一夏が出会う、あらゆるORIは、すべてが地雷。
織斑一夏が魔境IS学園を卒業して3年。秋。
窓から差し込む陽の光で目を覚ました一夏。ベッドから身体を起こすと、もはや見慣れた自室をぼんやり見渡した。時の流れとは本当に早いものだとつくづく感じる。当初はオリ主から逃げる為に1年くらい、と軽い気持ちで考えていた留学だったのに。情けなくもセシリアのコネで入った大学だったが、友人にも恵まれたおかげで忙しくも楽しいキャンパスライフを送ることが出来た。その機会を作ってもらい、住居に食事に言語など、全ての面でサポートしてくれたセシリアには感謝してもしきれない。
感謝。そして友情。
……本当にそれだけだったんや。堪忍やで……。
一夏は脳内で誰に言うのでもなく謎の関西弁で言い訳すると、オーマイガーという感じに空いた手を額にやった。隣にはシーツにくるまり、一糸まとわぬ姿で幸せそうに眠るセシリアの姿。可愛らしい寝息を立てながら、それでもその腕は離さぬように一夏に絡ませている。
まぁなんだ、この手のラブコメでよくある「寝惚けて異性のベッドに入っちゃいましたー。テヘッ」なーんて童貞チックなことなら良かったのだが、さすがに二十歳超えた男女にはそんなの通用しません。当然アダルトチックな2身合体事後にございまする。
苦悩する一夏だが、一つ屋根の下で過ごすヤりたい盛りの歳若き男女なら、普通は起こったとしても何ら不思議ではないことである。
だがこれは世紀の鈍感王とも呼ばれる一夏なのだ。そんな彼といや~んな関係になるまで、そこにはセッシーの涙を誘う苦難苦労の物語があったことを知るものは少ない。
ドジっ子を装い一夏の入浴中に乱入。
酔ったフリして一夏が眠るベッドにダイブ。
メイド服(フリフリver)での一夏ご主人様へのご奉仕。
もうヤケクソ気味に黒のボンテージを装着しての女王様プレイの強要。
しかし、何をしても、どうあがいても鈍感王には通用せず……。
自分はそんなに魅力がないのか。何か女性として欠けているのではないか。もしかして女としてあの酢豚以下なのではないか。メイドであり友であり姉であるチェルシーの膝に顔を埋めながら涙するセッシー。
この子こんなに脳内お花畑だったっけ?
恋に暴走するセシリアを間近で見ながら、チェルシーは魔境IS学園を経て、かなりのアホの子に変わってしまった主人の姿に驚愕することとなった。
だがチェルシーは知らない。性格が終わっているオリ主に、仕方ないとはいえ偽りの笑顔と、おべっかを使い続ける日々がセシリアにとってどれほど屈辱で辛いものだったことか。そんな日々の中で一夏と一緒にいる時の時間がどれほど心を浄化してくれたことか。オリ主がクソであるほど、一夏への恋慕の想いがどれほど大きくなっていったか。それはあのORIとの日々を体験した者でないと分からないのだろう。
それこそがORIフライエフェクト。
迷惑にも原作側に何の断りもなく、異世界から喜び勇んで
まぁでもとにかく、たとえそんなアホの子にジョブチェンジしようと、チェルシーにとっては大事な主人であり、大切な友人であり、可愛い妹に変わりはないのだ。
恋の病に侵されたセシリアのアホっぷりに若干呆れながら、そして悲しいことに自分も同じアホ色に染まっていくのを自覚しながらも、チェルシーは彼女の為に変わらぬサポートをしていくと誓ったのだった……。
そうして時にメイドとして主人を優しく慰め、時に友人として弱気な友に発破をかけ、時にお姉さまとしてお馬鹿な妹をビンタして、ずっと後押ししてきたのである。
だが時とは無情なもの。二人の努力も実らず、何も進展もないまま、一夏が日本に帰ってしまう日が刻々と近づいてくる。
「こうなったら淫獣一直線の強烈な媚薬でも使いますか?もしくは著名な催眠術師にでも頼んでメロメロになるよう暗示かけてもらうとか」
もしかしてセシリアの想い人ってガチのアッチ系なのでは?
口に出かかった禁忌の思いを抱きながらも、最後の手段として提案するチェルシー。もうなりふり構わず金に物を言わせてどうにかするしかないんじゃね?と。
しかしセシリアはそれに首を振らなかった。
彼女はそこでようやく気付いたのだ。クスリだの催眠だの、そんなことよりもっと大切なこと。それは正面から自分の気持ちをありのまま正直に伝えることだと……。
いやメイドご奉仕や女王様プレイやる前に気付きなよ。
そう心の中でツッコんだチェルシーだったが、主人思いの彼女は何も言わず、母親のような慈しむ笑みと共にそっと極薄タイプのコンドーさん(英国ver)を手渡した。どんな時も用意周到に。それが出来るメイドの条件。
だがその明るい家族計画の品を『大丈夫。必要ない』というような強い意志で断ると、決意を以ってケツを揺らしながら一夏の部屋に向かうセシリア。
え?マジ?避妊しないの?嫁入り前の貴族の当主がさすがにヤバくね?そう焦るチェルシーに背を向けて歩いていくセシリア。いつのまにやら大きくなった背中とデカ尻。その確固たるケツ意を感じたチェルシーは、もう何も言えずただ心の中でエールを送るしかなかった。
そして正面から全力でぶつかったお嬢様は最後の賭けに勝ち、二人は結ばれたのである。
コップを壁に当ててその一部始終をハァハァしながら聞いていたチェルシーは、主の成長と幸せを思いただ静かに涙を流したのであった……。
それが昨夜のこと。
男と女。その裏には様々な思惑が入り混じった沢山のドラマがあるものなのだ……。
「おはよーございます!」
そして夜が明けた今、ヤっちゃった責任とこれからの関係について頭を悩ます生真面目な一夏くんをよそに、部屋の扉を蹴り開けて登場するチェルシーさん。
「いいっ?チェルシーさん?これは……その……」
「うわーなんですかこれはー(棒)」
わざとらしく驚いて見せる。ご主人の秘密を覗くはメイドの宿命也。家政婦はミタ。
「ち、違うんです。これは……」
「ああー何てことをー(棒)」
頭を抱えるフリをする。見事な大根っぷりだがテンパった一夏は気付かない。
「嫁入り前に傷物にされるなんて。もうオルコット家はお終いですー(棒)」
「ええっ!」
「こうなったのも私の責任。もう死んでお詫びするしかないですー(棒)」
「そ、そんな!」
「さよなら、さようならー(棒)」
「待ってください!今回のことは全て俺の責です!俺に出来ることなら何でもします!男としてこの責任はどんな形であれ絶対に……!」
「あっそうですか。じゃあこの書類にサインを」
いきなり真顔になって書類を差し出してくるメイドさん。頭がテンパったままの可哀想な一夏くんは言われるままに該当箇所にサインをする。
「よし。それじゃあ後の手続きはこっちでしておきますので」
「はぁ……」
「これからも末永くお嬢様を……セシリアのことをよろしくお願い致しますね」
「はぁ……?」
「ではこれで。どうぞごゆっくり」
恭しく一礼すると、去って行くメイドさん。一夏は混乱する頭でアホ面を晒し呆けたままそれを見送るしかなかった。
そんな騒動の中でも彼の隣に眠るお姫様はというと、幸せな顔をして眠ったままだった。
そしてこの日を境に織斑一夏は、イチカ・アーサー・オルコットとして新たな人生を歩むことになったのである。
たまにはオリ主の登場しない息抜き的な話を。
無数に埋められているORIという地雷を踏まなければ、誰を選んだとしても相手を幸せにし、自分も幸せになれる。それが織斑一夏という男だと思います。
ま、実際はオリ主の手によって地雷原の上で危険なタップダンスですけど…。