誰得のモブ虐ですが、唐突にこういうの書きたくなる病気なんです。堪忍やで……。
神様転生。それは「やり直し」の極意とも言える。特に二次世界への転生において、その基本となる世界観、原作キャラの性格、そして物語。それらの記憶を保ち、知識として継続した上で生まれ変わること。それは何よりの強みとなる。原作を「知って」いること。それは全てを可能とする魔法の鍵。一方で「知って」いる者は己を『オリ主』として原作に組み込み、原作を壊し己が望むものへと改変してしまう、せずにはいられない、という欲望から逃れられなくなるのではないだろうか。
自分一人が「知って」いるということ。
それはパンドラの箱と言えるのかもしれない。
だがどうしてそれがオリ主一人だけのものだと言い切れるのだろうか。
神様の匙加減によって行われる奇跡。オリ主はその気まぐれがどうして自分だけに都合よく起こるものだと確信出来るのだろうか。もしかしたら自分に行われたことが別の誰かにも。そんなことを思ったりはしないのだろうか?
そして……そのような奇跡を授かった者は果たして本当に幸せと言えるのだろうか……?
『……こうしてお姫様は素敵な王子様と結ばれ幸せに暮らしましたとさ』
私はお姫様に憧れていた。それは女の子なら誰もが焦がれる夢物語。絵本でも漫画でもアニメでも、素敵な王子様に選ばれ幸せに暮らすというハッピーエンド。幼い幼児が抱く夢物語。
でもね。成長するに従い分かってくるんだよ。私はお姫様なんかじゃないって。こんな私の下には素敵な王子様なんか現れない。選んでくれない。愛してなんかくれないってね。
なんで?どうして?
オーケー。それは毎朝鏡に映る自分の姿が否応なしに答えとなって教えてくれるようになる。
鏡よ鏡。美しいのはだぁれ?……少なくともそこに映っている見慣れた自分の顔じゃないよね。
素敵な王子様と結ばれるのは麗しいお姫様だけ。
悲しいかな古今東西どんな物語も相場はそう決まっているのです。
お姫様とは……そう、それは例えばいつもあの人の周りをハーレムの如く囲んでいる、代表候補生たちのような人にこそ資格があるのだろう。みんな可愛くて、華があって、才もある。まさに王子様にふさわしい資格のある麗しの女の子たちだ。
私とは違う。私はここでは日陰者。日の当たる特別な彼女たちを羨み見上げる
でも、それでも……お姫様に憧れる。素敵な王子様と結ばれ幸せになるお姫様に。
叶わないと知りつつも、そんな笑い話の夢を持ち続ける私はおかしな子?
「うぅ……」
朝。私は目を覚ますと、振り払うかのように何度も大きく頭を振った。
それはいつもなら起きがけの眠気を覚ますため。でも今は違う。頭に強制的に埋め込まれたかのような記憶の波に頭がパンクしそうになっているからだ。
「うえぇ……」
ここ最近は眠りから覚めるといつもこうだ。疲労感と強烈な吐き気。そして頭痛。
ベッドから下りる。隣のベッドでは太平楽な寝顔を晒して眠るルームメート。訳もなく癪に障る。八つ当たりだって分かっているが、苛々する気持ちが抑えられない。
気分はサイアクだ。
頭をスッキリさせようとシャワー室に向かった。
鏡に映る自分の顔。それは見慣れたいつもの自分の顔より更に冴えないものだった。
熱いシャワーを浴びながら思う。何の前触れもなくいきなり自分の身に起きた奇跡。何かの冗談であればいいのに。何かの間違いであればいい。お湯と一緒にこの歪な記憶も全部流れてしまえばいい。全部奇麗に忘れてしまえればどんなに楽だろうか。
でもその記憶の中の「私」という自分自身がそれが許してくれない。
それは間違いのない事実だと。それは確かに自分自身が経験していたことなのだと。
「ふざけないでよ……」
誰に言うこともなく文句が出た。シャワーを止めるとそのまま蹲るように首を垂れる。
嗚呼。最悪だ。最低だ。こんなのあり得ない。どうしてただのモブである私にこんな奇跡が。
そう。私はモブ。それも分かっている。
今生きるこの世界でも。そして別の世界でもそうだったことを。
分かってしまう。分かってしまったのだ……!
「あり得ない……あり得ないよこんなの!」
否定したい。全部忘れてしまいたい。何の冗談かと思う。何で私がと思う。何で何の力も魅力も資格もない私にこんな奇跡が!?
でもどれだけ否定したくても事実は変わらない。間違いだと耳を塞いでも、違うと頭を振っても、関係ないと身体を丸め蹲っても、自分だけは騙せない。
私は思い出してきている。かつての世界の記憶。この世界とは別の世界の記憶を。
それはあの人の存在しない世界の記憶。
今私が過ごしている、私の知っているIS学園の日常とは全く違うものだった。
起きたルームメートに仮初の笑顔でおはようの挨拶をし、とりとめのない会話をした後、私は朝食を取るために食堂に向かった。
馴染みの友達に挨拶を交わしながら、周りを見渡す。
いた。
あの人がいた。すぐに分かった。だっていつだって彼の周りは目立つ子たちが囲んでいるから。学園が誇る代表候補生の子たち。そんな彼女たちは皆朝から奇麗だった。
あの人を中心として大きな声で楽しそうな声で騒いでいる。幸せそうな光景。その周りで彼らを見守る他生徒たちもみな笑顔だ。
私もつい一週間前まではそうだった。何の疑いもなくそれを眺めていた。でも……。
周りを見渡す。いた。彼も目立つから。悲しむべきは違う意味でだが。
もう一人の男子。織斑一夏。周りの喧騒とは無縁に一人黙々と食事をとっている。まるで避けるかのように、彼の周りだけ不自然に誰も座っていない。あの人の周りとは対照的な異様な光景。
でも私はつい最近までこの異様な光景を異様と思ってなかった。
それを当然のように受け入れ、他と同じように彼を無視し、蔑み、陰口を叩いていた。
……どうしてこうなったんだろう……?
私の日常だった光景。それが今はとても歪なものに見えて仕方なかった。
教室に向かう。私のクラスである3組へ。何の疑問もなく通っていた日々。でも今は違和感を感じずにはいられない。
あの記憶の中での私は1組だった。代表候補生のみんな、そして織斑君と同じクラスだった。
あの人が新たに加わったことで、私が代わりに他へ押し出された格好にでもなったのか。
なぜ私が?だが……くやしいことだが、私はその問いに対する自分なりの答えを持っている。
それは私という人間があのクラスに、あの人の周りにいるのにふさわしくないからだろう。
私だけではない。私の記憶と、今とでは一組の面子も多少の差異がある。
あの麗しの代表候補生たちが一組に集まっているというのは記憶と同じだが、他一般生徒まで学園でも選りすぐりの可愛い子たちが揃っていたなんて、そんなことはなかったはずだ。
異常。
今冷静に思えばこれは異常だ。
現在の1組は、あの人の周りは、右を見ても左を見ても代表候補生以外にも奇麗どころが揃っている。こんなことなどあり得るのだろうか?才能だけならともかく、ルックスまで一流どころを揃えるなんてことが。そんなことが許されるのだろうか?
一体どうなっているんだろう?
どうしてこうなったんだろう?
私のかつての居場所は何処へ?
……ううん。別に今の現状に強い不満があるわけじゃない。記憶の中とクラスは違っても友達は出来た。それなりに人間関係も上手くやっている。それは皆も同じなのかもしれない。記憶の中にある世界と今の世界、どちらが幸せかだなんて私には分からない。
でも一つだけ、確実にハッキリしていることがある。
織斑一夏という少年。世界で初めてISを動かしてしまった男の子。『2人』の内の1人。
この世界において彼だけは確実に不幸になっているということだ。
重い頭で苦労しながらも、今日も一日なんとか授業を乗り越えた。
途中何度も保健室にでも行ってベッドで休ませて貰おうかと思ったが、先生に理由を説明することを考えると我慢するしかなかった。「別世界の記憶が戻って辛いです」と言えとでもいうのか。間違いなく違う場所のベッドに強制移動される。
放課後になり少し気分が良くなった私は学園内を当てもなくブラブラ歩いた。
歩くうちに不意に大きな歓声が聞こえてきたのでそちらの方を向くと、テニスコートであの人とオルコットさんが打ち合っていた。ラリーが続くたびに黄色い声があの人に上がる。
今日はテニスの日か。
ISの操縦のみならず、学力も、運動神経さえ抜群のあの人は部活の助っ人に大忙しだ。日替わりで色々な部活に顔を出しては、その類まれなる能力で女の子たちのハートを射止めている。
強く。格好良い。何でも出来て、自信に溢れ、いつでも私たちを救ってくれる学園の守護者。『絶対に』失敗しない。成功のみ、勝利のみ約束された者。まるでお伽話のような存在。まさにパーフェクト。それはかつて夢見た王子様のよう。
…でも
……本当に。
………果たして本当にそうなのだろうか?
私はあの人のいる方に背を向けると、校内に戻り当てもなく歩く。
思い立って記憶の中の所属だった1組の方へと足を向けてみる。もう大分時間が経っているせいか、どこも教室には生徒は残っていない。
だが1組をこっそり覗くと一人の生徒が残っていた。
織斑君だ。教室の一番後ろの窓際の席に座り、頬杖をついてただ外の景色を眺めている。
あそこが今の彼の席なのだろうか?
私の記憶の中では彼は教室の真ん中の席で女子たちに囲まれ居心地悪そうにしていた。それが今はまるで他と隔離されたようにも見える端の席で一人ぼっち。
彼の目には今何が映っているのだろう?何を思っているのだろう?
でも彼に話しかける勇気も資格もなく、私はその場を立ち去ることしか出来なかった。
あの人も私と『同じ』ではないのか?
もしかしたら『知って』いるのではないのか?
そんな疑問がどうにも頭から離れなくなってしまったのは、不幸にもこの奇跡を享受してからどれほど経った頃だろうか。
記憶が蘇る度に気付く今の世界との相違。しかし一方ではあまりに類似していることがあるからだ。
無人機。銀の福音。亡国機業。記憶の世界で私が直接見たり聞いたりした織斑君の活躍。彼が専用機持ちみんなと協力して掴み取ってきたもの、守ってきたこと、勝ち取ってきたもの全て。それが今はそっくりそのままあの人の行いということに置き換わっているのだから。
こんなことあり得るだろうか?物語の軸はそのままに、織斑君のお株を奪うということが自然に?
そしてあの人の活躍と対になるような形で道化のような役割になっている織斑君の姿。
私の記憶にある姿からは程遠い織斑君の寂しげな横顔。独りぼっちの姿。
私は決心した。
あの人に直接問いただしてみることを。
なんで
こんな記憶が蘇ったところで、私にはどうすればいいのか分からないし、そんな力もない。
でも、それでも……。
それが勘違いだったならいい。間違っていたなら頭のおかしい子だと思われ笑われるだけ。
そうあって欲しいと思う。この状況を、あの人が望んで創りあげただなんて思いたくないから。
私は
魔法で眠りにつく可憐なお姫様なんかじゃない。ただ眠っているだけの私に魔法のキスなんて誰もしてくれない。
内面だって清らかなお姫様には程遠い。弱く、醜く、流されやすい。それが私という人間だ。
でも、それでも……!私にだって矜持はある。心はある!
この世界の織斑君の姿。あんなのはおかしい。絶対に。
資格はないのは分かってる。それでも私はお姫様に憧れる。
誰かの為に頑張れる。優しくなれる。そんなお姫様に。
だからちょっとだけ勇気を出してみよう。
特別なことは何もしない。ただ問いただすだけ。
蘇った記憶。それはその為に神様が与えてくれた奇跡だったのかもしれない。
私は一つ拳を握り締めると、顔をあげて歩き出した。
「やぁ。クラスの子に聞いたけど君かい?俺に話があるっていうのは」
「う、うん」
待ち合わせの場所に遅れてやってきたあの人に、緊張しながら私はおずおずと顔を上げる。
あの人はそんな私を一目見ると何故か面白くなさそうにため息を吐いた。だがすぐに多くの女の子を魅了している笑顔を向けてきた。
「それで?」
「その……実はね、ちょっと聞きたいことがあって……」
「ああ、やっぱりそれか」
「えっ?」
「俺まだ誰とも付き合う気ないから。悪いんだけど」
「ほえ?」
「ま、そういうわけだからさ」
「あ、あの……」
「俺のことは忘れてくれ。難しいかもしれないけど」
「……」
「ごめん。辛いよな。でも俺だって辛いんだよ?女の子の想いを受け取ってやれないのは。女の子の悲しい顔を見るのは。……何度経験しても慣れるもんじゃないんだよ……」
「……」
「くそっ……やっぱ辛ぇわ」
「……」
一瞬何のことを言われたか分からなかった。
だが言葉とは裏腹の彼の得意げな表情を見てようやく気付く。どうやら私を告白しに来る数多の一人と勘違いしたらしい。
なるほど。さっきのため息の要因はそれか。
私が御眼鏡に適うほどの美人じゃなかった故の失望だったというわけだ。
……人を馬鹿にして。
己に発破をかけるように手を握り締める。
皮肉なことに彼の態度によって迷いは大分消えていた。
「単刀直入に聞くね?」
「ん?まだ何かあるの?」
「あなたも持っているの?」
「はぁ?」
「記憶。それをあなたも?」
「記憶?何の?」
「……違う世界。前世……なのかな?自分でもよく分からないけど」
「急に何言ってんだ?アンタあれか?電波ってやつか?それともフラれた腹いせで言ってんの?」
「私ね、持っているの。ううん、思い出したって言えばいいのかな?」
「ちっ……ヤベーなこいつ。もういいって。どっか行けよ」
「その世界にあなたはいなかった」
「あ?」
「織斑君がみんなと協力して、みんなで頑張って、みんなと笑いあってた」
「おい……」
「あなたが今やっていること、手に入れたもの、そこでは全て織斑君のものだった」
「お前……なんだよ、な、何言ってんだよ!何なんだよこれ!おい!」
いつもスマートで自信に溢れていると評判の彼。その彼が酷く狼狽えている。それはまるで取り繕っていた仮面を脱ぎ棄てるようにも見えて。こっちの方が本当の彼の姿のようにも見えた。
そして根拠はないが確信にも似たものが芽生える。この人は私と同じ奇跡を受けたのだと。
「私が思い出したこと、全部……話すね」
だから私は、自分でも信じ難いこの荒唐無稽な話を臆することなく語り出した。
「……これが今のところ私が思い出したこと全部。どう?」
私が話している間、彼は一言も発することなく俯いて聞いていた。唇を噛みしめているようにも見える苦悶の表情のまま。
「なんだよ……こんなの話が違うじゃねぇか……!なんで原作のキャラがこんな……!あのクソ神が!騙しやがったのか!?俺だけじゃなかったってのかよ……!」
暫しの静寂の後彼はそう言うと、その後はぶつぶつと何かを呟き始めた。
神様がどうこう、原作がどうこう、そんな恨み言を吐いている。
神やら原作やら、正直彼が何のことを言っているのか、何に憤っているのか分からない。
彼も同じ記憶を持っていることは間違いなさそうだが、もしかしたら私のものと何らかのズレがあるのだろうか?
怖い。
今や怒りに任せ地団駄を踏んでいる目の前の男。その彼が訳もなく怖くなった来た。もしかしたら自分は妙なヒロインリズムに酔って、考えなしにとんでもない地雷を踏んでしまったのでは?
それでももう後には引けない。
サイは投げられてしまったのだから。他ならぬ私自身の手で。
「あ、あの……そ、それでね?わ、わたしお願いがあるんだけど……」
情けなくも声が震えて上手く言葉が出てこない。
「その、織斑くんのこと……なんだけど」
「アイツがなんだってんだよ!」
彼がそこでようやく目を上げた。視線が交錯する。
「ひっ!?」
ギラギラと獣のような目が私を捉える。
それを受けた私は小鹿のように震えることしか出来なかった。
失敗した。
私は失敗した。
勇気を持てば、誰かに優しく出来れば、皆がハッピーエンドに。
そんなのは夢物語に過ぎなかったのだ。
所詮私は私でしかなかった。
熱に浮かされ、ヒロインリズムに酔っていただけのモブに過ぎなかった……。
話し合いは決裂という形に終わり、あの人が去った後も私は一人そこに立ち竦んでいた。
私の情けない態度のせいなのか、言葉が駄目だったのか。話し合う内に次第に余裕を取り戻していくあの人。反対に私は余裕がなくなっていった。
全てが卓越しているあの人相手に口論や議論でも勝てるわけがない。元から分かりきっていたことなのに私はどうするつもりだったのだろう?今はもう自分でも良く分からなくなってきた。
ただ一つ言えるのはこれが最悪の結果になってしまったこと。
あの人を怒らせ、あの人に不信を抱かせ、あの人のタブーに触れてしまった。
その結果あの人の『敵』と見なされてしまった。
『一夏を助けたいだぁ?お前なんかに何が出来るっていうんだよ』
あの人はそう言って鼻で笑った。私なぞ歯牙にもかけないという体で。
『ならやってみろよ。モブ如きが』
彼と私、その記憶にズレはあれどその認識だけは同じ。あの人の中でもやっぱり私はモブだった。
『ところでお前名前なんつったっけ?原作でも印象無くて覚えてないんだよ』
去り際に軽薄な笑みと共に言われた言葉。それが屈辱という棘となって刺さっている。
失敗した。
私は失敗した!
甘かった。
私は大甘だった!
頑張れば何とかなると思っていた。勇気を出せば報われると思っていた。誰かに優しく出来れば幸せになれると思っていた。お姫様になれると思っていた!
でも。忘れていた。
神様は、世界は、残酷だってことを。
祝福は麗しいお姫様のため。特別な人のために。つまり私なんかには訪れないってことを。
そして理解していなかった。
祝福を受けられる人、特別な人、そんな人に目を付けられるということが。
世界に愛される人の『敵』になるということが。
どんなに恐ろしいものかということを。
あの人との一件の後、蘇った記憶のこともあってか、私は学園に許可を取って実家に帰っていた。くしくも翌日から土日と祝日を入れての3連休が控えていて、少しだけでも一人で考えられる時間が欲しかったからだ。
問題は私が学園に戻って来てすぐに起きた。
ルームメートの子がやけによそよそしい。それが始まりだった。
翌朝教室に行くと全てが変わっていた。
誰も私に挨拶もしてくれない。みんな私と目が合うと慌てて顔を背ける。
訳の分からぬまま一限目の授業を終える。
休み時間にクラスのリーダー的な子たちに話があると言われる。後をついて行き空き教室に入ると、いきなり囲まれ大声で恫喝されると共に衝撃の事実を聞かされた。
何でも私はあの人に告白玉砕した挙句、それを逆恨みし根も葉もない悪い噂をバラまいている、ということらしい。
当然だが私には全く身に覚えなどないことだ。あの人のことだって誰にも話してない!
それがあの人による『敵』と見なされた私への報復なのだと分かった。
たった三日だというのに。私の行いは捏造され、更に拡散され、学園の子たち皆が知ることになっていた。事実とは全く違うことを。
そんなことを可能にしてしまうあの人の力。それを改めて思い知る。
怒りと恐怖で身体が震えた。そんなこともおかまいなしに私を取り囲んだ子たちから容赦なく浴びせられる非難の声。
「違う!私はあの人に好意なんて抱いていない!あんな人なんて嫌いなの!最低……!」
それに耐えきれず私は言ってしまった。思いを止められなかった。だがそれは悪手。この熱に浮かされた場で、あの人を悪く言うのは最悪の選択だった。
周りを囲んでいる子たちの目が変わった。
それは怒り。憎しみさえ含んだ目。
それは狂気か。この学園の少女たちがあの人に抱く絶対的で狂信的な想い。
私はそれを見誤った。いや忘れていた。
これで私の命運は決まってしまった。
ううん。あの人の、世界に愛される人の『敵』と見なされた時点で、こうなることは決まっていたのかもしれない。
この日を境に私はイジメられるようになった。
日陰の者と自嘲していた私は文字通りの日陰者に。
誰も私に話しかけてくれない。私は独りぼっち。
耐えきれず勇気を出して担任にも相談した。なのに返って来た言葉は「彼を悪く言うのは止めなさい」というもの。呆然とする私に説教をし出す担任。
「告白を断られてくやしいのは分かるけど、彼の悪い噂を捏造するなんて恥ずかしくないの?」
「あんな素晴らしい子になんでそんな卑怯なことするの!」
「彼があなたみたいな子を相手にすると本気で思っているの!?」
説教はすぐに恫喝に変わり、私はそこでようやく理解した。
生徒だけじゃない。教師でさえ、大人でさえあの人の虜なのだと。
今私に怒りをぶつけるその人の目はまぎれもなく『女』の目だったから。
神様は残酷だ。
なんであんな奇跡を私に授けたのだろう?
だから誤解してしまった。勘違いしてしまったんだ。
特別でもお姫様でもない。何の取り柄も力もない
何かを変えられる。誰かを救ってあげられるかもなんて……。
嗚呼、世界は。
世界はこんなにも私に厳しい。
それから何日か経った。
移動教室。私は今日も一人で移動する。その途中にあの人と出会ってしまった。沢山の可愛い子を引き連れ、王様の如く廊下の真ん中を堂々と歩くあの人。私はそそくさと邪魔にならぬよう隅の方へ移動する。もう抗う気も起きない。今はもうただ関わらないようにするだけ。
下を向き床を一点に見つめ嵐が通り過ぎるのを待つ。その私の前で彼らの足が止まった。
俯く私の目に入る男物の靴。それが私の前から動いてくれない。
恐る恐る顔を上げる。
あの人は私を見下し笑っていた。
結末については当初ハッピーエンドで終わる構想で書いていたのですが、書いている内に悪い虫が疼き出し「よー考えたら世界に愛される、つーか世界そのもののORIに勝てるわけなくね?」とか思い、胸糞を承知でBADエンド(オリ主側から見れば大勝利エンド)にしてみようかな、という感じにどちらにするか迷っている状態であります。
勝手ですが基本私はその時の気分で、自分の好きなように書いているので、その時思いつくままに結末を決めたいと思っています。
では物好きな方はもし出来あがった際には(下)の方もご覧になって下さいませ。