任務は、最悪のORIを殺すこと
「今回もまた失敗か」
神は苦々しく呟く。過程に多少の差異はあれど、結局はいつもこうだ。世界が壊れて終わる。
オリ主が欲望のまま好き勝手にやり、原作主人公をこれでもかと追い込んだ結果がこれだ。誰も幸せにはなれず、皆の心に決して消せない負の想いを宿らせただけだった。
こんなことがあの男のしたかったことなのか。こんな不幸を撒き散らす為にあの男は新たな世界に転生したのか。新たな生を授かったのみならず、理想の自分というべき姿を叶えてまでやりたかったのが、原作主人公という弱者を踏みつけ優越感を得ることだったのか。
神はオリ主に力を与えてやった時のことを回顧する。
俺なら原作世界をより良いものに出来る。
俺なら原作主人公なんぞよりもっとうまく出来る。
俺ならヒロインをもっと笑顔に、幸せにすることが出来る。
今回もそうだったように、今まで送り出してきたオリ主はみなそのように傲慢にも思える態度を持って二次世界に転生していた。その自信はどこから来るものなのか。原作の知識と流れを己一人のみ有しているというアドバンテージの為か。それとも特典を得て世界における比類なき唯一の超越者となる驕りの故か。
分からない。俗な人間風情の考えることなど神には分からない。
ただそれでもオリ主による転生先の世界をより良くしたい、多くの人を幸せにしたい、という思いは真実だと思っていた。そう信じたかった。たとえ下心や煩悩に基づいた行動が主であろうとも、それで世界が本当に救われるのなら、そういう思いでたとえそれが世界の意志であろうとも、オリ主の望むままに力を授け、望むままに環境を整備し、その上で新しい命を与え送り出してやったのに。
今度こそうまくやってくれると信じて。願って。
……だがその結果がこれだ。考えられる未来の中でも最悪のもの。
壊れてしまった世界。その残骸の欠片を見ながら神は思う。
どうしていつもこうなるのだろうか。
織斑一夏は全てに絶望し自ら命を絶った。
篠ノ之箒はそんな世界を憎み歪んでしまった。
織斑千冬は弟の自死という最悪を認められず壊れた。
凰鈴音は自責と後悔に耐えきれず死という誘惑の下に跡を追った。
ISにおける重要人物たち。その彼らがいなくなるということ。本来あり得ない未来。それに連鎖するように少しずつ着実に世界はおかしくなっていった。
転生したオリ主によって引き起こされる原作の改変。それが別の何かに大きな影響を与えていく。それは必ずしも良い意味でとは限らない。幸せがそうであるように不幸もまた連鎖していくのだ。
枷を失った篠ノ之束は更に狂い暴走し。
都合のいい『敵役』のはずの亡国機業は混乱と迷走に陥り。
学園においては皆が人間関係に段々と暗い影を落とし始めていった。
皆がどこかおかしいと思い始めていた。漠然と今までの日常が崩れていく恐怖を感じ始めていた。たった一人の例外、世界をこのよう変貌させた張本人たるオリ主を除いては。
一夏が自殺し、箒が辞め、千冬がいなくなり、そして鈴もまた自責から命を絶った。だと言うのにオリ主は全く変わらなかった。クラスメートが、学園の者全てが、関わった者全てが、自らの一夏に対する行いに抱いた『罪悪感』というべき人が持つ当たり前の感情。それがオリ主には皆無だったのだから。
自分の為に一夏が犠牲になる。皆が一夏を蔑む。一夏は輝く為の踏み台。一夏は都合のいい道化。
このオリ主にとってはそれが当たり前だったから。それが転生したオリ主が望んだ『ORIの世界』という中での定められた理だったから。
だからこそ死者に鞭打つようなことも平気で行える。尊厳を破壊することも何とも思わない。オリ主にとっての織斑一夏とは所詮利用する為に存在『させて』やっている程度に過ぎなかったのだ。
だが人の心とはそのように単純なものではない。オリ主とは裏腹に生徒たちの中には一夏の死によって、鈴のように深い後悔を抱く者。そしてオリ主のやり方に疑問を感じる者も現れ始めたのである。そして何より『一夏がいなくなった世界』というのが、皮肉にもオリ主自身に後々一番響いてきたのであった。
誰かと仲良くなるには共通の敵を作るのが一番手っ取り早く楽である。その敵が自分より弱者であり愚かな者ならば尚更だ。
その者を共に嫌い、嘲り、笑う。そうするだけで周りは勝手に盛り上がり、そして望むまま比較してくれる。誰かを愚鈍な道化にすることで、人は簡単に優越感を得られるのだから。
だがそれが無くなった時、今までのやり方が出来なくなった時、オリ主には何もなかった。
今までは一夏を笑い者に、道化に、踏み台にすれば全てが上手くいった。だがそれに慣れ切ったオリ主では歪み始めて来た世界において、真っ当に皆の信頼や信用を得ていく手段が分からなかったのである。
絶賛一辺倒だった人間関係においてオリ主は段々と孤立し始め、しかも自分が蒔いた種とはいえ、知っている原作の流れとは少しずつズレが生じていった。何よりオリ主が知っている原作の流れや知識には限りがある。その絶対のアドバンテージが通用しなくなった時、オリ主の命運も決まっていたのかもしれない。オリ主が二学年に上がった頃には、当初思い描いた理想の世界とは何か違っていたのだ。
そうなってからの世界の崩壊は早かった。驚くほどに。
そしてオリ主が最期に怒りと恨みを撒き散らしながら、この世界の終わりを叫んだ時に、世界は本当に終わってしまった。なぜならこの世界は『ORIの世界』元の世界のように、オリ主がいなくとも世界は廻る、などということはない。オリ主の為に創られ、オリ主の為にだけに存在する世界なのだから。そのオリ主が「こんな世界はもういい」と匙を投げたのなら、それで終わってしまう儚くも救いのない世界なのだ。
そして今、神はもはやかつての世界の残骸となった欠片を見つめていた。
脳裏に浮かぶのは一人の少年のこと。だがそれはオリ主のことではない。本来は皆から愛される立場であるにも係わらず、オリ主によって一方的に引きずり降ろされ、皆から嫌われ道化にされ、運命が狂わされた挙句に自ら命を絶った原作主人公……織斑一夏のことであった。
神は最後は家族にさえ裏切られ、全てに絶望して死んでいった一夏が可哀想でならなかった。何より世界の意志とはいえ、オリ主に望むままの力を与え、彼の運命を狂わせたのは他ならぬこの神なのだ。そのことに責任が無いとどうして言えよう。
そしてこの世界は最悪な終わり方を迎えてしまったが、またすぐ次のオリ主が来る。そしてまた世界の意志のままに、オリ主が望むものを与え、IS世界に送り出さねばならない。
また同じことが起きるんだろうか?そこでも織斑一夏は悲劇を辿ることになるのだろうか?
どうにか救ってやることは出来ないのだろうか。一方的に一夏を嫌い、その立場を奪おうとするオリ主が転生して来ることが確定している世界で、一夏も幸せに過ごせる。そんな可能性の世界線を探ってやることは出来ないのだろうか。
だが神にはオリ主の為に
それなら、せめてオリ主と一夏が出会ってしまう前に、少しだけ因果の輪から外れる手助けをしてやればどうだろうか。即ちそれはオリ主と一夏が出会わない世界線。一夏がISに関わらなかったという可能性の世界に。
今回の結果がそうであるように要は一夏とオリ主とは水と油なのかもしれない。一夏がそうであるように、オリ主もまた一夏に縛られるということで、結局は不幸になるのだとしたら。
二人が出会わない可能性を探ってやることは、オリ主の不利には当たらないのではないだろうか。
勿論これが上手くいくのか神にも分からなかった。
なぜなら『一夏が動かしたせいで第二の男性操縦者となってIS学園に入学させられる』というのは、全てのオリ主が望む絶対的なこと。これが全ての始まりとなってオリ主の物語が始まるのだから。
今まで数多のオリ主を転生させてきた神であったが、ただの一人としてIS学園に通わない道を選んだオリ主はいない。別にIS世界に転生したからといって、IS学園に通わなければならないなんてないはずなのに。それでも全てのオリ主は一夏を経て、IS学園へ入学していた。
一夏がISを動かすのは、オリ主が第二の男としてIS学園に入学する為の絶対条件。
だがオリ主がIS学園に入らないと、オリ主の物語さえ始まらないというのなら、それがORIの世界の意志だというのなら、たとえ一夏がISに関わらないとしても、オリ主がIS学園に入学するという結果に世界は収束するのではないだろうか。
試してみる価値はある。
神は次に控えるオリ主の為に用意されるORIの世界に、たった一つだけ干渉をする。それは一夏が中学の時、試験会場を間違えてしまった瞬間。あの時、一時だけ。
「これでどうなるか……」
僅かな希望を胸に神は目を閉じた。
「あれ?どこだよここ……」
藍越学園を受験しに来たはずの一夏はその試験会場で迷ってしまった。さらにあちこち歩き回った結果、妙なところに入り込んでしまったようだ。
「えっと……あそこ……かな?」
そうして一夏にとっての運命の分岐点。ISがある部屋に入ろうとした瞬間。
「ちょっとあなた!何処に行くつもり!」
それを遮ろうとする声に立ち止まった。
「君ここで何をしているの?男がIS学園を受験でもする気?」
「IS学園……?い、いや俺は藍越を受験しに……」
「ここはIS学園の試験会場!」
「えっ?……ええっ!本当ですか?俺間違えて……」
「どうやったら間違うのよ……」
「どうしよう。場所は……どこなんだ」
「あなたねぇ……」
「ヤバッ。ど、どうすれば。そうだ弾に連絡して……いや駄目かな。うわ~」
「ああもういいわ。私が連れてってあげるから。ついて来なさい」
「えっ?でもいいんですか?」
「早く!急ぐんでしょ」
「は、はい」
一夏は混乱しつつもその女性の後をついていく。
そうして少し遅れたものの無事に受験場に辿り着いた。
「あの、ありがとうございました」
「気をつけなさいよ。大事な受験なんでしょ。全く」
「すみません……」
「ホラ。いいから行きなさい。頑張って。合格出来ればいいわね」
「はい!ありがとうございました!」
一夏が元気よく返事をすると、その女性は小さく笑って歩いて行った。
去って行く女性の背中を見送る。親切な人のおかげでこの場に間に合うことができた。だからその優しさに報いるためにも頑張ろう。
「よし。やるぞ!」
小さく気合を入れて、一夏は試験部屋に入った。
サクラサク。
そして無事に合格を果たした一夏は藍越学園に入学することとなった。
「今日も暑いな……」
一夏は容赦なく照り付ける太陽光を手で遮りながらまぶしそうに空を見上げる。今日も憎らしいくらいの青空だ。
季節は夏。時期は夏休み。一夏が藍越学園に入学して早数カ月が経過していた。
「おい一夏!何黄昏てんだよ。早く行くぞ!」
弾が急に立ち止まった一夏をせっつくように言う。
「そんなに慌てなくてもいいだろ弾」
「慌てるっつーの!スタジオ借りれたのは4時までなんだぞ!そんだけ借りるだけでも俺の少ない小遣いをどれだけはたいたと思ってんだ!」
「ふーん」
「一夏お前さぁ。もっとやる気だせよ!しっかりしてくれよな」
「そんなこと言われてもなー」
「俺たちで業界に革命を起こすんだ。音楽の力を信じろ!音楽は世界を変える!」
「じゃあ何で俺にボーカルなんてやらせんだ?」
「決まってんだろ。お前が俺らの中で一番イケメンだからだよ」
「そんなんでいいのかよ……」
「いいんだよ。バンドなんてボーカルがイケメンなら歌の上手い下手関係なく、周りは持ち上げてくれるもんなんだ。そんで有名になればバンドメンバもーキャーキャー言って貰えるんだ。そうに違いないんだ!」
「お前が一番音楽を馬鹿にしてないか?」
「うるさい!とにかく千里の道も一歩から。今日から死ぬ気で練習だ!目指せ武道館!ドーム!」
「そういうのはせめて一曲くらい弾けてから言おうな……」
一夏はやれやれと首を振ると弾と並んで歩き出す。するといきなり前方から歓声が上がった。目を向ければどこぞのスターよろしく多くの取り巻きを連れて、白い制服に身を包んだ男が歩いてくる。しかも歩道のど真ん中を。迷惑も甚だしい。
「なんだあれ?」
「ん?……ああっ!なぁ一夏。アイツあれじゃね?ほら男でISを初めて動かしたっていう」
「そういえば前にニュースで散々やってたな」
「間違いねぇよ。あの制服はIS学園のだ」
「へぇー、あれが」
「名前なんていったっけ?確か苗字が難解な漢字で、且つ名前もキラキラネームっぽかったよな」
「キラキラ?」
「一見さんお断りな名前だってこと。ったく親は何考えてあんな名前付けんのかね?」
「……そうだな」
お前の『弾』だって結構珍しくないか。
一夏はそう思ったが優しい彼は黙っていた。
名前とはとってもデリケート。一見して「ないわ~」と思ったものでも、また『かm』……あの漢字か、と思ったものでも、それを名付けた者にとっては深い意味と愛があるのです。たぶん。だから深くツッコンではいけません。いいね?
周りの子は同じIS学園の子なのだろうか。沢山の女子に囲まれ天下の公道を我が道の如く自信満々に歩いてくる男。一夏と弾は道の隅に移動してそれを見送った。
「すげぇなアイツ。言葉通りの女の中に男が一人の環境だもんな。あれが噂に聞くハーレムってやつか。これがモテと非モテの格差社会なのか!くそぅ羨ましい」
「そうか?」
「一夏。中坊ならともかく俺らもう高校生だぞ。彼女の一人くらい欲しくねぇの?」
「んー。べつに」
「かー!来たよ。女に興味ない宣言。普通なら負け惜しみになるんだけど、イケメン様が言うと「その余裕が素敵!なら私と付き合ってみて!」ってなるんだよな分かります」
「お前歪んでるなー」
「うるせー!夏休み前の終業式に女子に呼び出され、ウッキウキドッキドキで行ってみりゃ、頬を染めた子に「織斑君の番号教えてください!」って言われた俺の気持ちが分かるかぁ!」
「あー悪い」
「しかも振ったんだろ?結構可愛い子だったのに。お前何?マジで女に興味ねぇの?」
「そういうわけじゃないけど。ただ……」
「なんだよ?」
「それよりも俺今が本当に楽しいんだよ」
そう言って一夏は嬉しそうに笑う。
「こうやって毎日のように弾や数馬と馬鹿やってさ。新しく出来た友達もいい奴ばかりでさ。なんかそれだけで充分かなって。俺弾たちとこの学校に入って良かったなって」
「お前そういうクサイことよく笑顔で言えるよな……」
「弾は嫌か?やっぱさっきのみたく女子に囲まれる方がいい?」
「……まぁこんな毎日も悪くねぇよ。あ、でも勘違いすんなよ?俺は彼女欲しいからな!」
「ん?今のが前に弾が言ってたツンデレってやつ?」
「違うわ!ああ……そうだ。ツンデレで思い出した」
そこで弾は一つ手をたたく。
「鈴が日本に来るのって明後日だったよな?」
「ああ。空港まで迎えに来いって」
「相変わらず人使いの荒いやつだぜ」
「それだけ早くみんなに会いたいってことなんだろ」
「鈴が会いたいのはお前だけだっつーの。俺のことなんて刺身のツマくらいにしか思ってねーよ」
「そんなことないって。鈴が弾のことを友達としてどれほど大事に思ってるか。お前だって本当は分かってるだろ?」
「……だからそういうクサイ事言うなって……ちゃんと分かってっからさ」
そっぽを向いて小さく答えた弾に、一夏はいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「なんだよ一夏」
「いやべつに」
「それと鈴のやつ二学期あたりから本気で日本に居座るつもりらしいな」
「ああ。なんかそう言ってた」
「なぁ一夏。あいつマジに俺らの学校来る気なのかな?」
「さすがに無理だろ。信じられないけどISの中国の代表候補生らしいし。もし編入するとしてもIS学園じゃないか?」
「アイツが代表候補生ねぇ……何がどうなってそうなったのやら」
「っていうか鈴普通に話してたけど、そういうのって俺らに話していいものなのか?」
「いいんじゃね?だって鈴だし」
「そうだな。鈴だもんな」
うん。鈴なら仕方ないな。
一夏は妙に納得する。
「まぁどっちにしろ、あの喧しいチンチクリンが来るっていうならまた騒がしくなりそうだぜ」
「そうだな」
「なんか嬉しいそうだな一夏」
「そう?それよりもう行かなくていいのか。時間」
「そうだよ!こんなとこでダベってる暇ないんだよ!行くぞ一夏」
「はいはい」
そうして二人の少年は慌ただしく駆けて行く。
一夏とオリ主。二人は最後まで何も交わらないまま、違う道を歩いていく。
「あ~疲れた」
夕暮れ。とてもまだ人には聞かせられない練習を終えた一夏は家に向かっていた。
「弾が一人気合入れてて何度もやり直しさせられたせいかな。喉が少し変な感じだ」
そんなことをぶつぶつ言いながら歩く一夏。その両手には大量の食材が入った袋が掲げられている。
「千冬姉とゆっくり過ごせるのも久しぶりだからなぁ」
嬉しそうに一夏は呟く。さっきIS学園に勤める千冬から、ようやく仕事が片付いて明日から休みが取れそうだと電話があったのだ。久しぶりに会う姉の為に、どんな美味しいものを作ってあげようか考えていたら、こんなに大荷物になってしまった。
鈴に会えて、千冬も帰ってくる。
一夏にとってこれ以上のことはなかった。
「ん?」
だがようやく見慣れた家が見えたところで、女性が一人、家の前で立っていることに気付いた。
「あっ……」
相手もこちらに気付いたようで、緊張したように身体を強張らせたのが遠目にも良く分かった。
「い、一夏!」
「えっ?」
近づく前にその子が大きい声を出して名前を呼ぶ。
「ひ、久しぶりだな。その……覚えていないかもしれないが、私は……」
「……箒か?」
「お、覚えていてくれたのか!?」
「えっ?うん。そりゃまぁ……」
至近距離での大声に少しビックリする一夏。
持っていた荷物を地面に置いて、箒と向き合う。
「久しぶり……だな箒。えっと、何年振りだろ?」
「そ、そうだな。本当に久しぶりだ」
「そういや剣道のこと聞いたよ。凄いな全国優勝だなんて。しかも圧倒的だったんだって?」
「えっ?知っていたのか?」
「高校の友達の一人が剣道やっているのもあってさ。箒のことも知ってたよ。本当にたいしたもんだ」
「そんなことない。私は……」
「謙遜するなって」
「ちゅ、中学の時の話だ。それはもういい。それよりお前の方はどうなんだ。今は……」
「俺?藍越学園ってとこに通ってる。そこでそれなりに楽しくやってるよ」
「そうか……」
「箒は?まさかこっちの学校に戻ってきたとか?」
「私は今はIS学園に通っている」
「……えぇー?」
またIS学園か。
一夏は頭を振る。今日はどうもそれに関することが多い。
「一夏?どうかしたか?」
「いや何でもない。……ん?待てよIS学園って……。じゃあ千冬姉のことは?」
「知っている。というか私のクラスの担任だ」
「えっマジで?」
「やっぱり聞いてなかったのか。もしかしたら私のことも話してくれていたかもと思ってたが」
「千冬姉はIS学園の話題は一切しないから。それに何となくだけど、俺にISと関わらせたくないようにしている気がするし」
「そう……なのか?」
「ま、それはいいよ。それで学校はどうだ?箒の方は上手くやれてるのか?」
「私はあまり人付き合いが得意ではないから……。それでもルームメートや部活とかで何人か良くしてもらって、まぁ何とかやっている」
「それなら良い。そうだ、俺も今日の昼頃に例の男性操縦者と道ですれ違ったぞ」
「そうなのか?アイツも私と同じクラスなんだ」
「へぇー。仲良いのか?良い奴なのか?」
「いやまともに話したことないから。私は興味ないし。アッチも私に興味なんかないだろうし」
「あっそう……」
そっけなく言う箒に一夏は少し拍子抜けする。
「それで?今日はまさか俺にわざわざ会いに来てくれたのか?」
「そ、そんなわけないだろ!」
「じゃあ何しに?」
「それは……その、たまたまだ!たまたま偶然近くを通りかかって。それで……あの、誤解するなよ。別にお前に会いに来たわけじゃ……」
「そっか」
箒の物言いにも一夏は気にする素振りを見せず、嬉しそうに箒に向き合う。
「まぁたまたまだったとしても、俺は……」
「ま、待ってくれ!」
そこで箒がまた大きい声で一夏を遮った。
「違う……本当は違うんだ……」
「違う?」
「うっ…ううぅ……」
「箒?」
「ほ、本当は一夏に会いに来たんだ。ずっと、あ、会いたくて。でも中々勇気が出なくて……」
「えっ?」
「でも、今日、勇気を出して、来たんだ」
何とか言葉を絞り出すように言うと、泣きそうな顔で真っ赤になりながら俯く少女。
不器用で真っすぐ。そんなかつての面影が残る幼馴染。懐かしさに一夏の顔に笑みが広がる。
箒は手を握りしめながらただ俯いていた。
一夏の顔が怖くて見れない。かつて仲良くしてたとはいえ、もう何年も会っていなかった。そして今の一夏には自分の知らない一夏の世界が既に構築されている。そんな中で今更幼馴染面して家にまでやって来た女を、一夏はどう思っているのだろうか?
迷惑だと思っていないだろうか?
ウザイと思っていないだろうか?
もう会いに来るなと言われないだろうか?
私の居場所なんて今の一夏の中にあるのだろうか?
「そうか。ありがとな。会いに来てくれて」
しかしそんな箒の不安は一夏の温かな声で全部消える。
「……迷惑じゃなかったか?」
「なんでだよ。幼馴染と久しぶりに再会出来たんだぞ。嬉しいに決まってるだろ」
「あっ……」
「俺も会いたかった。でも箒が何処に行ったのかさえ分からなくて。元気ならそれでいいと」
「す、すまなかった。私の方も色々事情があって……」
「いや、いいよ。こうやってまた無事に会えたんだから。それでいい」
「一夏……。うん。ありがとう」
箒も感謝の言葉と共に一夏に笑いかける。
すると一夏は照れたように視線を少しさまよわせた。
「あー。じゃあ照れくさいけど、一応言っておく」
「何だ?」
「えっと……おかえり箒」
「……っ!」
急にそんなこと言うなんてずるい。
思わぬ不意打ちに耐えられるほど箒は強くなかった。涙があふれ出てくる。
「なんだよ。泣くなよ……」
「泣いてない!ちょっと……ぐすっ、目にゴミが入っただけだ!」
「そう」
一夏は小さく笑うと何も言わず夕暮れの空を見上げる。暫く箒の小さなぐもった声だけが聞こえる中、心地よい夕暮れの風が再会した幼馴染たちを優しく包み込んだ。
女とイチャつきたいオリ主はISへ。
弾とイチャつきたい一夏は藍越へ。
身も蓋もないし、何のための二次創作だふざけんな、とお叱りを受けるかもしれませんが、私はこれがチーオリものにおいて、皆幸せになる一つのハッピーエンドの形だと思ったりしますハイ。
たくさんの感想ありがとうございます。
引き続き、何か思うところなどありましたらどうぞお気軽にお願いいたします。