異能バトルモノのお師匠様   作:ダウナー系お姉さん大好きマン

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初投稿です。


第一話

余りにも、昏い。

激しく、美しく、昏い夜だった。

多くの視線が、闇夜に吸い込まれていく。

様々な思惑が交差し、ただ下劣な視線すら、溶けて夜に消えた。

私が舞台に上がり、被されたずた袋を外されたその時だった。

その会場は、パニックに陥る。

ただその中で咲く一つの花弁()

渦が生まれ、それに巻き込まれていく。

それが、『何』であっても。

能力者、非能力者、改造者(アンドロイド)…そして、人間、非人間、構わずに。

それを形容するのであれば、闇の中でワルツを踊っている。

長いようで短いのか、短いようで長いのか分からない。

ただその時の私は、それを綺麗だと、思った。

円舞曲が終わったかのように呆気ない終わりを迎え…残ったのは、泣き別れを疾うに済ませた頭部だけ。

私は、この齎された静寂をただ眺めていた。

結局、咲き乱れた鮮血の花弁を目撃し生きて帰ったのは当時少女だった私だけだった。

ギルドも、裏組織も犯人を探しているが、未だに見つからない。

あの事件から10年が過ぎ、私も成人を迎えた。

だからこそ、目指すのだ。

あの、昏い夜を。

昏い夜の、美しく舞っていた、あの人を。

 

「という訳なのですが…」

 

「ええ、経歴は分かりましたが、なぜ私の所へ?」

 

「貴女だからですよ。昏い夜の花(デス・ブロッサム)、さん?」

 

バレてる。

 

 

 

 

 

第1話 『不死(アン・デッド)

 

 

 

 

 

 

私は暗殺業を営んでいただけの一般人。

名はメイデ、姓はない。

別段特別な名ではない筈だ、違和感は限りなくゼロだ。

昔はいい腕の暗殺者として活躍していたが、今はもう引退して旅商人をしている。

昔は浅慮が過ぎて、やんちゃも多々あったが、今はとなっては落ち着いた。

若い時の馬鹿の1つとしては、賞金首が観に集まったサーカスを、一網打尽にしたいからって突っ込んで全滅させたり、とか。

そのサーカスは、やはり賞金首やら狂った金持ちが集まる物であるが為に、とんでもない物だった。

年端もいかない少年少女を舞台上で物理的にも性的にもいじめ、最終的には全て血袋となる。

思わず私も胸糞悪くなってしまい、やり過ぎ(全滅)てしまった。

その時に唯一の目撃者、及び被害者を哀れんで…といったところだ。

いやまさか自分の偽善のお陰で、そんなことになるとは思ってもいなかった。

今の私はただの旅商人だ、闇稼業からは足を洗っている。

昔の異名を呼ばれる事なんて、もう無いと思っていた。

私の行き先を塞いでいる眼を輝かせた少女さえ居なければ。

突然に荷車を止められ、身の上を語り始めたと思ったら私の異名を呼んだ。

あんな小っ恥ずかしい名を自分で広めてた私もうほんとやだ。

とにかく、あの喧騒の毎日には戻る腹積もりは無い。

 

「…昔の殺人鬼の名を何故私に?」

 

「いいえ、貴方こそが昏い夜の花(デス・ブロッサム)で間違いありません。」

 

なんだこの子。

いくらなんでも人違いだとかそういう疑いを持つべきではないか?

私の容姿もクライアントが裏切っていなければそこまで知れ渡って居ないはずだし、なんなら任務中に顔を晒したことは無い。

しかも、私を騙る偽物が調子に乗って捕まり、処刑されている。

それによって死んだ扱いにされていて、世紀の殺人鬼として結構前に話題になっていた。

今から確か3年前の事だから、昏い夜の花(デス・ブロッサム)は死んでいることが一般常識の筈だ。

 

「根拠は何です?まさか顔だ、なんて言いませんよね?」

 

「雰囲気ですよ。明らかに昔、感じ取った…ッ!」

 

斬りかかる。

マントに隠した獲物を抜いて、首元を一閃。

この子には悪いが、どうしようも無かった。

暗殺者や裏の人間は基本、雰囲気等、特定の人物を感覚で紐付けする事が多い。

裏切りやすり変わりを防ぐために。

当時五歳の子がこんな事を出来るとは思えないが、元は私の不手際だ。

殺すべきだった物をあるがままにしただけだ。

 

「せめて、安らかに…」

 

しかし私に関わった為に、こんな事になってしまうとは。

来世はもっと幸福に生きてほしい物だ。

この町からはとっとと移動してしまおう。

その前に事後処理をしておく。

鑑識魔術で姿を追えないように、フードの中に隠した魔避けの仮面をずらして顔に付けた。

荷車の中にあった死体処理用の粉を振りかける。

すると、血液が凝固して処理し易くなる。

…ハズだった。

降り掛かった魔法の粉は、血液と混じるのを、拒否した。

明らかな異常事態。

それに、私の身体はもう反応している。

いま一度刀を抜き放ち、死体の心臓を穿とうとするも、避けられた。

勢い良く後方に飛び退いたその身体の頭部は、無い。

それが証明しているのは…

 

「死霊術、もしくはタレントかねぇ。」

 

「はい。私自身のタレントですよ。その名は、『不死(アン・デッド)』。単純でわかり易いでしょう?」

 

「違いないね」

 

足元に転がっていた頭部がそう囁く。

煩わしい、踏み潰す。

脳漿が弾け飛び、凄惨な光景が作られるが知った事はない、意味はないのだから。

弾け飛んだ血も、脳漿も、断面図から溢れていた脂肪も、全部が「元」に戻っていく。

血液のカーテンを作って、姿を隠す。

そして、あいも変わらず、眼を妖しく輝かしている彼女が、現れた。

 

「どうです?幻想的でしょう?」

 

「ああ、その通りだ……本当にな。」

 

「私のゼンブを見せたんです。貴方の弟子にして下さい。」

 

やはりそうきたか。

この手の人間は実に多いのだ、悲しい事に。

内心で一人納得するが、無理だ。

タレント持ちだなんて政務官に即バレる。

商業なんてマトモに出来なくなる事間違いなしだ。

最悪アイツに頼る事も視野に入れないといけない。

それ含めてお断りだ。

 

「…断るって感じの表情ですね…ではこうしましょう。貴方の事を政務官に報告しましょう。」

 

「…それが出来るとは思わんが」

 

「私のタレントがバレてしまうと言いたいのですか?…私は国家認可の国民ですよ」

 

「是非弟子になってください」

 

「!?」

 

圧倒的土下座。

圧倒的土下座である。

分からない人の為の説明だが、土下座とは極東の国に置いて最上級の謝罪であり、懇願でもある。

何故急に弟子入りを認めるかというと、国家認可とは、それだけで身分が貰えるのだ。

身分が、貰えるのだ!

国家が認可しているタレント持ちの師匠など、身分をあげない理由はない!

それさえあれば平穏な暮らしが確約される。

かれこれずっっと続いている野宿と、おさらばできるのだ!

もう二日も水浴び出来ていない。

この国めちゃくちゃ暑いのに!

 

「…と、とにかく、これからお願いします、昏い夜の花(デス・ブロッサム)さん?」

 

「いいえ、こちらこそありがとう。あと、人払いの陣を張ってるからいいけど、人前でその名を呼ばないでね?」

 

「あ、はい…」

 

「…メイデ、姓はないよ。」

 

「…!はい!私はエイル・フォーナです!」

 

「よろしくね、エイル。…まずはこの町から出よう。私達のホームグラウンドへ行くよ。荷車に乗って。」

 

「はい!お願いしますお師匠様!」

 

初めて弟子を取るが…悪くない。

エイルが荷車に乗り込むのを確認して、運転席に座った。

 

 

 

 

 

 

 


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