妖精魔界戦記ディス・アヴァロン   作:サンダーボルト

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長くなりそうなので、今回はカルデア襲来までにします。

早く投降したかったので、今回はあとがき無しです。


カルデア来る(きたる)

 漂白された世界を泳ぐように飛ぶ一隻の船。障害も国境も関係なく目標に向けて一直線に向かうその姿は雄大で、広い空にたった一つの影は寂寞な旅路を思わせる。

 

 第五の異聞帯を攻略したカルデアは、手に入れた神の遺産を用いてパワーアップを果たし、第六の異聞帯へと船首を向けていた。

 

 彼等の目的はシバの予測したブリテン異聞帯から広がる崩落を食い止める事。そして異星の神に対抗する手段の一つであるロンゴミニアドの譲渡を求めての交渉だ。

 

 

「各員、用意は良いね?――準備完了。ストーム・ボーダー発進!これより、第六異聞帯に突入する!」

 

 

 行く手を阻む光の壁を見据えて、巨大な船の舵を握るネモ・キャプテンが叫んだ。

 

 

「……いよいよですね、先輩」

「……うん、そうだね」

 

 

 隣り合わせに座る一組の男女、藤丸立香とマシュ・キリエライト。

 

 ゲーティアによる人理焼却から人理を取り戻し、異星の神からの人理漂白からも生き残って戦い続けている歴戦のマスターとデミ・サーヴァントのペアは、緊張に身を固めていた。

 

 こちらの戦力も増しているとはいえ、今回の異聞帯突入はこれまで以上に彼等に負担をかけるだろうと、事前に作戦説明があったからだ。

 

 それ以外にも、何度も命懸けの戦いを潜り抜けてきた経験からか、彼等の中でなにか嫌な予感が増していた。それが余計に不安を煽っている。

 

 それでも、不安なのは自分達だけでは無いと己を奮い立たせ、決意を胸に秘めて新たな世界へ突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――この時の彼等には知る由もないが、胸の内に隠した不安の種は、既に芽吹いていた。

 

 ――――漠然とした嫌な予感は、正しい意味で的中する事態になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 玉座に座る美しき女王が、ゆっくりと目を開いた。

 

 

「――来たか。ロンゴミニアド、一基起動」

 

 

 モルガンの魔力が玉座を通して、数ある砲台の一基に送り込まれる。起動した聖槍の砲台は、ブリテンの中心から壁を越えてやって来た来訪者へと砲口を向けた。

 

 

「数々の逆境を乗り越え、よくぞブリテンまでたどり着いた。本来であれば、もっと丁重にもてなしたかったが、此方にも都合がある。アポイントメントも取らずに我が国へ入国した浅はかさを恨むがよい」

 

 

 こう言っているが本気ではないのだろう。少し緩んだ口元からは強者の余裕が見て取れる。

 

 

「――我が聖槍の一撃、受けてみよ」

 

 

 星々に負けぬ輝きの光の柱が、轟音と共にブリテンの空を切り裂いた。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 光の壁を突破して間も無く、ストーム・ボーダーでは危険を告げるけたたましい音のアラームが鳴り響いていた。

 

 

「な、なんだ!?何が起きたのだ、報告したまえ!」

「ダ・ヴィンチ!?」

 

 

 ノウム・カルデア司令官のゴルドルフ・ムジークが血相を変え、ネモ・キャプテンが電算室の仲間に説明を要求する。間髪いれずに返ってきたのは、いつも朗らかな彼女の焦った声。

 

 

『マズイマズイマズイ!!オリュンポスで撃ってきたのと同じ魔力反応……ロンゴミニアドがこの船に向けて撃たれた!!』

「な……!?」

『着弾まで時間が無い!!至急回避行動を!!』

 

 

 大陸間弾道ミサイルにも匹敵する、戦略級超魔術が行使されたと聞き、ブリッジの搭乗員全員が青ざめる。

 

 聞いてすぐに船長が声を上げた。

 

 

「緊急回避!!取り舵いっぱーい!!」

「アイアイサー!!」

『なんとしてでも直撃は避けてくれ!掠ったくらいなら装甲と魔術障壁でなんとか……!』

 

 

 急旋回を試みる船体のGに息が詰まり、生身の体を持つ者達は幸運を祈りながら必死に耐え忍ぶ。艦橋から見える風景の彼方から、黄金の光の砲撃が見えて身を強張らせた。

 

 そして、()()()()()()()()では彼等の祈りは届いたようだ。

 

 

『――なんだ!?砲撃の向かう先が急に変わった!?直撃コースから外れたみたいだ!』

「……ぐっ……も、もしやいつぞやの魔術チャフかね!?でかしたぞ、技術顧問!」

「いえ、ゴルドルフ所長……残念ですが、そうではないようです……!」

 

 

 ダ・ヴィンチの困惑した声に、Gの影響でシートベルトを体に食い込ませながらも言葉を捻り出すゴルドルフ。僅かに希望が見えた筈だったが、経営顧問のシャーロック・ホームズの一言でそれは否定される。

 

 

『これは、違う!キャプテン、急加速してこの空域から離脱して!!砲撃が分裂して、この艦を取り囲むように飛んできた!!』

「船長!相手の目的は我々の()()だ!!急ぎ脱出を!」

「僕達を網にかける気か!!エンジン、聞こえたね!?トリトン・ホイールを全力でブン回して!!」

『チッキショー!!毎回毎回無茶させやがって!!』

 

 

 通信越しのネモ・エンジンの怒号に共鳴するように、ストーム・ボーダーのエンジンが唸りをあげた。

 

 加速を始めた船体に乗員の体が後方に押し潰され――――急制動がかかり前へと押し出される。

 

 

「ぐっ……!?」

「うぅっ……!?」

 

 

 強い力で内臓をシェイクされ、猛烈な吐き気に襲われる。シートベルトのお蔭で体が投げ出される事故は避けられたものの、彼等を取り巻く状況が最悪なのに変わりはない。

 

 

「うぐぅ……お、おい!なぜ急ブレーキをかけたのだね!?」

「エンジン!!?」

『アタシじゃねえ!!機関室はぶっ壊れる勢いで稼働させてる!』

『プロフェッサーより報告ですー。現在、この艦を囲むように魔術による結界が展開中ー。全方位からの圧力で動きを止められましたー』

「結界だって!?」

 

 

 外を見れば、ネモ・プロフェッサーの言った通り、ストーム・ボーダーを丸ごと覆う球状の魔法陣が展開されていた。

 

 だが、正体さえ分かれば対処法にも辿り着く。

 

 

『飛んできた砲弾が起点となって展開されているようだ!場所を探して急いで破壊して!』

 

 

 電算室からの指示通りに、モニターやブリッジの窓から結界を生み出している元凶を探し始めるカルデアの面々。やがて、一人のスタッフが大声をあげた。

 

 

「見つけたぞ!この場所の魔力濃度が高くなってる!」

「この船の前方、斜め上!ここからでも見えるよ!」

「マシュ!!」

「はい、先輩!」

 

 

 角度からして、この艦の魚雷発射管では狙えない位置にある。小回りの利く自分達が行くしかないと結論付け、シートベルトを外したマスターとサーヴァントが立ち上がった。

 

 事態は一刻を争う。それが分かっている司令官は素早く判断を下した。

 

 

「外から圧力が加えられているとの話だが、彼等が外に出た際の影響はどうなのかね?」

『それは大丈夫!どうやら船にのみ作用しているようだから、二人が外に出ても影響はない筈だよ!』

「よし!では船外へ出てあのトラップをぶっ壊して戻ってこい!そして速やかにここから離脱する!」

「はい!」

「了解しました!」

 

 

 任務(ミッション)が発令され、破壊する目標を勇ましく睨みつける人々。

 

 抱いている感情は人によって違えど、自分達を窮地に追い込んだ原因を見てしまうのは、ある意味で当然の行動であった。

 

 カルデアの人員の殆どの視線を集めた瞬間、悪魔の罠が牙を剥く。

 

 

 

 

 ――――――――カッ!!!!

 

 

 

 

 攻撃とは、何も大出力の魔力をぶっ放すだけではない。

 

 物理的な威力を伴わなくとも、相手の力を削げるならばそれは攻撃と呼べるのだろう。

 

 太陽の如き激しい光源と化した魔力の塊は、彼等の視界を白く埋め尽くした。

 

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!目がぁぁぁぁ!?!?」

「ああああぁぁぁぁっ!!」

「ぬわぁぁぁぁぁっ!?な、何も、何も見えない!!」

「ク、クソッ!!()()()()だ!!」

 

 

 窓の外と内部のモニターが同時に白光に焼かれ、それを見ていた者の視界を燃やし尽くした。咄嗟に目を庇うもすでに遅く、激しい痛みに襲われて視界の確保もままならない状態であった。

 

 蹲り、涙を流しながら必死に視力の回復に努める中、無事だった電算室の少女から再び窮地を知らせる一報が入る。

 

 

『悪いお知らせばっかりで申し訳ないけど、閃光(フラッシュバン)はあくまで副次効果に過ぎないみたいだ!』

「ど……どういう……事……?」

「結界のあちこちからさっきの光線が当てられてる!た、多分……この船を解析してるんだ!!」

「……!!」

 

 

 動揺を隠しきれないダ・ヴィンチの言葉に、その場にいた全員の血の気が引いた。まるで詰将棋のように、一手を指されるたびに自分達の逃げ場がどんどん潰されていく。

 アトランティスで虚数潜航からの浮上を待ち伏せされた経験から、奇襲の対策は練っている筈だった。だというのに、目まぐるしく変わる状況は彼等に適切な対応を許さなかった。

 

 

「急いで艦にプロテクトをかけて!内部情報が敵に知られたら、弱点だって丸わかりになってしまう!!」

『すでに実行していますー。……でも、どうやら無意味のようですー』

『くっそー、どうなってるんだ!?こちらの防壁がすり抜けられる!!まるで、私達とは()()()()()()()を使われているようだ!?』

 

 

 改良を重ねてきた自慢のシステム群が通用せず、通信室からは苛立ちの声が送られてくる。

 

 ――とにかく、後手に回っている状況を変えなくては。

 

 ホームズが対応策を口に出そうとしたが、反撃を許すような相手ではなかった。

 

 

『……うわ、これまでで一番の厄介なお知らせだ』

「今度はなんだね!?」

『海の彼方の島から何かが飛んでくる。さっきのロンゴミニアドよりも、魔力量が大きくて、速度も速い。……オマケに生き物みたいだ』

 

 

 信じられない報告に、ブリッジから一切の音が消え去った。一体何を言っているんだと、映像のダ・ヴィンチを見るも彼女自身も放心しかかっている。

 

 

「なんだよ、聖槍より強くて速い生き物って!?」

「あ、相手の正体はなんだ!?魔獣か!?ドラゴンか!?まさか、出てきていきなり神とエンカウントなんてするんじゃないだろうね!?」

 

 

 全員が次の報告を食い入るように待っている中、少女のか細い声が疑問に答えた。

 

 

 

 

 

 

『…………え?……にん、げん……?』

 

 

 

 

 

 

 それは、今も必死に頭を回しているキャプテンやホームズでさえ、頭の中が真っ白になる情報だった。

 

 特異点や異聞帯で常識外れな経験を積んできた彼等でさえ、人間という個体が神の如き力を得ているなど、想像の域外だったのだ。

 

 

「……ぐ、ぬ……この際、それについての考察は後回しだ!」

「――そうですね。今はここからの脱出に専念しましょう」

「電算室!目標の飛行ルートを予想して!効くかは分からないが、魚雷での攻撃を試みる!!」

 

 

 いち早く復活したゴルドルフの一声で思考が切り替わる。考えても分からない事よりも、目の前の危険をどうにかする為に頭を回すのは正しい判断だと言える。

 

 

『駄目だよキャプテ~ン!魚雷発射管が開かない!!攻撃できないよ~!』

『下部ハッチも駄目だ~!シャドウ・ボーダーが下ろせなくなってる!!』

『外に繋がる扉も開かなくなってる!なんてこった、脱出する手段が無くなった!!』

「――――馬鹿、な……」

 

 

 船が鳥籠となった事実にネモ船長が呆然と呟く。外敵を想定して造られた頑丈な外殻が、自分達を閉じ込める壁と化している。内側から破壊しようにも一筋縄ではいかないだろう。

 

 

「飛行生物なおも接近中!!接触まで残り5、4、3――!」

「――この船に降りるつもりか!!プロフェッサー!魔術障壁を集中展開!絶対に取りつかせるな――」

 

 

 最悪の事態を避けるため、船長として指示を飛ばす。神霊カイニスが甲板まで取りついてきた経験から、敵が船体に触れるのを防ぐ物理防御策を施していた。

 

 これでどうにか耐えてくれと、縋る思いで最後の切り札を切った――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――何かがぶつかった大きな衝突音と、船が大きく揺れた衝撃がカルデアを襲う。

 

 

 

 

 思わず目を瞑った彼等は、目の前の現実を受け入れるべく、しかし受け入れがたい現実を見るのを拒否するかのように、恐る恐る閉じた瞼を開いていく。

 

 こちらを見ていた()()と目が合い、全身が金縛りにかかったかのように動けなくなった。

 

 やや瘦せた体形に黒髪の見た目で、黒を基調にした服を身に纏い、漆黒のマントの裏地に血のような赤い色が映えていた。練り上げられた魔力が赤黒いスパークとなって彼等の視界に映る。真っ赤に光る目と口が、人の姿としての異様さを際立たせていた。

 

 それは笑っていた。

 

 あるいは()()()()()

 

 まるで、悪魔のようだという感想が頭をよぎり、そんな言葉では足りないと心が叫ぶ。

 

 

 ――――()()

 

 

 そう、魔王という表現が、あれの呼称に一番しっくりときた。

 

 

「…………ぷろ、ふぇっさー。障壁、は、張れた、のか……?」

 

 

 海岸に打ち上げられて干からびたイルカのように、口の中の水分が乾ききったキャプテンがたどたどしく言葉を紡ぐ。

 

 

『衝突一秒前に魔術障壁10枚を多重展開できましたー。1枚突破されるのに消費した時間は、およそ0.01秒以下……ええ、はい、有り体に言ってしまえば、まったく役に立ちませんでしたー……』

「――――う、そ……」

 

 

 障壁の展開は成功していた。その事実が導き出す答えは、あの人間が単なる力技で艦船の魔術障壁を突破してきたという、信じ難い結果だった。

 

 

「……キャプテン!!俺達を外へ!」

「な――」

「ブリッジに入れるわけにはいきません!どこまで戦えるか分かりませんが、それでも……!」

 

 

 立香が叫び、マシュもそれに続く。壁ではなくブリッジの窓ならば、マシュの力で割る事は出来るだろう。オルテナウスを装備したマシュを見て腹を括ったキャプテンが、命令を下そうとした時。

 

 

「………………え?」

 

 

 それは一体、誰の声だったのだろうか。

 

 誰一人として、対応も反応もできなかった。

 

 外にいる男の姿が黒い雲に隠れたかと思えば、ブリッジの中に黒い雲が出現し、その中から男が悠々と歩いて出てきた。

 

 壁一枚隔てた場所から、ダイレクトに魔王の魔力に当てられて震えだすクルー達。呼吸が止まったかのように錯覚する息苦しさ。足が震え、汗が吹き出し、耐え切れなくなった誰かが床に倒れた。

 

 そして、船内のあちこちから通信越しに悲鳴が流れ出す。

 

 

『な、なんだテメェら!?どこからここに……う、うわぁぁぁぁぁ!?』

『や、やめて……近づかないで……いやぁぁぁぁぁぁ!?』

『わぁぁぁぁぁ!?敵に侵入されてる!!キャプテン、誰か、助け――』

『あ、あぁぁ……船内の重要箇所に、敵が、侵にゅ――――ぁ』

 

 

 ネモ・シリーズの助けを乞う声と、ダ・ヴィンチの絶望しきった声を最後に通信が途切れる。

 

 誰も、何も言えなかった。

 

 何もできなかった。

 

 

「――さてと、カルデアの皆々様」

 

 

 片手を胸に当て、片手でマントを翻し、わざとらしく礼をした。

 

 それは彼にとっての勝利宣言であった。

 

 それは彼等にとっての敗北の証であった。

 

 それは人類の未来において――完全敗北の結末であった。

 

 

「――――ブリテンへようこそ」

この作品の設定を使った別の小説をぼんやり考えてます。なんか面白そうだと思ったものがあれば、一票どうぞ。

  • 転送事故でオラリオへ(ダンまち)
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  • 原作6章、カルデア殲滅ルート
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