マギのアラジンと雁夜おじさん行く聖杯戦争   作:ロマニ

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投稿を見返すと、去年の初めに投稿して去年中に完結を頑張るとかほざいているようです。
ダメですねー、全然進めていなかったです!笑

と言うことで、まぁ皆さんお久しぶり。
覚えてらっしゃいますかね?


第二十三夜

「えっと、リスさんでいいのかな?それとも猫くんかい? とにかく、危ないから僕のターバンに隠れているんだよ」

「フォウ!」

 

 青髪が特徴的な少年――アラジンは、水面ぎりぎりの位置に滞空させたターバンの上で、白い獣を隠した。

 何を考えているのか、というのは此の場にいる誰も分からない。河岸にいた雁夜は今にも泣き出してしまいそうな表情でアラジンを見つめているし、彼が倒れている時、その容態を確認したウェイバーに至っては、ありえないものを見たという顔をしていた。

 生命力と言っても差し支えのない魔力を、昨夜時点までアラジンは欠乏していたはずなのだ。

 今この場に立っていることが根本的に可笑しな現象であるし、例えそれを棚に置いたとして、やはりこの狂乱の宴が催されている場に少年単騎で来ることは理解し難いことである。

 ようやくまともな思考回路を得た雁夜は、アラジンに対して叫ぶ。

 

「アラジン……アラジン、アラジン! お前、目が覚めて……!」

「やぁ、雁夜おじさん。心配をかけてごめんね」

 

 そう言ったアラジンは海魔ではなく雁夜を見て、くすりと優しい笑みを浮かべる。

 その笑みは彼が死の淵を彷徨う前と何ら変わらない屈託のないものだった。

 雁夜は思わずアラジンの笑顔を見たせいで、自然と膝から崩れてしまった。さっきまで張り詰めていた緊張感が一気に体から抜け落ち、まるで糸の切れた人形のように脱力をしてしまう。はらりと垂れる髪をかきあげることもなく、雁夜は目尻に雫を溜めて、されど子供のような泣き声は出して堪るもんかと息を飲み込んだ。

 

「っ、お前は――本当に……心配かけやがってっ」

「うん……桜さんにもたくさん心配をかけてしまったようだね」

「あぁ、桜ちゃんには後で謝ろう……俺も、あの子には心配をかけ過ぎた……」

 

 雁夜は頭をニ、三度振り、また立ち上がる。

 そんなバーサーカーのマスターがとった魔術師らしからぬ情に、アイリスフィールもウェイバーも戸惑いを見せずにはいられなかった。正確には、ウェイバーだけは、やはりと確信めいたものがあるらしい。

 薄々勘付いてはいたのもある。間桐雁夜は魔術師であって、魔術師らしくないと。されど現状はどうでもいいことだ。今だけは、そんな瑣末なこと気にする事項ではない。

 いち早くウェイバーが、アラジンの駆けつけた事による戦局の変化を捉えた。

 

「そうだ、あんた! あの精霊を頼む! あの化け物は一撃で倒さないと、どんどん回復するんだ! 今はライダーとセイバーでなんとか押し込もうとしているが、焼け石に水としか言えない!」

「……ウーゴくんのことかい?」

「よく言った、坊主! 童! 今はちと混乱を極める状況でな、少しでも戦力が欲しい!」

 

 続けてライダーの言葉に、アラジンは首に下げられていた金笛を握った。

 

「ウェイバーお兄さんに、ライダーおじさん。ごめんよ……ウーゴくんはね、もういないんだ」

「え?」「なぬ?」

 

 アラジンは穏やかな表情のまま、がんじょうな部屋で最後に見た友の顔を思い出す。

 

 ――『だから、俺は君にこう返そう! 精一杯生きた末に、それは見つかる筈だと!』

 

 泣きそうでありながら、必死に笑みを絶やさないように努める青い顔。

 決して忘れてはいけない。忘れられることはない最期の光景。あの告別の瞬間だけは、どれだけの時が経とうと時折夢に見ることだろう。

 しかし、アラジンに悲観はない。

 

「――でもね、大丈夫。ウーゴくんがすべて消えたわけじゃない」

 

 その小さな呟きと共に、生命の鳥(ルフ)がアラジンに集まり始める。

 近くにいたセイバーはあまりの魔力密度に瞠目し、空中で戦車を駆らせていたライダーは「なるほど」と笑みを深めた。

 アラジンの額にともる八芒星の光。それは光を齎す希望か、はたまた闇を引き摺り降ろす厄災か。ルフの群衆はいずれ大群となり、さらに集まって光の雨となる。海魔によって生み出された濃霧の中に咲く黄金の華。

 最後にアラジンの動向を見守っていた黄金の弓兵が、破裂した風船のように上空で笑いを弾けさせた。

 

「すてきな王様のおねえさん。力を貸してくれないかい?」

「っ、私……ですか」

「うん。僕の魔法は未完成でね、おねえさんじゃないと、多分みんなを救えない」

 

 アラジンがターバンの上から、セイバーに微笑みかければ、彼女は思い悩むように視線を伏せて返した。

 

「残念ながら、少年――私では、あの海魔を倒すことはできません」

「どうしてだい? おねえさんなら出来るはずさ」

「私などではっ!」

 

 そこから先の言葉を紡ぐのは、最後の理性でなんとか食い止められた。

 しかし、セイバーは弱音を吐こうとした事実は変わらない。しかも、なんの関係もない少年に向かって、罵声のごとく叫ぼうとした。

 聖杯戦争が始まってから、いいや違う、狂ったランスロットと対峙した時から、少女は折れかけてたのかもしれない。倒れかけの母体屋根に、なんとか取り繕い程度の修繕を施しただけなのかもしれない。

 

 今この現状も、そしてブリテンのあの結末も、セイバーには耐え難いものだった。

 誰もが正しくあろうとしたが故の悲劇。そう思えばこそ、彼女は最後まで正しく在ろうと思えたし、王として胸を張って戦えていた。

 

 けれど、どうだ。何か変われたか?

 

 常勝の王と謳われておきながら、いと尊き誉ある騎士の王と持て囃されながら、彼女は何も変えられなかった。何も救えなかった。

 正しい道を貫いて、正しい結末に至らぬと悲観していた彼女は、最期の最期で気がついてしまったのだ。

 

 少女の理想はすでに破綻していた。

  ――なぜなら自分の齎した結果に誰もが憎悪を抱いたから。

 少女は己の在り方を疑った。

  ――なぜなら自身より眩い王の在り方を見せつけられたから。

 少女は希望に打ち砕かれようとしていた。

  ――なぜなら周りに期待され羨望されようと、己では何も変えられないと思ってしまったから。

 

 迷いは不安へと変わり、不安はやがて絶望へと変貌してみせた。聖杯に望むはずだった願いが変質するには、あまりある経緯だった。セイバーは自身の王としての素質に裏切られ、何より自身でそれを裏切った。

 

(私は皆が思う王などではない……私は、私は――!)

 

 私では何も変えられないと、私では何もできないと。

 だから、アラジンが来た時。少女は無意識に思ってしまったのだ。

 ああ、これで、私はお役御免だ……と。私ではない誰かこそが、皆を救う別の結末にたどり着くはずだ……と。

 その時、セイバーの心は地面へと落下を始めたのかもしれない。

 

 けれど、そんなセイバーを見てもなお、アラジンは頭を横に振る。

 

「ううん、そんなことないよ。おねえさんは素敵な王様だったはずさ。僕なんかじゃ、きっとその在り方に言葉じゃ言い表せないほど眩いものだったはずさ」

「……いいえ、そんなことこそありません。私は間違いの多い王でした。そして、罪深い暗君でもあります。……私は民を救うばかりで、導くことはしなかった。こんな私では何も変えられない、何も救われない!」

 

 セイバーはもう可能であるなら、この聖剣すら手放す覚悟でいる。

 王の選定自体が間違いだったのだと思い返す彼女に、今のアラジンがどれだけ弁を尽くそうと何ら響くことはないのだろう。

 そう理解したからこそ――アラジンは無理やり続けることにした。

 

「きっと、おねえさんは道に迷っているだけなんだよ。だから何もかも、ダメに思えてくる。

 でもね、僕は知っているよ。おねえさんの国には、たくさんの希望の力が残っていたことを。前に進み、運命を乗り越えようとする正しい力があったことを。おねえさんたちが火を付けたんだろ? みんなの希望の心に」

「何を――言って」

「だから、僕は彼らに頼まれたのかもしれない」

「彼ら……?」

「うん。僕ががんじょうな部屋から帰ってくる時、多くの人が僕にお願い事をしてきた」

 

 アラジンはそう言って、お気にいりの杖を天へと掲げる。

 すると光の群衆は巨鳥へと至り、上空へと咲いたように両翼を広げた。赫灼(かくしゃく)の海が宙へと広がり、まるでそこから人型が形成され次々に群れを成していく。

 戦車で駆けていたライダーも、海魔の肉塊に埋もれるキャスターも、黄金の船を浮かせるアーチャーも、

 何より雁夜とのパスを通じ状況を整理しようとしてランスロットも、

 英霊が皆アラジンの起こした光景に見惚れる。

 

「おねえさんだけじゃない。君にも、ライダーおじさんにも、そしてアーチャーさんにも、みんなに会ってほしい人たちがいる」

 

 そしてライダー、アーチャーに杖を向ければ、両手を広げ大きく呪文を紡ぐ――

 

「――――ソロモンの知恵!」

 

 ――奇跡の呪文を。

 

 

 

 §

 

 

 

 眩い光景だった。弁舌し難い光景でもあった。

 光の虹が架けられたように煌めくと、そこから数多のルフが飛び出し、それぞれの英霊、それぞれの人間の元へと馳せ参じていく。

 ありえない。どうしようもなくあり得てはならない光景。

 ライダーの前にはかつての師や部下、ともに戦で身を削りあった戦友が現れる。

 アーチャーの前には酷く懐かしい神官と、唯一の友と誓った人形の姿が現れる。

 キャスターの前には今も慈しみと憐憫を向ける聖女の姿が現れていた。

 

 そして、自身を王として相応しくないと感じ、心の折れかけていた彼女の前には、幾千幾万もの民が集い、何より、彼らに憎悪を向けられていると思っていたはずの騎士らが優しく少女を取り巻くように立っている。

 

「これは……!」

「みんなに来てもらったのさ。この聖杯戦争を円満に終わらせるためにね」

「ベディヴィエール卿……ガレス卿……パーシヴァル卿にガウェイン卿……それにあなた方はトリスタン卿に、ケイ、兄さんまで……」

 

 光の人型は、誰も彼もがセイバーを見つめていた。

 後ろに集った民たちは一様に声が発せられていないながらも、彼女にとって理解できない言葉を吐いているように見える。

「ありがとう」と――「我らが王」と――。

 誰にも望まれていないと思っていたのに。

 かつての友にすら恨まれ、憎まれていた自分に、みんな心の奥底では良いしれぬ憤怒を抱えているのだと、そう思い込んでいたのに。

 それなのに、自身の国を滅ぼしておきながら、それでもなお、ここに集った多くの者がセイバーを王として尊敬し、何より愛しているのが伝わってくる。

 

 ケイネスとゾォルケンは言った……ルフとは生命の鳥、魂の最小単位と。

 なればこそ、このルフによって象られた彼らに嘘偽りはない。体という外殻に守られちない心は、純真というにはあまりにも剥き出しであるものの、時としてそれは百薬の長にも勝る神秘となる。

 

「みんな、おねえさんの事が好きって僕にも痛いほど伝わってくるね……これでも、君は自分をダメな王様だって言うのかい?」

「……私は」

「ううん。答えはいらないよ。その代わり彼らに見せてやってよ。おねえさんがすてきな王様だってこと!」

 

 その言葉を皮切りに、セイバーは決して他人に見せることのなかた涙を、一筋、たった一筋ではあるものの静かに流した。

 どれだけ後悔していたことか。

 どれだけ自身を責めたことか。

 皆の期待を袖にし、我らが国を滅ぼしてしまったその重積に苦しめられ続けた少女は、初めてこの時、誰からでもない、自分のことを心から許せるような気がした。

 

「っ、そう、ですね……王として、私にはやらなければならない事があるようです」

 

 円卓の騎士を象っているルフが、セイバーの左手に凝縮を始めた。

 皆がまるでセイバーの振るえなくなった片腕を補うように、そっとその腕に手を重ねるように。

 

「あとはお願い。僕じゃキャスターさんを倒せない」

 

 セイバーはアラジンに無言の一瞥をくれると、溢れかけていた黄金の剣を再び握り直す。

 憂はない。

 今は逆に晴れやかな気持ちすらある。

 だがそんな希望に満ちたセイバーの心を曇らすように、悍ましい呪詛の咆哮が夜気を震撼させて轟き渡る。アラジンの発動したソロモンの知恵に例外はない。肉塊の内側に籠っているキャスターにさえ、彼の前には今も慈しみと憐憫を向ける聖女が現れていた。

 奇跡と呼ぶに足る光景を前に、今も錯乱を続けるキャスターに、セイバーは介錯人のような心情と、一国を背負う王としての誇りを胸に剣を振り上げる。

 

(ありがとう、アラジン……私はブリテン王アルトリア・ペンドラゴン。その理想を思い直させてくれました)

 

(間違えていなかった……例え、国としての最期は正しくなくとも、彼らは彼らの思う最期に満ち足りている)

 

(結局は私のエゴだったのか、それは分からない。でも、今だけは……彼らと剣を握るこの瞬間だけは、とても心地よく感じるのです)

 

 機は、満ちたり。

 

 柄を握りしめる右腕に渾身の力を込めれば、添えるだけであった左腕に魔力が吹き荒ぶ。

 光が集う。まるでその聖剣を照らし飾ることこそ至上の勤めであるかのように、輝きはさらなる輝きを呼び集め、眩く束ね上げていく。

 かつて夜よりも昏き乱世の闇を、祓い照らした一騎の勇姿を――今ここに、解放する。

 

約束された(エクス)――勝利の剣(カリバー)!!!!」

 

 光が走る。

 光が吼える。

 幾千幾万も集った民が放つ幻の歓声とともに。かつて共に剣を振い久遠の時を過ごした騎士らの思いを胸に。

 河川の水を瞬く間に蒸発させながら、濃霧を切り裂く閃光が分子単位で肉塊を焼きつくしていく。絶叫を放つ海魔に誰も同情は向けず、ただただその美しさに目を奪われて心を躍らせるのであった。

 

 

 

 

 §

 

 

 

 

 黄金の船の上。

 熟した果実を食らうような目で、アラジンとセイバーを見下ろし、バビロニアの王は頬杖をついていた。

 

「見ろ、あれが魔術王が残したかった落胤のようだ」

『……』

 

 決して、ともに乗船している己のマスターに声をかけたわけではない――そうであったとしても、今の時臣に言葉を投げかけたところで、まともな返事など期待できないであろうが――隣にいる懐かしの朋の幻影を一瞥することもなく、アーチャーは笑っているようだった。

 普段の邪な笑みではなく、純粋な、そう道端で出会った子供に投げかけるような、純朴に等しい笑み。

 赤く染まった瞳は、今もなおこの奇跡を齎したアラジンを捉えているものの、心は自然と人形を模った生命の集合体へと向いている。

 

「ふはは、とんだ酔狂よの。魔術王は我以上に不遜であり、誰よりも聡い逸脱者だったという事だ」

『……』

「だが、生まれもしがらみも関係ない。ただ己の思うまま行動した結果というのは、俺やお前と一緒らしい」

 

 アーチャーはそう言って立ち上がる。

 

「感謝するぞ、アラジン。瞬きの会合であったが、存外悪い未来(もの)ではなかった」

 

 それは心の底からの言葉だったのか。

 人形の形をした生命の群衆と、かつての神官を模したそれは、跡形もなく消え去り、また光の渦へと還っていくのであった。


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