神様転生における最大の被害者はトラックの運ちゃんだと思います。
とある神様の憂鬱
またか。
神はそう思わずにはいられなかった。
「特典はまず第一にルルーシュみたく優男風のイケメン顔ね。次に健康な身体と頑強な肉体。それと一を聞いて十を知るような天才的な頭脳でしょ。あと黄金律のスキルっていうか、やっぱ金に困らない生活がいいし。そんで俺の新たな家族構成だけど、他はともかく妹だけは絶対に付けてくださいよ。俺のことが大好きでアイドルのような可愛い顔の血の繋がらない妹……ぐひひ。そんで肝心の俺の専用機に相当する機体はというと……」
冴えない風貌の少年は鼻息荒く興奮したように早口で捲し立てる。
「外見はやっぱガンダムシリーズの~」
「武装はまずビームライフルはデフォね。それにファンネル、いやドラグーンだな!それにトランザムシステムもつけて。そんで接近用武器は~」
「でもライダーになって直接カッコよく戦うのも捨てがたいし~」
「つーか男なら生身での肉弾戦も強くなきゃ格好つかないからなー。プロ級の射撃能力や達人クラスの格闘術なんかも付けるか~」
「いっそ軍経験なんか持ってた方が恰好いいかな~」
嬉々として己の欲望をこれでもかと開示していく少年を前に、神はため息をつきたくなるのを必死で堪えていた。
神がため息……とも思うが、こうも毎度のように己の欲望をこれでもかと曝け出す人の醜い姿を見せられれば、ため息の一つもつきたくなるってものだ。
不注意にも車の行き交う道路に飛び出し、トラックに轢かれそうになった小さな女の子。それを寸でのところで自らの命とを引き換えに救った少年。
その功績に免じて、また本来はこの少年はまだ死ぬ予定ではなかった、という神の想定外の『ミス』ということにより、新たな世界へ転生させてあげることになった。しかも何でも望みが叶う特典付きというオマケをつけて。
そういう『お約束』とはいえ。
そういう『お約束』に収束する神の理さえ超えた世界の掟とはいえ。
そういう『お約束』の下に既に数多の男を送ってきたとはいえ。
それでも思わずにはいわれない。
なぜ神たる者がたかが人間風情にそうまでしてやらねばならないのか。
なぜ皆この男のように神に対しそのような不遜な態度をとることが出来るのか。
目の前の少年は誰かの為に自身の命さえ投げ出すことが出来るような人間には到底見えない。
そもそも普通の感性を持った人間にさえ思えない。
死んだことによる葛藤。困惑。恐怖。驚愕。絶望。
これまで築き上げてきたもの全ての消滅。
それらを一切構うことなく、転生による新たな人生へのみ心を躍らせているその様。
こんなことってあり得るのだろうか?
この少年の『設定』の一つとして「普通」「心優しい」というのがあったはずだ。
でもそんな優しい人間とやらが、そもそも普通の少年が、今まさに死を体験したというのに、こんな風に平然としていられるものだろうか。人生において培ってきた時間、築いてきた人との繋がり、与えられてきた愛情。それら全ての消滅を意味する死という事象なのに。
これまで歩んできた人生との別れは「普通」の「優しい」高校生の子供がそう簡単に割り切れるほど軽いものなのだろうか。それとも彼にとってはそんな簡単に切り捨てられる程に、嘗ての人生は安いものだったのだろうか。
分からない。
普通とは。優しさとは。それは一体何なのだろうか?
「いいっすか。ようやく決めましたよ。貰う特典を」
思い悩む神をよそに、あらぬ方を向いて夢想するように『新たな自分』への妄想を垂れ流していた少年だったが、ようやく神の方へとその欲望に塗り固まった顔を向けた。
「そうか。では望みは何だ?」
「それより特典に限りあるって酷くないですか?全部叶えてくれてもいいのに」
「無茶を言うな」
「何かケチくせーなぁ。ま、仕方ないか。それじゃ今から望む特典言うからお願いしまーす」
そうして己が望む特典の数々を語っていく少年を前に、神はいよいよ我慢ならなくなっていく。
何で矮小な人間風情が超越たる存在に対し、敬意もなく自然に話すのだろうか。いや話せるのだろうか。怖くはないのだろうか?恐れ多くも話している相手は神だというのに。そしてなぜ感謝するどころか不平不満さえ垂れながら抱えきれないほどの特典とやらを望むのか。新たな生を授かったというだけで何で満足しないのか。そのことに礼の一つすらないのか。
「~ってこんなとこか。以上です」
仕方ないしこのくらいで勘弁してやるか、といった体で少年はおねだりを終える。
「望む力はそれらでいいんだな?では新たな生を授け、IS世界に転生させる」
「へーい」
「最後に……最期に何か言うことはないのか?」
「何かって?ああそうだ、ヒロインのことについてですけど、やっぱ俺としては~」
「もういい。行け」
神はその言葉を打ち切り、五月蠅く飛び回る蠅を振り払うようにして手を払うと、少年の姿は消える。
転生を母体として、今ここに新たな『オリ主』がIS世界に誕生した瞬間であった。
新たなオリ主となった少年が消えた後、神は宙を仰ぎ見る。
そうしてから何もない空間に手をかざした。するとそこに映像が映し出される。それは今オリ主となって転生を果たしたオリ主の前世のもの。嘗てのオリ主の世界。オリ主が一人死んだ後も、その世界は当然のように続いていくのだから。
映像には通夜だろうか喪に服した人が集まっていた。だがそんなしめやかな場において、喪服を着た一人の中年の男が場違いのように土下座をしつつ、涙ながらに謝罪の言葉を繰り返している。
ご子息の命を奪ったのは私です。私なんです。私のせいです。
申し訳ございません。申し訳ございません。申し訳ございません。どうか、どうか……。
壊れた機械のように涙ながらに謝罪の言葉をリピートする男。
『お約束』の転生の為に、オリ主を撥ねて死なすことになった、トラックの運転手である。
謝罪を受けるのはオリ主の嘗ての父親。
拳を握りしめ、震える唇を噛みしめ、堪えるようにして眼前で土下座をする男を見下ろしている。
その横では幼い子供を連れた女性が、これもまた頭を下げていた。
ありがとうございます。ご子息のおかげでこの子の命は救われました。
本当にありがとうございます。でもそのせいでご子息が。本当に申し訳ありません。
感謝と謝罪の言葉を繰り返すのは『お約束』によってオリ主に助けられた幼子の母親。その後ろではまだ事情が呑み込めない幼き女の子が、頭を下げ続ける母親を泣きそうな顔で見ている。
その謝罪を受ける年配の女性。オリ主の嘗ての母親。
息子を失い泣きはらした涙の跡も未だ消えず、ただ虚ろな表情でその謝罪を受けている。
それを見ながら神は痛ましそうに頭を振る。
『お約束』の因果によりオリ主を轢き殺すことになったトラックの運転手。
今ひたすら土下座し赦しを請う彼にも家族があり、両親に妻。それに小学生の子供が三人もいる。彼はそう遠くないうちに裁判にかけられる。仕事も失い、多額の賠償金を背負い、刑務所にも入ることにもなるかもしれない。そして身を挺して幼子を守った『英雄』を殺した大罪人として、自身のみならず家族さえも生涯非難と後ろ指をさされていくことにもなるのだろう。
命を救われた幼き少女と、愛しき娘の命を救って貰えた母親。
幼子とはいえあの時むやみに道路に飛び出さなければ。そしてその助かった命は誰かの尊い命と引き換えによってもたらされているのだ。この親子はそんな感謝と悔恨と罪悪感を胸に、その傷痕を親から子へと引き継いで、オリ主の英雄物語の証人として、これからの人生を紡いでいくことになるのだろう。
やりきれない。
神は思う。
どうして毎度このような悲劇を特に意味もなく『創り出さなければ』ならないのか。
そう、転生者は『トラックから幼い女の子を救って』死亡する者ばかり。でも別にそれは転生における絶対条件でも何でもない。理由なんて本当は何でもいいのだ。送り出す者なぞハナから決まっているのだから。神をも超えたその世界の意思によって。
なら誰かを巻き込むわけでもなく、夜眠ったら心臓麻痺で死んだ、というにでもすればいい。
誰かの感謝も悔恨も涙もない、そんな間の抜けた死に方でもすればいい。
そんなに死を望むのなら、一人孤独に死ねばいい。
だが世界は神のそんな願いすら許してくれない。神さえも只の舞台装置に過ぎないのだから。
幼き少女を救い英雄のような死を迎えたい。
そんな理由の為に、生の最期にまで格好をつけたがる故に、残された人の悲しみ・苦しみなど一切構うことなく、ただただ自己満足な死に方を望み、世界がそれを後押しする。
そのような『お約束』の下に必ずあるべき姿に収束していくセカイ。
「これではただの道化ではないか」
忌々しそうに呟くと、神は手をかざし目の前で上映されている『悲劇』という名の映画を消した。
静寂と化した空間で、神は独り思う。
今回の『も』最後の最期まで親に、家族に対する言葉も、気にする素振りすら何一つなかった。
『理想の自分』になれるという欲。その前では他全てが紙屑にも等しくなるのだろうか。
「親の心子知らず……か。救われないな。いつもいつも」
そう吐き捨てるように呟いた。
アニメシュタゲゼロを一気見し、いい年して泣いちゃったりした勢いのままに久しぶりに書いちまいました。なぜシュタゲを見てISなのか。そもそも内容と全然関係ねーじゃんとか。自分でもさっぱりです。全ては運命石の酢豚の選択のせいとでもしといて下さい。