あと一話、モルガンの幕間出してアルキャスの冒険を再開します。
最近キャストリアが可愛くてしょうがない。
楽園の妖精二人と妖精騎士三人が魔界の住人に追加され、少しだけ騒がしくなったミニ魔界。元より多種族が一人の魔王の元に集い、配下として働いている現状で五人増えた程度で秩序が崩れるような心配は無い。
古参の女悪魔もコバヤシを慕ってはいるが、それは恋慕とは別の感情。時折、自分が立てた手柄に対する報酬として体の関係を求めたりするものの、快楽目的の遊戯としか思っていないのだ。
――私達のボスが拾ってきた女達が急に妻とか恋人とか自称し始めた件(笑)
――何それウケるwww
代わり映えしない日常に突然投げ込まれた、毎日の話の種になる存在に悪魔達は草を生やした。応援したり、からかったり、蚊帳の外から観察したりと、程度の違いはあれど彼女等は悪魔達からは歓迎されていると言っていいだろう。
「ご主人さまー。バーゲスト様のメイド服、胸だけ可変式になりませんかー?」
「………………なんて?」
細々とした執務を片付けていたコバヤシの元にやってきたメイド長とバーゲスト。届けられた願いの意味不明さに、思わず聞き返してしまった。
「ですから、バーゲスト様のメイド服ですよー。バーゲスト様のおっぱいが育っているせいで、もう何度も新しいの用意してるんですよー?」
――このゾンビのメイド長、もっと言葉をぼかして言ってくれないでしょうか。
バーゲストは恥ずかしさに顔を紅潮させるが、そもそも自分で言えなかったから彼女に頼んだ身なので文句も言えない。
コバヤシはバーゲストの巨大な胸を凝視した。バーゲストの顔が耳まで真っ赤に染まる。
「…………えっ、育つの、それ?」
「だから、育ってるって言ってるじゃないですかぁー!初めに見た時からたぷたぷなのに、暫く経ったらたぷんたぷん、更に経ったらどたぷんどたぷんですよー!」
ほらほら~とバーゲストの巨乳をボールのように弾ませるメイド長。
やめてあげなさい、ボールの持ち主が小声で「おやめになって……」とか言ってるでしょうが。
このバーゲストの成長は、魔王にとっても理解の範疇を超えていた。女性悪魔や女の魔物の中には豊満な体の持ち主もいるのだが、バーゲストはそれすら凌駕する凶悪な体つきを誇っている。
それが現在も成長途中などと言われて、即座に納得できるだろうか?少なくとも魔界にいる豊満ではない肉体の持ち主は、『ふざけるな!!』と羨望と嫉妬の感情をぶつけてくるだろう。
ではどれくらい凶悪なのかと言えば、肩がこるなんて朝飯前で、なんと物理的に胸部から下の視界が塞がれてしまうというのだ。小さい者は見えづらいと彼女はよく口にするが、嫌みでも何でもない現在進行形で直面している問題だったのだ。
コバヤシも初めて聞いた時は笑い話なのかどうか判断に迷った。横目で様子を見たアルトリアの顔から感情が抜け落ちていたのを確認して、コレ笑ったらアカンやつや、とバーゲストの苦労話に同情しておいた。プリニーは遠慮なくゲラゲラ笑って爆発した。仲間殺しは重罪だが、今回だけは見逃した。
「……さらしでも巻いたらどうだ?」
目の前の問題に対し、コバヤシは取り敢えずの対処法を考えてみた。確か、さらしなら魔界にいる侍が使っていた。
しかし、メイド長は首を横に振る。
「駄目でしたー」
「試したのね……」
「立ってるだけなら問題ないんですけど、ちょっと力が入っちゃうと千切れちゃうんですよねー」
「マジかぁ……」
胸ばかりに注目しがちだが、バーゲストは恵まれた体格に相応しい筋肉の持ち主でもある。腕や足の露出が多い魔界のメイド服を着ている彼女は、その強靭な肉体を余すことなく披露していた。
なにせ汎用人型悪魔の全てより大きく、魔物でも彼女の大きさを上回るのは龍とか熊とかくらいしかいない。コバヤシが面識のある魔王の中から比べて見ても、比肩しうるのは灼熱魔界のレッドマグナスか伝説の大魔拳ゴルディオンくらいだろうか。もしかしたら、筋肉量だけなら彼等をも上回るかもしれない。
彼女の鍛え抜かれた大胸筋や広背筋が、さらしという胸の拘束具を簡単に破ってしまった。バーゲストはミス・アンチェインの称号を贈られ、丁寧に辞退した。
そしてメイド長がその辺の説明をしていないので、単に胸がデカすぎて大変だという話に誤解されていた。
「バーゲスト様は大きいから、メイド服を特注で作らないといけないのにキリがありませんよー!」
「も、申し訳ありません。ですがその、成長は自分でも止められなくて……」
「止めろなんて無茶は言わねえよ。……でもどうするかなあ……」
「この人、獣の厄災じゃなくておっぱいの厄災ですよー!」
「本人が一番気にしてるんだから止めてさしあげろ」
おっぱいおっぱい言いたい放題であるものの、これでもメイド長はバーゲストを重用しているからこそ相談に来ていたりする。いずれ伴侶を迎える身として、家事全般を完璧にこなせるように努力を続けてきたバーゲストは、そのスキルをメイド達から高く評価されていた。
既にメイド仲間として認めている以上、彼女の働く環境を出来るだけ良くしようという気遣いの表れでもあった。
それを理解している上司の魔王は頭を悩ませた。
「……何か考えておくから、それまではどうにかやりくりしててくれ」
「はーい、お願いしまーす!」
「あの、私の体の問題ですので無理にとは言いませんから……」
「これくらい気にするな。お前の仕事は評判良いし、それへの対価としちゃ安いくらいだ」
「……ありがとうございます」
一礼して去っていくメイド長とバーゲストを見送り、コバヤシは椅子の背もたれに深く体重をかける。
ああは言ったものの、自分に何か妙案が浮かんでいる訳でも無い。
「……どうすっかなぁ」
――――――――――――
仕事を片付けながら考えたものの、碌なアイデアは浮かばない。気分転換に席を立ったコバヤシは、部屋の外に出てバーゲストに声をかけた。
「バーゲスト。ちょっと小腹を満たせる物を用意してくれ」
「はいっ、すぐにお作り致しますわ。お待ちくださいませ」
凝り固まった体を解して食堂の席に着いたコバヤシは、食事の配膳用のカートがガラガラと立てる音を聞いて嫌な予感を感じた。
「お待たせいたしました!!」
「…………おおぅ」
デカい。そして多い。
おかしいな。俺、小腹って言ったよね?小腹を満たす物って言って、山盛りの焼き飯とか海産物のバーベキューとか出てくる、普通?
そんな困惑を顔に出すコバヤシに対し、ニコニコしながら料理を目の前に並べるバーゲスト。自分の出した量に一片の疑問も抱いていないようだ。
「さあ、どうぞ召し上がってくださいな♪」
「……いただきます」
でも食べてしまう。
だって全部美味いんだもの。一口食べたら止まらないんだもの。
味の好みを把握されてる上に、体調や気分に合わせた食事を出されて屈しない男がいる筈がない。これきっと、裏でメイド達が口添えしてるな。でなければ、こんなドンピシャな料理出てこないだろう。
「……うめぇ」
毎度思うが美味すぎる。もうバーゲストの料理でしか満足できない舌に改造されていそうで、コバヤシはちょっと恐くなった。
「パイ、うま……なにこれやっべ、うま……」
だって全く関係ないアルトリアがこの有様だもの。ご飯の匂いに誘われてやってきて、ミートパイを一切れ口に運んで即効で陥落してるもの。
「……アルトリア。食べるのは構いませんが立ったままなのはおよしなさい。田舎妖精に教養など期待していませんが、まさか常識までは欠如していないでしょう?」
「はーい、ごめんなさーい。あと田舎妖精云々のくだりは忘れないからなバゲ子。
……それで、このご飯どうしたの?コバヤシだけ皆より早めのご飯なの?」
「小腹空いたから用意させて、出てきたのがこれだよ」
「……バゲ子って小腹っていう言葉の意味分かってるの?」
「な……分かっているに決まっているでしょう!
……た、確かに少し多く作り過ぎたのは認めますけれど……」
「少し……?」
「少しねえ……」
バスケットボール程はある焼き飯の山。食材を丸ごと串で刺し貫いて焼いたバーベキューの山。自動車のタイヤのように鎮座する巨大なミートパイ。
どれか一つで一食分として通用するだろう料理を三品同時に出して、少しという表現をするのは無理があった。
「毎回たくさん作っちゃうバゲ子もバゲ子だけど、それを毎回完食するコバヤシも相当だよね……」
「料理に拘る上に特盛級の量を作るやつがいたからな。よく食う奴もいたし。俺も最初はそうでもなかったんだが、釣られてたんまり食うようになっちまった。
まあ食った分はアイテム界にでも暴れに行けば消費できるし、特に気にする必要も無いだろう」
そう言って焼き飯の山を崩しているのだが、未だ三合目すら見えていない有様だ。「減らねぇ……」とぼやきながら食べ進めていくコバヤシに、アルトリアも呆れながらもう一切れミートパイをかじった。
「変な所で律儀だよね。食べきるには多いって分かりきってるんだし、残したって文句も言われないでしょ」
それはアルトリアの言う通りなのだが。
文句は言われないが、少し落ち込んで「……そうですか」とか言われるのが心にくるのだ。普段は勇敢な大型犬の癖に、この時だけ捨てられた子犬のような雰囲気を出すんだ、この女。
キッチンから顔を出したメイド達が、「え、残すんですか?」って目でこちらを見てくるから残し辛いのだ。
そんな自分特有の悩みを妖精眼で悟られないよう、無言で食し続けるコバヤシだった。
――――――――――――
「そんな訳で困ってるんだけど、なんとかできそうなヤツ妖精國にいる?いないだろ。どーせいないよね。うん分かってた」
「答える前に結論出すの止めて頂けますか我が夫」
結局、自分だけでは限界があると感じたコバヤシは、恐らく今一番頼りになるであろうブリテンの女王に助けを求めてみた。妖精國の評価はぶっちぎりで最低値だったので、大して期待もしていなかったのだが。
コバヤシの予想に反して、モルガンはどこかしたり顔であった。
「……え?何とかできるの?」
「無論です。私の数少ない信頼できる妖精に頼んでみましょう」
「言ってみるモンだな……」
「では我が夫。早速行って参ります」
間を置かずにモルガンは水鏡で消えた。
――何だか、普段に比べてワクワクしてたような?
残された魔王は女王の態度に首を傾げるのであった。
――――――――――――
「はーーーー忙しい忙しい!なんでドレス職人のボクが、ドレス仕立てないで他の物ばっかり作ってるのかなーー!?」
打って変わって、ここは領地シェフィールド。
桃色の小さな糸紡ぎの妖精が、多忙さに目を回してる真っ最中であった。
「ボガードの奴!次から次へと仕事を持ってきやがって!
いや、仕事持ってくるのはいいけど内容がオカシイ!!槍だの鎧だの鞄だの……そんなものばっかり仕立ててたら腕が鈍るっつーの!」
「忙しそうですねトトロット……いえ、今はハベトロットでしたね。シェフィールドでの待遇に不満があるのなら、すぐにでもキャメロットに招待しましょう」
「いやーそれは遠慮しておくぜ……なんだかんだでここなら花嫁衣装も作れる時あるからな――ってうわビックリしたぁ!?」
彼女の工房にひょっこり現れた女王モルガンに、忙しなく動いていたハベトロットと呼ばれた妖精は、驚きのあまりその場でひっくり返った。
「怪我はありませんか、ハベトロット?」
「う、うん大丈夫……ていうかいきなり現れるなよ!」
「そこまで驚く事ですか?」
「国一番のお偉いさんが自分の工房でアポなしで座ってたら、そりゃ驚くさ!」
「それは申し訳ない。しかし、打倒私を掲げている街にアポイントメントなどを求めては、要らぬ誤解が生じてしまうでしょう?」
「あっはっは!そりゃボガードのしかめっ面が更に酷くなるね!黙って来るのもどうかと思うけどさ!」
モルガンがまだトネリコだった頃、巡礼の旅を共に成し遂げたかけがえのない仲間の一人である妖精騎士トトロット。
今はハベトロットと名前を変えて、花嫁の為にドレスを仕立てる職人として生きていた。
「まあ、こうしてボクの所に来てくれて、ちょっぴり安心したけどさ」
「?」
「いやキミ、魔界って言う場所に連れ去られたり、そこの人と再婚したりしたんだろう?これでも心配してたんだぜ」
「……そうですか」
「でもその様子なら平気そうだな!前に見た時より、花嫁力も"2"上がってるし!」
「そうですか、2も…………2?え?"2"?に!?たったの2!?!?」
モルガンは愕然とした。そんな、料理だけでなく家事全てを履修しているのに、それっぽっちしか上がってないなんて。ショックを受けるモルガンを見て、ハベトロットは朗らかに笑う。
「そんなにガッカリするなよなー。ボクとしては、ほんのちょっぴりずつでも君が自分の幸せを求め始めたのが嬉しいんだからさー」
「ハベトロット……」
「それで?何かボクにお願いがあって来たんじゃないのかい?花嫁の味方のボクにさ!」
「……そうでしたね」
不敵な笑みを浮かべるハベトロットに、モルガンもそれに応えるように立ち上がった。
長年の戦友たる二人の視線が交差する。何も言わなくとも通じ合う、確固たる信頼の形がそこにあった。
「私の知る限り、最高の腕を持つ糸紡ぎの妖精ハベトロット。花嫁の味方たる貴女に仕事を依頼したい。
――――我が臣下が成長し続ける巨乳が原因で給仕服が着られなくなっている。どうにかしてほしい」
「そこはウソでも花嫁衣装の制作の依頼であって欲しかったよ」
訂正、二人は全く通じ合っていなかった。
尚、仕事はしっかり受けて完遂したハベトロット。後日、モルガンに連れられて魔界へ給士服を届けに来た。
「という訳ではじめましてー!ご依頼の品をプレゼントしに来たハベにゃんだぜー!」
「我が盟友のハベトロットです。妖精騎士バーゲスト、お前の働きに対する正当な報酬だ。受け取るがいい」
「陛下のご友人からの贈答品、ありがたく頂戴致しますわ」
跪いてなお見上げる程大きなバーゲストに、ハベトロットは特注のメイド服を受け渡した。
「ありがとうございますハベトロット様ー!これでバーゲスト様のおっぱいがまたビッグになっても安心できますー!」
「これくらいお安い御用さね!これでバーゲストも自分の巨乳に後ろめたさも無くなるだろー?あ、もし入りきらないくらいに成長したら、モルガンに言ってボクを呼んでくれよ?すぐに直してやるさ!」
「……は……はいぃ……!」
――だから、言葉をぼかして言ってくださいまし!!
ミニ魔界のど真ん中で、大きな声で自分の巨乳の事について話すのは止めて欲しい。「そのおっぱいで騎士は無理でしょ」「乳の厄災やべぇ」「バゲぱいご馳走様です」とか色々聞こえてきて、バーゲストは跪いた姿勢のままで顔を真っ赤にしてプルプル悶えていた。
「どうです我が夫、妖精國も捨てたものではないでしょう?」
「まあね。それはそれとして公開処刑は止めてやれ。バーゲスト、行っていいぞ」
「はい……!」
メイド服を胸に抱えて走り去っていくバーゲストを見て、ハベトロットが思わず声を漏らす。
「アイツがバーゲスト……凄いな、内に秘めたお嫁さん力が相当高いぜ」
「お嫁さん力って何だよ」
「そのままの意味さ。あー……ただ、負のお嫁さん力だから、結婚は遠いかなー……」
「……」
そりゃあ、愛が深まった相手をもぐもぐしちゃう女だからな。コバヤシは心の中で納得した。
赤っ恥はかいたものの、メイド服は最高の出来だったのでバーゲストは喜んだ。
「心機一転ご奉仕致しますわ!本日のご飯です!」
「…………うわぉ」
飯の量は倍になった。
魔界は今日も平和である。
・バーゲスト
実働部隊兼エリートメイドの役職に就いている。他のメイド達に巨乳を弄られる日々を送る。
体は今も成長しているようで、服や鎧のサイズに悩む事が多い。一度、他の悪魔に相談したらいっそ最低限だけ隠せば良いとベルトブラを渡されて硬直。
魔界も割とオープンな場所とは言え、同性からセクハラ受けている苦労人である。ただ、理解者も多いので本人的には結構幸せらしい。
・メイド長
ミニ魔界の古参メイド。ご主人様には尽くすが就業時間には厳しいので、そこに理解のあるコバヤシとは相性がいい。
元がゾンビなので、バーゲストの愛ゆえの捕食衝動に共感はできなくとも理解はある。戦力にもなるのでかなり気に入っているようだ。
そしてバーゲストにセクハラを仕掛ける回数も一番多い。強く生きろバゲ子。
・ハベトロット
モルガンのトネリコ時代からの友人。花嫁衣装が専門だが、武器や鎧もこさえられる多芸さの持ち主。
コバヤシが拾ってきた者達以外で、初めて魔界に足を踏み入れた妖精になった。世界が変わっても本人は変わらずマイペースでメイド長とも打ち解けており、その肝っ玉にコバヤシも唸るほど。
バーゲストの負のお嫁さん力を悲しむが、心が擦り切れていたモルガンに僅かでも女の幸せを望ませたコバヤシを見て、コイツならあるいは……と希望を抱く。
この作品の設定を使った別の小説をぼんやり考えてます。なんか面白そうだと思ったものがあれば、一票どうぞ。
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