この後は三話くらいでアルトリア・キャスターの冒険は終わるかな……終われば良いな……。
言及が無かった賢人グリム君ですが、オーディンの予測が変わって引き戻されたとお考え下さい。
予言の内容で唯一、巡礼の鐘の居場所が記されている一文があった。
『丸い砦は燃え尽きる。水の鐘はあらわれる』
現在、円卓軍の活動拠点になっているロンディニウム。砦としても活用されているあの場所を指しているのだと予想して、二人は移動を開始した。ブリテン島の最北端からロンディニウムまでは距離が離れすぎているので、今回ばかりは空を飛んで距離を稼ぐ。流石に空から現れれば住民達に驚かれるので、途中の平原で降りてそこからは徒歩で目的地を目指す。
予言の子と分かった時点で騒がれるのは確実なのだが、それを指摘するのは野暮だろう。
道中で散発的に現れるモースを蹴散らしながら進む予言の子一行。途中で休憩を挟んだ時に、アルトリアが話し出した。
「コバヤシはさ、前に仕えてたセラフィーヌって女の人の事、どう思ってたの?」
「とんでもないクソ女って思ってるけど」
一片の迷いも無く即答した。妖精眼の判定もまっさら。今はもう辞めているとはいえ、側近だったくせにその評価は何なのだろうか。顔色一つ変えずにコーヒーに口を付けている男に対し、寧ろアルトリアの方が動揺していた。
「コバヤシはその人の事、嫌いなの?」
「……嫌いというか何というかなぁ……」
初めは嫌悪感を抱いていたものの、徐々に薄れていったとコバヤシは語る。
「セラお嬢に従う他に生きる術は無かったし、結果として俺はここまで生きているからな」
「……それでもさ。コバヤシは元々住んでいた場所から攫われたんでしょ?」
「まあ、そうなるな」
「恨んだりとかしてないの?」
「んー……」
意味も無く、ティースプーンでコーヒーをかき混ぜる。それを見つめる女の子は、男が口を開くのをじっと待っていた。
「最初は恨みつらみもあったんだろうが、今はもう感じないな。自分で言ってて薄情だとも思うが、もう100年以上前の話だ。俺が汎人類史の普通の人間種だったとして、親やら知人やらがいたとしても、全員死んでるしな」
「コバヤシはそれでいいの?」
「今更、セラお嬢に怒りなんて感じない。俺を攫ってきたのはあの人だが、面倒見たのもあの人だしな。良い所よりも嫌な所の方が多いが、それでも一緒にいるのに苦は感じなくなっていった。いつからか、俺はセラお嬢を家族だって思っていたんだろう」
「家族……」
「数十年も一緒にいればそうなるさ。今は昔よりも大人しくなっているしな」
「……私も、もっとティンタジェルの皆と一緒に過ごしてたら、本当の家族みたいになれてたかな」
「………………いや、まあ、うん。限りなく0%に近い絶望的な確率だと思うが、そうなってた可能性も奇跡的にあり得た事象かもしれないな」
「つまり無理なんだね。うん、分かってた。あ、お砂糖ちょうだい」
「……ほらよ」
アルトリアのコップに角砂糖を一つ投げ入れた。よーくかき混ぜて溶けきったタイミングで、甘いコーヒーを口に運ぶ。……飲んだ時の表情から察するに、まだちょっと苦かったようだ。
「……ごめん、まだ入れていい?」
「別にいいけどさ、素直にコーヒー以外の飲み物選んだ方が良かったろ」
「えへへ、そうかも」
ほんのり顔を赤らめたアルトリアに呆れるコバヤシは、砂糖のついでにミルクも注いで飲みやすくしてあげた。
――ただ同じ物を飲みたいからコーヒーを選んだ。
少女の心の奥底に隠された欲求は、少女自身にも自覚される事は無かった。
――――――――
休憩を終えて旅を再開し、再びモースの群れと遭遇した予言の子一行。
そこには鎧を着て槍を振るう、一人の小さい女の騎士がいた。
「そこの人、助太刀します!」
「え!?は、はい!ありがとうございます!私、ガレスと申します!あなたは!?」
「アルトリア!アルトリア・キャスター!」
割って入ったアルトリアと、ガレスと名乗った騎士に異邦の魔術師が強化魔法をかけてやる。その質の高さに驚いたガレスは、アルトリアと共に勢いに乗ってモースの群れを殲滅した。
「ふう。怪我が無くて良かった」
「凄かったです!アルトリアさんの戦いぶりに、そちらの方がかけてくれた補助魔術!なんか、魔術とはちょっと違う気もしますけど、兎に角感謝です!」
「どういたしまして」
「そ、それで、助けて頂いたばかりで大変恐縮なのですが……」
「は、はい?」
「その強さ!その身に宿る魔力!一目見て運命を感じました!アルトリアさん、私をあなたに仕えさせてもらえませんかっ!」
「――え、ええっ!?」
興奮するガレスを宥めて話を聞いた。彼女は円卓軍に拾われて、騎士として働いているのだという。ロンディニウムに続く道の警備中、モースが現れたので戦っていたらしい。
これ幸いと、彼女にロンディニウムまで案内してもらう事にした二人。ガレスも快く引き受けてくれて、アルトリアとは女の子同士すぐに仲良くなっていた。
「なんと、お二人が予言の子と異邦の魔術師でしたとは」
「実はそうなんだ。ロンディニウムに行くのも、巡礼の旅の一環なの」
「俺達は最後の巡礼の鐘を探してる。どうだ、ロンディニウムにあるか?」
「――。いえ、指令室として鐘つき堂を改造した場所はありますが、巡礼の鐘はありません」
「そっか……。でも他に手がかりも無いし、行くだけ行ってみよっか」
「そうだな」
「はい!案内はお任せ下さい!」
――――――――――――
「ただいま戻りましたー!!」
元気なガレスの声を聞いて、ロンディニウムの関所にいた兵士が近寄ってきた。
「おお、ご苦労様だったなガレス。――と、そちらの二人は?円卓軍への入団希望者か?」
「いえいえ、違いますよマガレさん。こちらは私を助けてくれた予言の子であるアルトリアさん!それと異邦の魔術師さんです!諸事情があるそうで名前は教えて頂けませんでしたが!」
「(いくらなんでも誤魔化し方が雑だよコバヤシ……)」
「(偽名考えるのめんどくせえ)」
「(コバヤシィィィ!!!)」
怠惰、ここに極まれり。怪しさ満点であったものの、ガレスを助けてモースを蹴散らしたのは事実なので、二人はロンディニウムに入る事を許された。
人間と妖精が共存している都市。兵士を含めた人口は他の街に比べて少ないものの、人々の活気は負けていない程に賑やかだった。
崩れている壁を修復している職人に、買い付けの準備をしている商人。まだ幼い子供も武器の手入れを手伝っており、広い場所で兵士達が訓練を行っている。
(――すごく、綺麗な場所だ。こんな綺麗な場所で、どうして――)
人々の営みを眺めて、思わず放心するアルトリア。こんな場所があったなんて、自分は知らなかった。
「……悪くないねぇ」
コバヤシもまた、満更でもない感想を口に出した。
「貴女が予言の子、アルトリア様ですか!ノリッジでのご活躍は聞き及んでおります!」
「え、あ、ど、どうも。あとできれば、様付けは止めて欲しいかなーって……」
「巡礼の鐘を鳴らしてるのもアンタなんだって?それはいいが、何度も何度も鳴らすのは何とかならないもんかねえ!」
「ご、ごめんなさい!あと一回は我慢してください!」
「お姉ちゃん、お腹空いてない?クッキーあるよ!」
「――うん、ありがとうね。じゃあ、一枚だけ貰うね」
「しっかし綺麗な服だなぁ。ひょっとして、シェフィールドの仕立て屋さんに頼んだのかい?」
「さあ、どうなんでしょう。尊敬できる人に譲ってもらった物なので……」
住民達に囲まれて、色々な話をしている予言の子。今までの旅では見せた事の無い、穏やかな表情で皆に答えていた。
「ああ、ごめんなさい。みんなアルトリアさんに会えたのがよっぽど嬉しいみたいで……」
「別に構いやしねえさ。アイツが、あんな顔で受け答えしてるのを見るのは初めてだ。好きにさせてやろう」
「そうですか?なら良いんですけど……」
離れた場所で見守っている異邦の魔術師と女騎士に、声をかける者が現れた。
「ガレス!無事だったかい?」
「あっ、パーシヴァルさん!」
白銀の鎧を身に纏う、見上げる程に大きい槍を持った偉丈夫パーシヴァル。彼はコバヤシの前に立つと、丁寧にお辞儀をした。
「初めまして、異邦の魔術師殿。私はパーシヴァルと申します。名前を教えてはならない事情があるとの事ですので、魔術師殿と呼ばせて頂きます」
「おう、好きにしてくれ」
「では改めて。仲間のガレスを助けて頂いてありがとうございました。円卓軍のまとめ役の代理として、お礼を申し上げます」
「それは良いんだが……代理?」
「ええ。実は自分も、ある人物に誘われたクチでして。最近は滅多に姿を現さず、どこで何をしているのか……」
仲間の事を思わず憂うパーシヴァル。魔術師が怪訝な表情を浮かべているのに気付き、慌てて話を変えた。
「と、すみません。ガレスの話では、あなた方は最後の巡礼の鐘を探しているとか。我々はロンディニウムを拠点にしていますが、そのような物に心当たりはありませんね」
「だろうな。予言じゃ現れるって表現してるんだし、今は無いがその内現れるって事だろうよ」
「そういった事情でしたら、どうぞロンディニウムにご滞在ください。御覧の通り質素な作りですが、女王の魔術もここまで及びませんから、安全は保障されていますよ」
「……ありがとうよ」
パーシヴァルが住民達に声をかけ、中心にいたアルトリアがようやく戻ってきた。
「ロンディニウムの方々は、とても良い人ですね。嘘が少ないばかりか、他人に寄りかかっていない。
人間と妖精が、お互いの為に自分の力で立ち上がり、支え合って生きている。
その立場に上も下も無い、対等に認め合っている仲間達……かつての円卓の騎士のような人たちです」
「……えへへ。皆で頑張って、ちょっとずつ大きくなっていったんです。私も森でさまよっていた時に、パーシヴァルさんに拾われたんです」
「確かに私は君を助けたけれど、円卓軍に騎士として入団したのは、間違いなく君の意思だろう、ガレス?まさか、ずっと付きまとわれるなんて思ってもみなかったよ」
「そ、その話はもう良いじゃないですか!」
この小さな騎士が円卓軍に入ったいきさつは、余り人に話したい事ではないようだ。苦笑するアルトリアは、二人に円卓軍に入った理由を聞いてみた。
「そうですね……私に限った話ではないですが、ここにいる者は皆、反女王の意思を掲げています。我々は人間も妖精もない。共通の未来を目指しているのです。
女王を倒せば全てが良い方向に変わる訳ではない。人間の在り方も変えていかなければならないのですが、先ずはブリテンを変えていかなければなりません。
……実の所、私がこの槍を手にした理由は他にもありますが、個人的な理由ですのでご容赦願えればと……」
「い、いやいや!そんな根掘り葉掘り聞きたい訳じゃないですから!ええと、ガレスはどう?」
「私はパーシヴァルさんや円卓軍の皆みたいな、ブリテンを変えたいとか大きな目標は無いんです。
私はただ、皆や皆の居場所を守りたいだけなんです」
言葉を切ったガレスは、身に付けている鎧を撫でた後、盾を掲げてみせた。
「……私、自分が何の妖精かも分からない中途半端な妖精だったけれど、子供たちがお金を出し合ってこんな立派な鎧を作ってくれたんです」
「……そっか」
「自分達だって傷だらけなのに、私が傷つかないようにって。そんな優しい皆を守りたいって思えたから、私は戦えるんです!」
むん、と拳を握る小さな騎士に優しい目を向ける予言の子。
「……魔界という場所から戻ってきた女王モルガンは、今では大多数の妖精達をも洗脳して労働に従事させています。人間牧場に捕えられた人間達に加えて、その妖精達も助け出さなければならない。
私と円卓軍はこの後に救出作戦へ赴きます。戻るのは明日の正午を過ぎる頃になるかと。第三小隊とガレスは守備の為に残りますので、何かあれば彼等かガレスを頼ってください」
「そ、そうですか。頑張ってください」
「……健闘を祈る」
思いっきり女王派閥の予言の子と異邦の魔術師は、少しだけ申し訳ない気持ちを抱いた。
苦労をかけてごめんなさい。でも、自由にさせておくと何するか分からないんです。円卓軍相手には穏便に済ませるよう、
ガレスに寝床まで案内してもらっている道すがら、アルトリアは古い壁の壁画を見つけた。
「……六人の妖精と、角のある大きな獣……?ねえガレス、これって?」
「ええと、この壁画は元々はオークニーにいた雨の氏族の妖精の持ち物だったそうですよ。ロンディニウムの騎士がここまで運んできたと、口伝に記されていたようです」
「……描かれているものが、何だか分かるか?」
「すみません、そこまでは分かりません……。文字が書かれている部分はボロボロですし、辛うじて残っている部分も、言葉が古すぎてここにいる人では読めないんです。
……あ、でも。この大きな獣の下の生き物なら記録が残っていました。確か、奈落の虫と呼ばれていたそうです」
「ほう……」
新たな情報を得た二人。
ガレスは二人を寝床まで送り届けると、仕事があると言って走り去っていった。その後ろ姿をじっと見続けている異邦の魔術師。
「ひょっとして、ガレスの鎧を欲しいとか思ってる?」
「……欲しいっちゃ欲しいけどなぁ……あれは他の誰かの手に渡ったら、価値が無くなりそうだからな……」
コバヤシにはコバヤシの価値観があるらしく、ガレスの鎧は価値があるけど手に入れたくないらしい。頭を掻きながら中に入るコバヤシと、後に続くアルトリア。
「……また、二人で一緒の部屋かぁ」
「間借りしている身だ、贅沢は言えん」
「別に不満は無いけど……コバヤシって魔王なのに、野営とかも嫌がらないよね」
「大勢のプリニーと雑魚寝してた時もあったからな。……大量の爆弾と同じ部屋で寝てた時と比べれば、十分贅沢だろうよ」
「うわぁ……」
自分よりも酷い環境で寝てたんだぁ……と同情するアルトリア。
コバヤシが聞いていれば即座に否定しただろう。お前より酷い環境はそうそう無いと。
「あの人がパーシヴァル……メリュジーヌの血の繋がってない弟さんかぁ」
「よくもまあ、あんな呪われた装備を担いで戦えるもんだ。……また呪いかよ」
「ねえコバヤシ、あの人ならブリテンの王様になれると思う?」
「無理だろ。というか街の長としても怪しいぞ」
人物評を訊かれて即答するコバヤシ。アルトリアも予想はしていたのか、「そっかー」と気の抜けた返事を返すだけだった。
「心根が真っ直ぐなのは良いんだが、どうにも人を疑う心が足りてない。まだ若いっていうのもあるんだろうが」
「まさしく騎士の鑑みたいな人なんだけどね……」
「騎士としてなら、あれ程の傑物もいないんだろうが、王としてだとな……。
何というか、めでたい席で酒に毒入れられて殺されそうな奴なんだよな」
「……なんでそう嫌に具体的な例なのさ……」
げんなりしたアルトリアは、気分を変えようと立ち上がる。
「ずっとこのまま何もしないでいるのも居心地悪いし、誰かのお手伝いに行ってこようかな」
「そうだな……情報収集も兼ねて動くか」
――――――――――――
ロンディニウムに鍛冶場があると知って、すっ飛んで行った予言の子。異邦の魔術師はロンディニウムを適当に見て回り、短い雑談を交わしながら情報を集めていた。
「……何?反乱軍と合流?」
そして、残っていた第三小隊の兵士から、聞き捨てならない話を聞き出した。
「ええ。明日の早朝に、我等と志を同じにする仲間が増えるのです」
「反女王を掲げた軍隊は、こことエディンバラ、シェフィールドぐらいだと思っていたが……」
「そうですね。主に動いているのは、その三つで間違いないかと。
しかし、エディンバラの動きは消極的なもので、シェフィールドも似たようなもの。救出活動を行っているのは、現状我々だけなのです。
女王の圧政に耐えかねて立ち上がる人々もまた増えております。ここに来る予定の彼等は人間のみで構成されているようなのですが、自分達だけでは立ち行かなくなったようで、我々に助けを求めてきたのです」
「…………ほお」
「御覧の通り、我々の動かせる戦力は少ない。パーシヴァル団長を含めた主力部隊が居ない時は、守りが非常に不安なのです」
「ですが、明日にはそれも解決します!」
「それは良いが、会った事はあるのか?」
「いえ。我々はまだ会った事はありません。他の部隊が作戦から帰ってくる途中での話だと存じております」
「そうか……」
「?」
どうにもきな臭さを感じ、無言になる異邦の魔術師。その態度に疑問を浮かべる兵士達だが、屯所に漂ってきた匂いに思考を奪われた。
「お、良い匂いがしてきたな。そろそろ夕食の時間だ。お二人の分も用意致しますので、宜しければご一緒にいかがですか?」
「……そうさせてもらうか。何から何まで悪いな」
鍛冶場に入り浸っていた予言の子の首根っこを引っ掴み、配膳された食事を貰いに行く異邦の魔術師。
ガレスもやってきて三人での夕食。決して豪勢とは言えないが、集まった人達の心根のような温かさを味わっていた。
「このスープ、美味しい」
「いつもはもっと具が入ってるんですけどねー。今は作戦中の部隊に多めに割り振られているので、節約中なんです」
「(カレールーぶち込みてえ)」
「(美味しそうだけど止めとけコバヤシィ)」
約一名、身も蓋も無い事を考えていたが、料理はしっかり堪能していた。
「このパン、そのまま食べるにはちょっと固いんですけど、スープにつけると柔らかくなって美味しいんですよー!」
「へー……」
「……細かく切って入れても良さそうだ」
「おお、お洒落な食べ方!」
「……お洒落か?」
「どうなんだろう……?」
パンをスープに浸して食べたり、小さくちぎってスープに入れたり、好きなように食べている。
そんなとりとめのない話をしながらの食事が楽しくて、アルトリアの顔がだらしなく緩んでいった。
「なんか、良いよね。こういうの」
「?よく分かりませんが、アルトリアさんが楽しいなら良かったです!」
「……衛生兵の連中に聞いたんだが、明日の朝に他の軍隊が来るんだってな」
「あ……それ私も聞いた。鍛冶場にいた子供達が嬉しそうに話してたよ」
「ご存知でしたか!私もお出迎えに行きますので、明日は早起きしないといけないんです」
嬉しそうな様子のガレスに対し、他の二人の表情は優れない。
「……その人達、信用できるの?」
「……へ?」
「……ごめん、何でもない。ごちそうさま」
「アルトリアさん……?」
「……」
食べ終えた食器を戻しに席を立つアルトリアを、不思議そうに見つめるガレス。
「お前さん、出迎えの時に鎧は着ていくのか?」
「ええと、はい。一応、仕事の時はずっと着ていますけれど……」
「そうか。それならいい」
「……?」
異邦の魔術師もまた、意味深な言葉を投げかけた後に席を立った。
与えられた寝床へ戻った二人。備え付けの毛布に包まった所で、不意にアルトリアが話し出す。
「……明日、私もガレスと一緒に行ってもいい?」
「好きにしな。俺達はここへ来たばかりの余所者だ。円卓軍も反乱軍も上辺しか知らん。この目で見て確かめる方が早い」
「そうだね……」
ロンディニウムは生きる気力に満ち溢れていた。人間も妖精も、みんな善良で温かかった。
だからこそ、考えてしまう。
過去にこの地で起きた惨劇を知る二人は、その可能性が頭から離れない。
「鍛冶場にいた、顔に傷のある男の子。セムって名前なんだけど、あの子がガレスの鎧を作ろうって言い出したんだって」
「そうか……」
「ふふっ、本人は違うって認めなかったけど、妖精眼が無くたって分かるよ。照れ隠しだって」
「子供をいじめてやるなよ……」
異邦の魔術師は大人げないと思ったが、予言の子もまだ子供だった事を思い出し、一言だけで済ませておいた。
「一緒にいたお婆ちゃんも、元は土の氏族の鍛冶師だったんだって。あの鎧を作ったのもお婆ちゃんなんだよ」
「そりゃ凄いな……」
「これまでいっぱい、ガレスは人を助けてきたんだよ」
「俺達と会った時も、モースと戦ってたからなぁ」
「違うよ」
「……?」
「戦いだけじゃない。果物を籠から落として泣いていた子。食べ物を探しに行って迷った子。ガレスはそういう子も助けてきたんだよ」
「――。そうか」
「…………明日、何事も無いといいよね」
「……そう願おう」
――――――――――――
早起きは得意では無いけれど、妙な胸騒ぎを感じながら眠りについたせいか、コバヤシよりも早く起きる事が出来た。少しだけ重い瞼を擦りながら、杖を持って寝床から抜け出す私。
分けてもらった水で簡単に顔を洗って、逸る気持ちを抑えられずに早足でロンディニウムの入口へ向かっていると、鎧が擦れる独特の音が耳に入ってきた。
「あれ?アルトリアさん?」
ガレスだ。……良かった。ちゃんと装備を着て来ている。
「おはよう、ガレス。私も一緒に行っていいかな?」
「え?その為にわざわざ?朝食の時に改めて紹介しますから、寝ていてもよかったのに」
「早めに目が覚めちゃったから」
「そうですか……では一緒に行きましょう!」
嬉しそうに笑うガレスに、私も微笑みを返して入口へと向かう。
出迎えの兵士達だけでなく、ロンディニウムの住民の皆もほとんどが起きていた。
……どうか、私の心配が杞憂に終わりますように。
心の中で祈っていると、第三小隊の兵士の人が私達を見つけて声をかけてくる。
「お、ガレスに……アルトリアさん?おはようございます」
「おはようございます」
「はい、おはようございます!……ひょっとして、遅れちゃいましたか?」
「いや、そんな事は無いぞ。今はマガレさんが彼等と話をしているところだ」
「……彼等は、もう砦の中に入っていますか?」
「ええ。しかし、一目見ましたが、
あれで我々の助けがいるというのだから、さぞや苦労してきたのでしょう」
「――――」
心臓が早鐘を打ち始めた。
集まっている人達の中をかき分けて進む。兵士の人やガレスが慌てたように呼び止めてくるけれど、それに答えられる余裕は無かった。
人の輪を抜けて、マガレさんと反乱軍の人達が話している光景が目に入る。
完全武装の兵士達と、中に運び込まれている
「ア、アルトリアさん!いきなりどうしたんですか!?」
「……ねえ、ガレス。あの樽の中身って……何?」
「はい?樽?……本当だ。お酒……な訳無いですよね。うーん……水でしょうか?」
――丸い砦は燃え尽きる。
予言の一文が頭をよぎった。そして、最悪の選択肢が頭に浮かんだ。
「ここまで大勢の行軍とは、さぞお疲れでしょう。どうか体を休めてください」
マガレさんが握手をしようと手を差し出した。
「これから共に戦う仲間として、力を合わせて戦いましょう!」
「
――妖精眼が反応した。
「駄目ッ、その人達に近づいたら駄目ェーーーー!!!」
「え、アルトリアさ――」
「クソッ、勘の良いガキがっ!!」
思わず声を張り上げたけれど、それに対する反応は敵の方が早かった。
マガレさんがこっちを振り向いたと同時に、相手が抜いた剣が彼の体を切り裂いた。
「ぐ、はっ!?な、なぜ……!?」
「マガレさん!?お前達、何を――!!」
「勘付かれた!!予定変更だ、
異変に気付いた兵士達が、戸惑いながら剣を抜く。でも、ここにいる第三小隊は衛生兵しかいない。それに引き換え、相手は数も上回っていて完全武装している大軍だ。
普通に戦えば勝ち目は無い。
「入り口を塞げ!ここにいる奴等は女子供も含めて、一人も逃がすな!我らのブリテンに傷物など不要だ!!」
「皆殺しだ!落ちこぼれ共に故郷など不要だ!」
「生意気なパーシヴァルに思い知らせろ!これは報いだ!!」
――――。
いま、なんて、言った?
「――――、あ」
このあったかい人たちを、不要と言ったのか。
差別をしない人たちを、傷物と罵ったのか。
「あぁ、ああぁ――」
血を流して倒れた彼を見て、目の前が真っ赤に染まっていく。
こちらに武器を向ける人間達が、醜い化け物へと姿を変えていく。
体の奥底から、煮えたぎったマグマのように怒り狂う感情がせり上がってくる。
「ああああぁ――――」
――オークニーで見た、寂しそうに笑う
――それを見守っていた、最後の
――私をこの旅に送り出した、平和な國を目指して裏切られ続けた
ふざけるな、ふざけるな――!
みんな、がんばってきたんだぞ――!!
この場所で、みんなが仲良く、助け合える國を目指して――!!
「あああああああああああ!!
おまえたち、おまえたちはぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
許さない許さない許さないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない――!!
報いをっ、こいつらに報いを受けさせてやるっ!!
「うああああああぁぁぁぁぁ!!!!」
まずは、アイツをっ!!
手を差し出したあの人を斬った、アイツを!!
地面を割る勢いで足を踏み抜いて、殴り倒してやろうと跳んだ。
「撃て――!!」
極限の速さの中で、スローモーションに聞こえる誰かの声。ほんの僅かに意識を向ければ、反乱軍の弓兵が矢を放つのが見えた。
「――」
させない。
打撃から魔法へ
皆を巻き込まない威力の魔法を拡散させて、全部撃ち落とす!
そう、全部――
「――――、ぁ」
頭に上った熱い血が冷めていく。
一度跳んだ勢いは止められない。
「――う、うそ、嘘っ――」
矢が皆に到達する前に、他の打開策を考えないと――!
――魔弾では数が足りない。魔術を準備する時間が無い。
魔法の威力を上げたら巻き添えが出る。
――――――――。
……え?なにも、無いの?
「――い、嫌っ、駄目――」
今の自分が出来る事で、皆を助けられない。
そうなってから気が付いた。
初動を間違えた――!
皆を守るために動くべきだったのに!!
「――嘘っ、嘘ぉっ!?――」
これだけ考えられる余裕があるのに。
矢なんて止まって見えるのに。
…………。
全員を救えないなら。
選ばなければならない。
誰を助けて、誰を見捨てるか。
「――――――――」
…………。
そんなの。
どうやって決めればいいの?
戦えるか戦えないか?――兵士以外は皆戦えない。
後どれだけ生きられるか?――人間は大人も子供も寿命は同じ。私には分からない。
優しい人を優先?――みんな優しいひとたち。
…………………。
分からない。
どう動けば良いのか、分からない。
どうにもならない現実を目の前にして、思考が止まってしまう。
視界の端でガレスが動いたのが見えたけど、一人を守るので精一杯だろう。
ごめんなさい。
ごめんなさい、ごめんなさい――!
撃ち落とせる矢に狙いを定め、そうでない矢の標的の人が見えた。
頑張って壁を直してた妖精。
私にクッキーをくれた女の子。
親切な兵士の人。
子供達を庇うお婆ちゃん。
ごめんなさい、役に立たなくてごめんなさい。
期待はずれでごめんなさい。
守れなくて、ごめんなさい――!
「――――メガス――」
――風を切る音が聞こえた
矢の軌道を追っていた私の視界に、矢の進行方向の反対から何かが飛んでくる。
「――あ、あぁ――!!」
遠くに見えた人影。
弓を構えた異邦の魔術師。
矢を番えて一瞬で放つ、神速の射撃。
私が撃ち落とそうとしていた矢も、撃ち落とせなかった矢も、彼は等しく狙い撃って落としていった。
「――!!」
攻撃の体勢を解き、マガレさんの近くに着地して、彼を抱えて円卓軍の皆の元に戻る。
「メガヒール!!」
覚えていた回復魔法を彼にかけて、兵士の人に預けた。彼等は衛生兵だ。もし回復しきってなくても、適切な処置を施してくれるだろう。
「ぐああっ!?」
「ぎゃああっ!?」
悲鳴の上がった方向を見てみれば、敵の弓兵が倒れ伏しているのが見えた。
コバヤシだ。コバヤシがやってくれたんだ。
「ちいっ、小癪な真似を……!」
こちらに殺意を向けて襲い掛かってくる兵士達。
――その前に立ちふさがるように、異邦の魔術師が現れた。
「その異様な風貌……異邦の魔術師か!?ならばあの小娘は予言の子か!おのれ、尊き方の温情を無視した愚か者――」
台詞が途切れ、後ろに吹き飛んでいく兵士。壁に激突したその体には、剣が深々と突き刺さっていた。
「ご、あ――」
「よりにもよって、かよ。厄介な連中を引き込んだモンだ」
懐から新しい剣を取り出したコバヤシは、私達を守るように前に出る。
「っ、魔術師さん!私も一緒に戦います!!」
「怯むな!!騎士の真似事をしている半端者、パーシヴァルの兵士風情が一人増えた所で――」
「■■■■■■■■■―――!!!!」
雷が大地に落ちたような、耳をつんざく
たった一度の咆哮で、戦場を支配してしまう強大な力の波動。
聞くに堪えない雑音をかき消して、世界を自分の物へと塗り替える支配者の怒り。
大気が震え、大地が揺れ、敵も味方も一様に耳を塞いでしゃがみ込んだ。
まるで嵐が過ぎ去るのを待つように。
まるで許しを乞うように。
体の震えが治まって、皆が恐る恐る顔を上げる。
だが、その嵐は佇んだままだった。
だが、許しは与えられなかった。
見開かれた目は憤怒に燃え盛り、不気味なほどに冷静に相手を捉えていた。
「……………う、うあぁ……」
「ひ、ひっ……」
「うぅ……うぅぅ……」
聴覚が戻ってきて聞こえてきたのは、威勢を失った敵対者達の怯えた声音。怒りをぶつける対象だというのに、いっそ哀れに思えてしまった。
コバヤシは顔を傾けて、後ろのガレスに視線を送る。
「ガレス。お前が騎士になった
あんなに怒っているのに。怒りの色で目は満ちているのに。
その声は水面のように静かで、その瞳には強い光が宿っていた。
「――みんなを、みんなを守る事です!みんなの居場所を守るために、私は騎士になったんです!!」
ガレスは目を逸らさずに応えた。
よく言った、と彼の心は呟いた。
「――なら、頼んだ」
「――はい!!」
交わされた短い言葉に、絶対の信頼を感じる。ガレスの言葉に我を取り戻した皆が、反乱軍を警戒しながら下がっていった。
「アルトリア。やる事は分かるか」
心臓が跳ねた。さっきは途中で考えられなくなっていた。
深呼吸をして、冷静な思考を取り戻そうとする。そして、今の状況でやるべき事を整理する。
あの樽の中身は多分、油。もしくは他の燃える物。
弓兵はコバヤシが潰したけれど、まだ他にもいる。
「火災の対処と、弓兵の始末……!」
「――上出来だ」
……良かった、間違ってなかった。
「……半端者にもなれない、狂信者の屑共が。どの面下げて、ロンディニウムに踏み込んでやがる。
他人にだって手を差し伸べられる連中を、斬りやがって。戦う力の無い連中まで、狙いやがって。それで、誰かの騎士を、名乗るんじゃねえ。
――敵の前で敵である事を名乗らない、薄汚い卑怯者共がァ!!」
片手に槍を担ぎ、片手に剣を構え、魔王コバヤシは敵を見据えた。
「ここには子供がいる。殺しは避けるが、死ぬ寸前までは覚悟しろ……!!
冥府の門の入り口で、自分達のやろうとした事を死ぬまで後悔しやがれ――!!」
「あ、ああぁ……殺せっ、殺せぇぇぇぇ!?!?」
「剣でも槍でも弓でも、矢でも大砲でも毒でも爆弾でも持ってこい!!全員纏めて叩き潰してやる!!!!」
コバヤシは敵陣に突っ込んで、全滅させるまで暴れまわった。
防衛網を食い破り、逃げる相手を一人たりとも逃がさなかった。
パーシヴァル達が戻って来るまでに、反乱軍は全て鎮圧された。
そして全てが終わった後に、私の胸に残ったのは安堵でも達成感でもなく。
――思い上がっていた自分への、激しい自己嫌悪だった。
――――――――――――
ロンディニウムを襲った反乱軍の凶行。その場に居合わせた予言の子と、異邦の魔術師の活躍で奇跡的に被害者は皆無であった。
反乱軍の相手を一手に引き受けた異邦の魔術師と、遠くから住民達を狙う弓兵の対処、ロンディニウムに広がろうとしていた火を、氷の魔法で消し止めた予言の子が居なければ、この結果は無かっただろう。
一人残らず虫の息の反乱軍は一ヶ所に集められ、最低限死なない程度の治療をして延命させていた。それを痛ましい目で見つめる団長パーシヴァル。
「……私が迂闊でした。我々に賛同する者ばかりではないと、分かっていたのに」
「志だけじゃどうにもならない時もある。……まあ実際問題、円卓軍も人手を増やさなきゃやっていけなかったんだろう?手段は間違ってなかったが、引き込む相手を選ぶべきだったな」
後悔の念を滲ませる偉丈夫の騎士は、自分が長の器ではない事は分かっていた。
それでも、一度その立場を背負ったからには、最後まで責務をやり遂げなければと心を改める。
「……彼等をどうすべきでしょうか」
「ん?そうだな、俺の所なら敗者に人権なんて無いし、身ぐるみ剥いで殺すなり追放するなりするだろうな。
ここは妖精國だし、手に余るなら女王軍にでも引き渡しておけ」
「女王軍は受け入れてくれるでしょうか……?」
「反女王軍とは言え、円卓が戦う理由は女王だって理解してるだろう。本気で潰そうとはしてないし」
「……」
目の前の男のいっそ信頼すら感じられる物言いに、パーシヴァルは目を丸くした。
魔界から帰ってくる前も、後も、女王の圧政には皆が苦しめられてきた。
女王軍やキャメロットに住む上級妖精以外で、そのような言葉が出てくるなど思ってもみなかったのだ。
「……その、意外でした。いえ、貴方達は女王と敵対している訳ではないのでしょうが……」
「予言の子はともかく、俺は別に楽園から遣わされた使者でも何でもない。死を踏みつけにして成り立ってる國なんか、美しいとも尊いとも感じない」
「それは……」
パーシヴァルは返す言葉も無く言い淀む。このブリテン島の歴史は、古くから厄災との戦争や氏族間の争い、虐殺など、多くの血を流して続いてきたのだから。
「勘違いするなよ。死骸で出来た國だからじゃない。それを自覚してる連中が、余りにも少なすぎる」
「!」
「國は生き物が作る最大級のコミュニティだ。作る場所がどこであれ、住んでる奴さえまともなら良い國はできる。その逆も然りだ」
年がら年中、地獄のような暑さの灼熱魔界の連中は、それに負けない暑苦しい魔王に引っ張られ、立て直されている。
王と王妃が殺され、ロスト軍に散々荒らされた兎々魔界は、復讐を乗り越えた魔王の優しさによって豊かさを取り戻している。
復興までの道のりは過酷だったろうに、それを笑い飛ばして生きていた。
「魔術師殿……」
「お前達の女王は、その最前線で戦ってきた。2000年……あるいは、もっと長く。
俺には到底無理な話だ。さっさと見捨てて別の場所に行ってるだろうよ。
その功績。その覚悟。今までのモルガンの道程は、決して軽んじていいモンじゃない。
その結果が圧政であっても、洗脳であっても。それが間違いだなんて、誰が言えるよ?」
「……」
パーシヴァルにはもう、何も言えなかった。
モルガンさえ倒せば、メリュジーヌは妖精騎士から解放され、自由になれる。己が円卓軍を組織した真の理由。
人間や妖精を救いたい気持ちに嘘は無い。だが、槍を振るい続けるこの理由だけは心の奥底に伏せてきた。
魔術師の言葉は、そんな一人の騎士の根底にある罪の意識を掘り起こしてきた。
浅はかだった頃の自分を、いっそぶん殴りたくなる衝動に駆られる。
冷酷な魔女もまた、この國を愛していた一人だというのに。
「……まあ、俺も直にこのブリテンを歩いて見つけたものもある。よく目を凝らして見てみれば、まともな所もあるんだとな」
よく探さなければ見つからないのが問題だ、という本音はしまっておいた。
「お前に忠告しておいてやる。お前のその呪われた槍はもう使うなよ。お前の姉のメリュジーヌが、そのうちに代わりの逸品を持ってやってくるだろうから」
「!?な、何故それを、その名前を……!?
ま、まさか、貴方は――!?」
うろたえる騎士に対し、立てた人差し指を口に当てる事で答えを示した。
去っていく異邦の魔術師の後ろ姿に、白光の騎士は深く頭を下げた。
――――――――――――
無事だった住民達が、残っていた衛生兵達が、帰ってきた騎士達が予言の子にお礼を言って去っていく。
彼等彼女等からの心からの感謝の気持ちを伝えられる度に、予言の子の心は軋んで悲鳴を上げていた。
――だって、自分は、あの時――
守ろうなんて考えずに踏み出して、失敗していたのに。
そんな感情を表に出せる筈もなく、我慢して受け答えしていた予言の子。
そして、あの時怪我をしたマガレからお礼を言われて、罪悪感に耐え切れずに泣き出してしまった。
「うっ、ひぐっ、ち、違うんです、わたし、わたしは、あの時……」
「あれはあなたの責任では……あ、魔術師殿!
す、すみません。いきなり泣き出してしまわれて……」
「……少し休ませてやろう。連れて行くぞ」
予言の子を抱えた異邦の魔術師は、遥か高くの砦の上に飛び立った。
座らせて背中を撫でる手から、嗚咽の震えが伝わってくる。
「わたし、全然だめだったのにっ。あの時、コバヤシが助けてくれただけなのにっ……!」
「……ああ」
「みんな、みんながありがとうって。みんながやさしくて、つらくて、なにもいえなくて……!」
拭っても拭っても、止まらない涙はアルトリアの手を濡らしていく。
あの時のアルトリアの失敗を指摘できるのは、同じ世界が見えるコバヤシだけだった。
それに、きっと。
包み隠さず話したとしても、彼等はきっとアルトリアを許すだろう。
「ひっく、ひっく……ごめんなさい。ごめんなさい。役に立たなくてごめんなさい。
足手まといでごめんなさい。期待外れで、ごめんなさい――」
いっそ、石でも投げられて罵られた方が、彼女にとって気が楽だったかもしれない。
虐待される事には慣れていても、優しさを向けられる事には慣れていないのだ。
行き場の無い気持ちは小さな心の器から溢れ出して、アルトリアの青い瞳から零れ落ちていくばかりだった。
傍らのコバヤシも責める気など無かった。
巡礼の旅を共にこなしてきた仲間として、彼女が冷静さを失う程の怒りを覚えるのも理解できるからだ。
「怒りも憎しみも、人に力を与える感情だ。抑えなくていい。ただ、呑まれるな」
「ひ、ひぐっ、ぐすっ……」
「最初は出来なくて当然だ。……俺の仲間もそうだった。強い怒りや復讐心を抱えて戦う奴も多かった。
俺にはそんな、決定的な出来事は無かったが」
「……グス……そう、なの?」
「そうだ。お前はもう一人じゃない。ヤバい時にはフォローしてやるから。
出来ない事に引け目を感じるな。少しずつ、慣れていけばいいんだ。
……今は思い切り泣いておけ。今までそれが許されなかった分、泣いていい」
――その言葉が最後の一押しとなった。
自分は予言の子だから。皆に期待されているから。より良いものを目指すように躾けられ、駄目な所なんて見せられなかったから。
泣いている時はいつだって一人だった。誰にも見せられなくて、見せたくなくて。
「う……うぁぁ……うわあああああああああああん!!わあああああああああああん!!」
だから、こんな大声で泣いたのだって初めてだった。
誰かにぎゅっと抱き着いて、悲しい気持ちをぶつけたのなんて初めてだった。
あらん限りの感情を外に吐き出した。喉が枯れようが、顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃになろうが、構わずに泣き続けた。
「うわあああああああああああああああああん……!!」
泣いて喚いて、これ以上無いという位に泣き尽くして。
空っぽになった心の底に、あたたかい感情が生まれたのをアルトリアは感じた。
・魔王コバヤシ
ウェポンマスタリー(武器熟練度)、全てがLV100。
拳、剣、槍、弓、銃、斧、杖、防具を最高峰の技術で扱える。
装備魔ビリティ
『敵寄せ』
敵に優先的に攻撃されるようになる。
『二刀流』
メイン武器とサブ武器の二刀流が可能になる。サブ武器の能力低下が無くなる。
『手加減』
自分のレベルが相手以上なら、攻撃した相手のHPは"1"残る。
『乱定剣』
装備アイテムを攻撃アイテムとして使用できる。
『ロックオンアイ』
戦場の敵の回避率を-20%させる
・アルトリア・キャスター
強さだけが上がり続けた結果、心と経験が伴わずに致命的なミスを犯してショックを受けた。
彼女にとっては苦い経験であったが、悲しさだけが残る記憶ではないのも、また確かであった。
・ガレス
予言の子には合流せず、ずっとロンディニウムで頑張っていた騎士。
アルトリアを見て運命を感じたものの、それはそれとして戦う理由は揺るがなかった。
・パーシヴァル
円卓軍の騎士であり、メリュジーヌの弟。
騎士としてはお手本にすべき人物なのだが、未だ精神に未熟な面が目立つ。ボガード辺りの元で扱かれれば、とんでもなく成長しそうな人。
後に選定の槍が可愛く思える程の封印武器を姉から贈られて、ひっくり返る事になるのは別の話。
・反乱軍
どっかの風の氏族長の私兵。相当な戦闘訓練を積んでいたが、ガチの死線を幾度も潜り抜けてきた魔王相手にそんなもん通用するはずも無く、たった一人に全滅させられた。
円卓軍を狙った理由は、予言の子が巡礼の鐘を鳴らして、ブリテンに女王打倒の意識が広がっている中で最も精力的に活動していた為。尊き方の温情を無視し続けてきたのもあるかもしれない。
・モルガン
我が夫が名前を呼ばない氏族長の暗躍をただ放っておいた……ワケでもなく、反乱軍の後ろに女王軍をスタンバイさせておいた。
ロンディニウムの住民を救って円卓軍を大人しくさせようとしていたが、目論見が外れる。まあ、夫の晴れ姿が見れたし良いかと開き直った。
アルトリアが泣きだす前に監視を切った出来る妻。
この作品の設定を使った別の小説をぼんやり考えてます。なんか面白そうだと思ったものがあれば、一票どうぞ。
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