マギのアラジンと雁夜おじさん行く聖杯戦争   作:ロマニ

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新年あけましておめでとうございます!!
今年中には完結するでしょうと期待を込めて、新年初の投稿をいたします!


第二十二夜

 衛宮切嗣と言峰綺礼の殺し合いはすぐに開始された。

 無駄な問答など挟む余地もない。およそ30メートルにも及んだ間隙は、言峰によってたった5歩で詰められる。雷鳴を轟かせたかのような踏み抜きの音。土は派手に抉れ、もはや人間業とは思えない突進スピードに、切嗣は息を飲む暇すら与えられない。

 当然、そうなってしまえば、懐で握っているキャレコ短機関銃を引き抜くことも不可能だ。ましてや、抜き撃ち(クイック・ドロウ)などしている余裕はない。猛然と振り抜かれる僧衣姿の勢いに、切嗣は思わず瞠目してしまう。

 

Time alter(固有時制御)——double accel!(二倍速)

 

 脊髄反射だけで呪文は紡がれた。

 間一髪、後方へと飛び退いた切嗣の鼻先を、轟然と振り抜かれた綺礼の拳が掠める。続けて下段から振り上げられる右脚も、切嗣の頭部をかりとるまでには至らなかった。流れるような拳法の蓮撃を、切嗣は己が倍速で動けるという情報を開示することによって、難を凌いだのである。

 

 そんな切嗣の今の内心は、焦りと恐怖に支配されていた。なぜ、この場に言峰綺礼が現れたのか、それが分からないのだ。河川で他マスターを暗殺して回っていることは、舞弥以外に誰も知らないはず。バレぬよう工作していたし、ましてや、自分の居場所を嗅ぎ取られるようなヘマはしていない自信がある。

 だが逆に言えば、切嗣の狩猟機械さながらな思考を読み解けば、彼の居場所など明らかになるのは必然だった。この場でどのように行動すれば勝利へ近づけるのか。衛宮切嗣の思考は徹頭徹尾それに費やされている。それ故に「あの冷徹な殺戮人形であれば、第三者のマスターを狙うだろう」。これはケイネスすら予想していたことである。衛宮切嗣を追い求めていた綺礼に予測できないはずも無い。

 あとは、ただの偶然だった。時臣の援護を建前に馳せ参じた綺礼だったが、その当人である師が早々に傍観に徹した。そうなれば必然、暇を持て余すことになる綺礼。どうせならばと、キャスターが召喚した怪魔を一眼見るため近づけば、ちょうど衛宮切嗣が河岸に上がるのが見えた。

 経緯だけを話せばその程度である。

 だから、これはただの運命の悪戯とも言える会合だった。

 

 けれど、思慮深い両者はこれが偶然だとは思っていない。切嗣は綺礼がわざわざ自分に会いにきたと思い、綺礼はわざわざ切嗣が己を警戒しにやってきたと思っている。ただ、偶然と偶然が重なり合っただけなのに、だ、それは当人たちによって必然へと昇華された。

 

 切嗣がキャレオ短機関銃を漸くの思いで引き抜けば、”揺れ戻し”のダメージも気にしないで、すかさず綺礼へと鉛玉を放つ。狙うは頭。ケブラー繊維と防護呪符を重ねた僧衣は、舞弥からの報告で弾丸が通らないことは知っている。

 綺礼も己の唯一狙われる場所を自覚しているため、頭を隠すように走って回避した。最悪、黒の僧衣で包まれた箇所は傷つかないと高を括っているからこそ出来る行動だ。切嗣が放つ銃火器が単発式ではないことからも、止まって防御するよりかは足を動かした方がいいと判断した。

 

”大木をたった三発で折った言峰綺礼の打撃は、まさに脅威だ。接近戦(インファイト)で戦うのは分が悪い。令呪をチラつかせながらの中距離射撃。あいつが業を煮やし、魔術を行使した瞬間に全てを終わらせる”

 

”機関銃は私の足を止めるためだろう。ならば、確実に仕留めるナニカの布石と見た方がいい。それが令呪であってもなくても、まずは腕を落とすのが最善手か”

 

 両者ともに、一秒にも満たぬ速さで次の手を模索し終えた。

 9mm弾を全て撃ち終えた切嗣は、令呪を一瞬だけちらつかせると、一瞬だけ身を引いた言峰に合わせてバックステップを挟む。

 この戦いは圧倒的に衛宮切嗣が優位に働くようにできている。サーヴァントを失った綺礼と、未だ最優と呼ばれるセイバーを使役する衛宮切嗣。彼がセイバーを招来することなどあり得ないながらも、それは綺礼が知りえない事実だ。

 故に、いつ令呪を発動されるか分からない。

 そんな不確定な要因を追加しただけで、この二人の決着は遠のいた。

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 左手さえ使えれば……。

 セイバーは歯噛みしながらも、今なお回復を続ける海魔を切り裂く。初めてキャスターと戦った時、セイバーはランサーの不意打ちにより、治癒できぬ傷を負わされていた。

 両手が万全に使えたならば、セイバーの誇る約束された勝利の剣(エクスカリバー)で一片の肉も残さずに焼き払える。

 脳裏にその考えがちらつくものの、それを言っても意味がない。この場に己に傷を負わせたランサーはいないし、そもそも不覚を取ったのは自分だ。キャスター討伐という非常時ではあるものの、己の失敗を悔いもせず、相手に改めさせるのは騎士道に反する行いだった。

 

「おぉい、セイバー! このままじゃ埒があかん! 一旦退け!」

「馬鹿を言うな! ここで食い止めなければ——」

「そうは言っても手詰まりであろうがッ! いいから退け、余に考えがある! 食い止めはバーサーカーだけでいい!」

 

 ランスロット一人置いていくのは申し訳ないが、是非もなかった。セイバーは最後に置き土産とばかりに渾身の一撃を叩きつけ、ライダーの後に続く。

 二体のサーヴァントが堤防にたどり着けば、それぞれのマスターたちが暗い顔で出迎えた。

 

「——はぁ、いいか皆の衆。この先どういう策を講じるにしろ、まずは時間稼ぎが必要だ。ひとまず余が『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)に奴を引き摺り込む。とはいえ余の精鋭たちがアレを殺し尽くすのは無理であろう。せいぜいが固有結界の中で足止めするのが関の山だ」

「その後は、どうするんだ」

 

 そう問う雁夜に、ライダーは、

 

「わからん」

 

 はっきりと即答した。

 急場凌ぎの時間稼ぎ。それがライダーの秘策でできることだった。

 ライダーは続けて、

 

「セイバー、後は頼むぞ」

 

 とだけ残し、海魔に再び吶喊する。ランスロットを巻き添えにした「王の軍勢」。令呪の効果も切れかけていたため、ライダーの判断は正しかった。標的である海魔だけを取り込めば、もしかしたらランスロットはセイバーに襲いかかるかもしれない。

 そうなれば最悪だ。もう誰もあのキャスターを止めるものがいなくなる。遥か上空で、文字通り高みの見物を決め込んでいるアーチャーを除けば、キャスターを屠れるものは誰もいないのだから。

 

「………………どうする?」

 

 その場で蟠る沈黙の重さに、まず耐えきれなくなったのはウェイバーだった。

 

「なぁ、間桐にアインツベルン。何か良い策はないのか?」

「バーサーカーは無理だ。あんな巨体を一撃で払うなんて、そもそも俺の体が持たない」

「そんなこと言われても——セイバー……」

 

 アイリスフィールは未だ沈鬱な表情のセイバーに問いかける。

 だが、セイバーの返答はとても苦々しいものだった。

 

「……我が聖剣を解放するには両手での振り抜きを必要とします。今のままでは」

 

 力を入れられない左手を見る。

 何が常勝の王だ。本当に必要な時、本当に勝たねばならぬ時、本当に救わねばならぬ時、セイバーはいつも無力だった。

 昨晩、ライダーに言われたことが、こんな時になって耳から離れない。

 ”貴様は生粋の王ではない。”

 ただの戯言だとセイバーも思っている。秩序なき治世を敷く王が理想であり、ライダーの宣言しているモノはただの暴君だ。正義もなければ、統制などあり得ない。王と共に滅びる儚いモノなど、あってはならぬのだ。

 けれど、それが間違っているのだと言わんばかりに突きつけられる。ランスロットの狂気が、イスカンダルの軍勢が。アルトリアの全てを否定する。

 誉高いアーサー王伝説の終幕は、親族と臣下の裏切りという悲劇によってもたらされる。ライダーがひけらかした「臣下との絆」を、ついに確固たる者にできなかったが故に、騎士王はその栄華を失うのだ。

 此度だって、同じことだ。ここで他のマスター達と膝を突き交わすだけで、何も解決する手立てが思い浮かばない。いや、思い浮かんでいてもそれを実行できない。守りたいと願い、奮い立っただけで、最早自分の無力を嘆かずにはいられなかった。

 もしも騎士王にイスカンダルのような求心力あったならば——。

 ライダーの言う正義の奴隷ではなく、誰もが恋焦がれる暴君であったならば——。

 こんな状況下でも……誰かが馳せ参じてくれたのだろうか……。ただ一個人の宝具(チカラ)ではなく、かの遠き理想の城を顕現できたのではないだろうか。ランスロット卿は狂わずに済んだのではないだろうか。

 

「頼みの綱はここにいるあんただけだ。なぁ、セイバーなんとかしてくれっ! この街には、アラジンも桜ちゃんもいるんだ!」

 

 バーサーカーのマスター……雁夜の嘆きにセイバーはハッとなった。

 アイリスフィールたちを見渡せば、みんなが助けを乞うように、セイバーの顔を窺っている。

 

「ねぇ、セイバー。もう貴方しかいないの。無理を言ってるのは承知だけど」

 

 そこでアイリスフィールの言葉が詰まった。誰よりもセイバーの現状を知っている彼女だからこそ、それ以上の無理は言えなかった。

 けれど、みなまで言わなくても理解できる。今は悩んでいる時ではない。ここでキャスターの暴挙を止めなくては、地獄がこの街に現れる。そうなれば幾万もの人が死に絶え、絶望がこの地に蔓延することだろう。

 それだけは絶対に阻止しなければならないことだ。

 

「……ええ、任せてください」

 

 迷いはある。

 ライダーから臣下の絆を見せつけられ、ランスロットから止めどない憎悪を向けられながらも、未だアルトリアは王であり続けていた。それはひとえに、純粋な少年からの激励があったからだ。

 

「10秒後にあの位置に出してください」

 

 セイバーはライダーのマスターにそれだけを告げると、水面の上を駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セイバーが決断したのと同時刻。

 それは冬木の上空にて姿が発見された。

 

「なんだろう……あれ?」

「……鳥?」

「どこかへと飛んでる……」

 

 一羽の巨鳥。

 光の群衆によって作られたそれは、真っ直ぐ真っ直ぐと、未遠川へ羽ばたていく。

 鳥のような物体の先頭には、青髪の少年が愛用の杖を持って佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウェイバーに指示した位置を正面に、セイバーは聖剣を持って待ち構えた。

 己の全魔力を打ち出す約束された勝利の剣は、彼女の両手での振り抜きが必須となる。

 ならば、セイバーが取れる攻撃手段は必然と一つに絞られた。

 

「——風王(ストライク)

 

 セイバーが剣を振り上げるのと同時、まるで待ち構えていたかのように河上の大気が震撼した。英霊達の想念によって侵食されていた空間が、元のあるべき姿を取り戻す。まずは蜃気楼のように異形の影が夜空を覆い、そして忽ちのうちに実体を取り戻して、おぞましい巨体を水面に落下させた。

 狙ったポイントはセイバーが指示した場所の真下。

 巨大質量の着水が生んだ猛烈な水飛沫が、津波のように河岸に襲いかかるも、目の前で対峙していたセイバーにだけは一滴も浴びない。

 迸る魔力と逆巻く風が、水の壁を押しのけたのだ。

 

鉄槌(エア)ッ!!!」

 

 怪魔の再出現に合わせ、セイバーは超高圧縮の気圧の束を解き放った。

 ただ一撃にして必殺の秘剣。敵に向けて撃ち放てば群を吹き飛ばす豪風の破砕搥となる。

 セイバーの狙いは極々単純なものだ。全てを薙ぎ払える力がないのであれば、あれを絶え間なく召喚し続けるキャスターを討ち取ってしまえばいい。自足をしていない海魔であれば、キャスターからの供給を止めれば、消滅する。ないしは強固な再生力を失う。そう踏んでのことだった。

 セイバーの狙い通り、個体も同然に凝縮された超高圧の疾風は、巨獣の肉塊を粉砕し、中にいるであろうキャスターを貫かんと道を開く。気圧が吹き抜けたその瞬間、怪魔の完全な穴が貫通していた。

 

 しかし——、

 

「外しおったか、馬鹿者!」

「っ!?」

 

 貫通した穴にキャスターの姿はない。代わりにあの狂った笑い声が、どこからともなく聞こえてくる。

 失敗したのだ、とその場にいる誰もが悟った。

 悔恨の念を表情に灯らせたのはセイバーだけでなく、ライダーもまた恨めしそうにキャスターの海魔を見る。もはや、固有結界で奴を足止めすることも、今のライダーには叶わなかった。

 

「まだだ、もう一度だっ!」

 

 セイバーは抜き身になった宝具を振り上げた。

 不可能と分かっていても、やることは変わらないし、変えられない。どれだけ絶望的な状況が続こうと、剣を振り上げることさえやめてしまえば、全てが終わってしまう。

 ライダーもそれは分かっているため、果てがないと分かっていても追撃はやめなかった。

 また、それに付随して見守るマスターらも祈るしかできなかった。

 

 ライダーによって位置をずらされた巨獣は、再び浅瀬に向かって進行を始める。それをセイバーの剣戟と、ライダーの戦車が阻むように攻撃を再開した。再出現する前に自動車での特攻を仕掛けていたランスロットの姿はどこにも見えない。どうやら令呪による強制力が完全に切れてしまったため、セイバーを見ないよう姿を隠しているみたいだ。

 単純に考えて戦力が3分の2になった状況。ライダーが固有結界に引き摺り込む前よりも悪くなっている。

 それを頭で理解しながらも、英雄達は己のやるべきことを、ただひたすらに続けるしかできなかった。

 

 

 そんな時だ。

 

 

「本当、すごい人たちだね。どれだけ絶望的でもあきらめない。そんな人達だからこそ、僕はこうやって手を伸ばしたくなるんだろうね」

 

 

 ——かの少年が現れたのは。

 

 

「ねぇ、すてきな王様のおねえさん! また会えて嬉しいよ!」

「フォウ!」

 

 白い獣を肩に乗せ、底抜けの明るさで放たれる無垢な笑み。

 夜空の下。映えた青髪はアラジンの神秘さをより一層に引き立てているようであった。

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