妖精魔界戦記ディス・アヴァロン   作:サンダーボルト

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モルガン達に聖杯あげようか悩んでます。


帰還

 魔王と女王、両者が初めて相まみえた最初の地。今はただの瓦礫の山と化したキャメロットの前にモルガンとコバヤシは転移した。

 

 

「まずは我が城を建て直しましょう」

「おう。と言っても暫くかかりそうだな。先にお前が戻ってきたのを妖精國全部に知らせるか?」

「問題ありません。投影魔術を用いてすぐに建てられます」

「…………なんて?」

 

 

 何言ってんだコイツ。コバヤシは信じられないという目でモルガンを見やる。

 

 

「投影魔術というのは、魔力を用いて物質を――」

「いやそれは分かってる。だが城だぞ?設計図とか見取り図とか無いだろ」

「?すべて頭にありますよ。我が城キャメロットは住居であると同時に、私専用の巨大な魔道兵器でもあるのです

 ロンゴミニアドを効率的に使用するために城や周囲の住居全てに術式が埋め込んであるのです。私の今の魔力ならば、更に改良したキャメロットを即座に投影可能です」

「お前、何当たり前みたいな顔して……いやもういいや」

 

 

 一つの都市を瞬時に作り上げられるというモルガン。当然ながら魔王だってそうそう出来やしない芸当を前に、コバヤシは追及を止めた。

 

 

「んで、改良って言ってたけど具体的には?」

「まずはロンゴミニアドの増設ですね。前は12基ありましたが、私の魔力の強化に合わせて100倍にします」

「全部で1200基……どう配置する」

「大穴を囲むように配置して、それと他の外敵にも対応できるよう仰角も広くしましょう」

「外側の城壁にも付けたらどうだ?」

「必要の際には、砲台ごと建物を動かして城壁側に再配置できます。置くのは大穴だけでよろしいかと」

「あー……そうか」

 

 

 正に要塞都市だ。やり過ぎだと思わなくもないものの、魔王級の相手を想定しているならこれも致し方ないと改造を認める。

 

 

「それより、私達の部屋はどうしましょうか」

「部屋?」

「ええ。やはり夫婦なのですから寝室は一緒にするべきかと思いますが」

「ここに泊まる気は無いぞ」

「恥ずかしがらずとも。私達の部屋は誰にも邪魔されないよう、他の部屋とは距離をとった場所に配置します」

 

 

 モルガンは距離を詰め、コバヤシの腕を取って自分の体で抱くように絡めてくる。

 

 

「わざわざ気を遣ってくれてありがとうよ。でもミニ魔界あるし要らんから」

「そうですか……。でもいずれ、凄い部屋を作りましょう」

 

 

 あっさり引き下がったと見せかけて、諦める気ゼロである。流石モルガン。さすモル。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

『妖精國に住まう全ての者。この私、モルガン・ル・フェの言葉を聞くがよい』

 

 

 世界の端から端まで届く声。妖精國に君臨する女王の帰還が、他ならぬ彼女自身から告げられる。

 

 

『私は魔界へと赴き、再びこのブリテンを支配する為に帰ってきた。

 

 崩壊したキャメロットは既に復活している。いや、更なる強化を施して生まれ変わったと言っていいだろう。

 

 明日、我が城にて新たなブリテンの誕生を宣言する。氏族長、三十の大使、百の官司の出席を命ずる。

 

 これに背く愚者はいないだろうが、もしこの命令に背く者がいるのなら、その者の命は明日までだと知れ。

 

 尚、氏族長については妖精騎士の迎えを出す。以上だ』

 

 

 それは一方的な宣告だった。

 

 ある者は我等の女王が帰ってきたと歓喜した。

 

 ある者は新たなブリテンの誕生に困惑した。

 

 ある者は残忍な支配者が帰ってきたと悲観した。

 

 ある者は予言が覆ったと混乱した。

 

 あらゆる感情が妖精國を駆け巡るが、女王の命令とあらば従う他無い。それが妖精國の定めなのだから。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 翌日。玉座の間へ続く通路を多数の妖精が歩いていく。先導する妖精騎士の三人。五人の氏族長に急遽選ばれた大使と官司が後へ続く。

 

 

「ああ、陛下……私は信じておりました。魔王、などという輩にあの方が負ける筈がない。必ずや我々の元へお戻り下さると……!」

「一人でブツブツ言ってるんじゃねーよクソイヌ」

「黙れ!!これが喜ばずにいられるか!!やはり我々の王はモルガン陛下をおいて他にはいないのだ!!」

「ウッドワスったら、モルガン陛下がお戻りになられたのが本当に嬉しいのね」

 

 

 やたら興奮気味の牙の氏族長ウッドワスと、それを微笑ましそうに見つめる風の氏族長オーロラ。

 

 

「仕方ありますまい。陛下や妖精騎士のお三方が姿を晦ました後、妖精國を取り仕切っていたのはウッドワス殿なのですからな

 その後もマンチェスターの消失、騎士ランスロットの一時帰還等々、我らのブリテンは荒れておりましたから」

「フン。この程度、陛下が受けた苦痛に比べる程でもない」

「しかし、普段滅多に顔を出されないお二方がここにいるというのは、陛下のお話に余程興味がおありのようですな?」

 

 

 土の氏族長スプリガンの視線の先に映るのは、モルガンと覇権を争う王の氏族長ノクナレア。そして流行と娯楽の町グロスターを治める翅の氏族長ムリアンの二人だった。

 

 

「ええ。わざわざ私の領地まで使いを出してくださったのだもの。それを断るというのは失礼でしょう?」

「妖精騎士を護衛に付けてまで来いというのですから、その重要性を尊重したまでです」

 

 

 涼しい顔で答える二人だが、その心中は穏やかな物ではなかった。

 

 

「(冗談じゃないわ……私の衛士達や近衛兵の全てを振り切って、私の目の前にランスロットが飛び込んでくるだなんて。そんなの断る選択肢なんて用意されてないじゃない!)」

「(……グロスターの町の外から私の部屋の中への狙撃。これもう脅迫ですよね……。妖精騎士トリスタン……下級妖精と侮っていましたが、ここまでの腕前とは思ってもみませんでした)」

 

 

 戦いに来た訳ではないので、エディンバラの兵士達が見えない速さで飛び込んで行って『来るよね?』と笑顔で告げたメリュジーヌの手を取ったノクナレア。自室で直接行くのを拒否したら、一本の光の矢で机の上のペン立てを撃ち抜かれ、『出てこい』というバーヴァン・シーの圧に負けたムリアン。今日の会議は一筋縄ではいかないと二人が腹を括った所で、一行が玉座の間へ到着する。

 

 喜色満面のウッドワス。微笑みを絶やさないオーロラ。冷静なスプリガン。覚悟を決めるノクナレアとムリアン。

 

 重厚な扉がゆっくりと開かれ、玉座に座る王者の姿が彼等彼女等の目に入る。

 

 そこにいたのは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「遠路はるばるお疲れさん」

 

 

 頬杖をついて座る一人の人間だった。

 

 

 『――――――――は?』

 

 

 妖精達の総意が口から抜け出す。妖精の女王の席に人間が座る。不敬どころの話ではない。そもそもどうやってここに入ったのか。近くにいる女王の近衛兵は何をしている?

 

 疑問が大量に押し寄せてフリーズ状態になる妖精達の中で、一番早く再起動を果たしたのはウッドワスだった。

 

 

「キ……キサマッ!!!何処の輩か知らんが今すぐ退けッ!!!その玉座はモルガン陛下以外に座る事は許されん!!玉座を汚すな、人間風情が!!!!」

 

 

 八つ裂きにしてやると言わんばかりの剣幕で詰め寄るウッドワス。理性で抑えようにも治まらない激情を見せる彼を、コバヤシは無感情にじっと見て呟いた。

 

 

「真っ先に噛みついてきて、出てくる言葉がそれか。成程、妖精にしてはマシだな。モルガンが忠臣だと自慢してくるワケだ」

「――な、なに?」

 

 

 戦闘力に長けた牙の氏族長であるウッドワスの怒声を浴びて、屁とも思わぬ豪胆さに怒りをぶつけた本人が困惑する。それ以外にもモルガンが自分を忠臣だと自慢していたという部分が大いに気になるが、他に問いたださなければならない事がある。

 

 

「コバヤシ、段取りが違うじゃねーか。お母様はどこ行ったんだよ?」

「会議用の化粧の仕方忘れたとかで、化粧直しに行ってるとこだよ。城の構造を丸暗記してる癖して、なーんで化粧を忘れるかね……」

「マジか、お母様可愛すぎだろ。それでコバヤシは代わりに玉座に座ってたんだ」

「まー、ここにずっと座ってたモルガンの気分を一度味わってみたくてな」

「ふーん。どう?気分良かった?」

「いやぁ、最悪の一言だわ」

 

 

 よっこらせ、と玉座から降りたコバヤシは顔を顰めて伸びをした。

 

 

「顔を上げれば見たくもない妖精共の顔がうじゃうじゃウジャウジャ……それで後ろからは洒落にならないモンが漂ってくるし。よくもまあ、2000年も座り続けられたと思うよ」

 

 

 玉座の後ろの窓から大穴を覗くコバヤシ。隣にバーヴァン・シーがひょっこり顔を出した。

 

 

「え、何?あの穴の中にそんなにヤバいもんあるの?って、キャッ!?」

「はいはーい、良い子のトリスタンは離れてましょうねー」

 

 

 バーヴァン・シーを抱えてコバヤシは窓から距離を取る。万が一、億が一を考えて当然のリスク回避である。

 

 

「コバヤシ、僕は今日お仕事頑張ったよ。僕にもご褒美があってしかるべきじゃないかな」

「うるさい引っ込めよランスロット。今は私の番だ。大体お前、オーロラの騎士だって自分で言ってたじゃねーか」

「そうだね、僕はオーロラの騎士だ。でもそれはそれとして抱っこを所望するよ」

「高い高いしてやるから機嫌直せ」

「わーーーーい!!」

 

 

 不機嫌顔で飛び込んできたメリュジーヌが、コバヤシによって高い高いされて喜んでいる。

 

 それでいいのかメリュジーヌ。

 

 お前は自力でもっと高いところまで飛べるだろメリュジーヌ。

 

 

「な…何をやっているんだ奴等は!?特にランスロット…貴様はオーロラの騎士だというのに、人間に媚びを売りおって……!」

「まったくだ……なんと羨まsじゃない、けしからん」

「……今なにか言いかけなかったか、ガウェイン」

「言ってない」

 

 

 ウッドワスの追求から逃れるように、顔を背けるバーゲスト。

 

 

「どうやら侵入者ではなさそうですな。しかし、妖精騎士が人間に絆され、狼藉を働くのを見逃すなど、他の妖精達にも示しがつかないのではないですかな?」

「お前の心配は杞憂だ。陛下からも伝えられる事だが、このコバヤシは我々妖精騎士を退け陛下すら倒したお方だ。それにコバヤシは今後、陛下の夫として迎えられる」

「………………今、なんと?」

 

 

 バーゲストの発言にスプリガンが呆気に取られる。爆弾発言の数々に、計略を得意とする彼の頭も限界にきているらしい。

 

 

「――まあ、貴方。もしかして、騎士ランスロットが言っていた魔王様なのね!」

 

 

 虹色の翅をはためかせながら、オーロラが前に出てきた。

 

 

「初めまして、魔王様。私は風の氏族――」

「オーロラ。こっちに来ようか」

 

 

 コバヤシの手から飛んできたメリュジーヌが、オーロラの手を取って早足で離れていく。

 

 

「あ、あら?どうしたの私の騎士様?」

「うん。僕はオーロラの騎士ランスロット。君の命を全力で守っているんだ。だからここにいてくれ頼むから」

 

 

 集団の一番端へオーロラを移動させ、固く手を繋いで離さないメリュジーヌのファインプレーに続き、コバヤシの視界にオーロラが入らないようにバーゲストが恵まれた体躯を活かして視界を塞ぐ。

 注意深くコバヤシを観察していたムリアンが、オーロラが出てきた時のコバヤシの目を見て小さな悲鳴を上げていた。

 

 

「コバヤシ、コバヤシ?落ち着きましたか?」

「――――おお。平気だ、平気。大丈夫。気を遣わせたな」

「いえ、お気になさらず」

 

 

 コバヤシの気性を確認するバーゲスト。よく見ると、額には汗が浮かんでいた。

 よく分からないが、何かしらの爆発は避けられたのだろうとムリアンは結論付けた。

 

 

「……待て。夫?夫と言ったか!?どういう事だ!陛下の夫となる人間の名はベリル・ガットだったはずだ!奴はどうした!?」

「ああ、離婚したよ」

 

 

 ウッドワスの問いにコバヤシは簡潔に答えた。あまりにもあっさりとした答えだった。

 

 

「離婚って言っても、元々形だけの関係だったみたいだし、そもそも相手の許可も貰ってないけどな。まあ、もう死ぬまで夢の中だろうから許可なんか要らんだろ」

「可哀想なレッドベリル……。私、彼とは仲良しだったからあんまりだと思うわ」

「そう言うなよ。自由にさせたら邪魔にしかならんし、死ぬまでは夢の中でたっぷり楽しんでるんだからこれでも情けはかけてるんだ。一応、モルガンを呼んだ功労者でもあるからな。

 あのニュー・ダーリントンとかいう趣味の悪い見世物小屋はぶっ壊したがな。あー胸糞ワリィ……」

 

 

 ニュー・ダーリントンが潰されたというのは、氏族長達にとっても朗報と呼べるものだった。毎日殺戮が行われていたあの場所とモルガンの元夫は、全員から嫌われていたのだから。唯一の例外はバーヴァン・シーだけだ。

 

 しかし、代わりに出てきたのもまた人間。三人の妖精騎士がその存在を認めているのだから、夫というのも狂言でもないのだろう。

 

 

「ニュー・ダーリントンを消した、というのならば。同じ夫でありながら、あなたはベリル・ガットとは違う立ち位置なのですか?」

「そうなるな。なんか、()()()()()()()()()()()()になるんだと」

 

 

 場がざわめいた。モルガンと同じ立場という事は、妖精國が妖精と人間に支配されるという事だ。

 

 

「ば、馬鹿な!?女王陛下は何をお考えなのだ!?」

「よりにもよって人間に、この妖精國を任せるというのか!?」

「ベリル・ガットは一つの町だったからまだ良かった!それがいきなり頂点に人間を置くなど!!」

 

 

 喧々諤々。玉座の間は妖精達が騒ぎ立てる場に早変わり。ウッドワスやノクナレアは降って湧いた人間の魔王を睨みつけるが、彼は隣のバーヴァン・シーと共に騒ぎ立てる妖精達を眺めて顔を顰めさせていた。

 氏族長である自分達を意に介さない態度に腹も立ったが、有象無象の妖精とは違うという自負も持っていた為に騒ぐような真似はしなかった。

 やがて矛先がコバヤシへと向かい、一人の牙の氏族が詰め寄った。

 

 

「おい人間!!いかに女王陛下より任命されたとはいえ、自分の立場を弁える事だ!」

「はーーーーー……」

「人間など所詮下等生物!我らに飼われているに過ぎぬ存在!貴様の全てを我らに捧げ」

「やかましい」

 

 

 目の前のうるさい存在の口を片手で鷲掴み、黙らせる。牙の氏族は驚き、次いで怒りで口から手を外させようと藻掻くも外れない。その鋭利な爪も、逞しい足から繰り出される蹴りも、衣服に傷一つ付けられず、魔王の体を僅かに揺らす事すら叶わない。

 

 

「自分らがそんな大層な存在だと思ってんのか、歯車にもなりやしない世界のゴミの分際でよぉ。

 誰が好き好んで、お前らみたいなのの面倒見るかよ。モルガンが欲しがらなけりゃ、ブリテンなんざ妖精諸共、塵にしてやれるのに……」

 

 

 相手にするのも面倒くさい。倦怠感すら滲ませながら、魔王はゆっくり歩を進めた。押さえられた哀れな牙は拮抗すらできずに後退し、騒ぎ立てていた妖精達は関わり合うのを恐れるように道を開ける。

 

 

「立場を弁えろ、カスみたいな力しか能の無い雑魚が。弱者は強者に従うだけ。だったら黙ってモルガンに従ってりゃいいんだよ。

 ブリテンを良い方向に回せない癖に、反抗心だけ持ちやがってクソ妖精共が……」

 

 

 激しい音を立てて、魔王は手に持った妖精を壁に押し付けた。ガッチリと塞がれ、空気の通り道の無い口からは悲鳴すら漏れない。肉に指が食い込んでいく。魔王の力は一層強まっている。

 助けを求めて妖精騎士を見るも、誰も動こうとはしていない。メリュジーヌはオーロラのお守り。バーゲストとバーヴァン・シーは呆れた表情。女王の側近の妖精騎士にも既に事情は説明済みなので、コバヤシの邪魔はしない。

 

 

「…………まあ、お前らにそういうの考える頭が無いのも分かってた事か」

 

 

 コバヤシが手を放し、牙の氏族は地面に崩れ落ちた。振り返ったコバヤシに広間に居る者の視線が集中する。

 

 それを受けて笑う。コバヤシは笑う。貴様らなぞ道に落ちている小石も同然だと魔王は嗤う。

 

 

「今日から新しいブリテンが始まる。今まで自由に生きられて良かったな。モルガンがいないちょっとの間、良い夢は見れたか?

 

 支配者面で無能がのさばる世界は終わる。妖精なんてもう、大した事の無い存在になる。

 

 氏族長の奴等もそうでない奴等も、頭の中で何か企んでる奴等も頭空っぽの奴等もご愁傷様。

 

 俺とモルガンが戻ってきた時点で、一部を除いてお前らの企みはぜーんぶご破算だ。

 

 これからは精々、擦り切れて消えるまでブリテンを回す駒になって生きててくれ」

 

 

 魔王の口が弧を描く。それだけで妖精達は恐怖し、氏族長は汗を吹き出し顔面蒼白となる。

 

 ブリテンの外より飛来した、暗黒の世界を渡り戦乱を生き抜いた人間の超越者。

 

 ブリテンという狭い島の中で、罪にも過ちにも気づかないぬるま湯に浸りきった脆弱な生命体に、抗う術など無かったのだ。

 

 

「モルガン陛下がご到着されました」

 

 

 使いの妖精騎士の言葉で我に返る。コバヤシは転がっている妖精を妖精の群れの中へ蹴り飛ばすと、バーヴァン・シーの所に戻った。

 

 

「これ、俺も平伏した方がいいのかね?」

「そうしたらお母様の反応が面白そうね!」

「モルガン陛下の心労を増やすような真似は止めなさい」

「ちぇっ、お堅い所は変わんねーなー」

 

 

 バーゲストに止められ、バーヴァン・シーは面白くなさそうに鼻を鳴らす。妖精達が頭を垂れる中、水鏡より女王モルガンが玉座へ姿を現した。

 

 

()()()、お待たせして申し訳ありません」

「構わんよ。それよりさっさと済ませてくれ」

「そうですね。では、この場にいる貴様らに、今後のブリテンの方針を伝える……その前に。ウッドワス、前へ」

「!?ハ、ハッ!!」

 

 

 我が夫呼びに戦慄していたウッドワスが、モルガンに呼ばれて玉座の前へ移動する。もしや、自分が代わりを務めていたのを不満に思い、叱責されるのだろうか。そんなウッドワスの内心など知らずに、モルガンはウッドワスの顔に手を添えた。

 

 

「排熱大公ウッドワス。私が不在の間、このブリテンを良く纏め上げていたな。手助けこそ出来なかったが、お前の仕事ぶりは魔界から見ていたぞ」

「い、いえ私など、モルガン陛下の足元にも及びませんでした。現状維持に努めるばかりで、陛下の行方を捜す事すらできず……」

「そんな事は無い。他の者なら投げ出しても不思議ではない現状を、お前は投げ出さずに代表として務め続けた。あまり言葉にしていなかったが、お前の忠誠心と過去から学ぼうとする姿勢は評価している。凡百の妖精とお前は違う」

「――――」

 

 

 声が出なかった。夢かと錯覚さえした。あのモルガンが自分を褒めちぎっている現実に、ウッドワスの心は天にも昇る思いだった。

 

 

「本能のまま動く事の危険性を理解し、菜食主義を掲げて理性を身に付けようとしていたお前の気苦労は知っていた。だからこそ私も、お前の本能を刺激する戦場にはあまり送りたくなかったのだがな」

「そ、そのようなお考えであったとは!?申し訳ございません。このウッドワス、陛下のお心遣いを理解できておりませんでした……!!」

「構わんさ。我が夫からも、『お前は言葉足らずの上に行動的だからいらん誤解を生む』と指摘されてな。こうして内心をさらけ出したに過ぎない」

「…………さ、左様で」

 

 

 コバヤシは天を仰いだ。確かに言ったが、今ここで言わんでもいいだろう。きっとウッドワスは幸福な気持ちに水を差されたに違いない。言葉足らずを治そうとしたら、今度は一言多くなった。

 

 

「思えば、こうしてお前を労ってやる機会も少なかった。何か褒章を用意してやるが、何がいい?」

「そのようなものは!!私には今のお言葉でもう充分でございます!!これほど我が心が満たされた経験はございませぬ!!」

「……そうか?お前は無欲なのだな。働き者には褒美を取らせる。お前の忠誠に期待しているぞ」

「ハッ!!」

 

 

 実は久々の毛並みを堪能していたモルガンはウッドワスを下がらせる。再び妖精達を見下ろすモルガンに、先程までの温かい表情は無い。

 

 

「貴様らの知っての通り、私と三人の妖精騎士は我が夫、魔王コバヤシに敗北し魔界へと連れ去られた。その折に私達四人は魔王コバヤシの所有物となった。それは今でも変わらない」

 

 

 妖精達に動揺が広がる。

 

 

「魔界とは、汎人類史の更に外に存在する魔境。この私ですら少し強いだけの生き物に過ぎない、文字通りの地獄だろう。

 だが、幸運にも我が夫の庇護の下で私は力を蓄えた。妖精騎士も同様だ。

 よってまずは、妖精騎士の加護を取り除き、改めて任命しなおす。

 

 騎士ガウェインは騎士バーゲストへ。

 

 騎士ランスロットは騎士メリュジーヌへ。

 

 騎士トリスタンは騎士バーヴァン・シーへ。

 

 この三名は、私と同様にコバヤシに仕える騎士でもある。各々それを忘れぬように」

 

 

 名を呼ばれた妖精騎士は頭を上げ、モルガンとコバヤシに視線を向けた。二人が頷いて返すと、モルガンは更に続ける。

 

 

「そして新たな役職、妖精國大統領を任命する。これは魔王コバヤシにのみ与えられる役職であり、他の何者も就くのを許さない唯一無二の存在として扱う。尚、立ち位置は妖精國の女王である私と同等だ。今後のブリテンは、私と我が夫による共同作業で統治する」

 

 

 モルガンはコバヤシに視線を向け微笑んだ。コバヤシは曖昧な笑みを返した。

 

 

「バーヴァン・シーだって……!?その名前、知っているぞ!」

「俺もだ!ダーリントンの屋敷にいた、吸血鬼バーヴァン・シー!」

「女王陛下は吸血鬼なんかを娘にしていたというのか!?」

「人間の血を吸って生きるケダモノ!ああ、汚らわしい!」

 

 

「…………コバヤシ、このゴミ共全員殺していい?」

「よせよせ。ただでさえゴミみたいな連中が動かなくなったら、本当のゴミになるじゃないか」

 

 

 騒ぎ立てる妖精に対し、殺意マシマシで睨みつけるバーヴァン・シー。すぐに殺しにいかない辺り、彼女もまた体と共に心も育っているのだろう。

 

 

「貴様らが我が娘に何を思おうと構わん。好きな事を考えられるのは、この瞬間だけなのだからな」

 

 

 モルガンが杖を手に玉座から立ち上がる。

 

 

「認めよう、私は愚かだった。お前たちの幸福がどういうものか、考えもしなかった。お前たちに生きる楽しみを与えてやるべきだった」

 

 

 妖精達は困惑してモルガンを見る。だが、その口ぶりから自分達に楽しい事を提供してくれるようだ。

 

 あの邪悪な支配者が、魔界へ行って大人しくなった。

 

 そんな事を考えている者もいた。

 

 

「そして気づいた。私自らが教えてやればいいのだ。私が与えてやればいいのだ。――――魅了(チャーム)

 

 

 妖精達に向けて放たれたのは、魔界で身に付けた魅了の魔法。魔法をかけた相手を自分に夢中にさせる状態異常にする。ただ、モルガンが使ったものは少し改造されていた。

 

 

「モ……モルガン陛下バンザイ!!」

「モルガン陛下バンザイ!モルガン陛下バンザイ!モルガン陛下バンザイ!」

「「「ブリテンバンザイ!ブリテンバンザイ!ブリテンバンザーーイ!!」」」

 

 

 モルガンを、ブリテンを賛美し始める妖精達。目を剥く氏族長達を後目に、モルガンは指示を出す。

 

 

「監視員、あれらを労働施設に連れて行け」

「御意」

 

 

 列を成し、監視員に連れて行かれる妖精達。歩いていても賛美は続いている。やがて声が聞こえなくなると、ウッドワスは震える声を絞り出した。

 

 

「へ、陛下……今のは一体……?」

「あれらに魔法で洗脳を施した。私に尽くす事があれらの楽しみになるように。ブリテンに骨を埋めるまで働くのがあれらの幸せであるように」

「――――」

 

 

 氏族長達は恐れた。洗脳を施したモルガンに。多くの妖精を自らの傀儡にしたモルガンに。

 

 

「無論、最低限の生活は保障してある。食事も三食、睡眠も十分に摂らせる。休憩もやろう。それ以外の時間はただひたすら働いてもらうがな」

「それが、何の慰めになるというのです?陛下、貴方はブリテンを自分の庭にでもするおつもりか?」

「私欲で動く貴様が言うか、スプリガン。その()()()()()()()()、私はとっくに気付いているぞ」

「――!?」

 

 

 スプリガンの表情が青ざめる。今の言葉の意味を察せない程、鈍い頭ではない。

 

 

「どういうつもり、モルガン陛下。これは王の氏族……いえ、全ての氏族に対する宣戦布告も同然の所業よ」

「ノクナレア……正気か?私と()()()で戦争になると本気で思っているのか?お前達全員が徒党を組んだとしても、勝ち目など無い。私はブリテンの大地を焦土にはしたくない。馬鹿な真似をしてくれるな」

「――っ!!!」

 

 

 歯を食いしばり、モルガンを睨みつけるノクナレアだが、勝ち目が無いのは彼女も分かっていた。いくら軍隊を集めようと無駄だ。数を揃えたところで意味がない。脳内でいくら自分の兵士をけしかけても、魔王コバヤシを倒すビジョンが浮かばない。圧倒的な力の差は、数の不利すら覆す。

 

 

「私達だけ見逃されたという事は、まだ私達にはチャンスがあると考えていいのですか?」

「そうだ、ムリアン。お前達は町を発展させ、妖精國を豊かにしてきた実績がある。今後もブリテンに益になるなら、お前達とお前達の町の住人はそのままの生活を保障しよう。

 期限は設けない。時間がかかっても益に繋がると判断したなら許す。そうでないなら、明日にでも労働者になってもらうがな」

「……分かりました」

 

 

 聡明なムリアンは置かれた状況をいち早く理解して頭を働かせる。自分の町を奪われないために必死で考える。

 

 

「これで会議を終わる。バーヴァン・シー、バーゲスト、メリュジーヌの三名は氏族長を町まで送り届けてやれ。我が夫、今後の予定について私の部屋で話し合いましょう」

「おー……」

 

 

 腕を組み、コバヤシを水鏡で自室に連れて行くモルガン。任務を与えられた三人は少し恨めしそうに見送った後に仕事に戻る。

 

 救世主のいないブリテンは、女王の手の中に納まったのだ。




・モルガン

 私は帰ってきた(ドヤァ)。
 忠臣のモフモフを堪能し、奸計をめぐらすスプリガンを封殺してご満悦。この後コバヤシとしっぽり(会話を)楽しんだ。監視員にも魅了の魔法を教えており、解けそうになったら再びかけなおす完璧な労働体制を整える。充分な寝食を与えるのも、厳しい環境だと魅了が解けやすくなる為。この後は各地に赴き労働者を増やす予定。


・バーヴァン・シー

 正体がバレるも特に問題なし。ムリアンの部屋の狙撃はモルガンの助けを借りたものの、道中のモースの大群は鼻歌混じりに殲滅した。可愛い。


・メリュジーヌ

 ノクナレアを連れてこないと怒られるので、少し強引な手段で連れてきた。
 案の定オーロラが要らん事しだしたので、遠くに避難させて何もさせない事にした。何かもう介護でもしてる気分になってる。
 「疲れるな~…コーラル禿げてないかな…?」


・バーゲスト

 マンチェスターを消滅させた件はウッドワスに報告済み。初めは憤慨したウッドワスだったが、マンチェスターでの惨状を聞いて何も言えなくなった。
 「妖精に正義など無い…一部を除いて、ですが」


・ウッドワス

 モルガンが戻ったと思ったら離婚して再婚してるわ、めっちゃ褒められるわ、女王が洗脳し始めるわで感情が滅茶苦茶。バーゲストの件で妖精のどうしようもない部分も目の当たりにしているので、打つ手が無くなったらそれも止む無しなのかと考えてる。


・オーロラ

 メリュジーヌに会話するのを邪魔され、ほぼ置物状態に。終わってから動こうとしたら、メリュジーヌに良い笑顔でソールズベリーに持ち前の速さで送られる。仕方ないので会議の内容をコーラルに話したら青ざめた。


・スプリガン

 人間である事を見破られた上、帰る前に包みを渡される。
 ノリッジに帰ってから開けてみると、中には彼好みの芸術品が。喜んだスプリガンだが、ある事に気付いて自身が集めた芸術品を収めている金庫へ走る。
 贈られた物は彼の金庫にあった筈の物だったのだ。逃げ場の無くなったスプリガンは絶叫した。カワイソ。


・ノクナレア

 マヴ!!!あいつ密約忘れてない!?!?


・ムリアン

 モルガンの発言から、ウッドワスが牙の氏族が翅の氏族を虐殺した事を本気で悔いている事、そのために氏族に菜食主義を広めて本能に抗っている事実を知って、復讐心が揺れ動いている。ウッドワスは虐殺には加担していない筈なので、とりわけ彼女が受けた衝撃は大きかった。
 「………少なくとも、一度、話してみましょうか」


・ベリル・ガット

 モルガンに存在を忘れられてた男。これまでの妖精國での所業から即ぶっ殺そうとしたが、バーヴァン・シーが助命を願い出たので夜魔族の檻に閉じ込めて、眠ったまま死ぬまで魔力を吸い取られる餌になった。
 実は本人、夢の中で自分の置かれた状況を把握してる。でもどの道自力でどうにもできないので、夢の中のマシュと死ぬまでランデブー決め込む事にした。



・妖精

 楽しいな!楽しいな!働くのは楽しいな!
 嬉しいな!嬉しいな!陛下の為だ嬉しいな!
 ご飯は毎日美味しいな!夜になったら眠っちゃおう!
 みんな死ぬまで働こう!みんな死ぬまで働こう!
 例え死んでも大丈夫!ブリテンの土になるだけさ!!






・ウサリア

 戦いを好まない悪魔が集まる兎兎魔界の魔王で、コバヤシの戦友でもある。妖精國の統治について相談を受けた。

 「コバヤシさん?ウサリアに連絡をくれるなんて嬉しいですぴょん!

  ……ウサリアじゃなくてマジョリタに用事?

  ……………マジョリタなんかに何の用ですぴょん?

  ……呪い?何百回転生しても消えない、思いっきりドギツイやつ?

  ……今呼んできますぴょん




  マジョリタァァァァァァァァ!!!!
  お前ぇぇぇぇぇぇぇ!!!!
  コバヤシさんに何吹き込んだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!





   マジョリタは忙しくて、あと1000年くらい手が離せないそうですぴょん♪」


・ヴァルバトーゼ

 吸血鬼の帝王であり、魔界のプリニー教育係。コバヤシ達が戦っていたロスト軍の残党討伐の為に手を組んでいる。妖精國の統治について相談を受けた。

 「……………」
 「どしたのヴァルっち、難しい顔して?」
 「如何されましたか、閣下」
 「いやなに、コバヤシから相談を受けたのだがな」
 「はあ」
 「妖精の世界を丸ごと滅ぼして、全ての妖精をプリニーにするから教育してくれと頼まれてな」
 「えっなにそれ、恐い…」
 「………断られては?」
 「うむ。今月はノルマも厳しいから勘弁してほしいと伝えておいた
  しかし、あの男は不必要な破壊はしない男。余程イライラしていたのか…?
  イライラの防止にはカルシウムが必須。あの男に必要なのはイワシ!!
  つまりこれはイワシ不足が引き起こしたのだ!!
  後に続けフェンリッヒ!!俺自らイワシを仕入れに行く!!」
  「畏まりました!!(白目)」
  「フェンリっち…ファイト…」

この作品の設定を使った別の小説をぼんやり考えてます。なんか面白そうだと思ったものがあれば、一票どうぞ。

  • 転送事故でオラリオへ(ダンまち)
  • 転送事故でワノ国へ(ONE PIECE)
  • 汎人類史モルガンを陰から守る会
  • ゲーティア絶許・グランドオーダー
  • 原作6章、カルデア殲滅ルート
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