妖精魔界戦記ディス・アヴァロン   作:サンダーボルト

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何かお気に入りが増えていると思ったら、朗読会の影響でしょうかね。ちなみに私は見ていません。文字と絵だけでこの有様なのに、声が付いたら死んでしまいます。

妖精國の絵や礼装も増えてきて良きかな良きかな。

特にバゲ子のあの水着!!食い込みがえぐくてワイルドさが出てて好き!!


魔女の輝き

 私がかつて、トネリコを名乗っていた頃。瞳の中にはずっと星が輝いていた。

 

 空を見上げても、地を見下ろしても、消える事の無い星が見えていた。

 

 耳の奥では鐘の音が鳴っていた。己の使命を忘れるなと告げるかのように。

 

 汎人類史のモルガンの記憶を受け取って、私は自分の辿る未来を知った。

 

 

 ――そして、私は運命に抗った。

 

 

 私だけのブリテン。私が愛するブリテン。

 

 汎人類史の私が成し遂げられなかった悲願を、異聞帯の私が受け継いだ。

 

 前途多難なのは目に見えているけれど、不思議と気持ちは軽かった。

 

 

 ――だって、今の私は救世主。みんなに疎まれる魔女じゃないもの。

 

 

 きっと上手くいく。そう信じて疑わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな希望も徐々に薄れていく。

 

 いくら争いを鎮めても、沸き起こる問題は尽きなかった。

 

 人助けは気に入っていた。みんなに感謝されるのは悪い気分じゃなかった。

 

 でも、いくら助けても私が皆に心の底から救世主だと讃えられる事は無かった。

 

 何度も妖精達から排斥されているうちに、私は疲れてしまった。どうせ何をしても迫害されるのなら、いっそ災厄の時だけ活動してしまえばいい。

 

 そうしてからは心が幾分か楽になって、それと同時に虚しさも覚えた。

 

 

 

 

 それでも救世主を続けて、仲間も増えて立ち回り方を覚えた頃に出会った、一人の人間。

 

 妖精と人間の幸福を願う、優しい人間。

 

 ウーサーという名前は私にとっては気に入らなかったけれど、一緒に過ごしていくうちに惹かれていった。

 

 彼ならば、きっとブリテンを良い國にしてくれる。

 

 そう信じて、彼に全てを託す決意をした。

 

 ウーサーが私を妃にする、なんて言い出した時は混乱したけれど、他の皆はそれを止めるどころか祝いだして、私一人が嵌められたみたいだった。

 ……それでも、悪い気はしなかったので、楽園に帰る予定を急遽返上して戴冠式と結婚式を兼ねよう、なんて考えてしまうくらいには私も浮かれていたのだ。

 

 

『ああ――ああああああ……!!なんで、なんで……!?ウーサー……みんな……!!』

 

 

 ブリテンで一番めでたい日になる筈だった。

 

 ウーサーや円卓のみんなが毒の盃を飲み干して、私達の思い描いたブリテンは始まる前に終わってしまった。

 

 妖精達に対する憎悪と憤怒が限界を超え、私は救世主の道を捨てた。

 

 

 

 

 ――私を蝕んでいた星の光と鐘の音は、(トネリコ)から(モルガン)になったその時から消え失せていた。

 

 

 

 

 女王としてブリテンに君臨し続けていた私を襲った、未曾有の侵略者。魔界から来襲した人間の魔王は、空想樹をも解析した私の理解を遥かに超えた存在だった。

 

 敗北した私と妖精騎士は彼の配下に加わり、魔界で力を蓄えて成長していった。

 

 当初抱いた恐怖と怒りは困惑と驚愕に変わり、魔界での生活と彼の人となりを知るにつれて少しずつ好意へと変わっていった。

 

 彼と一緒にブリテンで暮らす。そんな淡い夢を見てしまう程に、私は彼に惹かれていったのだろう。

 

 

 

 

 

 ……ああ、でも。

 

 夢は所詮、夢でしかない。

 

 どんなに願っても、どんなに努力しても、私の夢は決して叶わない。

 

 これまでもずっと、そうであったように。

 

 

 

 

「…………なぜだ」

 

 

 魔界の皆を集めたコバヤシが語る、ケルヌンノスへの対処法。

 その全容を聞き終えた後の静寂を破る、私の震えた声。

 

 

「コバヤシ、それは、おかしいでしょう……?

 何故、貴方がその身を危険に晒す必要がある!!」

 

 

 激情に身を任せて叫ぶ私を見て、愛娘が怯える姿が目に入る。それでも、落ち着く余裕すら今の私には無かった。

 

 

「ケルヌンノスの呪いはブリテンの負債だ!!ならば、ブリテンに住まう者が背負うのが道理でしょう!?」

「お前達だと耐えられないから言ってるんだよ……」

 

 

 私に比べて、彼の態度は落ち着いていた。私の発する言葉に冷静に返してくる。

 

 

「私では、駄目だというのですか……?」

「無理だね。お前やアルトリア、バーヴァン・シーは妖精共を少なからず憎んでるから、ケルヌンノスの呪いと同調して飲まれてしまう可能性が高い」

「……では、私なら」

 

 

 妖精騎士バーゲストが名乗りをあげたが、コバヤシは即座に却下した。

 

 

「駄目。お前、腹の中に何を飼ってるか忘れたのか?厄災なんて今のケルヌンノスに押し込んだら、どんな呪いになるか分かったもんじゃない。同じ理由でメリュジーヌも無理だ」

 

 

 その指摘に反論の余地も無く、二人の妖精騎士は歯嚙みして引き下がる。

 

 

「じゃ、じゃあ適当な妖精でも攫ってきて、そいつを核にすればいいじゃない!!」

 

 

 バーヴァン・シーが必死になって代案を持ち出したが、隣のアルトリアが首を振った。

 

 

「無理なんだよ……」

「ハァ!?なんでだよ!!」

「ブリテンの大陸の大穴の中にケルヌンノスの亡骸がある理由、分かる?あの大穴はケルヌンノスは死んでもなお、妖精を憎み続けている証なの。妖精達の死骸すら拒否し続けているから、妖精だと核として認められないと思う……。

 コバヤシは、妖精を嫌ってはいるけど憎んではいないから、呪いに飲まれる心配は無いし……」

「それは、でも……でも!」

 

 

 沈んだ表情の彼女の言葉に、バーヴァン・シーも返答に詰まった。

 

 

「騒がれるとは思ってたよ。でも、あえてこう言わせてもらおう。……お前ら、他に良い考えあるの?」

 

 

 それが全ての反論を封じた。

 

 必死になって知恵を振り絞ってみても、これ以上に良い案など浮かばない。それだけ、これが彼が考えに考え抜いた最良の案だという証拠だ。

 核になる彼の死が決定した訳ではない。コバヤシも、危険ではあるが耐える気でいると言っていた。

 

 

「…………認めない、そんなの、認めてなるものか」

「モルガン、あのな――」

「やめろ!!聞きたくない!!」

 

 

 だから、こうして童女のように喚くのはただの感情論だ。

 

 現実を拒否するように耳を塞ぎ、髪を振り乱して部屋から駆け出してしまった。

 

 

 

 

 ――結局はどの世界でも、私は魔女だった。大事な人を不幸にする、災厄の魔女。

 

 ――世界に、運命に、そう突き付けられてしまえば、もう私は耐えられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「…………そりゃああなるよなぁ……あーもう、どういえば良かったんだか……」

 

 

 モルガンが飛び出していった後、沈黙の中で声を発したコバヤシに視線が集中する。やるせない表情で頭を掻いていた。

 

 

「貴方を疑う訳ではありませんが……本当にその手しかないのでしょうか?」

「これ以上無いってくらい、頭使って考えた案だよ。他に良い方法あるなら、是非とも教えて欲しいくらいだ」

 

 

 遠慮がちに声をかけたバーゲストが、返答を聞いて沈痛な面持ちで唇を嚙む。悔しさで握りしめた拳が音を鳴らした。

 

 

「……生きて帰れる保証はあるの?」

 

 

 アルトリア・キャスターが問いかけた。

 

 

「あるに決まってるだろ。ブリテンの為に死んでやる理由は無い。ただ……もしかしたら死ぬ可能性もあるけど」

 

 

 一度、視線を下に落としたアルトリア。そして魔王を見つめ直して、何かの決意を固めた顔で一歩踏み出した。

 

 

「なら――」

「俺以外の誰かが行けばいいって話でもないんだ」

 

 

 アルトリアの口に人差し指が添えられる。自分の言葉を止められた彼女は、戸惑いながら真意を探る。

 

 

「極端な話、どっかの誰かをケルヌンノスに突っ込んで復活させて、俺達がフルパワーで吹っ飛ばしてもブリテンの存続は叶うんだ」

「え、じゃあ、どうして……?」

「これ以上、犠牲は出せないんだよ」

 

 

 コバヤシはアルトリアの透き通るように青い瞳を見つめた。

 

 

「ブリテンを成り立たせる為に誰かを犠牲にすれば、きっとアイツは心の底から喜べなくなる。

 自分がどんな目に遭ってようと、強がって平気な顔してるクセに、誰かの為なら本気で怒りだすような奴だからな……」

 

 

 コバヤシはアルトリアのほっぺたに手を当てて、ぐに、と優しく抓った。

 

 

「ホント、お前にそっくりだわ」

「うにゅ……」

 

 

 呆気に取られたアルトリアから手を放し、コバヤシはゆっくりと立ち上がる。そして話を聞いていた者達をぐるりと見回した。

 

 

「それで、お前らはどうなんだ?俺の案に乗るか、乗らないか、答えてくれ」

 

 

 再び沈黙が部屋を支配する。各々が答えを探している中で、ガチャリという鎧の音が耳に入る。

 

 最初に動いたのはバーゲストだった。魔王の目の前まで歩き、跪いて頭を下げた。

 

 

「他ならぬ貴方が考え抜いた策ならば、私はそれを信じて剣を預けます。どうかこの身を、如何様にもお使いください」

「……ん、そうか」

 

 

 騎士の頭に手を置いて、魔王はその覚悟を受け取った。

 その後ろに、小さな龍が本来の姿を現した。

 

 

「私も協力するわ。全力を出して最高の結果を掴みとる……フフッ、良いわね。シンプルでやりがいがあるじゃない。そういうの、好きよ」

「おう、期待してるぜ」

 

 

 親愛の証のハグをして離れると、妖精二人が意を決して話し出す。

 

 

「コバヤシが、一生懸命考えたっていうのは伝わったわ。でも……お母様が嫌がってるなら、私は……それに手を貸したくない」

「一応、私の同郷だし……モルガンには、幸せになって欲しいって思ってるんだ。だから、モルガンの事を蔑ろにしないなら……私も協力する」

「そうか……よく言った」

 

 

 二人の頭を軽く撫で、最後に彼の配下の者達へ視線を送る。

 

 

「私達は主の貴方について行くだけです」

「……よろしい」

 

 

 皆の答えを聞き終えたコバヤシは、会議室を後にする。

 

 目指す先はモルガンの自室だった。

 

 

「じゃあ、アイツと話し合ってくるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋に入る前に礼儀としてノックをして名前を呼んでみたものの、思った通り彼女からの返事は無い。待っていても埒が明かないので、コバヤシはモルガンの部屋へ入る。

 

 薄暗い部屋の照明を付ければ、彼女は部屋の隅で膝を抱えて座り込んでいた。

 

 

「モルガン」

 

 

 いつもならば返ってくる言葉が無い。顔を背け、意地でも彼を視界に入れないようにしていた。

 

 

「モルガン。聞いてくれ」

 

 

 隣へ座り、そっぽを向いたままの女の顔に手を添える。コバヤシが自分の方へ顔を向けさせようと力を込めると、意外にも彼女は殆ど抵抗しなかった。

 今にも泣きだしてしまいそうな悲壮な表情を間近で見て、コバヤシは一瞬言葉に詰まる。

 それでも、言うべきことを口にした。

 

 

「お前が本気で嫌がるなら、さっきの話は無しにする。だから、話そう」

 

 

 その言葉を聞いたモルガンは俯き、そして弱々しい足取りで立ち上がった。コバヤシはモルガンに手を貸して、彼女をベッドに座らせて自身も腰掛ける。

 

 

「あの作戦はお前がいないと成り立たない。俺が力尽きる前に事を終えるには、お前の力が必要だ」

 

 

 モルガンのみが扱える神造兵装ロンゴミニアドの砲台。ケルヌンノスの呪肉を焼き払うには、あの大穴を取り囲む1200基のロンゴミニアドによる波状攻撃しかないとコバヤシは語る。

 

 

「……コバヤシ」

「うん?」

「例え貴方が妖精に憎悪を抱いていないとしても、呪いによる浸食は貴方の精神を蝕む」

「……ああ」

「わたしにはそれが、たえられない」

 

 

 隣に座る男に縋るように、モルガンはしがみ付いた。

 

 

「消えていく。私の大事なものがみんな、私の前から消えていくんだ。

 汎人類史の父は突然、私を見なくなった。ブリテンの王になる筈だった私を、ブリテンから追い出して、私は愛しい故郷に帰る事すら許されなくなったんだ。

 異聞帯のウーサーが殺された時の光景は、今でも目の裏側にこびりついている。

 ウーサーくんは、優しいひとだったのに。きっと、今のブリテンを良い國にしてくれるおうさまだったのに。私みたいな除け者なんて、いない世界になるはずだったのに。

 みんな、みんな、いなくなった。私の手には、もう、何も、残ってやしない」

 

 

 震える手で男を揺らす。目からは堪えきれなくなった悲しみの涙が溢れていた。

 

 

「私には、どこにも居場所なんて無かった。どこに行っても疎まれて、大事なものができても、この手から零れ落ちていくだけの、魔女だった。

 ……なにが、楽園の使命だ。何が救世主だ!!こんな目なんて欲しくなかった!!世界は、私を、この身が果てるまで使い潰されるためだけに産み落としたのか!!」

 

 

 モルガンの慟哭は彼女自身をも貫いた。心の奥底に隠していた、直視したくないものを曝け出したからだ。

 

 

「……お前は私の欲しいものをくれた。心地の良い居場所に、バーヴァン・シーの命。そして、ブリテンも。

 そんなお前を、ブリテンと天秤にかけるなど、私にはできない。

 ……おねがい、おねがいだから、私の前から、いなくならないで……私の愛しい人……!」

 

 

 抱き着いて泣き続けるモルガンの手を取り、そっと引きはがす。

 それを拒絶だと受け取ったモルガンは、絶望の表情を浮かべた。

 

 

「酷い顔しやがって……何を勘違いしたか知らないが、安心しろ。俺は消えないから」

 

 

 ただ一言かけただけでモルガンの不安は吹き飛んだ。

 ……思えば、コバヤシはこうして相手に姿をはっきり見させることで、妖精眼で真意を見せていた。

 手玉に取られているな、とモルガンは感じつつも、それに悪い気はしていなかった。

 

 

「そういや、お前に話した事は無かったな」

「……?」

「俺が魔王に至るキッカケだ。丁度いいから今話しておくよ。これを聞けばケルヌンノスの核の代わりを名乗り出た理由も分かるだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、反乱軍とロスト軍の戦争の最中の出来事でした。

 

 ヴォイドダークの放った魔力を吸い取る魔槍が、コバヤシの主人である魔王セラフィーヌの故郷、絢爛魔界へと突き刺さったのです。

 

 絢爛魔界は魔界でも随一の財力を誇る、超リッチな魔界です。

 

 反乱軍はセラフィーヌの故郷を救うため、絢爛魔界へと向かいました。

 

 ですが、絢爛魔界の実情は話とは違っていました。

 

 セラフィーヌの父親が、ヴォイドダークを恐れるあまりに地下シェルターを造り、そのせいで絢爛魔界は財政破綻を起こしてしまっていたのでした。

 

 

 

 父親と再会したセラフィーヌは、その事実を知って絶望します。

 

 財力を誇りにして生きてきた彼女にとって、貧乏になるという事実はとても受け入れがたいものだったのです。

 

 周囲に貧乏人と見下されるのは、彼女のプライドが許しません。

 

 それに加えて彼女の父親は、セラフィーヌとの結婚を狙っていた魔王や魔神達を罠にかけ、財宝を奪い取っていました。そしてあろうことか、今度は助けに来た反乱軍を捕まえて売ろうと言い出したのです。

 

 既に彼等と仲間としての絆が芽生えていたセラフィーヌは、自身のプライドと板挟みになり苦しみます。

 

 どうせ嘘を吐いてもいつかはバレてしまう。しかし、自分から言い出すことなど出来ない。

 

 これに痺れを切らしたコバヤシは、セラフィーヌを説得します。

 

 

 “彼等はかけがえのない仲間であり、例え貧乏になっても見下す事などあり得ない”

 “素直に言って助けを求めよう”

 

 

 そう言われても決心がつかず、ズルズルと対応を後回しにしてしまうセラフィーヌ。

 

 煮え切らない態度の彼女に、コバヤシはならば自分が打ち明けると言い放ちました。

 

 それを聞いたセラフィーヌはコバヤシを引き止めて、思わず魔眼を発動させました。

 

 彼女の持つ“魔眼のバロール”は、男性を自分の意のままに操る能力です。

 

 そうしてコバヤシは意識を乗っ取られ、彼女の言いなりになる人形となったのでした。

 

 

 

 結果としては、彼女は仲間の言葉で呪縛を断ち切りました。

 

 魔帝にビビる父親にキレ散らかし、自分はもう貧乏など恐くないと宣言したのです。

 

 魔界に突き刺さる槍を破壊したセラフィーヌは、気持ちを新たに歩みを進めます。

 

 そして、自分が洗脳したままの男の存在を思い出し、大慌てで魅了を解除するのでした。

 

 

 

 意識を取り戻したコバヤシは、失意のどん底に落とされました。

 

 セラフィーヌが立ち直ったのは喜ばしい事です。

 

 しかし、一番近くにいた自分が何も出来なかった事は、彼の心に大きな傷を残しました。

 

 セラフィーヌは自らの行いを恥じて、素直に謝っていました。

 

 コバヤシはセラフィーヌを責めてはいません。

 

 大事な家族の一大事に、あろうことか魅了されただけで手出しできない無力な自分に、はらわたが煮えくり返る程の怒りを覚えたのです。

 

 彼は自分の心に誓いを立てました。

 

 己の弱さを忘れぬように。

 

 同じ過ちを繰り返さぬように。

 

 セラフィーヌの庇護下で甘えていた自分を許さぬように。

 

 

 

 その日から、彼から遠慮というものが消え去りました。

 

 セラフィーヌに対する賞賛が三割増え、罵倒が七割増えました。

 

 他の仲間達にも臆する事無く、発言していくようになりました。

 

 突然の変化に仲間達は戸惑いましたが、彼の中の決心を察して、徐々に受け入れていきました。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼の固有魔ビリティ『絢爛の誓い』は、ありとあらゆる精神干渉を跳ね除けて、自我を保護するというもの。

 

 これまで自分に正直に生きてきたのは、動くべき時に何もできず、何も言えない事態を引き起こさないためのものだった。

 

 心を溶かす魅了も、心を凍らせる恐怖も、彼には通用しない。

 

 何故ならば、あの時以上の絶望など彼にとっては存在しないのだから。

 

 

「妖精眼はお前に苦しみばかりを与えたモンなんだろう。でも、俺にはその目が酷く輝いて見えるんだ」

 

 

 そっと髪に触れて瞳が良く見えるように覗きこむ。涙で濡れたそれは、残酷なまでに美しい。掛け値なしにコバヤシはそう思う。

 

 

「きっとその目は、見るべきものを間違えない。メッキの中に隠された本音を、お前なら見つけ出せる。

 ――お前は他の誰よりも、救世主に向いているのさ」

 

 

 モルガンはそれを聞いて驚いて、涙を流しながら笑った。悲しみが占める心の奥底で、確かな温かみが生まれたのを感じた。

 

 

「それにお前は、俺の持っていないモンを持っていた」

「……?」

 

 

 コバヤシの手がモルガンの手を強く握る。

 

 今までにない情熱的な対応に、モルガンの心臓の鼓動が強まった。

 

 

「たった一つの夢に向かって一目散に駆けていくその姿は、俺にとって衝撃だった。自分の全てを投げ出してでも、ブリテンを手に入れようとするお前に俺はどこか焦がれていたんだろう。

 欲しいものは山ほどあったが、自分の命を賭してまで欲しいモンなんて無かったからな」

 

 

 コバヤシもまた、自身の想いを口に出して自覚した。目の前の女は、誰にも渡したくない程に魅力溢れる女なのだと。

 

 そして男は、最後の覚悟を口にした。

 

 

「――お前の手から取りこぼしたものを、取り戻すチャンスを俺にくれ」

 

 

 男は女の返事を待った。

 

 永遠にも思える時間の中で、ふと、自分の手が握り返された。

 

 

「……あなたは本当にわるいひと。そんな言い方されたら、断れないじゃないですか……」

「それ以外に俺があの國に関わる理由、無いんだよ」

「…………絶対に生きて帰りましょう。誰一人、欠けることなく、みんなで……」

「当然だ。その為に頑張ってきたんだからな」

「ふふ……」

 

 

 少女のように微笑んだモルガンは、愛する夫の胸に頬ずりをする。

 

 しばらく甘えさせていたコバヤシが、おもむろに立ち上がった。

 

 

「あ……」

 

 

 名残惜しむように服の袖を摘まむモルガンだが、コバヤシはそれ以上付き合う気は無いようだった。連れない態度にモルガンは少しふくれっ面になる。

 

 

「我が夫……ここは最後まで致す場面でしょう。ほら、戦士が戦場に発つ前には女を抱くというのはよくある話です」

「お前さ、情事にかまけて俺が死んだら今度こそ立ち直れなくなるだろうけど、それで良いワケ?」

「それはイヤです!我が夫死んじゃイヤです!」

「だろう?だから話も纏まったし、久々に鍛え直してこようかなーと」

「うぅ……そうですか……」

 

 

 確かにただでさえタイムリミットが迫る中で、一夜とはいえ作戦の要の彼を拘束してしまうのは良くないとモルガンも理解して、渋々引き下がった。

 そして彼の言葉を反復し、内容を理解して恐る恐る口を開いた。

 

 

「あの……我が夫?鍛え直すと言いましたか?」

「うん」

「つかぬことを聞きますが……これ以上強くなれるのですか?」

「なれるよ」

「……………………そうですか、いってらっしゃい」

「おう」

 

 

 コバヤシが出て行った後、モルガンはぽけーっと天井を見上げ続けていた。

 

 現時点でも惑星をぶっ壊すような夫に、未だ成長の余地がある。

 

 

「………………………………え?本当にあの人って死ぬの???」

 

 

 現時点でのモルガンには、ちょっと理解できない範疇の話だった。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

「あ、コバヤシおかえヒェッ」

 

 

 アイテム界から戻ってきた魔王を甲斐甲斐しく迎えに来たアルトリアは、慕っている男の変貌に変な声を出した。

 

 敵の体液に塗れた体から、魔力が赤い稲妻となって流れ出ている。体内の魔力が高まっているせいで、目と口が赤く発光していた。バーヴァン・シーが霞んで見えるくらい真っ赤の化身になっていた。

 

 アイテム界から帰ってくるたびに、ちょっとだけ強くなっている。凶蝕の力という魔ビリティの効果らしいが、どこまで行けば限界になるのだろうか。

 

 

「なんだ、わざわざ来たのか」

「う、うん……カレー、向こうに用意出来てるよ」

「そうか、ありがとうな」

「……えっと、どうしたらそんなに強くなれるの?」

「敵を片っ端からぶっ殺しまくってる」

「ヒェッ」

 

 

 最低限の体の汚れを落として、カレーにがっつくコバヤシ。エリクシルをベースに大量のメガネを入れたカレーは、食べたものにHPMP上限アップとクリティカル率アップの恩恵を与えてくれる。

 

 そうして食べ終えて、再びアイテム界へと潜っていこうとしたコバヤシを呼び止める者がいた。

 

 

「コバヤシ、結界に反応がありました」

「お、来たか」

「ええ。既に出撃準備は済ませています」

 

 

 声の主のモルガンの後ろに、妖精騎士達が控えている。横に並んで跪き、魔王の号令を待っていた。

 

 

「――よし、手筈通りに出陣だ。カルデアの連中を迎えてやるとしようか」

「「「「了解!!」」」」




・固有魔ビリティ『絢爛の誓い』

 本作オリジナルの魔ビリティ。自我が強固に保護され、例え神であっても彼への精神への干渉を許さない。

 ディスガイア5での効果はステータス異常のド忘れ、萎縮、魅了に対する完全耐性。ぶっちゃけ弱い。前半はともかく後半だと絶対使われない性能だと思う。

 FGOだと魅了や恐怖といった、精神的行動不能に対する完全耐性。ビーストⅢを鼻で笑う能力。やっぱあいつらは泣くしかないんやなって。

 因みにこれはコバヤシが現在進行形で抱えているトラウマではあるが、それを乗り越えるために発現しているものでもある。なので失意の庭とか使ったら、トラウマ刺激されてキレて五秒くらいでぶっ壊して出てくる。シェイクスピアの宝具なんかもコバヤシに怒りのバフを与えるだけになる。


・魔ビリティ『凶蝕の力』

 いわゆるやりこみ要素の一つ。
 アイテム界の一部の敵を倒すことにより、自分のステータスを限界突破で更に上げられる。ただし、上がるステータスは倒した敵のパラメーターの10万分の1であり、カンストかそれに近い相手でないとほとんど伸びない。
 魔ビリティと装備でカンストステータスになる為にサボっていたコバヤシだったが、僅かでも強くなるために再び苦行の道を突き進む。

この作品の設定を使った別の小説をぼんやり考えてます。なんか面白そうだと思ったものがあれば、一票どうぞ。

  • 転送事故でオラリオへ(ダンまち)
  • 転送事故でワノ国へ(ONE PIECE)
  • 汎人類史モルガンを陰から守る会
  • ゲーティア絶許・グランドオーダー
  • 原作6章、カルデア殲滅ルート
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