マギのアラジンと雁夜おじさん行く聖杯戦争   作:ロマニ

22 / 24
コロナに罹っていた作者。
本当にお久しぶりです。l


第二十一夜

 雁夜の目から見ても、英霊たちの奮戦は旗色が悪かった。

 勿論、サーヴァントたちの攻撃が手緩いわけではない。セイバーの剣戟も、ライダーが駆る雷撃を孕んだ蹄の蹴りも、バーサーカーによる自爆特攻も、容赦無く肉塊を抉り割いてはいる。ただ、それが全ては悪あがきにしかなっていないのだ。破壊された部位から即座に再生を繰り返す。まさに無尽蔵と言っても差し支えのない生命力は、その場にいる全員を歯噛みさせるには十分だっただけの話である。

 あれを打破できるものがいるとすれば、それこそ超火力による一撃必殺。

 万物全てを引き裂き葬るだけの威力が必要である。

 雁夜の頭には、それに値するものが一つだけだがあった。目を覆いたくなるほどの光量を発し、神秘の薄れた現代において最高峰とも言える存在。アラジンが奥の手と称し、一度だけ見た数百もの蟲を、たったの一度で滅し尽くした攻撃。

 それがウーゴくんによる「灼熱の双掌(ハルハール・インフィガール)」だ。

 けれど、この場にアラジンはいない。考えるに値しない思考だと分かっていても、今この状況を見ているだけで、願わずにはいられなかった。

 

「アラジン……」

 

 ぼそり、と呟いて雁夜はかぶりを振った。

 こんなところで己が悩んでいても仕方がない。既に令呪は使い、バーサーカーにはできる限りの支援を送っている。武装もせず、ただ車を宝具へと昇華させ突撃するランスロットの攻撃方法は、本当に合理的だったのだ。雁夜の肉体を蝕まないという意味でも。

 

 そんな時、雁夜たちの遥か上空より光の礫が降り注いだ。

 それらは寸分違わず怪魔へと直撃し、たった四撃ではあるものの、巨獣の三割余りを粉微塵に吹き飛ばした。

 咄嗟に雁夜だけでなく、その場にいたアイリスフィールやウェイバーも上を見上げる。マスターらだけではない。休むこともなく攻撃を仕掛けていたセイバーとライダーもまた、上空で飛行する黄金の船に目を細めた。

 

「まさか、アーチャーか?」

 

 そう呟いたのはウェイバーだった。

 目視するのは初めてである。その姿は使い魔越しでしか見ておらず、また黄金により輝く面貌もうろ覚えではあった。

 しかし、かの輝きはこの聖杯戦争においてたった一人しか放つことを許されていない。言うなれば、至宝とも言える存在だ。勘付かぬ筈などいない。

 

「時臣……」

 

 雁夜もまた冷静に黄金の船を見上げていた。

 魔術師として生きる者が、この未曾有の大惨事を招こうとする存在を許すわけがない。そもそも、遠坂は魔術協会より冬木を任せられている、管理者(セカンドオーナー)だ。この事態を収束させなければいけないのは、誰であろう遠坂時臣自身である。キャスターの狼藉は、聖杯戦争の継続を危うくさせるだけでなく、彼個人の沽券までも完膚なく踏み躙るものだった。

 

「あれがアーチャーのサーヴァント……セイバーたちが苦戦している怪魔を、あんなにも容易く削るなんて」

「敵としては末恐ろしい奴だけど、アイツらもキャスター討伐に名乗りを上げてくれるんだ。今はこれ以上ないくらい心強い」

 

 アイリスフィールとウェイバーは各々の所感をそう漏らした。

 言っていることは間違いではない。あのアーチャーはアラジンやウーゴを、まるで赤子の手をひねるかの如く蹴散らしたサーヴァントだ。あれが仲間になってくれるなら、これ以上に心強いことはないだろう。

 けれど、雁夜個人としての意見は違った。

 ——気に食わない。

 アラジンをあんな目に遭わせておいて、のうのうと出てきた時臣が憎い。

 けれど、雁夜はその感情に蓋をした。遠赤時臣がどれだけ邪悪であろうと、今この場で助力してくれることは、有難いことに間違いはないからだ。

 それに、雁夜は既に時臣を一発、いいや、五発はぶん殴るつもりでいる。今日、時臣が出てきたことで、その殴り飛ばす回数が数発加算されただけだ。いつも優雅に立ち振る舞うあの男の顔に、青痣を作れると思うだけで心が踊る。雁夜は時臣の事になると、どうにも善良性を抜きにして、ボコボコにしたい欲求に駆られた。

 

「っておい! あいつら引き揚げようとしてるぞ!」

「何!?」

 

 ウェイバーの言葉に、雁夜も思わず輝船を再度見上げた。

 見れば、さっきよりも上空へと高度を上げている。それだけならば、さらに落下距離を増やすことで、地球の法則を利用しようとしているのかと思えるが、視力を強化すれば見えることがある。

 酒を嗜んでいるのだ、あの黄金のアーチャーは。

 度し難いことに、嗜虐に燃える瞳で醜悪な肉塊を眺めながら、上流貴族の如く見物を決め込んでいる。最早、憎悪という感情を通り越して、呆れさえしてしまう。いや、やはり憤怒の方が勝りそうだ。

 ぎちぎちと鳴らしながら拳を握り、雁夜は一際どす黒い声を漏らした。

 

「何を考えている……時臣ぃ!」

 

 そんなにも聖杯戦争で勝つことが大事なのか。ここであのアーチャーを御さなければ、聖杯を勝ち得たところで何も残らないというのに。

 やはり、雁夜にとって魔術師とは、理解の範疇に及ばない生物だと思わされた。まだここに集うアイリスフィールとウェイバーには好感を持てる。遠坂時臣のやり方には、それだけ血も涙も感じなかった。

 最早、半殺しでは生ぬるい。時臣には5分の4殺しくらいが丁度いい。

 雁夜は沸々と湧き上がる情動を堪えながらも、僅かばかりに残った理性で頭を冷やす。今考えるべきことは、時臣をどう殴り飛ばすかではない。アーチャーが傍観を決め込んだ以上、この戦いに発展は見られないことが決定した。

 

「なぁ、ウェイバーくんにアインツベルンのマスターさん。あんたたちにこの状況を打破できる切り札とかはないのか?」

 

 雁夜がそう問えば、二人とも心疚しそうに目を伏せた。

 

「ライダーは……アインツベルンなら知ってるけど、とっておきがある。けど、あの怪魔を殺し尽くせるほどじゃない……と思う」

「知ってるかもしれないけど、セイバーも同じよ。かの聖剣の本領を発揮させできれば……だけど、今のセイバーにはそれが出来ない」

 

 ウェイバーは奥の手が何かまでは教えてくれなかった。けれども、彼が希望的観測を述べている時点で、あの巨獣を蹴散らせる類のものじゃないのは分かる。精々、出来ても足止めといったところなのだろう。

 セイバーも同様。何かしらの事情を抱えているようだ。それはライダー陣営の前では言い辛いことのため、あえてぼかして雁夜に伝えた。

 

「くそっ、つまり手詰まりか」

 

 バーサーカーも性能自体は悪くないが、一撃必殺という火力では劣る。そもそも、雁夜の魔力リソースでは、ランスロットは全力を出すことなどできない。今も令呪で行動を制限しなければ、セイバーに飛びかかっても可笑しくない状態だ。

 この場において3人は無力であった。ただ自分たちが従える英霊に希望を託すしかない。じわじわと進行を続ける怪魔は、もう既に浅瀬まで進行している。

 あの巨獣が捕食を始めるまで、もう残り僅かだった。

 

 

 

 

 

 

 

 衛宮切嗣もまた、どうしようもない状況に立たされていた。

 キャスターのマスターと思わしきものを狙撃し、死亡したのを確認した後、ボートから河岸へと戻ったが何の策も思いつかない。

 この場にランサーが来ていれば、左手の傷を治癒できるよう、あらゆる手段を講じただろう。キャスター襲撃の際に傷ついた左手さえ使えれば、彼女の対城宝具で全てが解決していた。

 けれど、中途半端にケイネスを追い込んだため、ランサー陣営は姿を現さないでいる。ここ数日間、潜伏している場所を探っているが、全く動向が掴めていない状態だった。

 

「……まずいな」

 

 ひとまず、思いうつく策は全て試すべきだとは思っている。

 まず、バーサーカーに現代武器である火器を渡すことだろうか。あの自動車特攻を見る限り、何かしらの能力で神秘を帯びさせているのが分かる。かのサーヴァントに、自分たちの保有する武器弾薬を渡せば、それなりに有効打になるかもしれない。現在、舞弥にはその作戦の折を伝え、仮拠点から渡しても良い武器を選び、取ってくるよう命令はしてある。

 次に思いつくのが(トラップ)だった。ライダーの固有結界の出し入れを利用し、一気に嵌めることで超火力により吹き飛ばす。だが、その罠を仕掛けるだけの時間もなければ、その超火力に値する武器が手元にない。現実的ではない方策だ。

 

「せめて、奴らが参戦してくれると嬉しいんだが」

 

 切嗣が見上げたのは黄金の船。

 どういう了見か、最初の四撃以降、高度を上げたまま何もしてこない。最初の夜に見せたアサシンとの茶番劇。あの時はざっと数十の門が解放させていたはずだ。たった四撃がアーチャーの全力であるはずがない。

 もしかしたら、遠坂時臣というマスターは余程警戒心が強いのだろうか?

 いや、ただアーチャーとの関係が良好でないだけのような気もする。

 

「……」

 

 そこまで思考して、切嗣は無言のまま外套のポケットに手を入れた。

 握られる鋼鉄の凶器。グリップの握り心地を確かめるまでもなく、指を引き金に掛けたまま、切嗣は静止する。

 ゆったりとした動作で振り返れば、そこには今一番会いたくない人物が立っていた。

 

「言峰……綺礼」

「……」

 

 この夜。出会うはずのない二人は運命の邂逅を果たす。

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 門扉を潜ったアラジンを待ち受けていたのは、頭部だけのウーゴであった。

 穏やかな表情を浮かべる彼の頭を、左右からアラジンの見知らぬ生物が支えている。それだけではない、床にばら撒かれた本や宝石で遊んでいる個体も見受けられた。少し自分の知った「がんじょうな部屋」との違いに、アラジンは戸惑いを隠せないでいると、ウーゴがゆったりとした口調で語りかけてくる。

 

「久しぶりだね、アラジン」

「ウ〜〜〜〜……ゴくん……?」

 

 いまだに実感が湧かず、アラジンはそう問いかけてしまう。

 アーチャーの猛攻によって受けた傷は、それだけ惨たらしいものだった。体は肉片ひとつ残らず、どれだけ魔力を与えようとも笛にウーゴの気配は戻ってこなかった。

 だから、心のどこかでは本当にウーゴが死んでしまったかもしれないと思えた。

 和やかな面持ちで、ウーゴが肯定してくれる、この時までは。

 

「そうだよ。どうやら彼は此処に君をきちんと連れてきてくれたらしいね」

「花のお兄さんのこと?」

「ああ、アラジンにはそう名乗っていたのか。うん、その花のお兄さんのことだ」

 

 笑みを浮かべていたウーゴは、そう言って顔を曇らせる。

 

「それにしても、本当に危なかったんだよ? あんな無茶をして、もう少し遅ければ死んでしまうところだった」

 

 あんな無茶、というのが何を指しているのかはアラジンにも分かった。

 自分の体力など関係なしに、魔力をずっと笛に与えていたのだ。微かな記憶の中でも、己が生死の境を彷徨っていたのは覚えている。これまでも、ウーゴに力を吹き込んで倒れかけたことは、何度かあったのだから。

 

「覚えているかい、アラジン。君はかつて此処から旅立っていったね」

 

 懐かしむように、ウーゴは突き抜けた空を見上げた。

 天には直視できぬほどの輝きが渦巻いている。優しい、けれど厳かな光の大群。それが一本の帯となって円を形成している。あのアーチャーとの戦いで見た光帯と同じような形状だ。いや、あれ以上にこちらのほうが輝きが強い気がする。

 実際、生物があの光帯に安易に近づけば、その身は容易に焼き焦げてしまうのだろう。「潤沢」や「膨大」という言葉では片付けられないほど、ナニカが際限なく焚かれている。それほどまでに、あの光帯が孕んでいる熱量は凄まじい。

 

「君は俺の思い通り、世界を見て回った。その過程で沢山の人と出会い、多くのモノを見て、色々な事を感じた。俺が君に何も教えなかったのは、先入観なしで君に世界を知ってほしかったからだ。

 生命は生まれたら、あるがまま流れに生き、それを受け入れることで前へ前へと進むことができる。それこそが運命」

「運命……」

 

 ウーゴは一瞬だけ目に悲しみを灯す。

 

「あの英雄王は君を殺すつもりは無かったみたいだ。彼の執心は俺にあった。きっと、彼は俺に教えてくれたのかもしれない」

「何をだい?」

「さぁ……なんだろうね」

 

 誤魔化すように笑うウーゴだったが、その笑みはどこかすっきりとした爽やかさがある。つきものが落ちたとでも言えばいいのだろうか。彼らしいふんわりとした笑みが、アラジンにとってはとても懐かしかった。

 

「君は魔力をくれようとしたけど、僕は君と契約した精霊(ジン)じゃないから、主の写し身たる君の力でも、もう無理なんだ。もう君を守ってあげられない。

 だから、笛に残った本当に最後の力で、君をここへ呼んだんだ……大切なものを渡すために」

「僕に大切なモノを━━」

 

 ウーゴの言葉と連動してか、アラジンの体に光の粒が集まり始めた。それらはルフの大群。徐々に生命の鳥が群を成し、ひとつの球体としてアラジンをそっと包み込む。

 ふわりとアラジンの体が持ち上がれば、天に輝く光帯へと導くように羽ばたいた。

 

「もう大丈夫。世界を周り、多くの人と触れた君になら、あそこへ誘える。

 ここからは君がどうするかを決める旅路だ。ルフの導きを乗り越え、彼の意思を継ぐのでもない、アラジン……君が君であるための旅を始めよう!」

 

 朗らかに叫ぶウーゴに合わせ、頭部を支えていた不思議な生命体が触手を伸ばした。

 さらに上へ上へと持ち上げられる体。アラジンは意識がすぅーと遠のいていくのを感じながら、それでもウーゴの優しい声だけは耳に入り続けた。

 

「かつて魔術王は問われた。『人間に、生命に意味はあるのでしょうか』と。かの王はその問いにこう応えた。『我らは意味の為に生きるのではない。生きたことに意味を見出す為に生きるのだ』と。

 アラジン、君はずっと聞いていたね。自分が何者で、何の為に生まれてきたのかって」

 

 声が一度、そこで途切れる。

 

「——だから、俺は君にこう返そう! 精一杯生きた末に、それは見つかる筈だと!」

 

 上へ昇っていくアラジンを眺めながら、ウーゴの頬に一筋の涙が伝った。

 久しく流していなかったものだ。アラジンが目覚めてから、一度も流したことはなかった。なのに、今は自然と湧き出てくる。昔はよく流していたのに、今じゃ懐かしいくらい悲しい気持ちが胸を支配した。

 

「さよならアラジン、二度と君には会えない……」

 

 思い出してしまう記憶。どんな願いでも叶えると言った時、アラジンはウーゴに手を差し伸ばしこう言った。

 

『じゃあ、僕と友達になってよ!』

「っ!?」

 

 それは一生忘れることなど無いだろう。色褪せるなんてこと、絶対にありえない記憶。ウーゴにとって、これは何にも勝る大切な言葉だ。かつての友が初めて自分に投げかけてくれた宝物だ。

 ウーゴはその一瞬だけ、自分のやっていることを躊躇してしまう。

 だが。

 

「……いや、もう大丈夫。アラジンは外で仲間を、友達をあんなに作れるようになったんだ。一人になりたくないのは俺の我儘(エゴ)さ。本当は、もう…………俺がいなくても大丈夫!」

 

 ウーゴは目を伏せた。アラジンの旅立ちはこれで二度目。だが、今回は自分がついていくこともない。

 今生の別れとなることを惜しみつつ、それでもウーゴは悲しみを堪えて唱える。アラジンやその仲間たちに幸あれと、彼の行く末に幸多からんことを願いながら。

 

「開け————————ゴマッ!!」

 

 かつて王は人の人生観をこう語った。

『命とは終わるもの。生命とは苦しみを積み上げる巡礼だ。

 だが決して死と断絶の物語ではない。限られた生を持って死と断絶に立ち向かうもの。終わりを知りながら、別れと出会いを繰り返すもの。輝かしい、星の瞬きのような刹那の旅路。

 これを——愛と希望の物語という』

 だから、この別れは終わりではない。決して、悲しみや苦しみだけではない。人はそれを知りながらも、多くのものを得て成長して、やがて熟すのだから。

 

「聖宮よ、その偉大なる王、俺のかけがえのない友達(ソロモン)よ! あなたの子を再び地上に。そして、あなたの見てきたものを、知恵を、奇跡をどうか……この子に!」

 

 小宇宙の中より再び現れる大きな門扉。そこが開け放たれ、光に包まれたアラジンはそこへ吸い込まれていく。次第に体はゆっくり上ではなく横へ流れ始めれば、薄らとアラジンの意識が戻ってきた。

 ”ゆらゆらするなぁ……ここは、どこ?”

 次第に細められた目は開いていき、漂う自身の体を認識すれば、目の前に広がる大きな光に気がついた。

 

「これは!?」

 

 アラジンがそこで見たものとは、莫大な知識の渦——世界の真実の素粒子たち。

 さらには、遠い果ての旅路。誰かが通った道であり、誰かが記憶。

 全てを理解する。この長い旅を終えれば……。




かなり駆け足のような気もしますが、いや、これくらいのスピードが丁度いいか。
あまり二次創作でだらだらやるのも良くないですしおすし。

と言うことで、次回からやっとアラジンが復活しますぞ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。