来年もディス・アヴァロンをよろしくお願いします!
良いお年を!!
ソールズベリーの妖精コーラルの助言を受け取り、鉄の街ノリッジへ足を運んだアルトリアとコバヤシは、上空に渦巻く黒雲を見上げていた。
「コーラルさんの話だと、この街にもうすぐ厄災が起こるんだよね」
「そうだな。町に入る前から嫌な気配がビンビン来やがる」
「……でも、あの雲はなんか、関係なさそう」
そう呟き、厄災溜まりと呼ばれている黒雲からアルトリアは視線を外す。コバヤシもそれに頷いて街へ足を踏み入れた。
アルトリアの推察は当たっている。
ノリッジを覆う黒雲は、厄災を過去へ飛ばすモルガンの大魔術。コバヤシは事前にモルガンから話を聞いていた為に知っていたが、アルトリアは自身の感覚でそれを見抜いてみせた。
アルトリアの成長に内心で感心したコバヤシは、アルトリアの頭をぐしゃぐしゃと無遠慮に撫でまわす。嬉しさ半分恥ずかしさ半分でアルトリアは、うがー!!と怒り出す。
そんな二人を迎えるノリッジの街は、滅亡に瀕しているとは思えない程に活気に溢れていた。
「鍛冶場だ!鍛冶場があちこちに沢山!!ねえ見に行っていい!?良いよね!?」
「一気にご機嫌になったなお前……」
水を得た魚の如く、人の波に乗って流されながら鍛冶場を見て回るアルトリア。少々呆れていたコバヤシも、目を輝かせているアルトリアに水を差すことなく後をついていった。
「お前、鍛冶場そんなに好きなのか?」
「うん!前にマーリンが教えてくれたんだ。私が馬になっちゃう前までも、村の近くの鍛冶場にお手伝いに行ってたし」
「へえ……その選定の杖も、もしかして鍛冶師に打ってもらったのか?」
「これは違うよ。私が乗せられてた船に宝物と一緒にあった物だったって」
「宝…?そんなモンあったのか」
「うん。どうなったのか私も知らないけど」
「…………そうかい……」
こうして二人が街を回るうちに、ソールズベリーと同じように予言の子の話が広がっていく。露店の装飾品を無邪気に眺めていたアルトリアが、自分達を包囲するような人の気配を感じて振り返る。
「……何ですか、貴方達は?」
背負っていた杖を手に持ちなおしてアルトリアは問う。それに対し、集団の中から一人の人間が代表として前へ出る。
「失礼、我々はノリッジ商会団の臨時警備隊の者です」
「警備隊……?私達に何か御用ですか?」
「ええ。実は予言の子と異邦の魔術師を来賓として館に招待してほしいと、我々の出資者であるペペロン伯爵からお願いされまして」
「「(……誰?)」」
アルトリアもコバヤシも、ペペロンという名に聞き覚えは無い。なんでも引き篭もりがちになった領主のスプリガンに代わり、このノリッジを纏めている有力者の一人だそうだ。
客として扱われるならば、顔くらいは見ておこうかと二人は招待を受けて館へ向かった。
――――――――――――
私がこの異聞帯を訪れて一ヶ月が過ぎたわ。
カリスマデザイナー『ペペロン』として地力を蓄え、ノリッジに拠点が出来上がった。キリシュタリアを殺したベリルを追いかけて、クリプターとしてのケジメをつけるのが私の目的。
けれども、この妖精國の勢力図はここ最近で塗り替えられてしまった。いっそ、侵略と言い換えても良いくらいね。
ブリテンの女王であり、異聞帯の王たるモルガンの敗北及び妖精騎士数名が拉致されたのが始まり。暫定の指導者になったウッドワス公の努力の甲斐あって、しばらくは何も変わらない生活が続いたのだけれど……それでも各地で怪しい動きが絶えなかったわ。
一番大きな問題は攫われた妖精騎士の一人、ガウェインが領主の街マンチェスターが跡形もなく消滅したこと。グロスターやソールズベリーにマンチェスターに住んでいた妖精達がやってきて明らかになったのよね。
……でもね~……妖精達の移動と街の崩壊は無関係よね~……。だってマンチェスターには人間もいたのに、逃げてきたのは妖精だけ。この國での人間の扱いを見れば、誰だって悪い予想はついちゃうでしょ?ムリアンもそれが分かってて、別の街に避難民を送ったみたい。やっぱりあの子、賢いわ~!
マンチェスターで何があったか調べようにも、肝心の街が消えちゃってたら調べようが無いもの。ウッドワス公もさぞ頭を抱えたでしょうね。
で、妖精國各地で思惑が飛び交う中、それをみーんな吹き飛ばすように女王モルガンが帰ってきたってワケ。しかも洗脳による統治を始めたのだからもう大変よ。ノリッジみたいな大都市はまだ無事だけれど、そうでない村なんかは妖精騎士がやってきて労働力として洗脳されていったわ。
更に衝撃だったのは、モルガンが新たな役職として妖精國大統領を任命。そしてそれが自分を負かせて攫って行った人間だっていうから、天地がひっくり返るような大騒ぎよ!!
ま、騒ぎになったって言っても、表向きに何かしようなんて輩はいなかったけどね。何せ現女王に勝った人間だもの。力でどうこう出来る存在とは思えないわね。
それよりも私にとって痛手だったのは、ベリルの所在が掴めなくなった事。モルガンがベリルと離婚して、妖精國大統領を新たに夫として迎え入れたから付け入る隙はあると思ったのだけど…。彼が根城にしていたニュー・ダーリントンは潰されたって聞くし、肝心の本人もどうなったのか分からない。正に八方塞がりよ……。
……そして、最も気になるのは
どうしようか、どうすべきか、悩んで動けないでいた所に、ノリッジに予言の子と異邦の魔術師がやってきたという情報が流れてきたわ。ヤダ、ひょっとしてカルデアのあの子達かしら!?と、少しテンションがあがってしまったけれど、話で聞いた容姿から見るにどうもそれは違うみたい。
それでも、エインセルの予言に出てきた重要人物には違いない。選定の杖を持っているならまず確定でしょう。魔術師の方は分からないけれど…とにかく一度会ってみなきゃ。
恐らく、もうすぐカルデアもここにやって来る。ここで予言の子とのコネクションを作っておくのも悪くないわ。カルデアがどう動くにしろ、妖精國の今後を左右する予言は、彼等にとっても重要でしょうからね。
「初対面なのにわざわざ呼び出してしまってごめんなさいね。私はペペロン伯爵。彗星のように現れた、稀代のカリスマデザイナー」
二人を館に招き入れ、自己紹介を始める。
「こ、こちらこそこんな立派なお城に招いていただけて光栄の至りと言うかごめんなさいというかなんというか……。あ、私はアルトリア・キャスターと申します」
あらヤダ!!この子反応が初々しくて可愛いわー!でもしっかり自己紹介を返してくれる辺り、テンパってはいてもやるべき事はやれちゃうタイプなのねー!
「…………」
そしてもう一人の来客の彼。フードを取った顔は中々好みね~!何も言わないのもクールでポイント高いわー!!
……なーんて、ちょっとふざけてみたけれど。この二人、とんでもないわね。
アルトリアちゃんの秘めている魔力は、私が今まで見てきたどの存在と比べても桁外れ。本人が自覚しているかどうか知らないけれど、魔力量の差による圧が凄いわァ……。
そしてこっちの彼は魔力は大したこと無いけど……きっと
「……はぁ。俺はコバヤシだ」
「ちょ……!?それバラしていいの!?」
「
「あら……」
そして立場を察したのはお互い様ってワケね。私の持ってる神通力を見抜かれたみたい。
「どういう事情で魔王様が旅しているかは知らないけど、身分バレについては心配ご無用よ。事前に人払いは済ませてあるわ」
「そりゃ有難い……」
「というか正直言ってラッキーだったわー!!貴方に聞きたい事教えてほしい事が山ほどあるんだもの!」
「どいつもこいつも急にイキイキしやがってもう……」
意外な事に、愚痴をこぼしながらも彼は席に着いた。こんなにもあっさり話してくれるなんて思わなかったわー……。
「アルトリア。長丁場になりそうだから、お前は街に出て災厄を警戒しててくれ」
「え……でも……」
「今のお前なら災厄の十や二十纏めて出てきても楽勝だ。心配いらん」
「………分かった!じゃあ行ってくるね!ペペロン伯爵、コバヤシの事よろしくお願いします!」
「ええ、いってらっしゃい」
アルトリアちゃんは元気に飛び出していったわね。
「じゃあ、始めに私の正体から明かすわね。本当の名前はスカンジナビア・ペペロンチーノ。既に剪定済みだけれど、インドの異聞帯を担当していたクリプターが私よ」
「なるほどね……。我が名は魔王コバヤシ。魔界からブリテンにやってきた正真正銘の魔王だ。人間種ではあるがな」
「……ひょっとして、汎人類史の?」
「さあな。なんせ昔、他の魔王に小間使いとして呼び出されて、その前の記憶が無いモンでね。そこらへんはハッキリしない」
「そうなの……」
魔界……汎人類史とも異聞帯とも違う世界から来た人間……。未知との遭遇ってやつかしらね?
「さっき私が神通力を持っていると見抜いたけれど、それも貴方の力なのかしら?」
「どうだかな……。特別な何かがあるってくらいは他の奴等でも分かるだろうし、俺の固有の力とは言えんな」
「そうだったのね。それで、教えてほしい事があるのよ」
「何が知りたい?」
「この異聞帯にいる筈のクリプター、ベリル・ガットの居場所を知りたいの。彼が今どうしているか、ご存知ないかしら?」
「…………」
私の質問を聞いたコバヤシは暫し沈黙した。そして少し悩んだような表情でこう言ったわ。
「……お前、
ウキャー!私の目的があっという間にバレちゃったわー!?
「貴方が来てから驚く事ばっかりで困っちゃうわー!それで正解よ、どうして分かったのかしら?」
「空想樹が伐採されてる異聞帯なんて、クリプターの目的からすれば価値なんて無いだろ。ならわざわざ来るのは個人的な理由だ。そんで、ベリルの野郎はギリシャ異聞帯のクリプターを殺してる。お前達クリプターにとってそいつはリーダーだったんだろ?なら、メンバーが仇討ちに来たと考えるのはそう難しくない」
あらやだ、人に改めて言われると私の行動って割と単純ね。ある程度事情を知ってる、初見の相手に見破られちゃうんだもの。なんだか恥ずかしくなってきたわァ!!
「ベリル・ガットは俺の魔界に捕えてある。夢魔……分かりやすく言えばサキュバスの檻に閉じ込めて、死ぬまで生気を吸わせてる状態だ。じきに死ぬだろうよ」
「――。彼の身柄、私に引き渡してもらえないかしら?」
「あん?ほっといても死ぬのに?」
「ええ。これは同じクリプターとしてのケジメ。彼を殺す役は、私が担わないといけないのよ」
「……その感情、理解できなくもないがな。だが駄目だ。アレは自由にさせたら面倒な手合いだ」
「……そう、残念だわ」
本気ね。コバヤシは本気でベリルを警戒しているわ。圧倒的な強者であるけれど、相手を力だけでなく性質を見て脅威と判断しているわ。
……これは説得は諦めるしかないわね。国の代表が脅威と見定めたのだもの。私個人の理由じゃ覆らないでしょうし。
「……あの野郎は、与えられた都市の地下で人間にモースの呪いを移す実験なんてしてやがった」
「!」
「どうしてだと思う?」
「……そうねえ。私が言えた義理でもないけれど、彼は悪趣味だから……それが理由じゃないかしら」
「だが、地下に送られた人間は100人を優に超えてる。個人で楽しむにしちゃ、多すぎると思わないか?」
「それは……確かにね」
コバヤシはどこか剣呑な雰囲気を醸し出しながら、私に自身の考えを話し出した。
「はっきり言えば戦力としてもイマイチだ。呪い付きだが、いかんせん弱すぎる。この妖精國なら大した手駒にならない。そんなのを量産して何がしたいのか…」
「予想はついているのかしら?」
「俺は、今後、ここに来る奴等に向けて準備したモンじゃないかと睨んでる」
「――!……なるほどねえ。それなら納得できるわ」
―――カルデア。藤丸ちゃんとマシュちゃんの心を腐らせる為に用意してたって訳かしら?何の罪もない、無抵抗の人間を殺させる。確かにあの子達相手なら、これ以上無いくらいやり辛い相手になるわね……。
「……え、まさかアナタ、その子達をカルデアの子達にぶつける気?」
「誰がやるかふざけんな!!悪魔にだって分別くらいあるわ!!…それと同じくらいエグイ呪いかけた奴が今では仲間になってるが。どうにかこうにか全員祓ったわ!!」
あら、人並みに情はあるのねェ。そういうのポイント高いわよ。
小声で呟いた事は聞かなかった事にしてア・ゲ・ル♪
「ああ…そうだ、カルデアだ。お前、カルデアについては詳しいか?」
「あら、知りたいの?そうねー、協力関係を築いた時もあったから、他のクリプターより詳しい自信はあるわね。
でも一つ良いかしら?アナタ達はカルデアをどう見るのか、聞かせて頂戴な?」
「どう見るも何も、カルデアは敵だろう。クリプターというか、異聞帯にしてみりゃ。他に言いようがあるのか?」
「……彼等がブリテンにやって来たら、どうするのかしら?」
「殺すさ。来た瞬間に殺す。
……参っちゃうわァ。彼、カルデアの
カルデアを処理する為の最適解を躊躇わずに選べる程に、カルデアを脅威と認定しているなら……あの子達に勝ち目は無いわ。
「確認させて。アナタがカルデアを敵視するのは、ブリテンを守るためでしょう?」
「……ああ、そうだよ。こんな國でも、欲しがってる物好きな奴がいるんでね」
「聞いて頂戴。カルデアはアナタ達の敵じゃない。彼等が来ても、その目的がブリテンの侵略や滅亡でないのは、私が保証するわ」
「……その台詞を聞いて確信したよ。今までの異聞帯だって、カルデアは悪意を持って動いてはいなかった。でも結果的には滅亡に近い結果に導かれた。そうだろう」
「う……」
……否定できないわね。異聞帯側の住民からすれば、カルデアがそういった見方をされても不思議じゃないから……。
「カルデアの連中が来るんなら、この國が終わりかけてるのは間違いないんだろう。だが、それをどうにかする為の策も考えてる。今は準備の真っ只中だ。そんな折、トラブルが終わったら消えちまう余所者に、この國を引っ掻き回されちゃ困るんだよ」
「――――」
……そう。そうなのね。そこまでしてこの國を立て直す覚悟が、アナタにはある。
――だからこそ
「お願い、カルデアに一度だけチャンスをあげて」
「なに?」
「これまでの妖精國の歴史と、今の妖精國で起きている改革の両方を、余すことなくカルデアに伝えてあげて。それで彼等は大人しくなってくれる筈よ」
「……俺達にそこまでやれと?」
――深く、深く頭を下げる。
「約束してくれるなら、私の知る限りのカルデアの情報をアナタへ教えるわ。……メリットが薄すぎると自分でも思うけれど、今の私が提示できるのはこれしかない。
――あの子達は、私にとって唯一の可愛い後輩たちなの」
――――――――
「…………うー……む……」
正直、悩んでいる。不穏分子を消したいのは事実なのだが、無駄な殺生は望む所ではない。無駄な戦闘を避けられるのなら、そのほうがずっと良い。
俺の予想が正しければ、異聞帯に来たばかりのカルデアの戦力はたかが知れているだろう。魔界で鍛えた妖精騎士を一人送れば、余裕で壊滅させられる。それなのに、人手を割いてカルデアにこのブリテンの歴史を一から教えるなんて、手間がかかり過ぎる。
……だが、あの連中が敵にならないなら、それはそれで不安の種が一つ消える。弱い手合いは逃げの一手を隠し持つもの。自分の目の届く範囲に収めておくというのも、ある意味安心できる。
頭を下げたままでいるペペロンは、その行為の他に誠意を示す方法が無いと物語っている。情報以外にこちらのメリットは無い。それが分かっていて尚、ペペロンは交渉に踏み切ったのか。
……馬鹿な男だ。だが、男は時々、馬鹿になるモンだからなぁ。
「……お前の覚悟に絆されてやるよ、ペペロン」
「……じゃあ、交渉は成立?」
「おう。とりあえず、カルデアは敵とみなさない」
後でモルガンに念話で伝えておかないとな。連中がいつ介入してくるか分からんし。
「……くれぐれも謀るなよ。お前が変な情報をこっちに流したなら、お前の目の前で連中を嬲る。その方が、お前にとっては耐えられないだろうからな」
「正に悪魔的発想ね……。しかも当たっちゃってるんだから」
「それに連中が勝手に動いても殺す。この國で自由にはさせない。良いな?」
「それなら、私からの伝言も伝えて下さらない?『絶対に動かないで』って。それで解決よ!」
「……まー、それくらいなら良いか……」
この選択が吉と出るか凶と出るか。カルデアが来るまで分からんな……。
・ペペロン伯爵
またの名をスカンジナビア・ペペロンチーノ。習得に百年かかる神通力を十年で三つも極めるという天才。ブリテンの原住民に妖精亡主とか敵とか間違われるのも、人間にしては強すぎる戦闘力によっる影響かもしれない。違うかもしれない。
魔界にもオネエ口調の武闘家とかいるので、コバヤシやアルトリアは特に驚きもしなかった。
・魔王コバヤシ
ベリルもカルデアも、今のブリテンをひっくり返す可能性を秘めた敵だと認識しており、対策は念入り。というより、元々抱えてる厄ネタが多すぎて、些細な事でヤベー事態が起こりそうで神経質になってる。
内心、カルデア来るなと念じている。
・アルトリア・キャスター
ティンタジェルの近くの鍛冶場へ手伝いに行っていた為、エクターとも面識はある。エクターがアルトリアの扱いを知ったのは、アルトリアが急に手伝いに来なくなったから様子を見に行った時。どうにかしたくても完全に監禁状態のアルトリアを連れ出すのは難しく、悩んでる間にコバヤシが魔界へ連れ去った。
この作品の設定を使った別の小説をぼんやり考えてます。なんか面白そうだと思ったものがあれば、一票どうぞ。
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