TS転生してVtuber 作:よろぺこ
徐に流れてきた記憶は、とあるVtuberの配信だった。
それが私の、いや俺の最期の記憶だと気づいたのは三日後の夕暮れだった。
窓から見える橙色の空と家族の涙。その時から始まったんだ、今世の人生が。
────
あれから長い月日が経った。
幼い頃に前世の記憶が雪崩れ込み、それにより生死の境を彷徨ったのはもう遠い過去のお話だ。
「──灰原鶇美」
「はい」
司会に名前を呼ばれ、壇上に上がる。
「君がいないと寂しくなりますね」
そういう学長にまるで合わせたかのように、生徒たちの啜り泣く声が聞こえてきた。釣られて俺も涙目になってしまう。
「はい、オレもです」
「偶には顔を見せにきてくださいね。卒業、おめでとう」
ふわふわと現実味のない身軽さを感じながら、俺は壇上を下りていった。
約十八年。それが、あの時から経った時間だった。その間本当に、本当に色々なことがあった。
筆舌にし難い経験の濁流。前世とは似ても似つかないくらいアクティブになった俺には毎日が早送りのように過ぎていった。けれど、それが楽しかった。
走馬灯なんて冗談じゃないけれど、先程から卒業式という一つの区切りのせいか印象的な出来事がフラッシュバックしている。
……やば、本当に涙が止まらなくなりそう。
でもまあ、今日はそういう日だしいっかな。
俺は卒業式の残りの時間を、静かに泣きながら過ごした。
卒業式の二次会が終わり、惜しまれつつも部屋に帰ると時計は午前零時を回っていた。久しぶりに酔っぱらってしまった。
「ふぃー……」
卒業式とはまた違った浮遊感。心地よさを感じている内に寝てしまおう。だって明日は大事な日だからな。
……そう、明日は大事な日なんだ。
「フハッ」
やっべ。思い出したら興興奮が止まらないや……!
……叫ぶか? 叫んで体の熱を放出するか!?
でもい、いいのか?
……いや、いいのか、じゃない。
「……叫ぶんだ」
YouTubeを開く! リアルタイムで配信しているホロメンを三画面モニターで限界まで複窓する! 防音室の扉ヨシ! いくぜ!
叫べ!
雄叫べ!
カスカベ野生王国!
「うおおおおおおおおお!!!! 待ってろよ!!!! ホロライブよおおおおおおお!!!! オレはホロメンになるんだぜええええ!!!!」
今世には一つ目標があった。それは前世では叶わなかったVtuberになることである。あわよくばホロライブみたいな凄い事務所に入れたらいいなと思い続けていた。あった。入れた。
こんなん叫ばねぇ方がおかしいぺこだよ!!
ツグミンゲリオン初号期、発進!
「ウオオオオオオオ!!!! ホロライブはとまらねぇんだよおおおおおおおお!!!!」
「予定が午後でよかった……」
結局朝方まで叫んでしまい酷い寝不足な俺。
「馬鹿かオレは……」
でも時間には間に合ったからよかった。あと強靭な喉で助かった。配信者は喉が命だからな。
「……」
そんな訳で目の前に建つビル。この中には俺の前世からの憧れホロライブがあり、そして俺がこれから所属する事務所である。
俺がこれまで頑張ってきたものは全てここに入る為といっても過言ではない。
俺は、やり切ったのだろうか。
もう休んでもいいのだろうか。
「親父ぃぃいい!!!」
「うひゃ!?」
ダニィ!?
バッと背後に振り返るとそこには乳のデカいお姉さんがいた。そこまで驚くか、と言いたくなる程の形相であった──。
後に分かったことだが、このお姉さんは俺と同じ用事でカバー社に来ていたのだ。つまりは俺と同期である。そして、雪花ラミィとの初対面だった訳だ。
しかもこの日のことが原因で、ラミィは俺に遠慮することがなかった。それ自体は全く問題がないどころか嬉しいことなのだが、お姉さんという立ち位置に落ち着いて未だにママ呼びを許してくれないのは、非常に納得がいかない。
「──そう思うだろ、お前ら」
ホロメン初対面トークの中でも随一のヤバさ
その後で普通に仲良くなるのコミュ強過ぎやろ……
今に始まったことじゃないけど師匠色んな意味でヤバくね?
引きながらのラミィに言葉で刺されるところまで含めて草しか生えない
ラミィがキャロルの姉はしっくりしすぎる
「でもアニオタなら一度くらいは智也と親父の真似するだろ? オレはその一度が偶々それだっただけだ」
百歩譲って真似するとしても外はおかしいやろ、しかもカバー社の前って
いきなり叫ばれたラミィママには同情するで
ラミィ、ししろん、師匠、ポルカ、ねねの並びには安定感しかない
ラミィ、ししろん、師匠、ポルカ、ねねの並びには安定感しかない
めっちゃ美人らしい師匠がアニオタとか正直希望を感じます
好き勝手ばっかなチャット欄とのやり取りについ苦笑いしてしまう。でも確かにラミィとの初対面は俺が悪かったと反省している。
まあ、それはそれとして。
「記念配信は百万いけたらな。それまで待ってろよめちゃめちゃ準備してっから」
それにしてもデビュー配信から三ヶ月ちょいで七十万人は我ながら出来過ぎな気がする。
「まあ、だからと言って何もないんじゃ寂しいしな」
ま、まさか!
さすが師匠俺たちの期待に平然と応える! そこに痺れる! 憧れるぅ!
何が起こるんです?
俺が視聴者ならこのまま何もないとかなり悲しがると思う。だからまあ、合間に作った息抜きの作品だけどどうでしょうか。息抜きとはいえクオリティは問題ない筈だしな。
ほい、ポチッとな。
今回のは所謂MAD動画だ。自分の配信を見直して、面白かった部分や使えそうな部分を切り抜いて即興でギター弾いてそれっぽいBGM付ける。そしてアニメーションを描いて締めだ。内容は記念配信の準備をサボってMAD見ている俺と手伝ってくれる同期。
これでなんとか凌いでくれよな。
うおおおおおおお!
もしかしてだけどこれ自分で作ったの?
「自分で作ったかって? 当たり前だろ全部オレが作ったよ」
やばw
ほんとに師匠の多才さには驚きしかない
一生ついていきます!
結婚して
師匠に求婚とか船長に殺されるゾ
「可愛い女に転生してから出直してこい」
なんで船長? あれかな、船長よくホロメンにセクハラしてるしそれの一環かな。まあいいや。
「じゃ、これで今日は終わるから。お前ら、いい夢みろよ」
締めの挨拶で配信を切る。
そして訪れる束の間の静寂。この瞬間がやり切った感があって好きなんだよなぁ。
「ふぃー……」
水を飲んで体を伸ばしてから防音室を出る。
なんだろうな。なんていうか、そうだな。
「幸せだなー……なんて」
生まれ変わってVtuberになって、目まぐるしい毎日だけど本当に心から俺はそう思った。