オリ主の中の100のケダモノ
織斑一夏が魔境IS学園を卒業して4年。春。
『おめでとー!』
やけに挙動不審な一夏に連れられ、とある小さな飲食店にやってきたセシリアは、薄暗い店に入るや否や一斉のクラッカーと歓声に迎えられた。らしからぬ呆然とした姿を場に晒し、隣に立つ一夏を見上げる。その旦那様はというとニンマリと悪戯が成功した子供のように笑っていた。
「ど、どういうことですの?これは……えっ?えっ?」
「ニャフフフフ。どう驚いた?驚いたって言いなさい。つーかその呆けたアホ面見りゃ分かるけど」
「酢ぶ……鈴さん?」
「今何て呼ぼうとした!?……まぁいいや。とにかくおめでとさん」
「一夏さん?これは……」
「驚かせてごめんな。鈴の提案なんだよ。サプライズパーティだって」
混乱するセシリアの肩に手をやって一夏がネタバレする。
セシリアが渇望していた友との再会。あの魔境で出会えた同士。
オリ主被害者友の会。その苦難苦労を共にした面々が笑顔でそこにいた。
時にORIの世界では白騎士事件が根っこから改変・捏造されて大量殺戮事件となり(でも束さんは悪くないよ!だって白いもん! byO主)その結果特定の原作キャラへの復讐を正当化する『IS被害者友の会』なるものを御旗に掲げる憎しみの狂戦士となった方が現れるそうですが……。
某ひぐらし雛見沢四天王の如く、加害者気取りの被害者ならぬ、被害者気取りの加害者のようにならぬよう、是非とも分別と限度を以って頂きたい所存で御座いまする。
良い子の諸君!
因縁つけて喧嘩売るならせめて強い奴に挑もう。強者(天災)に勝てないからって、憂さ晴らしに弱者(サマーモッピー)に八つ当たりして踏みにじるのは卑怯者のすることだぞ。イジメかっこ悪い。ちふゆせんせーとの約束だよ!
喜色満面にIS世界に転生しておきながら「一夏のせいで入学させられた!全部アイツのせいだ!」とイミフな責任転換をし、一生被害者ヅラして粘着するORIとは違い、正真正銘被害者顔する資格のある原作ヒロインの面々。
そんな彼女たちが仲間の幸せを祝う為に開いた小さなパーティー。久しぶりの再会に皆の顔も当然笑顔である。固まっていたセシリアもすぐに満面の笑顔になった。
4月からの新生活の準備という忙しい時期に、わざわざイギリスにまで来てくれたこと。その意味を分かっているから、セシリアはとても嬉しかった。
「久しぶりだなセシリア」
「箒さん……お会いしたかったですわ」
「元気そうだね。安心したよ」
「ありがとうございます。シャルロットさんもお元気そうで何よりですわ」
「よし。じゃあ食べよう。私はもう腹がペコちゃんだ」
「ラウラさんたら。変わりませんわね」
「アンタもしっかり食べて栄養付けなきゃ。いっそデブリアにでもなっちゃいなさい」
「酢豚さん……」
「おい」
セシリアが本当に楽しそうにしているのを見て一夏も嬉しくなった。
張りが出て来たお腹。母になるということ。最近はそんな不安が感じられていたセシリアだったが、自分には上手くそれを解消させてやれず歯がゆい思いをしていたものだった。やはりこういう時は同じ女性の方がその気持ちを察し、元気づけてあげられるようだ。
「一夏さーん。どうしたんですの?一緒にお話ししましょう」
「ああ。今行く」
セシリアが楽しそうに手を振ってくるのを見て一夏は小さく苦笑する。
自分だって再会は久しぶりなんだ。嬉しくないはずがない。そうして一夏もまた笑顔で皆の下に向かった。
楽しい宴もいつかは終わる。
一日存分に騒いだ後、お別れの時間が近づいてきた。
「じゃあそろそろお開きにしますか」
主催者の鈴が時計を見て宣言する。
「ふぅ。結構喋ったな。ちょっと疲れた」
「箒はこの後どうするんだ?」
「せっかくイギリスまで来たんだから、明日は鈴と一緒に観光でもしてみるつもりだ」
「でしたらわたくしもご一緒に」
「身重の女性を連れまわす訳にはいかないでしょーが。アンタはじっとしてなさい」
「まだ大丈夫ですのに……」
不満そうなセシリアを箒と鈴が慰める横で、一夏はシャルロットとラウラにお別れの挨拶をする。
「今日はありがとな二人とも」
「ううん。ボクも楽しかったから」
「うむ。私もだ」
「ねぇ一夏。これから色々困難もあると思うけど、セシリアとの愛を信じて。愛の力があればどんなことでも乗り越えられるはずだから!」
さすがに説得力あるなぁ。
一夏は力強い彼女の言葉に頷いた。シャルロットとラウラの手はしっかりと握られている。きっと困難とか乗り越えるべき壁とかは、自分らの何倍もあるに違いない。なら泣き言なんて言ってられない。
「ありがとうシャル。うん、俺頑張るよ」
「セシリアをお願いね」
「ああ」
「ではさらばだ一夏。元気な赤ん坊を産むのだぞ」
「産むのは俺じゃないけどな。じゃあなラウラ」
こうして皆はかつて魔境で一緒に過ごしていた大切な仲間との時間を終えた。
何かもう一人よう分からんのがいたような気もするが、誰一人そこに触れなかった。世の中にはスルーしといた方が幸せになることがあるのだ。それが大人になっていくということなの……。
「一夏さん。わたくし友人に恵まれましたわ……」
「そうだな」
都合の良い時だけ友達ヅラしてくるお人に今なおストーカーされ続けられている一夏は、心から彼女の言葉に同意する。セシリアの肩を抱きながら、一夏は皆がいなくなった部屋を見渡し、彼女たちと過ごした日々を思い出すように目を細めた。
その夜。毎度お馴染みオリ主からの悪夢の電話によって叩き起こされる一夏。
嫌々ながらに耳を傾ければ、ストーカーの嗅覚でヒロインらが集まっていることを知り、自身が除け者にされたことに何やら喚いているようだ。
友達って何だろう?
オリ主の罵詈雑言を聞きながら、一夏は友達というものについて考えざるを得なかった。
織斑一夏が魔境IS学園を卒業して4年。夏。
「よく……よく頑張ったなセシリア」
一夏は病室でセシリアに労いの言葉をかけた。その目には涙が光っている。新たな生の誕生、それはとても神秘的なものだった。
「抱いてやって下さい」
既に母親の顔になっているセシリアが我が子を父親に差し出す。
一夏はおっかなびっくりしながら慎重に腕に抱いた。
「おめでとうございます。元気な男の子ですよ」
それを見守っていた看護婦が我が事のように嬉しそうに祝福してくれる。
一夏は無言で何度も頭を下げる。声は出せなかった。唇を噛みしめ、泣きださないようにするだけで精一杯だったから。
これからはこの子の為に全てを捧げて生きていこう。
その小さな命を腕に抱きながら一夏は誓ったのであった。
「では行ってきます」
「今日も病院に寄られるんですよね?」
「ええ」
「では食事の時間もそれに合わせて用意致しますので」
「ありがとうございますチェルシーさん。行ってきます」
「はい。お気をつけて」
一夏ベビーが産まれて二日。二人のキューピットの有能メイドさんのお見送りを受けて、一夏は朝早くから仕事に向かう。入社してほんの数カ月の新入社員の身、掃除に準備にその他諸々やることは山のようにあるからだ。
企業トップのセシリアの伴侶として、彼女はそれに相応するポジションを提案したが、一夏は頑なまでにそれを拒否し、他の一般社員と同じ待遇を望んだのだった。そのような
よっしゃ転生や!俺最強!あの特典をつけて!この設定もつけて!あれも欲しい。これも欲しい。
……そんな風に全てお膳立てしてもらう人生ってそんなに良いものでしょうか……?
「よし。今日も一日がんばるぞい」
男がやってもあまり嬉しくない言葉とポーズをとりながら気合を入れる一夏。
大事をとって病院にいる妻と我が子に会うことを支えに、今日も頑張ろうと思った。
『そうか。産まれたのか』
「ああ。おかげさまで元気に」
今日も一日頑張った一夏くん。そんな中またも唐突に深夜に鳴り響くORIからの電話。学生時ならともかく社会人の都合も考えられないのはORIの人生経験の未熟さ故だろうか。だがいつもは迷惑以外何ものでもない電話も、今回だけは嫌な気持ちにはならず一夏の口も滑らかに動いていた。やはりどんな相手であれ良い報告が出来るのは嬉しいことであるから。
「いや~感動的だったよ。今でもまだ少し信じられないんだよな、俺が父親になるなんて。でも子供を抱いたときにさ、俺はこの子の為に……」
『聞いてねーよ。そんなことどーでもいい。それよりどっちなんだよ?』
いつも一方的に長々と話す癖に、こっちからの話は少しも聞く気はないのか。
ムっとした一夏だったが、言っても仕方ないことなので黙っておく。
「どっちって、どういう意味だ?」
『だから性別に決まってんだろ。当然女の子だよな?そうに決まってるよな』
「は?」
『まぁあれだ。お前の娘ってのは気に入らないところではあるが、それでもセシリアの血を引いてるならルックスの良さは約束されてるようなものだからな。将来が楽しみだなぁ……へへ』
「……おい。何言ってんだお前」
オリ主のあまりに気持ち悪い物言いに、珍しく一夏の声に怒りが混じる。
『あん?何急にキレてんだよ』
「変なこと言うからだろ。それに産まれた子は女の子じゃない。男の子だ」
『男ぉ~!?』
オリ主が突飛な声を上げる。
『なんだそれ?ふざけんなよ。失敗だろそんなの』
「失……敗?」
『ありえねー!普通子供つったら娘だろ。それを男って……ありえねーよそんなの』
「……」
『可愛い娘とデートする。百歩譲って子供作るならこれだろうがよ。男のガキ作って何の楽しみがあるってんだ?意味ねーだろそんなの』
「……」
『んだよ。娘だと思ったからお前のガキでも可愛がってやろうと思ってたのに。つまんねーな』
「……」
信じられないオリ主の言であるが、これがこのオリ主の平常運転なのである。なぜならORIの世界ではオリ主の兄弟姉妹とは妹のみを指すものだと決まっているからだ。かわいくて、兄LOVEで、倫理観皆無で、ちょっと頭の弱い妹。そう相場は決まっているのである。
故に男なぞ論外なのだ。ORIファミリーに男の居場所などないのだ。父も兄も弟も息子もいらない。欲するのは可愛い妹、若しくはきゃわいい娘。これがこのORIの中での絶対真実なのだから。
(麗しい)女性は無条件で尊び、男は踏みにじり唾を吐く。嗚呼何と素晴らしきかな女尊男卑。なんかORIの世界にしょっちゅう出てくる、常識を無視した女性至上主義委員会の連中に喧嘩売る前に、同士の握手でもした方が宜しいのでは?と思ってしまう。それに学園での一夏イジメに励むオリ主の姿を見れば、多分あっちの方から仲間だとシンパシー感じてくれるのではないかと。
一夏はオリ主のキモさ100%の言を無言で聞いていた。
怒りもあった。キモさもあった。でもそれよりも大きい感情は……恐怖だった。
一夏は思い出していた。この電話の相手は学生時代ラウラに対し、同学年の同性代の少女に対し「お兄ちゃん♪」と呼ばせることを提案し、しかも最後は「パパぁ~」との呼称を提案した業の者。つーか変態だったことを。
普通の感性を持った人間なら、たとえ願っていても絶対にやらないやれない。同学年の少女に「お兄ちゃん」「パパ」呼ばせという悪魔の所業。そんなロリコ……かどうかは知らんが、とにかく普通じゃないヤベー奴だったということを今更ながらに思い出したのである。
もし産まれたのが息子じゃなく、娘だったらどうする気だったのだろうか?
その考えは一夏を恐怖に陥れる。さすがにそこまで人間止めてないと信じたい。でも学生時のあのラウラへの一連のドン引き行為が、その信じたい気持ちを許してくれない。
自分のことだけなら我慢は出来た。理不尽でもその対象が自分一人ならそれで良かった。でも何の罪もない愛する子供まで、オリ主に絡めとられるのだとしたら……。
オリ主の聞くに堪えないキモ発言は続いている。
それを右から左へ聞き流しながら、一夏は決心した。
こいつとは縁を切った方がいいと。
「お帰り。お疲れさま」
「はい。一夏さんにもご心配をおかけして」
「なぁセシリア。帰って来て早速で悪いけど、少し話しておきたいことがあるんだ。いいか?」
「えっ?はい。何でしょうか?」
セシリアが退院し子供と共に帰って来た日のこと。そのようなお目出度い日であるが、一夏は決意したことを彼女に話すことにした。
オリ主との関係を断ち切ろうと思っていること。そうすることへの報復の不安は尽きないが、それでも家族の為にそうすることを決めたこと。近日中に日本に行ってオリ主と直接話をするつもりだということ。それらを心のまま正直に話した。
「ようやく決心して頂いたのですね……!」
話し終わるとセシリアは目に涙をためて一夏に抱きついてきた。
前は女として、今は母として、オリ主が身近にいることの脅威を一番感じていたのは他ならぬ彼女だったから。だから一夏が自分たちの為にそう決断してくれたことが何より嬉しかった。
一方彼女を抱きしめながら、一夏は厳しい顔でこのミッションの難しさを考えていた。
今や個人で一国の軍事力に匹敵するというトンデモ設定と化したオリ主。もはや人間じゃねーだろ、というツッコミを誰もが怖くて口に出さないだけで、胸に抱いているほどの超人魔人である。
一般の友人関係のように、嫌いになったからハイ終わり……というわけにはいかないのだ。後腐れなく関係を終わらせなければ、その巨大な力を八つ当たりにこちらへ向けてくる可能性が非常に高いからである。
この転生チーオリとの関係は築くのはたやすいが、切り離すのはとても難しい。
それはアンチ・マウントの対象であったとしても、原作キャラはORIに対しとにかくへいこらして持ち上げとけば『救済』という名のもとに関係を結べる道が残されているからである。
しかしその関係を原作側から終わらせるのはとても難しい。なぜなら原作を見下し、且つ妙なプライドの塊であるこのオリ主にとっては、どんな些細なことでも自分を拒否されるということに耐えきれず、そうしようとした相手に物凄い憎しみを抱くものであるからだ。要はマンドクセーMAXの男なのだ。
いくらオルコット家が財閥とはいえ、今や世界の理さえ超え、秩序を破壊する者として恐れられているオリ主に睨まれればどうなるか分からない。一歩間違えて決裂すれば本当にORIの怒りの矛先が、自分だけではなく会社や妻や子供にまで及ぶかもしれない。
それでもやると決めたのだ。一夏はセシリアを抱く手に力を込める。
妻の為、何より子供の為、ORIとの決別を決意したのだから。
「セシリア。すまないが一緒に考えてくれないか。どうすればいいのかを」
「はい。分かりました」
一夏の思いにセシリアも同じ心で以って応えてくれた。
そうだ。自分は一人じゃない。今は妻がいる。息子がいる。それは大きな力になる。
一夏は来たるべきORIとの最初で最後の戦いに向け、拳を握り締めたのだった。
オリ主ってマウントやSEKKYOUやKAKUGOの最中なんかに、ふと冷静になって「あれ?俺今キモイこと言ってない?」とか「こんなことしてる俺と友達になりたいやつっているのかな?」って思ったりしないのだろうか?
……するわけないか。自分大好き人間だし。