感想も評価も推薦も、自分の書いた作品を他の人がどう思ってるか知れるから楽しいんですよね。
低評価だと凹むし、高評価だと嬉しい。でも色んな方向からの意見が本当に楽しくてありがたいです。
深々と、粛々と。灰色の空から雪が降っているブリテンの最北端。南部ではあり得ない、吐いた息が白くなる程の寒さ。
モルガン陛下に着せられた服、ピカピカでかなり気後れしてたんだけど、今は温かくてとてもありがたかった。
……かつて、雨の氏族が暮らしていた場所。楽園の妖精を匿ったせいで、4つの氏族から攻め滅ぼされたという。
きっとこの雪は、雨の氏族達なんだろう。あまりにも冷たい境遇に、身も心も凍り付いてしまった、悲しい妖精達。
「アルトリア、掴まれ。オークニーまでは海を越えなきゃならん。一気に飛んでいく」
「うん、分かった」
身を寄せた私の腰と背中を、コバヤシの腕が力強く抱きかかえる。私も振り落とされないように、コバヤシの体にしっかりと抱き着いた。
独特な浮遊感の後に体全体に叩きつけられる冷たい風が痛くて、思わず顔をコバヤシの胸に埋めた。
(あったかいなぁ……)
寒い筈なのに暖かい、不思議な感覚。もっと沢山感じていたかったけれど、オークニーにはあっという間に着いてしまった。
勢いをつけ過ぎたのか、着地の時の衝撃が凄かった。クレーターが出来ちゃってるし……。
「……あれ?」
「どうした」
「……ううん、何でもない」
誰かがいたような魔力を感じた気がしたんだけど……気のせいかな?まあ、こんな所に誰かがいるはずないよね。
鐘つき堂は目と鼻の先にあった。崩れたお城の階段を歩いて行けば、巡礼の鐘がある場所に着く。
……はず、なんだけど。
「霧、濃くなってきたね」
「……それだけじゃなさそうだ」
「うん、分かってる」
私達の前に立ちふさがる、亡霊のような何か。この先に進むには、彼等を倒していかなければならないらしい。
けれども、今の私とコバヤシならあっという間に倒してしまえる。力及ばず、無念の内に散っていった彼等の残滓を、私達は情け容赦なく蹂躙していった。
「……あれで最後か」
巡礼の鐘の前に立ちふさがる、最後の試練。そこにいたのは。
「――――」
潰えたブリテンの希望。皆の理想の王になる筈だった、最後の騎士。
その傍らには、杖を持った救世主。一人目のアヴァロン・ル・フェ。
光の消えた瞳が私達を見据える。憎悪。未練。失意。悲壮。あらゆる負の感情を煮詰めたような、濁った目。
「………………ウーサー坊や……トネリコ……」
その名を呼んだコバヤシの表情は、これまで見た中で一番やるせない感情を浮かべていた。
でも、一度視線を落とした後は、フードを取って一歩前に踏み出した。
その手には、杖ではなく剣が握られている。
「……やりたくないなら、やらなくても良いぞ」
コバヤシは強がってそう言った。自分だってやりたくない癖に。コバヤシだけ行かせるわけ無いじゃん。
「ううん、私も行く。一緒に戦おうよ」
「……そうか」
私だって、本音を言えば戦いたくなんてないよ。
だって、あの人達は、ブリテンで一番めでたい日に一番幸せになる筈だった人達。裏切られ続けて疲弊しきって、それでも希望を持ち続けていたあの人の――
『あ――はは。あは、あはは。ははは。あはははははははは……!』
「…………俺に、どんな顔してあの二人と戦えっていうんだ」
――――。
「アイツは、トネリコは、ただ……畜生、ふざけるな、ふざけるなァァァァァ!!!!」
吠えて飛び出していったコバヤシに、私も慌てて後に続いた。
今まで散々、文句や愚痴をこぼしていたのは見てたけれど。
――弱音を吐いたのは初めて見たなぁ……。
――――――――――――
私達とあの人達では地力が違う。普通に戦っていれば負ける理由の無い戦いだった。文字通りの瞬殺だって出来ただろう。
でも、私達の心の中にある躊躇いの気持ちがそれを邪魔していた。
目の前にいるのは、血の通っていないただの亡霊の筈なのに。救世主は騎士を助け、騎士は救世主を庇う戦い方をしていた。痛ましくて、眩しくて。なんでこの人たちが死ななければならなかったんだろう。
きっと、納得できる理由なんて無い。誰かの思い付きで誰かが死ぬ、そんな惨い世界を変えようとしていた。それが気に食わない誰かに、あの人達は殺されたんだ。
甲高い音と共に、騎士が弾き飛ばされた。それを庇うように救世主が前に出る。
――やめて。もうやめて。
そう願い想う資格も、それを口に出す勇気も私には無くて。
『あ――ああ――あああああああああああ!!!!』
必死の形相で、手にした杖で殴りかかってくる救世主を。
「――え」
『――!!』
コバヤシは無防備なその身で受け止めた。予想外の行動に出た相手に、救世主は固まった。
そして彼は腕を伸ばして、救世主の頭を優しく撫でた。
「志半ばで倒れたお前達の居場所は、もうここには無い。
今のブリテンにはモルガンがいる。お前達の旅路は俺達が引き継ごう。
もう……いい。休んで良い、トネリコ。頑張るのは、生きてる奴等に任せればいい」
救世主の瞳が驚いたように見開かれ、そして寂しそうに笑った。
立ち上がっていた騎士が、手にした剣を鞘に戻していた。
救世主は撫でられながら、彼のもう片方の手を両手で掴み、祈るように包み込んだ。
短い静寂の後に、救世主と騎士は灰色の雪になって消えていった。
……誰よりも強い魔王は、包まれていた手をじっと見つめていた。
「……終わったよ。コバヤシ、終わったんだよ」
「…………ああ」
私の声に反応して、コバヤシは巡礼の鐘を見やる。
「これで、五つ目の鐘が鳴らせる」
「うん」
「でも、その前に少し休もう」
「……うん」
「……流石にあれは堪えたぜ」
――――――――――――
崩れた石材を椅子の代わりにして、魔法で焚火を作り出したコバヤシは座った。私もすぐ隣に腰を下ろす。
……寒いなぁ。
「あのさ……もっと近くに寄っても良い?」
コバヤシからの返事は無かった。
でも、羽織っていたローブを大きく開いて、私をすっぽりくるんでくれた。
温かい人のぬくもりを近くに感じる。
「コバヤシはあの二人の事知ってたの?」
「どうしてだ?」
「なんか、口調がそう感じたから」
「…………知ってたよ。一方的にだけどな」
モルガン陛下には内緒だと約束して、コバヤシは教えてくれた。
夢の中で妖精歴のトネリコの記憶を追体験した事があるんだって。
「ていうかさ、夜魔族ってさ。い、いんま、淫魔の事だよね……?」
「そこに反応するなよ……」
そ、そりゃ反応するよ!だって、私も同じサブクラス取ってるんだぞ!?なんか、違う意味で体が熱くなってきたような!?
「分かってはいた事だが、知れば知るほど嫌になっていく國だ」
重い溜息と一緒に吐き出した言葉が、私の心を締め付ける。
「……後悔してない?巡礼の旅に出た事」
「後悔なんて、この國と関わり合った時からずっとだ」
「その割には、私や皆の面倒を見てるよね」
「俺が拾ったし、買ったからな」
「普通、それだけでここまで付き合ってくれないよ」
「言えてるな」
「……投げ出しても、誰も文句なんて言わないよ」
「……」
暗い感情が吹き出してきて、ついつい後ろ向きな言葉が出てきてしまう。
この人はどうして、嫌な気持ちになっても進めるんだろう。
「放り出さないのに大した理由なんて無い。まあ、面倒事は山ほどあるが――」
焚火に照らされる彼の横顔。その瞳には、一筋の力強い光が宿っていた。
「――それを背負う価値がお前達にあると、俺は感じてるんだろうよ」
…………。
少し、焚火が強過ぎるんじゃないかな。
ちょっとだけ、顔が熱くなってきちゃったよ。
残る巡礼の鐘はあと一つ。
私達の旅は、もうすぐ終わる。
・
私は妖精達を救わない。私は妖精達を許さない。
ウーサーも、円卓も、どくのおさけでしんだ。みんなのやさしい救世主も、あの日にしんだ。
もうどうすればいいかわからない。すくいかたがわからないから、わたしは救世主をやめた。
楽園の使命なんてもうしらない。誰がここに来ても、
……。
…………。
………………でも。
やってきたあの人は、
私の憎しみを、受け止めてくれた。
私達の夢は終わってないと、自分達が受け継ぐと言ってくれた。
…………。
ごめんね。
ありがとう。
名前も知らない、強い人。
・
殺されたことに恨みは大して無い。それは我が身が未熟だった故。頼りになるトネリコに頼ってばかりなのがいけなかった。
私の心残りは、誰よりも優しかったトネリコを一人残してしまった事。
あの人を守ってやれなかった事が、何よりも悔しい。
アヴァロン・ル・フェの守り人よ。
トネリコとモルガンを知る者よ。
あの人を。ブリテンを。どうか守ってくれ。
・魔王コバヤシ
トネリコの生涯を一部追体験した身。つらみが過ぎてメンタルに亀裂が生じる。
それでも歩みは止まらない。
トネリコの旅路が無意味にならぬように。
モルガンの夢が消えないように。
自分が目にする価値があると確信したのなら、戦う理由はそれだけでいい。
――たとえ世界を相手にしようとも、彼は立ち向かうだろう。
・アルトリア・キャスター
どんなに強くなっても、つらいものはつらい。
それは魔王も同じだと知った。
一緒に旅をしなければ、きっと分からなかった。
この人の為に何かしたい。
この人の喜ぶ事をしてあげたい。
ただの一人の女の子は、生まれて初めて思いの丈を自覚した。
この作品の設定を使った別の小説をぼんやり考えてます。なんか面白そうだと思ったものがあれば、一票どうぞ。
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