妖精魔界戦記ディス・アヴァロン   作:サンダーボルト

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いつか来るモルガン祭にむけて石を貯める事に決めました。頑張るぞい。

さて、次話からはアルトリア・キャスターの冒険の再開ですが、その前にモルガンのお話をどうぞ。


【幕間】はたらくモルガン(後)

「おはようございます、我が夫。本日の予定ですが――」

 

 

 朝の挨拶を交わし、すっかり秘書っぷりが板に付いた銀髪の色白美人を見て、魔王は報告の内容を頭に入れながら感慨に浸る。いきなり我が夫呼びされた時は突っ込む空気でも無かったので放置していたが、こうも慕われていると持ち主としてより男としての喜びが勝るものだ。

 

 最初は野心の塊のような女だったので、発破をかける意味でも軽く煽ってみたのだが、どうやら想像以上に効き目があったらしい。

 

 その熱意がブリテンとかいう不良物件に向いているのが惜しかったが、あれが彼女の故郷であり夢だというならば、そのひたむきな思いを否定するのも気が引ける。少し手を貸してやるくらいなら良いかと考える程度には、モルガン・ル・フェは働いていたのだから。

 

 妖精國では毎日のように公務をこなし、バーヴァン・シーの教育や氏族長達との会議も行っている。あの呪いとトラブルが溢れる國を治めているだけあって、仕事量も半端なく多い。

 ミニ魔界ではブリテン異聞帯を汎人類史から切り離すための研究を進めているが、成果はまだ出ていない。焦らずにやれと言い聞かせているが、自分の故郷の存亡がかかっているので必死になるのも分かる。

 それと扱う魔術の研磨といった自己を高める修行。次から次へと新しい魔術を生み出しており、優れた魔術師に相応しい成果だと言えるだろう。

 更に通常業務としてアイテム強化、アイテム収集、部隊運用etc……。

 

 

「…………ん?」

「? 何か不備がありましたか?」

 

 

 報告を遮られたモルガンが、首を傾げてコバヤシを見つめる。

 深い青色の瞳が、どこか柔らかい光を宿していた。

 

 

 ――やっぱりコイツ綺麗な顔してるな……いやいやそうじゃなくて……。

 

 

 類まれている美貌に意識を奪われそうになるが、どうにか堪えた。考え事をしていた最中、不意に胸がつかえる感覚に襲われた。何か重要な事を見落としている気がする。

 

 コバヤシは頭をフル回転させて原因を探り、ある重大な問題に思い至る。

 

 

 ――……あれ。俺、モルガンを休ませてたっけ。

 

 

 急いで彼女のスケジュールを今日から先月まで遡って思い出してみる。……なんだ、ちゃんとオフの日はあるな。

 取り越し苦労だったと安堵しかけたが、よくよく記憶を掘り起こしてみると、オフの日でも仕事の日と変わらないモルガンの姿が映し出された。

 

 

「なあ、お前……休みの日は休んでるか?」

「ええ、勿論です。丸一日を研究に費やせるなど、ここにお世話になる前は考えられませんでした。

 休日の間も分身を使って雑務をやらせています。我が夫、どうかご安心を」

「…………」

 

 

 ――これはアカン。安心できねえ。

 

 

 そりゃ、ブリテンの女王一辺倒だった時に比べて余裕はあるんだろうけれども。

 

 単なる仕事でなくて趣味の範疇でもあるんだろうけれども。

 

 分身は殆ど負担が無いんだろうけれども。

 

 もしかして、何もせずにゆっくり体を休めるって事を知らないんじゃ……?

 精神が摩耗しきっていて、何か手に付けてないと駄目な体になってるんじゃないだろうか?

 

 何百年、何千年とブリテンを救うために酷使され続けてきた彼女を休ませなければ、その内壊れてしまうかもしれない。

 危機感が募ったコバヤシは迷いなく行動に移した。

 

 

「それでは、今日の私の職務は――」

「いや、今日は仕事は無しにしよう」

 

 

 モルガンの手からバインダーを奪い取り、控えていたメイドが持っていたトレイの上に置いた。一礼して去っていくメイドと、それをポカンとした表情で見送るモルガン。

 魔王の強権はこういう時に便利だ。コバヤシは心からそう思う。

 

 

「研究もしなくていい。お前は根を詰め過ぎだ。たまには何もせずに、ただゆったり過ごす時間があっても良いだろう」

「我が夫……しかし、いきなりそう言われても、何をすればいいのか……」

 

 

 だから何もするな、と言いかけて、モルガンの瞳が迷いで揺れているのに気が付いた。

 恐らくはこういった時間の使い方は苦手、ないし久々でどう過ごせばいいのか分からないのだろう。

 

 そんな悶々とした気持ちのまま休ませても効果は薄い。彼女がリラックスできる環境に置かなければ休養の意味が無いだろう。

 

 ……休みを切り出したのは自分だ。今日の業務は優先度の低い案件ばかり。後でどうとでも挽回できる内容だった。

 

 ならば。形だけとはいえ、自己申告で片方は了承した覚えはないとはいえ、妻の為に一肌脱ぐのが夫の務めだろう。多分。きっと。maybe。

 

 

「なら、今日は夫婦水入らずで過ごす日にしよう」

「…………え?」

「お前と婚約した覚えはないが、はっきり否定しなかったのも事実だからな……。

 こういう時に役に立つなら、仮初の夫婦関係も悪くはないか」

「……我が夫」

 

 

 この際、細かい部分には目を瞑ってモルガンに付き合ってやろう。そう決めた夫の心遣いに、妻の女心がキュンときた。

 

 

「……貴方からそう言ってもらえて、とても嬉しいです。

 今日一日は二人で夫婦らしく過ごすとしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ではベッドで男女の営みと参りましょうか我が夫」

「何でだ」

 

 

 白魚のような手が男の腕に絡みつき、獲物を海中に引きずり込む鯱のような力が襲う。女の細腕から生まれる怪力に慄きつつ、どうにか拮抗して相手を落ち着かせようと話しかける。

 

 

「今は朝だし、さっき起きてきたばかりだろうが。何でベッドにとんぼ返りさせようとしてやがるんだ。お前、夫婦らしい事で真っ先に思いつくのがそれなの?」

「何を言うのです、仲睦まじい夫婦の休日の営みといえば一つしかないでしょう?」

「夫婦らしい事で思いつくのそれだけなの?」

 

 

 なんて爛れた思考回路なのだろうか。

 

 コバヤシとて夫婦の経験など無いが、それでも一番初めに思いつく選択肢にそれはないだろう。朝っぱらからおっぱじめようというのか。夜魔族だって夜までは待つのに。

 

 脳内ピンクの魔女様の頭をはたきつつ、休日をどう過ごすかを考える魔王様。

 自分がたまにしている気分転換の方法を、モルガンにも試してみるかと思案する。

 

 

「何するか分からないなら、俺に付いてきてもらおうか。外出の準備しな。ピクニックにでも洒落込むとしようか」

「存外、可愛らしい趣味をお持ちなのですね」

「二言目にセックスとか言い出すよりマシだろうが」

 

 

 くすりと口元に手を添えて笑いをこぼす上機嫌な妻に、抗議の意味を込めた視線を送る夫。どちらがマシな考えなのかは人によるだろう。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 時空ゲートを通ってやってきた世界は、魔界という名に反した穏やかな場所であった。晴れた空の眩しい光がモルガンを照らす。

 

 

「我が夫……ここは一体……?」

「ここは絶花魔界。魔界の中でも辺境にある田舎の魔界だな」

「絶花魔界……」

 

 

 殺伐とした魔界しか知らないモルガンが見る、平和で穏やかな魔界。吹き付ける風には生命の息吹を感じられ、彼方まで広がる空は湖のようにどこまでも澄んだ青色に染まっている。

 風にあおられた草木が二人を歓迎するように音を立てた。風になびく自分の髪を押さえるのも忘れ、ただただ目の前の景色に釘づけになるモルガン。

 呪いも争いも彼女の妖精眼には映らない。冬の女王は春の世界を前にして、言葉も忘れて立ち尽くしていた。

 

 

「すごく、きれい――」

 

 

 放心した彼女の口から零れ落ちる心からの誉め言葉。傍らに立つ男は、それに気を良くして満足気に口角を上げた。

 

 

「だろう。遠くの空には竜巻も見えるが、破壊をもたらす災害って程でもない。心身を休ませるには良い場所だろう?」

「……ええ、とても良い場所ですね」

 

 

 見上げれば視界一杯に青空が広がっている。ブリテンの夕焼けの空でも、魔界の夜のような暗い空とも違う。雲が流れ、暖かな日差しが地上に降り注ぐ、自然の優しい祝福がこの魔界を包み込んでいた。

 

 遠い記憶の中にしかない、モルガン・ル・フェが見る事の叶わなかった故郷の風景を思い出し、瞼を閉じて感傷に浸る。魔王は彼女の頬に涙の一筋が伝う姿を幻視した。

 

 

「少し、歩きたい気分です。どこか案内してもらえますか?」

「案内するような名所は無いぞ。田舎だからな。

 代わりに俺のお気に入りの場所があるから、そこに行くか」

 

 

 先導する夫の後ろに妻が付き従う。あちこちに建てられた風車の羽が勢いよく回り、足を踏み入れた森の木々がざわざわと騒ぎ出す。風が強い魔界だとモルガンは感じた。

 

 

「我が夫。どういった経緯でこの魔界と関りを持ったのです?」

「ああ、それは反乱軍のリーダー……自分じゃ認めていないが、キリアって奴の故郷なんだよ。生まれはまた違うらしいが、ずっとここで暮らしてたみたいだから。

 ここもロスト軍の標的にされたから、それを阻止する為に来たんだよ」

 

 

 こんな穏やかな世界をも食い物にせんとしたロスト軍に、モルガンは憤った。終わった事とはいえ、自分が気に入った場所が荒らされるのは良い気持ちがしないものだ。

 

 

「それで、その時にここにぶっ刺さったのが、この槍だ」

 

 

 コバヤシの手には赤と黒が混じった色の、魔力で作られた槍が握られていた。差し出されたそれを、モルガンは両手で受け取って観察する。

 

 

「見た目こそ恐ろしさを感じますが、既に力は失われているようですね……」

「ロスト軍の総大将、魔帝ヴォイドダークはこの槍をあちこちの魔界に刺して、魔力を根こそぎ奪っていった。言うなれば、コレは世界そのものにぶっ刺さる槍だ」

 

 

 モルガンが槍を解析してみると、確かに特定の何者かへと魔力を送る機能が搭載されていた。これ一本で世界を終わらせる武器。汎人類史にこの槍と肩を並べる逸品が、果たしてどれほどあるだろうか。

 かつて自分が使っていた選定の槍を彼女は思い出していた。トネリコの失意と絶望によって、使用者の命を代償にして力を振るう呪いの武器となった槍を。

 

 

「で、これは単なる思い付きだが……それを改造してブリテンにぶっ刺して、魔界と併合出来ないモンかね?」

「……へ?これを、ブリテンに……?」

「そうそう。ブリテンが滅ぶ道を避けるにはどうすればいいのか考えてみたんだが……住民共は洗脳してるから良いとして、一番の問題は妖精國が汎人類史と同じ座標にある事だと思う訳よ」

「そう、ですね……一つの惑星に歴史が異なる二つの世界は成り立ちません。

 そもそも、妖精國は人類史が存在しない世界です。異聞帯のブリテンが存在し続ける以上、抑止力や人理継続保障機関との衝突は避けられないでしょう」

 

 

 もっとも、ぶつかった所で此方が負ける可能性は無いだろうが。宇宙の彼方からやってきた、地球上ではあり得ない規模の戦争を生き抜いてきた魔王の軍勢相手に、抑止力やカルデアがどんな手を打てるだろうか?

 他の魔界の探索を任せた悪魔が、「ついうっかり魔界壊しちゃいました、てへ☆」とか言ってくる世界だぞ。報告を聞いたモルガンが遠い目になったのは言うまでもない。

 

 

「だからさあ、魔界を通じてこの槍をブリテンに刺して、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「――――――――」

「一時的にでもいいから、そう騙くらかしてブリテンを汎人類史から引きはがしてしまえば、もう同じ座標ではなくなるだろうし。

 向こうからしても、異聞帯は元々あり得ない歴史なんだから、それが遠い場所に消えた所で問題なんて無いだろう?」

 

 

 モルガンは一瞬、何を言われているのかが理解できなかった。

 

 それでも一秒足らずで覚醒し、彼の思い付きを脳内で整理してみる。

 

 ――世界に刺さる槍を通じてブリテンをハッキングし、汎人類史のIFでなく魔界の一部だと書き換える。

 ――ブリテンを汎人類史に縫い付けている厄災が消えれば、書き換えによって汎人類史との繋がりが一時的に無くなり、その隙にブリテンを遠い世界へ引きはがしてしまえばいい。

 ――魔界にはエクスカリバーやゲイ・ボルグなど、起源は違えど汎人類史と同じ名前の武器があった。誤認、というきっかけにはなり得る。

 ――汎人類史側からすれば、あり得ない歴史を歩んだ世界が無くなっただけ。それで不利益が生じる訳でもない。

 

 前代未聞で荒唐無稽な企みだった。歴史の守護者である抑止力を鼻で笑うような所業だ。

 

 

「――――できる、かもしれない」

 

 

 だが、全く可能性が無いかと問われれば、否である。

 魔力で編まれた槍ならば、今のモルガンが手を加えるのは容易い事だ。

 本来、滅んでいたブリテンを存続させたのも彼女の手によるもの。このブリテンの歴史に手を加えられるのはモルガンしかいなかった。

 

 現実離れした案が現実味を帯びてきて、女王の顔は高揚感で歪んでいた。まさしく今まで誰も試みた者がいない、力と策謀による自分達の國の奪取。

 

 

「ふ、ふふふ、ふはは、あはっ、あはは、あははははははははは!!!」

 

 

 冬の女王は嗤った。堪えきれずにモルガンは笑った。今すぐに実行は出来ないが、その糸口は見えた。

 

 己の支配欲を曝け出して笑い続けるモルガンに、目の前の魔王も釣られて笑みを見せた。『キレッキレで楽しそうだなコイツ』と微笑ましい気持ちで見守っていた。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 腹がよじれる程に大笑いし終わったモルガンは、その様子をずっと見守られていた事に気付いて、目尻に溜まった涙を拭いながらほんのり顔を赤くしていた。

 アイデアを出した俺としては、あそこまでガッチリハマるものだとは思ってもみなかった。あれだけ喜ばれれば、思い付き程度だったとはいえ考えた甲斐がある。

 

 心配事も一つ片付いたところで、俺のお気に入りの場所に到着した。

 

 断崖絶壁の下に広がる桃色の花景色。キリアに教えてもらったが、あれはサクラという名前なのだそうだ。咲く季節が過ぎれば散っていく筈の花が、土地の力強さでも作用したのか、ずっと咲いている。

 崖に腰掛け、モルガンを隣に座らせる。眼下の光景にモルガンも目を輝かせていた。

 この魔界特有の強い風に運ばれてきた花びらのシャワーが、この高い崖の上にも届いた。モルガンの長い髪に花びらがくっついていたが、どことなく可愛らしかったので指摘しないでおいた。

 

 

「さっきはごめんなさい。つい、我を忘れてしまって」

「そんなに嬉しかったのなら、何よりだよ」

「……はしたない女だと思いましたか?」

「いや、別に」

 

 

 何の前触れも無しにあんな笑い方されたらドン引きだが、長年の悲願が叶いそうになっているのなら、あの反応も頷ける。高笑いなんかセラお嬢で慣れてるしなぁ……。

 

 

「……貴方が初めてです」

「あん?」

「私に、私の心にずっと寄り添ってくれたのは。私を見て、私を肯定してくれたのは」

「理解者は俺だけじゃないだろう」

「そうかもしれない。でも、一番近くに感じるのは、いつだって貴方でした。

 冷酷な支配者の私を、支えてくれる人はいました。でも、訪れるべき滅びを拒む邪道を、私の手を取って一緒に歩いてくれる人は貴方が初めてです、コバヤシ」

 

 

 そう言って、モルガンの手が俺の体へと伸びる。

 

 

「手を取った覚えなんか無いんだがな……」

「それは貴方が自覚していないだけです。でも、それでも構いません。貴方の存在が私を、私の娘を救ってくれた。その事実だけは否定しないでくださいね?」

「まあ、それはそうだなぁ……」

 

 

 片腕がモルガンにからめとられた。どうにも振り払う気が起きないから、されるがままになっている。

 

 

「私は貴方の所有物です。この体、貴方の好きなように扱ってもらって構いません」

「お前……」

「あの日、心も体も捧げると誓いました。憎悪で穢れた我が身ですが、美しさでは何者にも負けてはいません。

 ……私の夢に付き合わせて、貴方に負担を強いているのは分かっています。ですが、ここで私はやめられない。たとえこの願いが間違っているのだとしても、私はブリテンを失いたくない。

 貴方に背負わせている負担を僅かでも和らげられるなら、どうか私を抱いてください」

 

 

 向かい合ったモルガンの笑みは優しかった。妖精眼を持っていない俺にでも、今の言葉に嘘は無いのが伝わってくる。

 

 柔らかい女の体の肉欲に溺れてしまおうか。そう、頭の片隅に浮かんできてしまうくらい、俺の目はモルガンに釘づけになっていた。

 

 

「それに、こうやって触れていないと、少し怖いんです。この楽しい毎日が、娘が笑っている日常が、ある日突然、一抹の夢として消えてしまいそうで――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――『アレ、いらなくない?』

 ――『役立たず!役立たず!お前なんかもういらない!』

 ――『同罪だ。同罪だ。娘なんだから同罪だ』

 ――『適当に刻んで捨てちゃおう!バイバイ、モルガンの王女様!』

 

 

 かつて見た夢の映像が蘇る。妖精というものを詳しく知った今、より鮮明に、より残酷に。

 

 目の前の女が、尊厳を踏みにじられた姿になっていた。積み上げてきたもの全てを無に帰され、絶望の底に一人で沈んだ。

 

 残忍な人格の皮を被った優しい小さな妖精が、ズタズタにされて捨てられていた。

 

 これがこいつらの辿る末路なのだと、今になって確信した。

 

 

 

 気づいた時には、モルガンを自分の体で包み込んでいた。

 

 ……させるものか。

 

 許すものか。

 

 ――何者にも触らせてなるものか。

 

 

「――ぇ、あ、わが、おっと……?」

「……違うんだよなあ」

 

 

 こうして抱きしめてやれば分かる。冬の女王なんてのには程遠い、温かい女なのに。誰もがこぞって遠ざけるから誰も知らない。

 華奢な体は少し力を込めれば折れてしまいそうで、誰かが傍で守ってやらないといけないのになあ。

 

 なあ、一人でオークニーへ嫁がせた汎人類史のウーサー王よ。

 

 一人でこのブリテン島へ使命を背負わせて流した、楽園のシステムよ。

 

 どうしてこの女を一人にした???

 

 目的が達成されるのなら、この女が至る末路などどうでもいいというのか???

 

 

「故郷へ帰りたいって願いが、故郷を救いたいって想いが、間違ってるワケないだろ……」

「……我が夫……」

「間違ってねえよ。もっと上手いやり方はあったかもしれないが、お前が戦う理由は絶対に間違ってなんか……」

 

 

 世界はモルガンに優しくなかった。大事な物をどこまでもモルガンから奪っていった。

 

 ならば、それに反抗するのは悪なのか。憎むのは悪なのか。

 

 いいや。絶対に違うね。それにもう正義か悪かの問題じゃない。勝つか負けるかの問題だ。

 

 

「お前は、お前達は俺の物だ。消耗品じゃない。俺の、俺の……手放したくない()()だ」

「……たから、もの?」

「そうだ、宝物だ。宝物なら大事にして、近くに置いて、綺麗にピカピカにしてやらないとな……そうだろう、モルガン」

「…………わたしのこと、本当に、そんな風に……?」

「思ってるとも。バーヴァン・シーも、他の奴等も、みんな一人残らず」

 

 

 所詮、こいつらを使い潰すしか出来ないのなら。全員纏めて俺が貰う。俺が大切にする。

 何が邪魔してこようが関係ない。全てなぎ倒して進むまでだ。

 

 ――永劫の時の中で力を蓄え続けたのは、世界の理をひっくり返すこの時の為にあったんだろうよ!!

 

 

「…………宝物なんて。そんな事を言われたのは初めてです……。

 ……貴方はわるいひと。私のような魔女を、宝だなんて……」

「魔王だからなあ。魔女一人、配下に増やしたから何だって話だ」

「……嬉しいです。とても、うれしい……。

 私の事、みんなの事。ずっと離さないで下さいね……」

 

 

 静かに涙を流したモルガンは、俺の腕の中にすっぽりと収まった。

 

 彼女の小さな泣き声が聞こえないように、絶花魔界の風が強くなった気がした。




・魔王コバヤシ

 希少性は勿論のこと、磨けば光る原石も大好きなコレクター。
 モルガンの境遇を知り、モルガンと共に過ごしてきた彼はいつしか彼女に情が移ってきていた。
 二人で過ごして、改めて決心した。せめて、自分は彼女を大切にしよう。彼女達を大事にして過ごしていこうと、そう思った。


・モルガン・ル・フェ

 魔王のかけがえのない宝物。

 彼女に手を出そうとするならば、魔王の逆鱗へ触れる事となるだろう。

この作品の設定を使った別の小説をぼんやり考えてます。なんか面白そうだと思ったものがあれば、一票どうぞ。

  • 転送事故でオラリオへ(ダンまち)
  • 転送事故でワノ国へ(ONE PIECE)
  • 汎人類史モルガンを陰から守る会
  • ゲーティア絶許・グランドオーダー
  • 原作6章、カルデア殲滅ルート
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