妖精魔界戦記ディス・アヴァロン   作:サンダーボルト

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詰め込みまして一万字超えました。

原作と乖離している点は多々ありますが、一応考えて書いてるのでメインストーリーが終わるまではツッコミは我慢して頂けると幸いです。

忘れてるのもあるかもしれないけど、その時はその時。


アルトリア・キャスターの冒険(Ⅸ)

 ロンディニウム襲撃の翌日。捕虜となった反乱軍はパーシヴァルの命令の元、一人残さず女王軍へ引き渡された。女王軍が円卓軍という反乱分子を前にして何もしなかったのは、モルガンが厳命していたからに他ならない。そうでなければ一緒に連行していた、とは隊長を務めていた妖精騎士の談。

 

 一夜経って元気を取り戻したアルトリアは、ロンディニウムの住民達を励ましながら復興作業を手伝っていた。人的被害は殆ど無いが、城壁等は一部が崩れてしまっていたので、魔術で修復して回っていた。

 

 それも一段落ついた頃、彼女の元にガレスがやってきた。

 

 

「お疲れ様です、アルトリアさん」

「ありがとう。ガレスも後始末ご苦労様」

 

 

 そう労い合ったものの、ガレスの浮かべる表情はどこか固かった。

 

 

「……えっと、どうしたの?」

「――アルトリアさん、お話があります。鐘つき堂へ一緒に来てもらえませんか?」

「……分かった」

 

 

 並々ならぬ覚悟を決めた騎士の言葉に、予言の子は話の内容をなんとなく察した。

 

 普段なら誰かしらがいる鐘つき堂を改造した司令部には誰もいない。前もって人払いを済ませておいたのだろう。

 

 最上部の鐘楼に二人は並ぶ。そこからは、ガレスが堰を切ったように話し出した。

 

 

「私、全部思い出しちゃいました。自分が何者だったのか」

「ガレス……」

「その名前良いでしょう?私も気に入ってました!

 でも、私の本当の名前はエインセル。もう誰もいなくなった、鏡の氏族の長です」

 

 

 アルトリアは僅かな間だけ一緒に旅をした、呑気な亡霊の姿を頭に浮かべた。

 

 

「ミラー……」

「会っていましたか。私の代わりにあの地に残ってくれていた、優しい子でした。

 ……本当は、みんな守ってあげたかったんです。皆が死んじゃう未来を変えたかったけれど、何もできなかった」

「…………」

「次代で騎士になったのも、それが理由です。

 アルトリアさんはエインセルの最期の予言は受け取ってますよね?」

「うん……それで、ロンディニウムに?」

「はい。私が見た未来では、この場所は燃え尽きる筈でした。あの場に残っていたみんな、何もかもが。

 ――でも、見てください!!」

 

 

 ガレスは嬉しそうに鐘楼からロンディニウムを一望する。人が生きていた。人と妖精の営みが生きていた。

 

 自分が守りたかったものが、取りこぼす事無く残っていた。

 

 

「アルトリアさんとコバヤシさんが守ってくれました!貴女達は見事、私の予言を覆してくれたのです!」

「……ちょっと待って!?なんでコバヤシの名前を知ってるの!?」

「えへへ、実は教えてもらっちゃったんです。アルトリアさんとお話する前に、みんなにお別れを言ってきたので」

「……お別れって、やっぱり……」

「――はい。最後の巡礼の鐘は、私自身です」

 

 

 アルトリアの表情が落ち込んだ。

 

 

「そんな顔をしないでください。アルトリアさんは笑った顔の方が可愛いですよ」

「……無理だよ。だって、友達がいなくなっちゃうのに」

「……そうですね、すみません。でも、そんなに悲しまないで欲しいんです。

 私は本当ならとっくに死んじゃっている身ですから。ミラーがメッセンジャーになってくれたから、少しだけ自分の目標の為に生きられたんです」

「ガレス……」

「それに私、とっても嬉しいんです!アルトリアさんとコバヤシさんが、私の予言とは違う未来を見せてくれた事!もっと良い未来を掴みとれるんだって、貴女達が証明してくれたんです!」

 

 

 ガレスは心の底から笑っていた。もう思い残す事がないと言っているように。アルトリアの妖精眼にも、その喜びは痛いほどに伝わってきた。

 

 

「本音を言えば、最後までお供したかったですけど。きっとそれは私の役目ではないのでしょう。

 アルトリアさん。どうかお元気で!

 もし次代のガレスが現れる事があれば、仲良くして頂けると嬉しいです!」

「……喜んで!ありがとう、ロンディニウムの誇り高き騎士ガレス。貴女の想いは私が引き継ぎます」

 

 

 ガレスの体が光の粒子となり、別の形に再構成されてゆく。

 

 光が消えたそこには、釣り下がる巡礼の鐘と、主を失った鎧が静かに置かれていた。

 

 僅かな間、顔を伏せていたアルトリアは意を決して巡礼の鐘を鳴らし始める。

 

 

「……もう少し一緒にいたかったなぁ……」

 

 

 お互いを知るには短い時間だった。友達だと思っていたけれど、もっと良い友達になれるかもしれなかった。

 

 好きな人がいなくなるのは嫌だ。

 

 たとえそれが運命に定められた道であっても、アルトリアはどうしても割り切れなかった。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

「パーシヴァルさん。ガレスの鎧、預かっていてもらえますか?」

 

 

 巡礼の儀を終えたアルトリアが、ガレスの遺した鎧を受け渡す。パーシヴァルは戸惑いながらも、それをしっかりと受け取った。

 

 

「……よろしいのですか?」

「この鎧はガレスに贈られたものです。もしも、この鎧を着るに相応しい騎士が現れたのなら、その子に贈ってあげてください。

 そのほうが、きっとガレスも喜びます」

「大役ですね。ですが、承りました」

 

 

 約束を交わし終わったところで、異邦の魔術師が合流した。

 

 

「ガレスは逝ったか……」

「はい、これで巡礼の旅は終わりました。私達もここを去ります。パーシヴァル団長、ロンディニウムの皆さんも、どうかお元気で」

「ええ、そちらも。このような情勢ですが、ロンディニウムはお二人をいつでも歓迎致します」

「……いずれ、また会おう。ここを見られて良かったよ」

 

 

 ロンディニウムの住民達に見送られながら、予言の子一行は砦を後にする。

 

 

「そういえば、ガレスに本当の名前教えたんだってね」

「そうしても良いと思える相手だから、そうしたまでだ」

 

 

『魔術師さん、少しの間でしたがご一緒出来て光栄でした!アルトリアさんの事をお願いします!』

『急に何を……いや、待て。まさかお前……』

『……ご想像の通りです。私はこれから、アルトリアさんにお力添えをして参ります』

『いいのか、お前、アルトリアの友人だろう……』

『良いんです。貴方達は私が見た未来より、良い未来を勝ち取りました。

 これは、この後に勝つためにきっと必要になります。分かるんです、何となくですけど……』

『……そうか。それなら、最後に俺の名を教えよう』

『え、宜しいんですか!?実はずっと気になっていまして!!』

 

 

 正体を教えた時は良いリアクションをしていたと、コバヤシは笑いを噛み殺した。アルトリアも嬉しそうに、微かに寂しそうに笑った。

 

 酸いも甘いも飲み込んだ巡礼の旅は終わりを告げた。アルトリアの成長限界は最大まで解放されている。

 さて、魔界に帰ろうとコバヤシが連絡を取ろうとすると、アルトリアがそれに待ったをかけた。

 

 

「待って。まだ終わってないよ」

「はあ?」

「私が遣わされた場所、楽園(アヴァロン)への道が開かれました。私の使命、その根源を見に行きましょう」

「いや、お前のレベルキャップは解放されたんだし、もう良いだろう」

「良くないよ」

 

 

 いつになく強気なアルトリアは、矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。

 

 

「このブリテンを救うためには、創成期からの正確な情報が必要な筈です」

「それは、まあそうだが」

「モルガン陛下もブリテンに残された情報から、限りなく正解に近い答えを導いていると思います。

 でも、実物に勝る情報はありません。99%であっても100%ではないんです」

「……言えてるけどさあ」

「コバヤシだって、不安要素は出来る限り消しておきたいでしょう?最後までキッチリ詰めておかないと」

 

 

 アルトリアの言い分は正論だった。

 今後の為にも、把握している情報を確実なものにしたいのは確かだ。

 

 

「湖水地方の龍骸の沼へ飛びましょう。そこがアヴァロンへの入り口になります」

「お前、そんな知識どこから……?」

「巡礼の鐘を鳴らす度に、ちょっとずつ頭の中に入ってきたの。思い出してきたって表現の方がしっくりくるけどね」

「ふぅん……」

「コバヤシ、お願いできますか?」

「…………ここまで来たら、行くところまで行ってみるか」

「そうでないと!」

 

 

 アルトリアは笑顔で体に飛びついた。

 

 巡礼の鐘を全部鳴らした影響か、敬語が混じる話し方にやり辛さを感じながら、コバヤシはアルトリアを抱えてアルビオンの骸へと飛んで行った。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 湖水地方の龍骸の沼に着いた二人は、冠位の肩書を持つ魔術師と出会った。

 

 

『やあ、こんにちは。想像以上に巡礼の旅が手早く終わってしまって、慌てて出てきた案内人のマーリンお兄さんだ』

「……あなたが、魔術師マーリン?」

『その声の君は予言の子かな?ごめんね、ここにある私は単なる幻で、声しか聞こえないのさ』

「――そうですか。私は予言の子、アルトリア・キャスター。もう一人の異邦の魔術師、コバヤシと共にアヴァロンへ向かうためにやってきました」

『いやはや、妖精國大統領と一緒かあ……。私はてっきり、カルデアの彼等と来ると思っていたんだけどなぁ』

「カルデアでなくて悪かったな。……というか、お前カルデアと面識があるのか?」

『まあね。中々美しいものを見させてもらっているよ』

 

 

 白い服装に身を包む夢魔の魔術師は、アヴァロンへの入り口を開いた。

 

 

『巡礼の旅を終わらせた楽園の妖精は星の内海へと還る。これはそこへの道になる霊洞の入り口さ』

「マーリン。俺達はこのブリテンの創成期の話を聞きたいんだが……」

『そうなのかい?なら安心したまえ、星の内海に到着するまでに全てを話そう』

「罪なき者のみ通るがいい……これが、楽園への通り道……」

「…………それ、俺は通れないんじゃないのか?」

「うーーーん……平気じゃないかな。

 だってほら、今のコバヤシは転生して罪はリセットされてるし。巡礼の旅の合間でも殺しはしてないからオッケーだよ」

「そんなんでいいのか……」

『なんだか凄い会話が聞こえたなあ』

 

 

 二人が入り口に足を踏み入れると、モルガンの水鏡とは異なる感覚の転移が行われた。

 

 何も見えない、立っている感触も無い、暗黒の世界に放り出された二人。繋いでいた手の感触が、これが現実だというのを訴えていた。

 

 マーリンが魔術で明かりを点けると、水晶のように光る鉱石でできた洞窟が顔を覗かせた。

 

 

「どうだい?これなら洞窟って感じがするだろう?私の凄さに感謝してくれても構わないよ!」

「「……どうもありがとう」」

 

 

 なんかマーリンが小さな四足歩行の動物に変化していたが、二人は黙っておいた。

 

 霊洞の中を進んで行くと、二人はロンディニウムで見かけた壁画を見つけた。

 マーリンによると、それは巫女の記憶が映し出されたものらしい。

 

 

「これが、始まりの記憶なのか……嫌な予感しかしないな……」

「マーリン、聞かせてくれますか。全ての始まりの話を」

「ああ、勿論だとも。星の内海までは一時間ほどかかる。この異聞帯の出来た経緯と、楽園の妖精の具体的な使命が何なのかを、ね」

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 それいじょうむかしはないほどの、それはむかしのお話です。

 

 ろくにんの妖精がそとにでると、せかいは海になっていました。

 

 

“かわいそうなことを”

“こんなせかいになってしまって”

 

 

 海のなかから、おおきなかげがたちあがりました。

 

 ふわふわ、ふさふさの大きなからだ。

 

 その肩には、いなくなったはずの動物ひとり。

 

 ろくにんは神さまとともだちになりました。

 

 なにもない海はつまらなくて、すみずらくて、たいへんなものでしたが、

 

 神さまがが波をせきとめてくれるので、ろくにんはらくちんです。

 

 

“波の無い海も良いけど”

“ぼくたちやっぱり大地が恋しい!”

 

 

 ろくにんは神さまによろこびをささげました。

 

 ろくにんは神さまにおねがいをささげました。

 

 

 ろくにんは 神さま をささげました。

 

 

 ねがいはかなえられました。

 

 おまつりはおわりました。

 

 

 

 

 だまされて どくの お酒 を のんだので 神さま は しにました。

 

 

 

 

 ろくにんは 神さまのしたい をてにいれました。

 

 あたらしいだいちにするのです。

 

 のこされてなきさけぶ動物もたいせつにつかいました。

 

 たったひとりのにんげんなので。たったひとつではたりないので。

 

 ばらばらに。ばらばらに。

 

 

 しなないようにばらばらに。

 

 

 なにをしてもぜったいにしなないように。まほうをかけてたいせつにりようします。

 

 こうしてブリテンはできたのです。

 

 こうしてあやまちははじまったのです。

 

 はじまりのろくにんにすくいあれ。

 

 はじまりのろくにんにのろいあれ。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

「――――ぁ、あぁ――」

 

 

 アルトリアの呼吸がおぼつかなくなっていた。始祖たる六人の妖精が犯した、余りにも罪深いあやまち。

 

 創成期から現代まで続いている、神の巫女への筆舌に尽くしがたい残酷な仕打ち。

 

 妖精眼で見えていた嵐の正体が、どうしようもなく救い難いものだと知って、彼女の宝石のような瞳から輝きが失われていった。

 

 

「…………あの大穴にあるのは、その神の死体か」

「その通り。あの場所はケルヌンノスの墓所であり、このブリテン島に溢れている呪いはケルヌンノスの怒りだ。

 巨大な神の遺体を浮かべれば、海の上の小さな島くらいにはなると考えたんだろうね。今あるブリテン島は、ケルヌンノスの骸を土台にして生まれた土地なのさ」

「……モルガンが言っていた。あの大穴の底には、ブリテンの妖精が近づきたがらない何かがあると。

 自分一人では底まで調べに行けなかったから確実ではなかったが、残された文献などからケルヌンノスだとはおおよそ把握していたらしい。

 ……正直、外れていて欲しかったけどな畜生め……」

 

 

 心構えはあった。最悪な予想は立てられていたからだ。それでも、僅かでも救いの有る過去が欲しかった。

 

 こんな大きく膨れ上がった罪を清算する為の使命が、モルガンやアルトリアの背に乗せられているとは考えたくもなかったのだ。

 

 しかし、現実は非情であった。この世界の妖精なんてこんなものだと理解していたコバヤシでも辟易としていた。

 

 

 ――死ね。始まりのろくにんマジで死ね。救いじゃなくて報いを受けろ。

 

 

 こんなありきたりな悪態を心の中で呟くくらい、苛立ちが募っていた。

 

 

「14000年前、地表に降りてきた巨人セファールを倒すための武器を造る筈だった六人は、"今回くらいはサボっても良いんじゃない?"と仕事をサボってしまった。

 その結果、セファールに対抗する手段が存在しなくなり、地上の文明は滅んでしまったんだ」

「何だってそんな連中に武器の製造を任せた!?」

「そりゃ、彼等以外に造れる者がいなかったからね。彼等は亜鈴と呼ばれていて、星の内海で生まれた特別に強大な存在なんだ。星に対する脅威に対抗できる神造兵器は、星の内海でしか造られない。地上でポンポン造られても大変だろう?」

「ぐ……」

 

 

 確かにそうだ。そんな物が量産されれば、セファールが来る以前に地上が火の海になっていただろう。天使も悪魔も人間も、一度タガが外れてしまえば妖精と変わらないのだから。

 

 

「獣神ケルヌンノスとその巫女は、海しかなくなった地上に出てきた六人に罰を与える為に、楽園から遣わされたのさ。

 彼等も最初はケルヌンノスに感謝を捧げていたが、いくら経っても海は海のままで、恋しい大地は現れない。

 彼等はそれをケルヌンノスの力不足のせいだと思い込んだ。一緒に付いてきた巫女も、自分達に一々小言ばかり言ってきて気に入らなかったんだろうね」

「何でだ」

 

 

 分かっていてもつい言及せずにはいられなかった。自分勝手にも程がある。

 

 

「相手は神様だから容易には殺せない。そこで妖精達は、ケルヌンノスを自分達の祭神にすると言って祭りを開いた」

「……ああうん、分かるわ。そこで毒酒を飲ませたんだろう」

「そう。祭神として奉られるのは喜ばしい事だし、妖精達もやっと反省したと思ったんだろうね。巫女は止めたけど、ケルヌンノスは宴を受け入れて殺された」

「…………最悪じゃねえか」

「……その、残った巫女はどうなったんですか」

「彼女はのちの人間の基礎……いや、素として分割して妖精達が使用した。不老不死の魔法をかけられてね。ブリテン異聞帯の人間は、そこから生み出された劣化コピーなのさ」

「最悪じゃねえか!!!!」

 

 

 信心深さとは無縁の魔王ですら叫ぶ所業であった。それはつまり、永遠に死ねない生き地獄を今も味わっているという事だ。

 

 なんでこんなモン放置しやがったとモルガンに問いただしたい所だったが、トネリコが派遣されたのはこの始まりから8000年後である。既に人間がいるのが妖精達の生活で当たり前となっていて、それを取り上げるのはいくらトネリコでも不可能だったのだろう。

 それに巫女に魔法をかけたのは亜鈴と呼ばれる、最上位の精霊に匹敵する権能を持つ種族だ。いかに最高レベルの魔術師だったモルガンでも、この魔法を解くには力不足であった。

 

 

「亜鈴である六人は自分の仔を増やしていった。生活は豊かになったが、100年目を迎えて上手くはいかなくなった。

 生み出した妖精が、何の前触れもなく死んでいったんだ」

「……それは、どうして?」

「ケルヌンノスの怒りさ。魂は既に消滅していたが、その遺体には怒りと呪いの炎が燻っている。

 それに気付いた六人は逃げ出した。妖精の遺体は土や岩や倒木になった。それらは言ってしまえば星の素材だ。それが積み重なって広がっていったのが今のブリテン島なんだ」

「…………なら。ならあれは大穴じゃなくて、干上がった海の底……?」

「そういう事になるかな」

「…………」

 

 

 ケルヌンノスの大穴の深さは、これまでに重ねた罪の深さと犯し続けた年月を否応なく突き付けていた。

 

 暗い顔で俯いているアルトリアの背中にコバヤシは触れる。顔を見上げたアルトリアは、引きつった笑顔を浮かべた。自分は平気だと装おうと、無理をしている表情だった。

 

 魔王は何も言わなかった。ただ黙って楽園の妖精の背を撫で続けた。

 

 

「全ての始まりは聖剣が造られなかった事だ。この過ちを正すために、星の内海から選ばれた妖精が地上に送られた。

 一人目は君達も知っているだろう。ヴィヴィアン……君達にとってのモルガンだ。

 そして二人目は君だ、キャスター。

 楽園の妖精の使命とは、六つの氏族に過ちを認めさせて、聖剣を作り出す事だ。六つの鐘を全て鳴らした妖精は、()()()()()()()()()

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 霊洞を抜けた先には、絶花魔界に負けない程の穏やかな世界が広がっていた。

 

 大地に敷き詰められた花園が温かい風に揺られていて、澄み切った水が流れる小川のせせらぎの音が、ささくれだった心を癒していく。

 

 穏やかな空気を胸いっぱいに吸い込んだアルトリアは、少し持ち直したように思える。

 

 ……もう、いいんじゃないのか

 

 

「アルトリア。知りたい事も知れたし、見たいモンも見れた。そろそろ帰らないか」

「え、来たばっかりだよ?それにほら、まだ行ってない場所があるじゃない」

 

 

 アルトリアが指差したのは、マーリンが言っていた選定の場。あの場所で聖剣が造られる予定だったという。

 

 

「聖剣を鍛えるための鍛冶場なんて、滅多に見れるものじゃないよ!私行ってみたい!ね、良いでしょ?」

「いや、お前な……」

「巡礼の旅を頑張ったご褒美として!おねがーい!!」

「ぐ、ぬ……」

 

 

 上目づかいでおねだりしてくるアルトリアに対して、強く出られない俺がいた。

 

 普段、周りの空気を読んで自分の気持ちを押し殺している傾向のあるアルトリアが、こうも強情に頼み込んでくるのは初めてだ。

 

 無理やりにでも連れ帰った方が良いのは分かっている。……分かっているが。

 

 

「…………見る、だけだぞ。見たらすぐ帰るからな」

「わーい、やったー!!」

 

 

 結局、押し負けてしまった。こちらの葛藤を知ってか知らずか、無邪気にぴょんぴょん跳ねているアルトリア。

 

 ……目を離さないようにしなければ。

 

 

「彼女に甘いんだねえ、君」

「うるせえ!!……俺が甘やかさなきゃ、誰がアイツに……」

 

 

 柔らかな笑みを浮かべるマーリンに余計な事を口走りそうになった。人ごとみたいに言いやがって。モルガンが毛嫌いするのも分かる気がする。

 

 

「とはいえ、見学だけという訳にはいかないね。選定の場に行くまでに、簡単な障害が設置されている。楽園の妖精のこれまでの人生、冷たく厳しい『冬』から始まって、楽しく温かい『春』で終わる、ちょっとした旅さ」

「絶対に碌でもねえじゃねえかよ!!ふざけやがってやってやるよ!!」

 

 

 コイツの冬の記憶とか氷河期レベルだろ。ここは楽園のはずなのに、どんな嫌がらせだ。

 

 道を進んだアルトリアの姿が消え、代わりにモースのような化け物が現れた。

 

 

「う、げ……!!」

 

 

 悪意に敏感なればこそ、これを相手にするのは些かキツい。自分に向けられた感情(もの)ではないというのに、此方の精神を嫌でも汚染してきやがる。

 

 冬の記憶は始まりの記憶。

 

 今よりずっと小さいアルトリアが、アレに晒されていたと思うと――。

 

 

「――真魔大次元斬――!!!!」

 

 

 一刀両断……では倒せなかった。しぶとく残ったそれが、醜い感情を押し付けてくる。

 

 

 ――――『虐待』『嘘』『迫害』『差別』

 

 

 アルトリアには全て見えていた。逃げ場のない中で生きていた。

 

 胸の中で黒い感情が渦巻いているのを感じる。それを吐き出すように、剣に斬撃を乗せて飛ばした。

 

 

「――あれ、どこいってたの?いきなり消えちゃったから……って何この有様は!?」

「ははは、彼がちょっと張り切ってしまってね」

「…………お前こそ平気なのか。なんならもう止めても――」

「ぜーんぜんへっちゃら!私は戦わなくてもいいみたいだし!それじゃ、次にレッツゴー!!」

「お、おい……」

 

 

 そう言って、アルトリアはさっさと行って消えてしまった。

 

 

「なに、そう心配しなくても大丈夫さ。一番辛いのは冬の記憶だからね。これから試練は軽くなっていくよ」

 

 

 そして現れたモースもどきの群れ。

 

 武器を弓に切り替えて、悪感情の群れを撃ち抜いた。

 

 しかし一度では仕留めきれず、消え損なった連中が攻撃してきた。

 

 

 ――――『虐待』『嘘』『偏見』『迫害』『差別』

 

 

 …………。

 

 

「増えてるじゃねえかよ……」

 

 

 マーリンの野郎……いやティンタジェルの連中か。マーリンの表情も心なしか固くなっていた。

 

 力づくで消しても解決しない問題に直面して、思わず無言になってしまう。そもそも、過去など変えられない。これはあくまで、記憶なのだから。

 

 

「コバヤシのお蔭でサクサク進めるね!これならすぐに終わりそう!」

「倒すのに時間はかからないけどな……少しは休ませてくれよ」

「ガッツだよコバヤシ!ほら、辛い記憶は早く終わらせて、早く楽しい記憶に行きたいもん!」

「……そうか、そうだな」

 

 

 ヤケクソになっている訳でもないようだ。確かに、そう考えれば急ぐ理由も分からないでもない。

 

 夏の記憶に出てきたのは、やたらデカいモースもどきだった。

 

 

 ――――『虐待』『飼育』『嘘』『偏見』

 

 

 ――――『犠牲』『迫害』『嘲笑』『差別』

 

 

 ――――『腐敗』『隠蔽』『娯楽』

 

 

 ………………。

 

 

「……キツいなぁ……」

 

 

 一番辛い記憶が冬とか嘘だろ。進むほどに悪感情増えていったんだが?

 

 まあ、マーリンのせいではないのだが。

 

 巨大な敵らしく、相応にタフであったが倒せた。

 

 

「いよいよ春の記憶!春っていうくらいだから、楽しい記憶がつまっているはず!

 ここも障害が出てくるみたいだけど、もう瞬殺しちゃってね!」

「おう、任せておけ」

 

 

 それでも。嬉しそうなアルトリアを見ていれば、急いで片づけた甲斐はあっただろう。

 

 少し浮かれているアルトリアが消え、何が出てきてもいいように剣を抜いた。

 

 

「なに、そう身構える事もないさ。春の記憶は本人にとって、楽しかった出来事だけで構成されるからね。

 出てくるとしたら……そうだね、綺麗に着飾った彼女自身か、巨大なご馳走に違いない」

「そんなモン出てきたとして、どうしろと……それよりマーリン、ようやく余裕出来たから聞いておくが」

 

 

 しんどい敵ばっかりで、少し時間が欲しかったのだが。ここの障害は優しいようだし、いいタイミングだった。

 

 

「もし仮に聖剣を造ったなら、アルトリアはどうなる?」

「その口ぶりだと、薄々予想はついているのかな?

 なら結論から言おうか。聖剣の概念が確立したなら、それと引き換えに彼女は消える」

 

 

 やっぱりか。

 

 

「君は反対なんだろう。でも、この役目は彼女にしか務まらない。

 誰でも良いというワケではない。彼女の全てを材料にして、聖剣は生まれるんだ。犠牲ではなく、あくまで等価交換だというのを分かって欲しい」

「……」

 

 

 マーリンの言わんとする事は分かる。

 

 納得なんて出来やしないが、理解だけはできた。

 

 その上で言わせてもらおう。

 

 

「マーリン、俺には()()と何が違うのか、全く分からん」

 

 

 生まれながらに自分以外の誰かに生き方を決められ、救った國で過ごす事無く消えていく。

 

 感謝されるだろう。尊敬もされるだろう。

 

 自分にはできないと誰もが諦めるような苦行なのだろう。

 

 だが、楽園の妖精の使命は、結局のところ尻拭いだ。得られて然るべき幸福すら取り上げられ、誰かの失敗を取り戻す為に人生を捧げる。

 

 それが終わればさようなら。こんな役目に意義を見出せという方がどうかしている。

 

 

「君は頑固だね……」

「どうとでも言え。欠陥だらけの救済システムをゴリ押ししやがって……せめて褒美くらいは用意するべきだろうが」

「耳が痛い話だね……とはいえ、巡礼の旅をここまで続けてきたのなら、彼女も覚悟はしてたんじゃないかな。

 使命を果たせば命を終える。それだけは、最初から知らされていた筈だからね」

「そうなのか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――今なんて言った?最初から?」

 

 

 

 感情が、これ以上ないくらいに大きく振れ動いたのを感じた。

 

 少し呼吸が荒れている。

 

 

「おや、キャスターは君に言っていなかったのかい?」

「……聞いて、ない」

 

 

 視界が揺れる。平静が崩れていく。

 

 何で黙っていた、とか。大事な事は早く言え、とか。

 そんなのはどうでもよかった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 生き物はいずれ死ぬ。怪我であったり、あるいは寿命が尽きて。

 それは避けられない定めだ。

 

 だが、自分が死ぬのを普段から頭の中に入れている者などいるものか。

 生まれてからずっと死を前提にして生きているなど、そんな残酷な生き方があるものか。

 

 ……魔界で転生しても、アルトリアは楽園の妖精である事を変えられない。

 

 魔王や勇者は何度転生しても同じ存在のままであるように、魂が強靭ならば他の種族に変わる事は出来ないのだ。

 

 バーゲストは厄災を抑えこめる程に強くなれたが、厄災そのものを取り除くのは不可能だった。

 

 ……ならば、アルトリアは。

 

 

「………………ぁ」

 

 

 苦しんで、いたのか。

 

 飯を口いっぱいに詰め込んで笑っていた時も。

 

 安物のアクセサリーを手にして、笑っていた時も。

 

 辛口のカレーに涙目になっていた時も。

 

 からかわれて騒いでいた時も。

 

 友達が出来た時も。

 

 眠っていた時も。

 

 ずっと。ずっと。ずっと――

 

 

 

 

「……え、あれ?みんな?」

 

 

 

 

 アルトリアが戻ってきた。

 

 戻って――

 

 

「――――」

 

 

 何も出ないまま試練は終わった。

 

 もう俺の頭は限界だった。

 

 息も止まっていたかもしれない。

 

 あどけない顔で近寄って来るアルトリアから、目が離せなかった。

 

 

「今回はあっという間に終わったね。楽勝だった?」

「…………ああ。特に大した事の無い敵だっ……た……――ぁ」

 

 

 考えが纏まらないうちに返事をしたのが失敗だった。

 

 咄嗟に口から出たでまかせを、アルトリアの妖精眼が見抜いた。

 

 アルトリアの目が丸くなり、そして幼さが残る顔が泣きそうに歪められた。

 

 

「……………………そっか」

 

 

 その一言は、どんな罵詈雑言よりも俺の心を抉った。

 

 

「うん、私の方もすぐに終わったし!今回は簡単だったね!

 もう障害も無いし、早く選定の場を見に行こう!おー!」

 

 

 ころりと表情を変えたアルトリアは、踵を返して走っていった。

 

 嘘なのは分かっていただろうに、それに触れもせずに笑顔を作ってみせた。

 

 一番辛いのは自分だろうに、他人を気遣う優しさを忘れない子だ。

 

 咄嗟にその背中に手を伸ばしたが、その先が続かず、握り拳を作って腕を下ろした。

 

 

「君の感情は把握できる。でも君の責任では無いよ。彼女にとっても――」

「マーリン。頼むから。少し黙っててくれ」

「……先に選定の場へ行っているよ。落ち着いたら来るといい」

 

 

 マーリンもいなくなり、この場に残されたのは俺一人。

 

 花の絨毯の上に胡坐をかいた。穏やかな空を眺めていても、ちっとも気分は晴れなかった。

 

 

「……大間抜けもいい所だ。

 すまん、ペペロン。お前の忠告、守れなかったよ……」

 

 

 少し前に自分達を慮った伯爵の姿を思い出した。期待を裏切ったという重苦しい感情が、俺が立ち上がるのを許さなかった。




・アルトリア・キャスター

 魔界へ逃げても、何度転生しても、鐘の音が聞こえなくなる日は無かった。
 結局、自分は逃げられないのだと悟った。
 楽園の妖精の使命なんて、イヤでイヤでしょうがない。あんな妖精達を救えだなんて、自分には無理。
 でも、過去にブリテンを救おうとした救世主を見て、彼女の優しさがブリテンに少しだけ残っているのを感じて。
 それを慈しんでいた魔王を見て、初めてブリテンを救いたいと思ったのだ。
 使命じゃない、自分の意思で。


・魔王コバヤシ

 妖精眼を持たない彼には、アルトリア・キャスターの真の心は見えてこない。
 小さな女の子の苦しみを見逃していた自分に自己嫌悪。
 楽園に来てから踏んだり蹴ったりの男。
 何より一番後悔しているのは、アルトリアに嘘を吐いた事。


・マーリン

 皆さんご存知グランドキャスター。モルガンが魔界に連れ去られた時に『棺』が解けて、再び閉じ込められるまでにアヴァロンから幻を映し出す準備くらいはしていた。
 カルデアが来ていないのに巡礼の旅が終わっちゃったぞ?おかしいなあ?と内心で首を傾げている。
 別にアルトリアを聖剣にしたいワケではないが、聖剣になろうとするのを止める理由も無い。

この作品の設定を使った別の小説をぼんやり考えてます。なんか面白そうだと思ったものがあれば、一票どうぞ。

  • 転送事故でオラリオへ(ダンまち)
  • 転送事故でワノ国へ(ONE PIECE)
  • 汎人類史モルガンを陰から守る会
  • ゲーティア絶許・グランドオーダー
  • 原作6章、カルデア殲滅ルート
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