これはやめておこう。僕はなんたって”人でなし”らしいから』

 

 それだけの言葉を残し、声は風とともに吹き消えた。

 アラジンはなんとなく男の言おうとしたことを察し、苦笑いを浮かべる。

 花のお兄さん——マーリンは泡沫の夢としてアラジンを導いたのであった。




思ったよりも、マーリンのやつ長いでしょ
私もそう思います
このSSにはグランドキャスター(資格持ち含め)が大量出演ですね!
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