妖精魔界戦記ディス・アヴァロン   作:サンダーボルト

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色々と粗が目立ってますねえ。

でも実は、小さな伏線とか張ってたり。

さて読者の皆様。

愉 悦 の 準 備 は よ ろ し い か ?


アルトリア・キャスターの冒険(Ⅹ)

 いつまでも後悔してはいられない。魔王は再び立ち上がって選定の場へ進んだ。

 

 中へ一歩入ると、アヴァロンの空とは違う星空が彼等を見下ろしている。

 

 数えきれないほどの星の光が集まり、選定の場の灯火となっていた。

 

 中央の空間に立ち昇る白い光の柱。

 楽園の妖精が還る(ソラ)(なか)

 聖剣を造る鉄火場。

 

 一足先に来て、それを目に焼き付けていたアルトリアの隣にコバヤシはやってきた。

 

 

「ここが、私の還るべき場所なんだね」

「本来ならな」

「コバヤシ、連れてきてくれてありがとう。

 生まれてから辛い事ばっかりだったけど、自分の生まれ故郷ってやっぱり気になるから」

「俺にはその感覚は分からんがな……」

 

 

 魔界に来るまでの記憶がゴッソリ抜けているコバヤシにとって、帰郷について思うところは少ない。

 それこそ、どこであっても故郷になり得ると考えている男だ。

 

 

「ねえ、コバヤシ」

「なんだ?」

「――エクスカリバー、欲しくない?」

 

 

 アルトリアの碧眼がコバヤシを射抜いた。

 真剣な眼差しは、嘘は言わないでと物語っていた。

 

 コバヤシもまた、視線を合わせて答える。

 自分の本心を隠すことなく吐き出した。

 

 

「そりゃ欲しいさ。エクスカリバーがあれば、色々とスムーズに事が運べるからな」

「……そっか」

「でも要らん。お前と引き換えにしてまで欲しくも無い」

「……そっかぁ……」

 

 

 アルトリアの引き締められていた相好がふにゃりと崩れた。

 

 

「じゃあ、帰ろっか!マーリン、ありがとうね!」

 

 

 そう言って、アルトリアは選定の場から出ていった。

 残されたコバヤシは少しの間あっけに取られ、事態を見守っていたマーリンに視線を向けた。

 マーリンは肩を竦める。

 

 

「私はあくまで案内人さ。君達の選択を尊重しよう。ほら、早く追いかけた方がいいんじゃないかな?」

 

 

 なにか煮え切らない感情を残しながらも、コバヤシはアルトリアを追うために選定の場を後にした。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 両手を広げて花園を駆けるアルトリア・キャスターは、追いかけてきた男に振り向いた。

 

 

「おい、いつまでもはしゃいでないで帰るぞ」

「あのさ、コバヤシ」

 

 

 楽園の妖精は花のように笑う。

 

 

「最後まで一緒に来てくれてありがとうね」

「どうした、改まって」

「そういえば、言ってなかったなって」

「そうかい。……気は済んだだろ?魔界へ帰ろう」

「うん」

 

 

 アルトリアは手を差し伸べ、「あっ」という声と一緒に引っ込めた。

 

 

「おい……」

「えへへ、ごめん。もういっこ言ってなかった事があったから」

「今かよ……分かったから早く言え」

「うん」

 

 

 アルトリアは両手を後ろに組んで、コバヤシを見上げた。

 

 

「あの時、私なんかを拾ってくれてありがとう。

 

 春の記憶には無かったけど、魔界の暮らしが楽しかったのは本当だからね。

 

 今の私があるのは貴方のおかげ。

 

 ありがとうございます、私の魔王様。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――私。コバヤシの事、大好きっ!!

 

 

 大きな声でアルトリアは叫んだ。

 

 

 風に舞い散る花吹雪の中で、アルトリアの屈託ない笑顔が輝いた。

 

 

 コバヤシは目を見開き、硬直した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――二人の間に流れる一陣の風。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――花びらの波の中に、アルトリア・キャスターの姿が搔き消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(――――げん、じゅつ)

 

 

 一拍置いて花園が爆ぜた。

 

 幻の景色を振り払い、彼が跳んだ先は選定の場。

 

 先程よりも強い光が漏れだしているその中に、コバヤシは一秒にも満たない間に飛び込んだ。

 

 新たな入り口と化した破壊痕に立つ男。

 

 気の毒そうな表情のマーリンと、炉の前に横たわるヤドリギの杖が視界に入った。

 

 葛藤は無い。

 

 躊躇いも無い。

 

 己の取るべき行動など決まっている。

 

 一片の迷いすら切り捨てた魔界の魔王は、星影の川の中へ飛び込んだ。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

『マーリン、コバヤシに幻術をかけてください。普段なら見破られるだろうけど、心が弱っている今なら少しは効くでしょう』

『それは構わないけれど……いいのかい?』

『いいんです。こうしないと、何が何でも阻止されるでしょうから』

 

 

 ごめんなさい。大恩ある貴方を裏切るような真似をして。

 

 でも、最期のわがままなんだし、許してくれるよね?

 

 使命に殉ずるなんて私にはできません。

 

 人間も妖精も、ブリテンも使命も全部イヤでした。

 

 ……それでも。

 

 それでも、こうして旅をしてみると。

 

 好きになれる人や、好きになれる場所があって。

 もったいないなあ、と思ってしまうのです。

 

 かつて、優しい國を作ろうとしていた救世主トネリコ。

 今は女王になったその人が残した優しさがどこかに残っていて、無くしたくないと願ってしまいました。

 

 コバヤシ達が汎人類史からブリテンを奪おうとしている企みは、初めはチンプンカンプンでしたが、巡礼の鐘を鳴らしていくにつれて分かってきました。

 異聞帯ブリテンを魔界の一部へ書き換えてしまおうという、途方もないスケールの泥棒です。

 ぶっ飛んでいるにも程があります。ドン引きです。

 

 ……まあでも、二人が笑っていられるなら、それでもいいかと思ってしまうのです。

 

 でも、その企みには穴がありました。

 聖剣エクスカリバーが、この異聞帯ブリテンには存在しません。

 魔界の一部だったと誤認させるには、同名の魔界の武器とブリテン異聞帯の武器が必要です。

 そして、異聞帯ブリテンが生まれる歴史のターニングポイントであるエクスカリバーは、名実ともに最も影響力のある武器なのです。

 他の影響力のある異聞帯の武器と汎人類史の武器は、名前は同じだけど別物です。バゲ子のガラティーンは角だし、メリュジーヌのアロンダイトは龍の牙です。

 これでは、繋がりがちょっと弱いのです。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 この条件を満たすのはエクスカリバーが一番でした。

 

 私も気づけたのは偶然です。この身が聖剣に近づいていくにつれて、分かってきたのです。

 モルガン陛下は既に使命を放棄しているから、この違和感に気付けなかったのかもしれません。

 

 勿論、エクスカリバーが生まれればこの異聞帯は消滅してしまうけれど、14000年も続いた歴史はすぐには無くなりません。

 魔界っていう外の世界からの勢力も干渉してるから、すぐに無かったことにはならない!……と、思います。

 

 コバヤシに言わなかったのは、この事を話して折角のアイデアを駄目にしたくなかったし、私の頭の出来だと代案も出なかったから。

 ……それに、もし万が一にでもモルガン陛下が、自分がエクスカリバーになる!なんて言い出すのが嫌だったから。

 だって、あの人はずっと頑張ってきたんだもん。

 それなのに、まだ働けなんていうのは、ちょっとどうかと思うのです。

 

 

『…………ああ。特に大した事の無い敵だっ……た……――ぁ』

 

 

 ――実はこの時、悲しかったけどちょっぴり嬉しかったのです。

 

 コバヤシは割とハッキリ物を言うけれど。

 

 誰かの為に優しい嘘を吐ける人だって知れたから。

 

 

『そりゃ欲しいさ。エクスカリバーがあれば、色々とスムーズに事が運べるからな』

『でも要らん。お前と引き換えにしてまで欲しくも無い』

 

 

 ――幻の私に答えていたコバヤシの言葉、とっても嬉しかった。

 

 コバヤシは誰にでも優しい人ではないけれど。

 

 誰かに優しく出来る人だってハッキリ分かったから。

 

 

「――それにほら、聖剣を振るう魔王って最高にカッコいいじゃん!」

 

 

 私という聖剣を、彼はきっと大事にしてくれる。

 

 そんな確信があったから、私はこの身を差し出せました。

 

 本来の役目とは違う理由でここまで来たけれど、別に良いよね?

 

 だって、私の人生なんだし!

 

 

 

 ――光の中で、私の指先が溶けていく。

 

 一際強い輝きに近づいていくにつれて、私の輪郭が無くなり、次に記憶が消える。

 最後にはじぶんが無くなっていくのだろう。

 

 ……いいよ。

 

 わたしのぜんぶをあげる。

 

 だから、あの人達に。

 

 最高の剣を――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――間に合ったァ!!!!」

 

「ぐええっ!?!?」

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 両手を広げて自分を差し出そうとしていたアルトリア。

 その首根っこを掴んで強引に引き戻したコバヤシ。

 潰れたカエルのような声を出した彼女は、一瞬抗議の目線を向けて、それどころではないのに気が付いた。

 

 

「コ、コバヤシ!?なんで!?」

「おま、ゲホッ、アル、何でも、何も、ゴホッ……勝手な、事、しやがって……!」

「コバヤシ!!体が!体が燃えてるから!?」

 

 

 星の炉心の中は、それに相応しい熱流が渦巻く場所であった。

 如何に魔王といえども、レベル1まで弱体化した状態で惑星のエネルギーをその身で受ければ、ただでは済まない。

 膨大に蓄えたHPが削られているのを肌で感じる。長居はできない。

 

 

「いい、から、戻れっ……!」

「む、無理だよもう!それに、ブリテンをどうにかするには、エクスカリバーがいるの!」

「……ああ、クソ……それでお前……!」

「私はいいから!コバヤシは、モルガンを助けてあげてよ!!」

 

 

 身を焼き尽くす光の中、二人は向かい合う。

 

 自分の為に炎に包まれている男を見て、少女は笑顔を作った。

 

 

「私は、大丈夫だからっ。コバヤシなら、聖剣(わたし)を大事にしてくれるって思ってるから!」

「……」

「だから、戻って?私の本当に最後のわがまま、聞いてくれるよね?」

「…………」

 

 

 男はそれに答えなかった。

 

 指先から光になり始めている少女を見つめる。

 

 自分よりも小さくてか弱い少女の肩に手を置いた。

 

 

「そうじゃ、ないだろ……」

「え……?」

「わがままっていうのはよ……もっと、自分本位で考えろ!

 お前、まだやりたい事あるだろ!!」

「……そんな事」

 

 

 アルトリアは俯いた。

 

 コバヤシは構わず続けた。

 

 今までの旅の中、アルトリアが見せた本心を並びたてた。

 

 

「鍛冶場があれば、そこに出ずっぱりだったじゃねえか」

「あ……」

「好きなんだろう、鍛冶屋?」

「……うん」

「俺の知らない、お前の根底に願いがあるだろう。蓋をしている大切な思い出が。

 楽園の妖精の記憶なんてくれてやれ。

 だが、アルトリア・キャスターは俺が貰う」

「……コバヤシ」

「何がしたい?言ってみな」

「私、は――――」

 

 

 閉じていた記憶の箱を開いた。

 

 つらいつらい村での記憶の奥底に、輝き続ける星があった。

 

 届け物を渡しに行った岬の小屋。

 

 そこで出会った厳つい鍛冶師のおじいさん。

 

 おっかない妖精だったけれど、少しだけ自分を守ってくれた。

 

 何度も鍛冶場にやってきた自分を、手伝いに来いと言って受け入れてくれた。

 

 そうしておじいさんの助手をやっていて、ある日に色とりどりの星を見た。

 

 

「――私ね、髪飾りが欲しいんだ」

 

 

 お祭りの為に沢山作っていた宝飾具(かみかざり)

 

 知らず知らずのうちに手を止めて、それを眺めていた自分。

 

 見かねたおじいさんが、お手本に一つくれると言ってくれて。

 

 誤差の範囲、なんて言ってたけど、おじいさんは失敗作なんて作らないから。

 

 とっても嬉しかったけれど、選定の杖みたいに取り上げられたくないから。

 

 おじいさんの優しさに感謝して、諦めた。

 

 

「前に言ったでしょ?村の近くの鍛冶場にお手伝いに行ってたって」

「その時のか」

「うん。鍛冶師のおじいさんは安物だ、なんて言ってたけどさ。

 カラフルで、お星さまみたいに輝いてたんだ。

 その時は断っちゃったんだけど。いつか旅に出て、お金を貯めて、お客さんとして、買いたいなあ……って……!」

 

 

 口に出して初めて自覚した自分の願い。

 

 それはきっと、なんら特別でもない普通の事だったけど。

 

 私はそんな普通が欲しかったんだ。

 

 

 

「…………やだぁ……」

 

 

 一度堰を切って、零れだした想いが止まらない。

 

 口は悪いけど私を気にかけてくれていたバーヴァン・シーと、もっと仲良くなりたい。

 

 苦手なバゲ子とだって、もっと良い関係になれるかもしれない。

 

 もっと、もっと……生きていたい。

 

 

「やだ、やだぁ……私、まだ消えたくないよ……!

 死にたくない……ここで、終わりたくない……!!」

 

 

 しがみついた手の先が、光になっていく。

 零れた涙が、光になっていく。

 

 自分から飛び込んだのに、今更恐くなって。必死になって抱き着いた。

 じぶんがじぶんでなくなっていくのが、とても、こわい。

 

 

「やだぁ、やだよぉ……!もっと、みんなと一緒にいたいよぉ……!!

 助けて……助けてコバヤシぃ……!!」

 

 

 泣き言を言う私を、コバヤシはしっかり抱き寄せてくれて。

 彼は片方の腕を高く掲げた。

 

 

「俺は、お前らに魔界の色んな事を教えたな」

「コバヤシ……?」

「なら、()()()()()()()()()()

 

 

 私のぼやけた視界に入ったのは、彼が掲げた手の甲に浮かんできた赤い紋章。

 

 ……どこかで見た事がある。

 

 あれは……そう、モルガン陛下が国民に刻んでいるアレに似ていた。

 

 あれは、確か――

 

 

 

 

「――令呪を持って命ずる!出番だ、来い村正ァ!!」

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 ――時は予言の子一行がソールズベリーにいた頃まで遡る。

 

 モルガンに呼び出されたコバヤシは、キャメロットの城に水鏡で現れた。

 魔王を出迎えるモルガンと妖精騎士二人。

 そして、魔術で拘束されている赤毛の男だった。

 

 

「襲撃者が出たと聞かされて、来てみれば……なんだコイツは」

「異星の神の使徒です。私の首を狙いに来たようで」

「魔界で強化されていない妖精騎士では手も足も出ず、私が迎撃致しました」

「一応聞いておく。怪我はあるか?」

「一撃で昏倒させたので、怪我は最小限で済みました。情報を聞き出さねばなりませんから」

「違う。お前らの怪我だ」

「……へ、平気です」

「ならいい」

 

 

 よくやった、とバーゲストの顎をコバヤシは撫でた。こうするとやけに喜ぶのだ。

 赤面しながらうっとりするバーゲストに、女二人が嫉妬の目線を送った。

 

 

「しっかし、國の要の王都にたった一人で攻め込むとはな。覚悟決まってるな、この兄……ちゃん……?

 ……あれ……兄ちゃんかコイツ……?肉体の若さの割に、雰囲気がやたら爺臭いような……」

「おう、爺で悪かったな!……というか、一目見ただけで分かるのかい、アンタ」

「肉体と年齢は比例しねえよ。なんせこの瑞々しい女王だって数千歳だからな」

「我が夫」

「事実だろうが」

 

 

 いかに感情が擦り切れたとはいえ、触れてほしくない部分はある。憤りから少し悲しい目をしたモルガンを見て、コバヤシは自分の非を認めて詫びを入れた。

 

 

「ああ、もう。悪かったよ。そんな顔しないでくれ」

「許します。さて、異星の神の使徒よ。貴様の名と目的を話してもらう」

「テメーに先に言っておくぞ、素直に話した方が身のためだかんな。私、口を割らせるいろーんな方法、知ってるんだから☆」

 

 

 バーヴァン・シーの脅しに屈した訳ではないのだろうが、赤毛の男は観念して溜息を吐いた。

 

 

「ハア、こんな化け物揃いの場所だなんて聞いてねぇぞ……。

 (オレ)は千子村正だ。異星の神サマからの命令でな、ブリテン異聞帯の王を始末しに来たワケよ」

「……名前からしてブリテンの関係者じゃないよな?」

「時代どころか国すら異なるかと」

「アンタ、見た目は人間のようだが、人類史を知らねえのかい?」

「事情があってな、汎人類史の事はそこまで詳しく分からん。

 使徒って事は、サーヴァントみたいなモンか。ここに送り込まれたなら、正体は暗殺者か何かか?」

「違ェ。(オレ)は単なる鍛冶師だよ。まァ、異星の神にちょいと霊基をいじられてはいるがな」

 

 

 それを聞いたコバヤシは、何か残念な者を見る目で千子村正を見た。

 正確には、村正を送り込んだ者に対しての落胆の目だった。

 

 

「……異星の神って阿保なのか?魔改造されてるからって、ただの鍛冶師を一人で王城に攻め込ませるって、戦法としてどうなのよ……」

「仕方ねェだろ。他の連中は手が離せねぇ。一人は連絡が取れねえしな」

「異星の神って人望無いのか?」

 

 

 千子村正は沈黙して視線を逸らした。それが答えだった。

 

 

「ブリテンは予定にない成長をしているんだとさ。それで急遽、(オレ)にお呼びがかかったんだろうよ。

 ……実際にゃ、成長なんて生温いもんじゃなかったけどな!!」

「俺に当たるんじゃねえよ。……異星の神か、モルガン――」

「既にこの男と異星の神とのパスを利用し、逆探知を仕掛けています。

 メリュジーヌに先行させて、魔界調査団を派遣済みです。異星の神の居所を把握するのも時間の問題でしょう」

「流石、仕事が早いな」

「……お、おい。今なんて……」

「俺の女王に手を出して、タダで済ませる訳ねェだろうが。お前の派遣は宣戦布告と受け取った。

 ――虎の子の戦闘部隊も出撃させる。準備が整い次第、異星の神を殺しに行くぞ」

 

 

 殺気駄々洩れの魔王を見て、女王と妖精騎士も戦意満々でニヤリと笑う。傍にいた千子村正は顔を引きつらせた。

 測り知れない魔力を保有した化け物が、大挙して異星の神の根城へ押し寄せようとしていた。

 

 

「で、コバヤシ。こいつどうすんの?」

「……うーん……」

「こうなったからにゃ、逃げも隠れもしねェよ。一思いに殺せ」

 

 

 村正は抵抗を諦めた。実力差が違い過ぎて、一か八かの勝負すらも狙えない。

 

 

「鍛冶師、鍛冶師かぁ……ウチの魔界に鍛冶師なんていないからなぁ……お前、ウチ来ない?」

「…………あぁ?」

 

 

 コバヤシは悩んでいた。

 

 バーヴァン・シーが自分の為にヒールをプレゼントしてくれてから、自作のアイテムというのに興味があった。

 魔界にあるのはローゼンクイーン商会のみ。鍛冶場なんてものは無い。

 

 一から作れる自分の武器とか、憧れるじゃん?

 

 でも鍛冶師なんて育成出来ないじゃん?

 

 なら、どこかから連れてくればいいじゃん?

 

 目の前に良いのがいるじゃん!!

 

 

「待て、コバヤシ!この男は陛下のお命を狙った輩なのだぞ!?いくら貴方とはいえ、このような者を魔界に入れるなど……!」

「うん。お前の気持ちはよーーく分かる」

 

 

 反対意見を口に出すバーゲストの肩を、コバヤシは優しく叩いた。

 

 

「俺達反乱軍が戦っていた、ロスト軍の事は話したよな?」

「ええ。あらゆる魔界を自分達の食い物にしてきた、卑劣極まりない連中です」

「そう。そしてそのロスト軍のトップと幹部二人が、今は反乱軍にいるワケだ。

 それに比べりゃ、たかが暗殺に失敗した鍛冶師一人を仲間にするくらい、大した事ないだろう?」

「それ言われると何も言えませんが!!でもコバヤシ、それは感覚が麻痺しているのでは!?」

 

 

 バーゲストは頭を抱えた。個人の事情とか、修羅悪魔の襲来とかで、なんやかんやで生き残っていたロスト軍のトップ達を仲間に引き入れたとは聞いていたが。

 

 おかしいだろ反乱軍。どれだけ懐が深いんだ反乱軍。

 

 コバヤシだって、最大の被害者であるキリアやウサリアが認めなければ、反乱軍への参加など認めなかっただろう。

 

 

「異星の神とかいう奴の所にいるより、こっちの方が楽しいぜ。働き次第だが、給料はこんな感じで」

「おい、(オレ)はまだ何も言ってねえぞ……」

「地球にいたんじゃ触れない鉄も武器もあるぞ。お前、触ってみたくない?」

「…………ほ、ほう……?」

 

 

 ピクリと反応を示した村正を見逃さず、コバヤシは畳みかけた。相手の弱い部分につけこむ、悪魔的手腕で村正を懐柔していく。

 

 元より異星の神とは仕事関係でしかなく、忠誠を誓ってはいない村正。無茶振りされて取っ捕まった挙句に、相手側から好条件で雇うと言われれば揺らぐのも無理はない。

 

 

「お前さんが本気なのは分かった。だが、既にこのカラダは異星の神と契約した身だ。こっちが一方的に切れるもんじゃねえ」

「モルガン、契約奪えるか?」

「当然です」

 

 

 ふんす、と得意げに胸を張るモルガン。ガチガチに警備が固められているであろう玉座に、鍛冶師一人を暗殺に送るような間抜けに遅れを取る要因など一つも無い。

 

 即答してみせたモルガンを見て、降参だと村正は両手を挙げた。

 

 

「こりゃ負けだな。異星の神サンには悪いが、(オレ)ァこっちに付くぜ」

「心配するな、異星の神とお前は二度と会わねぇからな」

「では契約させましょう。異星の神との契約は、居場所が判明してから消しておきます」

「頼んだ」

「……ンな事まで出来んのか……おっかねえ……」

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 令呪の一画が(ソラ)へ放たれる。魔力の道を辿って星の炉心に現れたのは、着物を羽織った赤毛の男。

 

 

「ようやく出番かい……って熱いな!?どこに呼び出してんでえ!?」

「星の内海の鍛冶場だよ」

「なんだそりゃ!?」

 

 

 びっくり仰天。目を丸くした鍛冶師は、自分を呼び出したマスターにしがみ付く少女を見て目を細めた。

 

 そして、悪くない、と笑みを浮かべる。

 

 

「――へえ。ベソかいた童女の為に竈に飛び込むたあ、良い根性してるじゃねえか。

 ちっとばかし見直したぜ、マスター!」

「御託は良い!お前、聖剣打てるか!?」

「あたぼうよ。定めを切り業を切り、刀に捧げた我が人生。千子村正、ここにあり、ってな!

 魔界鍛冶師の初仕事、しかとその目に収めておきな!!

 

 

 槌を片手に炉心へ歩く赤毛の鍛冶師。

 

 普通なら近づくだけで灰になる熱流に晒されながらも、男の不敵な笑みは崩れない。

 

 光の中心部へ槌を振り下ろす。

 

 光の粒子が火花のように散った。

 

 

「成程な、星の炉心なだけはあらァ。元の霊基のままだったら、この手を何度か振るえば丸ごと燃え尽きてただろうさ。

 あのよく分かんねェ特訓にも意味があったな!確かに熱いが、こんぐれぇなら耐えられる!!」

 

 

 魔界で強化された霊基は、炉心の熱量をも耐え抜く頑強さを持ち合わせていた。

 

 景気よく、力強い音が星の炉へ響く。

 

 

「マスター!令呪をもう一画寄越しな!ちょいと鉄が足りてねぇ!」

「オーケー、いくらでも持っていけ」

 

 

 もう一画の令呪の魔力が村正へ注ぎ込まれる。

 ありったけの魔力を槌に込め、聖剣へ叩き込んだ。

 

 

「――おし、いけるいける!大さぁびすだ、がっつり鍛えてやろうじゃねえか!!」

 

 

 やる気も増した村正が、一心不乱に槌を振るう。

 

 鉄と鉄がぶつかり合う鍛錬の場で、一人の鍛冶師の仕事を見守る男と少女。

 

 

「――――すげぇ」

 

 

 感嘆として、男は呟いた。

 

 無数の武器は持っていても、武器を造るのを見るのは初めてだった。

 

 

「見ろよ、アルトリア。凄いぞ、これ」

「――うん。すごいね――」

 

 

 子供のように夢中になっている男の瞳に映る、鍛冶の光の無数の火花。

 

 まるでキラキラの星空のようで、少女の瞳は引き込まれていた。

 

 三人だけの空間に響き渡る奇跡の音。

 

 それはやがて、終わりを迎える。

 

 

「――出来たぜ、持っていきな」

 

 

 村正から差し出された、光の長剣。

 

 神造兵装エクスカリバー。

 

 受け取った時のずっしりとした重量感に、コバヤシは満足そうに頷いた。

 

 

「お疲れさん。いい仕事だったぜ」

「そりゃ良かった。んじゃ、(オレ)は一足先に戻ってるぜ」

「あ、あの!ありがとう、村正さん!」

「礼はいらねえよ。(オレ)は仕事をしただけだ」

「じゃ、じゃあ!報酬!私からも、ちゃんと報酬は払うからね!」

「……そうかい。まァ、期待しないで待っとくぜ」

 

 

 最後の令呪を使用して、村正は魔界へと帰っていった。

 

 アルトリアは、右手で聖剣を持って眺めているコバヤシの左手を握った。

 

 コバヤシは視線を向けなかったが、その手を握り返す。

 

 たったそれだけで、アルトリアは嬉しさで胸がいっぱいになった。




・千子村正

 実は仲間になっていた刀鍛冶の英霊。契約した後はいつもの魔界適応ブートキャンプを執行された後に、新設された鍛冶場へ配属された。
 ちゃんと部下のケアをしないから、勝手に動かれたり使徒を辞められたりするんですよ、異星の神様。
 流石に異星の神の討伐には参加しないし、ヤバイ連中に目を付けられて災難だな……とは思ってる。
 まあ自業自得なのだが。


・異星の神

 部下を取られた、どことなくポンコツ感漂うビースト。
 原作でも、村正が敗走してブリテンをさまよってても、予言の子に合流したままでもアクション取っていないので、これ奪われても気にしないんじゃ……と考えた結果、こうなりました。
 安易にブリテンに刺客を送り込んだせいで敵認定された。そもそもオリュンポス以外は捨てる気だったみたいなので、どうあれブリテンの面倒を見ていたコバヤシの怒りは買う羽目になっただろう。スッゴイカワイソ。


・妖精騎士バーゲスト

 城内に侵入した村正を一撃で仕留めた。褒められるのが好き。


・妖精騎士バーヴァン・シー

 今回は良いとこ無し。

この作品の設定を使った別の小説をぼんやり考えてます。なんか面白そうだと思ったものがあれば、一票どうぞ。

  • 転送事故でオラリオへ(ダンまち)
  • 転送事故でワノ国へ(ONE PIECE)
  • 汎人類史モルガンを陰から守る会
  • ゲーティア絶許・グランドオーダー
  • 原作6章、カルデア殲滅ルート
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