「
「っ…!オリ主っていつもそうですね…!
織斑一夏が魔境IS学園を卒業して三年。冬。
「わたくし妊娠しました」
既に寒さが厳しくなってきた初冬。深刻そうな顔をしたセシリアに大事な話があると言われた織斑一夏改めイチカ・アーサー・オルコットは、その衝撃の事実を突きつけられ唖然とする他なかった。某メイドさんの暗躍によって、正式の恋人を通り越して籍まで入れた二人にとっては、もはややましいことなど何もなく、その後も若さにかまけて何度も2身合体に励んでいたが、それ以降はずっとコンドーさんのお世話になっていたのに。それがあのたった一度で目出度く到達してるとは。どうやら一夏のワンサマーは種の保存によほど優秀らしい。
「そ、そう……か。妊娠……」
「はい……」
清く正しい少年が好む童貞チックなラブコメなんかでは、ここで無条件に「イエーイ!」などと喜び抜かしやがるかもしれないが、現実はそんなに甘くない。子供を授かるというのは最高の喜びであると同時に、物凄く責任を伴うものなのだから。しかもそれがまだ大人として未熟な二人とくれば尚更である。
一夏は考え込むように眉間に手をやる。
先日日本に居る姉に「俺結婚しちゃったかも」と恐る恐る電話したが、その姉に「この忙しい時にふざけた冗談でかけてくるな!」と信じて貰えずブチ切られたばかりなのに。次は更に話のレベルを上げて「俺子供出来たかも」って重ねて伝えねばならなくなってしまった。こんなの伝えたらマジで殺されないだろうか?
「一夏さん……」
そんな自分の動揺を感じたのか、一夏はセシリアが泣きそうな顔でこちらを見ているのに気付いた。そうだ、何を考えているのだろう。誰よりも不安を抱えているのは子を宿したセシリアの方だというのに。
ならば今俺がすべきことは……。
「セシリア」
「……はい」
「身体は大丈夫か?」
「えっ?は、はい。今は何も問題は」
「そうか。じゃあ俺と一度日本に帰ってくれないかな?」
「日本へ?」
「ちゃんと直接俺の口から報告したいんだ。俺の親代わりは今までもこれからも千冬姉だから」
「織斑先生に……」
「ああ。素敵なお嫁さんと……大切な子供を授かったって。胸を張って、伝えたいんだ」
「一夏さん……!」
「一緒についてきてくれるよな。セシリア」
「はい!」
そうして抱き締め合い愛を確かめた二人は、数日後準備をまとめ日本に向け旅立った。
手を繋ぎ千冬の下に向かった二人。ありのままの事実を伝えると千冬は卒倒し、目を覚ました後に案の定一夏はブン殴られた。姉にKOされ泣き顔のセシリアに膝枕されながら心配される一夏。そんな二人を暫くじっと見ていた千冬だったが、やがてセシリアに近づくと頭を下げた。
「こんなどうしようもない男ですが、どうか弟をよろしくお願い致します……」
教師としてではなく、姉として、親として、家族として。最愛の弟を託す。
そうしてかつての生徒に深く深く頭を下げる千冬。その千冬の想いを汲んだセシリアは、涙を溜めながら強く頷いたのであった……。
その強き女性二人の美しい光景を見ながら、一夏はよかったと安堵する。
明日は三人でお祝いしよう。どこか美味しいものでも食べに行こう。でもその前に奥歯がグラグラするから歯医者に行かなきゃな、と思った。
「セシリアー。リンゴでも剥こうかー?」
「いえ、おかまいなく」
「寒くないか?体は冷やしちゃだめだぞ」
「もう一夏さん。そんなに気を使わないで下さいませ」
「けどさ。もうセシリアだけの身体じゃないんだから」
「まだ先のことですわ。今からそんなに気を張っていたらもちませんわよ」
「そうは言うけど……ん?電話か」
日本に戻ってきてから4日が経過した日。千冬が仕事に出て、久しぶりの実家でセシリアとまったり過ごしていた一夏の下に鳴り響いた携帯の着信。画面に表示された名前を見て、腐った酢豚を食べたような顔になる一夏。それは即ちオリ主からの電話だった。
君がッ!出るまで!鳴らすのを止めないッ!
オリ主とはそんなジョジョ的ストーカー野郎であるので、居留守が使えないことが経験上分かっていた一夏は仕方なく電話にでる。
「もしもし……」
『よぉ俺だ。俺、俺』
オレオレ詐欺のように謎の俺をアピールをするオリ主。
ところで唐突に質問です。オレオレ詐欺と異世界転生のORIORI詐欺。その共通点とは?
答え。どっちも吐き気を催す邪悪にございます。
『お前こっちに戻っているんだってな』
誰から聞いたんだよ、まだ帰ってそう日も経ってないのに。
当たり前の疑問を思う一夏。だが一夏の全てを知り、全てを知りたがるのがオリ主である。その生粋のイチカストーカーたるORIの前には隠し事は出来ない定めなのだ。
『今から時間あるか?あるよな?少し会おうぜ』
「いや、ちょっと、今忙しくて」
剥いたミカンを口に放りながら言う一夏。ぶっちゃけ会いたくねぇ。
『なんだよ。久しぶりに会ってやろうっていう俺の心遣いを無視すんのか?』
「悪い。予定が詰まってて」
『少しくらいならいいだろ。お前と違って忙しい中、こうして時間作ってやったんだぞ』
誰も頼んでないっての。
口にまで出かかった一夏だったが、何とかその言葉を飲み込んだ。
『まぁとにかく近況もかねて会おうぜ。場所は……』
「だから何度も言ってるように今はちょっと」
『あぁ?俺がこんなに言ってやっているってのに……!』
「分かった。分かったよ」
オリ主の声に険が混じり出したのを感じて、一夏は仕方なく了承した。ここら辺は三桁にも及ぶSEKKYOUを受け続けた一夏だからこそ、オリ主の機嫌の移り変わりには敏感に反応出来るのだ。嬉しくないけど。
電話を切ると一夏はため息をついた。
オリ主と出会ったあの魔境を卒業してもうじき4年も経つというのに、未だオリ主の中では自分はていのいい下僕のようなものなのか。たまったものじゃない。
三つ子の魂百までとはいうが、こじらせたORIほど精神的に成長しない存在はいないだろう。周りは刻刻と変わっていくものだというのに。人はいつまでも子供のままじゃいられないというのに。転生人はそこら辺の感覚が希薄なのだろうか?心は永遠のピーターパン!
だがこのオリ主は精神の成長性は皆無のくせに、力だけは際限なく伸びていくから質が悪いのである。学園時から一人異常だったオリ主の力は、卒業後も欲望のまま際限なく上昇し、もはや一人で一国の軍隊レベルとも称されるようになっていた。こんなの滅茶苦茶だ。でもこんな普通じゃありえねーことが起こり得るのがORIの世界なのである。
故に表立って逆らうなり、ヘソを曲げさせたりすれば、その力で何をされるか分からない。もう一度ため息を吐くと、外出の準備をし出す一夏。セシリアはそれを痛ましそうな目で見つめる。
床を同じくするようになってから、夜中に電話で起こされる一夏の姿を彼女は何度も見てきた。外国との時差による迷惑を考えようもしない、まさに自分よがりのファッ〇ン野郎と呼ぶにふさわしい。
そう。オリ主は一夏の都合など気に留めない。原作側の迷惑や苦労などを考えていたら転生オリ主などやってられないのだ。
人の心とかないんか?
直哉くん。それはORIに言っちゃってあげて下さい。
「ごめんな。ちょっと行って来るよ」
「はい。お気をつけて……」
心配そうなセシリアに見送られながら、一夏は心地よい家を出た。
「よぉ。相変わらず冴えない面してるな」
待ち合わせの喫茶店に行ってみれば、出迎えたのはオリ主のニヤケ顔と軽口と言う名の悪口。初っ端からゲンナリすること甚だしい。
「もうじき卒業だろ?イギリスはどうだった?」
「どうって、それなりに楽しかったよ。あっちの暮らしにも慣れたし」
「そう言っても日本が恋しかったんだろ?お前は甘ちゃんだからな」
「別に……」
「まぁなんだ。俺が時々電話してやってたから寂しさも紛らわすことが出来ただろ?いや~俺も忙しい中時間作って電話かけてやるもの大変なんだぜ?マジで。なぁ?お前もそう思うだろ?」
ああそういうことね。
オリ主のチラ見を受けた一夏は理解する。要はありがたくも電話して頂いているあなた様に感謝をしろということですね。分かります。
毎回深夜の2時、3時に強制的に起こされる一夏の都合も考えず、それでも感謝はしろと言う。それが『~してやった』系オリ主の真髄。転生してやった。SEKKYOUしてやった。導いてやった。そんな身勝手極まりない善意の押し付け。誰も頼んじゃいませんよ!
しかしそこで反論しようものなら、大変なことになってしまう。オリ主は決して一夏からの反論や口答えを許さない。「それでも」と某バナージ君みたいに言ってみるだけで、100のSEKKYOUとなって返ってくるのだ。果たして一夏君に人権はあるのでしょうか?
「そうだな。お前のおかげだよ。ありがとな」
だからプロである一夏はぐっと我慢して礼を述べる。とりあえず何でも感謝して頭を下げとけば、それでオリ主はご満悦なのだから。
「まぁ俺はこう見えて友情に厚いからな」
オリ主はそう言って背もたれに身体を預けると、満足げに鼻息を出した。それはかつてのIS学園で何度も体験した光景。一夏が感謝をし、オリ主が踏ん反り返るという。オリ主の中では時間も人間関係もあの時のままなのだろう。そんなことあるはずないのに。
「じゃあ俺の近況を教えてやろうか。日本人として日本の為に尽くすって言ってるってのに、相変わらず俺にはひっきりなしに世界中からスカウトやらが~」
日本人?YOUは転生人というカテゴリーでしょ。そんなツッコミはガン無視でいきなり始まるオリ主のステージ。互いの近況と言いながらも、結局はオリ主によるしゃべりの一方通行。顔を直に合わせた上で己の自慢話を聞かせて悦に入るためのものだ。どこまでも一人よがりな男である。
こういうひたすら自分語りするのが大好きなORIみたいな人って、主に飲み会とかでたまにいますけど、まず間違いなく周りはウンザリしているものです。ので、そういうORI要素のある方は、少し冷静になって空気を読んで周りを見るようにしましょうね。一夏くんとの約束ですよ?
「……とまぁ、皆から頼られ人気があるってのも大変なんだよ。やっぱ辛ぇわ……」
心を無にし黙って聞いていた一夏。ずぅっ~と途切れることなく続いていたORI的自慢話がようやく一区切りしたのを見て、ほっと安堵の息を漏らす。
「そうか。それは凄いな」
「だろ?皆を導いていくのが俺の宿命とはいえ、俺だって辛い時もあるんだ……」
「それは大変だな。じゃあ俺はそろそろ」
「お前なんかには分からないだろうな。選ばれし者が抱える責任と重みが」
まだ続くのかよ。
一夏は立ち上がりかけた体勢を戻し椅子に座りなおすと、とっくに冷めてしまったコーヒーの残りを一気に飲み干した。もう帰りたい。
「お前みたいに女の尻にくっついて、責任やKAKUGOなど全てから逃げてる奴には分からないだろうな。運命に向き合う者の苦悩ってやつがよ……」
特典ホイホイで、家族捨てて人生から逃げて来た人にだけは言われたくありません。
もし一夏がORIと同じ神の視点を持っていたならばこう反論しただろうね。
隙あらば批判や嫌味をぶつけてくるオリ主に一夏は辟易する。
そんなにも自分のことが気に入らないのか。そんなに文句があるのか。
でも、それなら学園の時からどうして自分に構ってくるのだろうか?嫌いなら距離を取るのが普通だ。それに今はもうお互い違う道を歩んでいるというのに。なのに今も尚理由をつけては一人よがりな『友情』とやらを押し付けて何かと干渉してくるのである。
「お前ってさ。もしかして俺以外に友だ……」
少し心が荒んできた一夏は思わずその言葉を言ってしまいそうになり、慌てて自分の口を手で抑えた。恐る恐る伺うが、オリ主は自分の言葉に酔っていて聞いてなかったようなので一安心する。
それは対オリ主における禁句の一つ。
たとえ多くの人が同じように思ってても言えない。言っちゃいけないことがある。言えばプライドと見得だけは異常に高いORIの怒りが有頂天となり、血の雨が降るやもしれないのだ。マジで。ORIの怒りはおさまる事を知らない……。
一夏は気を締め直すと、己に活を入れるためコーヒーを再注文した。
「それでお前の方はどうなんだ?セシリアと少しは進展したのかよ?」
長いORIステージの第一幕が終わり、ようやく話の主導権を相手に向けたオリ主。その言葉と態度には明らかに「そんなことあるわけない」という侮蔑の感情が込められていた。
だが実際は進展どころか籍まで入れて一夏ベビーまで出来ちゃった関係である。
一夏はセシリアとのことを正直に言おうか一瞬迷ったが、いつまでも隠し事はできないし、何より黙っていると後でバレた時にうるさいのがオリ主なので、赤ちゃんのことは伏せて他は話すことにした。
「実はさ……」
運ばれてきたコーヒーに一口つけると、一夏はゆっくりと話し出した。
「ただいま……」
「お帰りなさいませ」
「ああ」
家に帰って来た一夏をセシリアが出迎える。
だがそれに応えた一夏の浮かない顔に彼女は少し不安がよぎった。
「あの、大丈夫でしたか?」
「なにが?」
「ですから、その、あの人と何かあったのかと」
「いや……何でもないよ。大丈夫。ちょっと疲れただけ……」
一夏は安心させるようにセシリアの髪を軽く撫でると、無言で家の奥に進んでいく。歩きながらあの後のオリ主とのことを思い出し、一夏は憂鬱そうにため息を吐いた。
驚いたことにオリ主は一夏の話を聞いてすぐ血相を変え、最後まで話を聞くことなく何故か怒り出したのだった。
なぜお前なんかがセシリアと結ばれるんだ。お前が俺より先に結婚などしていいと思っているのか。お前なぞが俺より先に進んでいいと思っているのか。
そんな理不尽極まりない言葉を吐いて、歯を剝き出しに一夏を糾弾し出すオリ主。一夏はただ驚き呆然とするしかなかった。
何だかんだいっても祝福してくれると思っていた。たとえ関係は歪なものであっても、根っこでは二人は友達だと思いたかった。何より事ある毎に『友情』を持ち出してくるのはオリ主の方だったから。それなのに……。
だが当然ながら一夏は知らないのである。原作の知識を持って転生したこのチーオリは、原作主人公が自分より幸せになるのを断じて許さない。彼らが自分より先に進もうとするのを認めないということを。
それこそがORIなのである。ISにおいて未熟でお馬鹿な一夏は常に自分の後塵を拝し、常に自分の数歩後を顔を下げてついてこなければならない。それがこのオリ主にとっての絶対の理なのだ。
なんという理不尽。なんというORI。
人の心とかn……マジにORIの心は一体何処にあるのでしょうか……。
結局あの後は怒り喚くオリ主を振り切って、半ば強引に店を出てしまった。
一夏はまたため息を吐く。そのことで今後もストーカーの如く付きまとわれ、文句と非難を言われ続けるのだろうか。
一夏は立ち止まると、後についてきているセシリアに振り返る。
「セシリア」
「はい」
「もうイギリス帰ろっか」
「えっ?よろしいのですか?」
「うん。千冬姉にはちゃんと報告出来たし」
つーかこれ以上ここにいるとオリ主が何かしてきそうで怖い。何よりそこまで人間終わってないと信じたいが、何かの切っ掛けでその怒りの矛先がセシリアに向くこともあるかもしれない。それだけは絶対に阻止しなければならないから。
「本当に宜しいんですの?」
「ああ。箒たちにも会えれば良かったんだけど、みんなもう昔とは違うからな。それぞれ俺の知らない新しい生活がある。もうこっちの都合だけで気軽に会えないし」
「でもいつかはまた皆さまにお会いしたいですわ……」
「いずれみんなで集まれる日もくるさ。絶対に」
「ふふ。そうですわね」
「じゃあ千冬姉が帰ってきたら話して、明日帰ろうか」
「はい」
こうして二人は翌日千冬に見送られ日本を発った。
一夏は飛行機から過行く日本の景色を眺めながらオリ主のことを思う。
……思い出の中でじっとしていてくれ。マジで。
どこぞのエセソルジャーのようなことを思う一夏君であったが、残念ながらオリ主は思い出にはならない。オリ主はいつでも
「一夏さん」
そこで隣に座るセシリアがそっと一夏の手を握る。
そうだ。でもどんな困難だろうと愛しい人が側にいてくれるならきっと……。
一夏は彼女の手を握り返すと、決意を新たに前を向いた。
慌ただしい日本への旅を終えて、イギリスに戻って来た二人。
ORIのいないホームに帰って来た安心感と、さすがに千冬の手前イチャつけなかった解放感から、ホテルをとって存分にイチャつく二人。そんなラブラブ空間を切り裂いて、突然鳴り出す悪夢のような電話。ホテルのベッドの中、まるで子供のように固まる。
なんでもないようなORIが幸せだったと思う……(原作の人たちの切実な願い)
『おい!コラ!何で断りもなく勝手に帰ってんだよ!!』
電話口から聞こえる大声に思わず耳から離す一夏。二人の石破ラブラブ天驚拳を邪魔され、不満げな顔をするセシリアを見て一夏は申し訳なく思う。つーか浮気してる亭主じゃあるまいし、なんでこんなに後ろめたく電話に出ねばならないのか。家庭の崩壊はこういう所からは始まるかもしれないんだぞ。
「なんか電波障害起こってるみたいだし切るわ。ごめんまた今度」
早口気味に言って電話を切る一夏。そのまま祈るように携帯を握りしめる。
距離はある。時差もある。なら電波障害が起こっても仕方ないんだ。電波障害は全てを可能とする。
しかしそんな願いも束の間、速攻で鳴りやがる電話。
いっそ電源を切ってしまえば楽なのかもしれない。でもその場合は後が怖い。
知らなかったのか?オリ主からは逃げられない…!
ORIの世界における原作主人公の悲哀。それを身をもって体験する一夏。セシリアはそんな彼をぎゅっと抱きしめる。
どこまでも追随してくるORIの恐怖。
二人は励まし合うように抱き合いながら、ただORIの嵐が過ぎるのを待つしかなかった……。
皆が大人になっていく世界で、ORIだけが成長しない。