5万課金して全員お出迎えしたぜ(白目)
まだ手付かずなのでこれから取り組みます!更新はまたしばらく無いでしょうね!!
ごめんね!!!!
「さぁて、挨拶も済んだところでここからが本題だ……カルデアの最高責任者を出してもらおうか」
魔力迸る双眼がブリッジをぐるりと見回す。カルデアの必至の抵抗を挨拶程度にしか認識していない目の前の生命体に言葉も出ない人間達を観察し、その中で立ち上がる一人の人間に気がついた。
「……わわ、わ、私だ……こ、このノウム・カルデアの最高司令官は私だ……ななっ、なま、名前はゴルドルフ・ムジーク……です……」
「――――ほう?」
「ヒッ」
ガタガタ震えながら前に出たふくよかな男に目を向ければ、小さく悲鳴をあげて青ざめた。
この男に意識を向けて、ゆっくりと歩み寄ったコバヤシの進路は、この男を庇うように横から入り込んだ影に遮られる。
コートを着た紳士然とした男性に、魔術礼装を着込んだ人間と強化外骨格を装備した少女。
口角を釣り上げたコバヤシは、彼らの間合いギリギリで足を止めた。
「初めまして、ゴルドルフ・ムジーク。我が名はコバヤシ。魔王コバヤシ。このブリテン異聞帯にて、女王モルガンと共にこの地を治めている。
――故に問おうか。お前達はこの地に何をしにやってきた。返答次第ではこの場で死んでもらう」
威圧的、高圧的な切り口で始まったファースト・コンタクト。既に複数の異聞帯を切除しているカルデア側は、あからさまに殺害を仄めかしてきた相手側が、自分達がどういう存在かを理解している事に慄いた。
ガチガチと歯を鳴らしている所長を見かねてマシュが代わりに話そうとするが、ホームズが目線と手ぶりでそれを制した。
彼が名前を呼んだのはゴルドルフのみで、側を固めている自分達に興味を向けてはいない。魔王自ら交渉役と認めたのは彼1人だけなのだ。
カルデアのトップを問いただしに来た目的は、カルデアの意向を最初にハッキリさせておく為だ。彼の立場が本当かどうかは今のカルデアには判断材料が無いのだが、単独でここまでやってきた実力が説得力を持たせている。
「ご、誤解しないで欲しいのだが、わ、我々は貴殿らと争う気は、な、無いのだ……」
「…………」
「た、確かにこの国への入国方法は多少……いや、かなり強引な手段を用いた自覚はあるが……だ、だがね!あんな次元を隔てる虹色の壁を突破できる方法は限られているのだよ!
貴殿は知らぬだろうが、我々は今や孤立無援の状態で――」
「お前らの苦労話なんぞ、どうでもいい」
「アッ……ハイ……」
堰を切るように話し出したゴルドルフの言葉を遮り、ひと睨みで勢いを殺す。コバヤシが聞きたい内容は、そうではないのだ。
不安げなクルー達の視線を受けて、咳払いをしつつ話を元に戻す。
「……ゴホン。此度の来訪の目的は二つある。一つはこの異聞帯から広がっている崩落の原因を突き止め、それを食い止める事。
もう一つは貴殿らとの交渉だ」
「交渉か」
「そうだ。先程、我々に向けて放たれた砲撃……聖槍ロンゴミニアドの譲渡か、それの解析図が欲しいのだよ」
「ふぅん、成程ねぇ……」
コバヤシは自分の顎に手を当て、品定めをするようにカルデアの所長を眺める。
血の気が引いた様子で小刻みに揺れ、今にも倒れそうな様子ながらも退く気は見られない。
話す価値はありそうだと認め、手を鳴らしたあとに両手を広げた。歓迎する、という意味のジェスチャーだ。
「いやはや、話せるような奴で助かった。なにせこちらもトラブルをいくつも抱え込んでいてなぁ。あまり手間取らせるようなら、実力行使も考えたが……その必要は無さそうだ」
「は、ははは……助かったのは我々の命なのでは……?」
「賢いねぇ、ちゃんと分かってるようでなによりだ」
飛行船に空から侵入するのは実力行使には入らないのだろうか、という疑問をゴルドルフは封殺した。余計な一言で皮一枚で繋がった自分達の首を飛ばしたくはない。
緊張感が少しだけ和らいだところで、ブリッジの扉の一つが開く。
「――ダ・ヴィンチちゃん!マリーンさん達も!」
妖精騎士に囲まれて、ストーム・ボーダーのあちこちに配置されていたネモ・シリーズとダヴィンチが腕を拘束された状態で連れ込まれる。思わず駆け寄ったマシュを妖精騎士が阻もうとするが、それをコバヤシが手を振って止めた。
「やあ、マシュ。とりあえずはお互い、怪我が無くて良かった。……不甲斐ない結果に終わってしまって、本当にごめん」
「そんな、ダ・ヴィンチちゃんが謝る必要なんてありませんっ……!」
「そう言って貰えると、少し気が楽になるよ……。それとキャプテン。クルーの安全を考慮して、私の独断でマリーン達には即時降伏するように指示を出した。越権行為になっちゃったけど……いいよね?」
「……うん。この状況だと他に選択肢も無かったからね、構わないよ」
暗い面持ちで話すダ・ヴィンチとネモを見て、同じく暗い顔になるカルデアのクルー達。全員が無事だったのは喜ばしいことだが、結果としてカルデアは異聞帯の王の手中に落ちたも同然の状態になってしまった。
自分の思い通りに事が進み、沈んだ空気の中で一人だけ心の中でほくそ笑む異聞帯の魔王は、一仕事を締めくくる。
「改めて歓迎しよう、汎人類史の生き残り達よ。まずはこのブリテン異聞帯の情報について教えてやろう。成り立ちから今に至るまで、嫌になるまで知ってもらうぞ。なに、崩落までには時間がある。それまでには終わるだろうよ」
――――――――
カルデアの連中を捕まえてから一週間が経過した。一度、完全に囲ってしまえば奴らの抵抗など可愛いもので、せいぜい食堂を自由に使える時間を確保してほしいとかそんなんだけだ。
……バーゲストとメイドの連中が、あの小太りな司令官の料理に興味津々だったのが予想外だったがな。極限状態だった割には調理場の機材は良い物を使っていた。飯についてのこだわりはあるらしい。しょうがないので自炊くらいは許してやった。
調理のためにサーヴァントを数人呼び出したいとの要望もあったが、聞くまでもなく却下。過去のデータログを漁ったが、調理やってたサーヴァントも普通に戦える奴ばかりだったからな。そもそも呼び出せるとも思えないが……。
カルデアとの交渉もすぐに済んだ。異聞帯崩落の原因はこちらで対処するし、ロンゴミニアドのデータはカルデアの持つ全データと引き換えにくれてやった。虚数潜航に英霊召喚システム、使い道はすぐには思いつかないが持っていて損はないだろう。
「しかしまあ、こんなごつい大砲を盾に仕込んでおくとは……ちょいと驚いた」
「ギリシャ異聞帯の神を葬ったのは、このブラックバレルという特殊な装備のおかげのようですね」
目の前でモルガンが解析を進めている巨大な大砲は、オルテナウスとかいう強化装備に隠されていた。
「てっきりサーヴァントの力で討ち滅ぼしたのかと思ってたが、これまたえげつない武器を造り出したモンだ……」
「……貴方の目から見ても、ブラックバレルは異質に映りますか」
「そりゃあなぁ……。端的に言えば、只人のままで上位存在をぶち殺せる大砲だからな。寿命に対するダイレクトアタックなんて常識破りもいいとこだ。条件さえ揃えられれば俺でも死ぬかもな」
「なるほど。すぐにカルデアを処刑しましょう」
「せんでいいわ。言っただろう、条件さえ揃えばって。こんなのに黙って撃たれる俺じゃねえよ」
「…………」
片手間で解析しながら、モルガンは頭をぐりぐり押し付けてきた。なんか急にかまってちゃんになってないかコイツ。
「たしか、直接撃ち込んで神を三体倒してるんだったか。…………なんで人の形を保ってられるんだあの二人」
「藤丸立香とマシュ・キリエライトでしたね。……人の形、とは?」
「お前にも分かるだろう。この大砲の弾丸は魔力だけでは賄えない」
「……ええ。ただ魔力を弾にして撃つだけならば、己よりも膨大な魔力量を持つ相手には通用しない」
「そうだ。だからカテゴリ違いのあらゆる力をごちゃまぜにして、特殊な弾丸にして撃ち出している。しかも、ただの人間のままで、だ」
「……」
「奴らの戦果は本来ならば絶対にありえない、上位存在に対しての下剋上だ。神に真正面から打ち勝った人間。それを偉業と呼ぶか大罪と呼ぶかは人によるんだろうが……どのみち、そんな事をやり遂げた奴が単なる魔術師とデミ・サーヴァントのままなんて俺には信じられん」
「レベルアップによる人間としての器の昇華。貴方のように人間でありながら妖精をも圧倒する力を手に入れていないのがおかしい、と?」
「もしくは、既に何らかの力を手に入れていているが気づいていないか……まあ、ここでおとなしくしているならどうだっていいがな」
ただの人間のままでここまで戦い抜いてきたカルデアのマスターに僅かばかりの敬意と同情心を抱きつつ、手元の資料に目を落とす。
「設計上、ただのでかい魔力砲としても使えるみたいだな。モルガン、それ複製しておいてくれ」
「それは構いませんが、オリジナルは必要ないのですか?」
「ないね。そいつは逆立ちしても手の届かない相手を撃ち落とす為の武器だ。俺達はまあ……頑張れば大抵の相手に手が届くからな」
「それは神相手でも、ですか?」
「……できればやりあいたくはないがな。覚悟を決めれば殴り合いはできる」
「それは頼もしい」
誇らしげにしているモルガンに苦笑したのち、端末をいじってモニターに食堂の映像を表示させる。椅子に座っている俺の後ろから、モルガンが両手を回して寄りかかってきた。
「カルデアへの情報開示はもうすぐ終わりますね」
「そのようだ」
「今更ですが、アルトリアに任せてよかったのですか?その役目、我が娘に任せてくれても構いませんでしたのに」
「アイツ一番ヒマそうだったからな」
「……くっ、ふふ……そうですか……日々無意味に時を過ごす穀潰しであるなら仕方ありませんね」
「そこまで言っとらんわい」
汎人類史でのコンプレックスが無くなったかと思ったらこれよ。この前、アルトリアから年増呼ばわりされたの根に持ってるのかねぇ……。
――――――――
「え、ええと、これでブリテン異聞帯についての勉強会は終わりです。……あのー、大丈夫?生きてます?」
アルトリア・キャスターの呼びかけに答えられる者はいなかった。体は生きていても心は死んでいる、そんな状態だ。
無理もない。ブリテン異聞帯が発生した理由が始祖の妖精のサボタージュだという信じられない情報開示から始まり、祭神ケルヌンノスの毒殺、妖精の遺体で広がったブリテン島の大地、楽園の巫女バラバラ事件、救世主トネリコの歩み、女王歴の始まり、魔王来訪、聖剣の製造……どれか一つだけでも胸やけが起きる出来事を、一週間で詰め込まれたのだ。無事な者などいない。あのホームズでさえ、眉間を抑えて唸っている。
「…………あの、私達よりもアルトリアさんは平気だったのでしょうか……。聞いているのも辛い、壮絶な体験談を口にしていらっしゃいましたが……?」
「え?ああ、はい。もう終わった事ですから、特には」
「……そ、そうですか……」
苦悶の表情を浮かべたマシュがアルトリアを気遣うが、本人はてんで堪えていなかった。彼女が『ほんと困っちゃいますよねー、えへへー』みたいな軽いノリで口にした予言の子虐待事件の詳細は、善性ばかりのカルデアメンバーの胃をズタボロにした。スタッフの中には当時のアルトリアの惨状を想像してしまい、トイレに駆け込んで吐いた者もいる。
「皆さん、今日まで本当にお疲れ様でした。こっちのゴタゴタが終わるまではストーム・ボーダー内で拘束したままにはなりますが、ブリテン島に降りなければ殆ど自由行動みたいなものなので、なにか要望があれば見張りの妖精騎士の誰かに言ってみてください」
「……う、うむ……何かあれば頼らせてもらおう……」
それでは、とぺこりと頭を下げて退室したアルトリア。心が疲労困憊のカルデアメンバーは、思い思いに姿勢を崩した。
「やれやれ、仮にも敵対した相手だというのにこうも親切にされちゃ、かえってやりにくいよ」
「まったくだ……だが、ボヤいても始まらん。経営顧問、今まで教えられた情報が嘘だという可能性はあるかね?」
「まず無いでしょう。単独で我々の全戦力を圧倒しておきながら、わざわざ偽情報を掴ませる為だけに拘束する意味は無い」
「……つまり、ぺぺさんからの忠告は本当で、あの人はペペさんとの約束を守っているだけ、ですか」
「先輩……」
クリプターの生き残り、スカンジナビア・ペペロンチーノ。彼が妖精國にいるという事実はカルデアに衝撃を与え、彼からの忠告はカルデアの反抗を封じる一手となった。
「驚いたねぇ。異聞帯でカリスマデザイナーなんてやってた上に、私たちに『絶対に動かないで』ときたもんだ。彼に対しては一定の信頼はあるけれど……」
「動きたくても動けない現状では、それを守るしかありませんね……」
「…………というか、こうやって話し合ってるのも、あの人間爆撃機に聞かれてるんじゃないの?平気なのかね?」
「妖精騎士の話では、監視、盗聴はしていても余程の内容ではない限りはこちらには干渉してこないそうですよ」
「それ聞かれてるってコトでしょ!?情報収集したなら私達にも共有しなさいよ!」
「申し訳ない」
悠々とパイプをふかす名探偵はどこか疲れているようにも見えた。
「あらあら、そうカッカなさらずともよいではありませんか。ここは一息入れて気を落ち着かせてはいかがです?」
「……うむう、一理あるな」
「そうでしょうともそうでしょうとも!お茶をお持ちしましたから、どうか英気を養ってくださいな♪」
「ほう、良い心遣いではないか。どれ一杯……」
聞き覚えのある声を耳にして、顔を上げて絶句するカルデアの面々。そんな中、一人だけ我関せずと運ばれてきたお茶に舌鼓を打つゴルドルフに視線が集中する。
「ふぅ、疲れ切った精神に温かいお茶が染み渡るようだ……結構な腕前だよ、キミィ」
「……あの、所長?」
「まぁ、閣下直々に誉め言葉を贈られるとは感激です♪明日は大嵐でも吹き荒れそうですわね♪」
「ゴルドルフく~ん?」
「美味いものを美味いと言っただけだというのに、少々大げさではないかね?」
「おい、おっさん。現実逃避してる場合かよ」
「…………ええい、うるさいわ!!見なかったことにしたいだけだというのに!!」
「まあ。久々の再会だというのに、冷たいんじゃありませんこと?」
「だまらっしゃい!!大体、なぜ貴様がここにいるのだ、
彼が指をさした先にいたのは、カルデアの因縁深い宿敵であるタマモヴィッチ・コヤンスカヤ。ビジネススーツを剝ぎ取られ、給仕服に身を包んだ彼女は、「よよよ……」とワザとらしい噓泣きを始める。
「私がここで人間相手に無料奉仕などという反吐が出そうな活動をしている訳……それは聞くも涙、語るも涙の深い事情がございまして――」
『こいつら相手に適当な話を吹き込んだら、尻尾の代わりに別のナニカを突っ込むぞ』
「ひゅいいぃっ!?私が愚かにも魔王様の領地で火事場泥棒を働こうとした当然の報いですぅぅぅぅぅ!!!」
「こ、この声……」
「魔王コバヤシ……」
艦内放送から流れてきた声にコヤンスカヤは一瞬で震え上がり、尻尾があった部分を押さえて叫んだ。
「うううぅぅこんなはずじゃなかったのにィィィ!!こんな人間がいるなんて聞いてませんのにぃぃぃ!!あのちびっ子が追いかけてきたと思ったら瞬く間になぎ倒されて!!魔力やらお金やらオケラになるまで搾り取られて!!今までため込んだもの全部、ぜぇぇーーーんぶ奪われて!!ここで死ぬか低賃金重労働の奴隷生活の二択を迫られて生きる方を選んでやりましたよええ!!
しかも給料がイワシ!!
これはあんまりだと文句を言いに行ったら、吸血鬼の帝王とやらにイワシ講座を叩き込まれる始末!!カルデアの皆様が異聞帯に来たら、その隙に逃げ出そうと考えてたら速攻で捕まってやがってますし!!だらしないんですよあなた達!!」
「責任転嫁も甚だしいわ!?そもそもビーストを飼い慣らしている相手を、我々がどうこうできるか!!」
「……ひ、悲惨だ。敵とは言え、これは同情するよ……」
「一歩間違えば、私たちも彼女と同じ末路になっていましたね……」
「ペペさんに感謝しないとね……」
『そういえば我が夫。この前あの尻尾を売ってほしいという愛好家が大勢訪ねてきましたね』
「えっ」
『おう、オークションを開いて最安値で売り払ってやった(笑)』
『まあ酷い♪』
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!!ウ゛ァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」
「…………」
「わあ……ぁぁ……」
「…………かける言葉も無い」
哀れコヤンスカヤ。大事に育ててきた尻尾を二束三文で売られるという、商人として最もされたくない悪魔の所業をその身に受けた。キャリアウーマンの化けの皮を被る余裕もなく、ただひたすらに獣の本性剥き出しで泣き叫ぶその姿に、さしものカルデアメンバーも憐れみの感情を向けた。
――――――――
「……コヤンスカヤの件は一旦忘れよう。ここで確認しておきたい。我々は今後、どう動いていくべきか」
燃えカスになったコヤンスカヤが回収され、会議へと移るカルデア。ゴルドルフの出した議題にいち早く答えたのは、経営顧問たるシャーロック・ホームズであった。
「私は静観を選択します」
「つまり何もせず、この異聞帯の推移を見届ける、と?」
「その通りです。今回ばかりは、我々の手に余る案件です。無暗に首を突っ込むべきではないでしょう」
言うべき事は言い終えたとばかりに椅子に背を預け、再びパイプをふかし始めたホームズにダ・ヴィンチが口を挟んだ。
「らしくないじゃないか、名探偵。いつもは答えを出し渋るくせに、今日に限ってさっさと結論を出してしまうなんて、君にしては珍しい」
「出し渋るのではなく、証拠が揃っていないだけだよ、ダ・ヴィンチ。相手側に隠す意思がなく、むしろ見つけてくれとばかりに情報をバラまかれては探偵の出る幕などないのだよ」
「…………発言、よろしいでしょうか」
手を挙げて声を発したマシュ・キリエライトに視線が集中する。
「わ、私は……このまま黙って見ていたくはありません。ブリテン異聞帯の歴史から顧みても、妖精達の洗脳で平和が保たれているのは事実です。
……ですが、これは彼らによる国の私物化に他なりません。たとえ妖精たちが許されざる罪を背負っているのだとしても、ここまでしていい理由にはなりません……!」
「マシュ……」
彼女の言葉に心動かされた者が数人、目に力を入れる。同じような意見を持っていたのだろう。彼女のマスター、藤丸立香も拳を握り、ダ・ヴィンチは「気持ちは分かるよ」と苦笑した。
「う、うむ、キリエライトの熱意は十分伝わったが……どう思う、経営顧問?」
「……そうですね」
ただ一人、共有された情報からコバヤシのブリテン救済の企みに気付いたホームズは、淡々と語りだす。
「ミス・キリエライト。君は魔王一派が妖精を洗脳して国を治めているのに憤慨している。そうだね?」
「は、はい、ミスター・ホームズ。こんなやり方は、あまりにも……!」
「――では、洗脳が国を救う過程でしかないとしたら、どうかな?」
「……あ、え……?過程……?」
「……どういう事?」
「初歩的な事……ですらないな、これは。彼らが開示した情報の中のいくつかを組み合わせれば、おのずと答えは導かれるでしょう」
「ええい、勿体ぶっとらんで説明しなさいよ!」
「では、僭越ながら」
紙とペンを取り出して、推理の過程を書き出していく。
「注目すべき情報の一つは、“善性の妖精は数は少なくとも自然に生み出される”。しかし、そういった妖精は排斥されてしまう傾向にある。そうだね?」
「……はい」
「それを踏まえた上で、大多数の妖精の洗脳という事象を見てみると、別の側面に気付くことができる」
「別の……?それは、どういう……」
「――
「あ……!」
「そして二つ目。円卓軍の活動場所であるロンディニウムでは、人間と妖精が共に生活できているという点。この場所では女王の洗脳が行われておらず、ほぼ野放しの状態だ。言い換えれば、彼らの介入が無くとも共生に不都合がないということ」
「そうだね……」
「最後に注目すべきは、妖精についての生態だ。感情は周囲の環境に影響されやすい。祭神ケルヌンノスの呪いで100年の周期で死んでしまうが、もし呪いを祓えると仮定したならば、神秘が尽きない限り存在し続ける妖精にとって、その寿命は膨大なものとなる」
「…………」
「……ま、まさか……」
答えを察した誰かが思わず声を出した。
「――そう、魔王コバヤシはロンディニウムを拠点として善性を持つ妖精の個体数を増やし続け、最終的には洗脳を必要としない国家の運営を狙っているのでしょう」
『(せいかーい。頭が切れる奴が一人いると、話を進めやすくて良いねぇ)』
心の中で賛辞を贈ったコバヤシは、上機嫌に指を鳴らした。
一方でホームズ以外のカルデアメンバーは、黙りこくったままで言葉の意味をゆっくりと理解していく。
つまり、善性を持つ妖精をロンディニウムに住まわせ、悪性を持つ妖精は少しずつロンディニウムに送り、周囲の環境を利用して悪性を善性へ上書きしようというのだ。
そうして少しずつ善性持ちの妖精の数を増やしていき、簡単に排斥できないようにする。そしてブリテンが善性持ちの妖精で溢れたら折を見て、洗脳を解除して普通の暮らしをさせるつもりなのだ。
「……む、無茶苦茶だ!簡単に増やすというが、一つの国にいったい何百万人の妖精が住んでいると思っているのだ!?し、しかも少しずつって……10年や20年で終わる問題ではないぞ!?下手すれば100年……いいや、もっと長い時間がかかってしまうだろう!」
「そうですね、魔王コバヤシの寿命については我々も知り得ません。ですが所長、この方法は一度土台を整えてしまえば、例え彼でなくても進められる改革なのですよ」
「……た、確かにそうだが……」
勢いよく立ち上がったゴルドルフは、続くホームズの答弁を聞いて大人しく座り直した。コバヤシが何らかの原因で統治を離れたとしても、モルガンか他の妖精が王の座にいるならば、この計画に支障はない。
数百年、数千年、或いは数万年。この計画は、この妖精国に腰を据えて最後まで取り組もうという彼の覚悟の表れでもあった。
「そして、彼らがこの情報をすんなり明け渡したのは、我々に対する問いかけだという理由もあった」
「……問いかけ、とは?」
「方法は強引ではあるが、彼らはこの國をより良い方向へ導こうとしている。
「――――」
芽生えつつあった義憤の感情に冷や水が浴びせられ、悪辣な魔王の心理トラップがカルデアメンバーの心を締め付ける。
「彼らの野望が成就したならば、このブリテン異聞帯は汎人類史から切り離された全く別の世界の一部となる。ならば我々が剪定する理由も無くなる。それでも彼らの統治に口出ししたのなら、彼らはこう返すでしょう。『だったら、これよりも優れたプランを提出しろ』とね」
「そ、それは……」
「……っ……」
「……ま、向こうからすれば当然の話だね。私たちが想像し得ないずっと先まで見据えた改善案を、ただの感情論で引っ搔き回されたら堪らないだろうし」
ホームズの台詞に返す言葉を持たないマシュと藤丸。ダ・ヴィンチも異聞帯側の主張は筋が通っていると判断したようだ。
簡潔に纏めれば、こちらのプランを否定するなら否定したお前たちが最後まで面倒を見ろ、といったところだろう。
どちらかが滅びるまで戦う理由が無い以上、別世界になる予定の世界の方針に口出しするのは、カルデア側の無責任なエゴの押し付けでしかない。
そしてカルデアがブリテン異聞帯の面倒を見る事は、どう足掻いても不可能であった。
「我々はここで終わる訳にはいかない。彼らの不興を買ってカルデアそのものが消滅してしまっては本末転倒だ」
「……ホームズ、さん」
「ぐ、ぬぬ……初めから蚊帳の外に置かれたままとは……いや、被害らしい被害を出さずに脅威が一つ消えるのだから、司令官としては歓迎すべきなのだが……煮え切らんなぁ……」
「時には諦めも肝心ですよ、所長。……残念ながら、異聞帯に突入した時点で我々の負けだったのですよ」
そう締めくくり、カルデアの経営顧問は食堂から去っていく。
後に残された彼らや彼女らに残されたのは、空虚な無力感と敗北感だけなのだった。
・藤丸立香
皆さんご存知のカルデアのマスター。今作では男。どれだけサーヴァントに好かれていても、運命力が強くても、凡人では王の代わりは務まらない。妖精達に反省を促し、ブリテン島を立て直す。そんな都合の良い代替案など、一般人の彼には到底考えつかないものだった。
隔離されたことにより、人に好かれるという彼の長所が完全に封じ込められてしまった。実はアルトリアもちょっとだけ絆されてたりする。だからといって藤丸の味方には絶対にならないのだが。
・マシュ・キリエライト
妖精の自由意思を奪う統治に怒りを覚えていたのだが、より良い今後を考えた末の洗脳行為と知って怒りのぶつけ所を失う。それ、はじまりのろくにんにでも叩きつけておけばいいと思いますよ。
知識欲はあるのだが、妖精の負債があまりに大きすぎるせいで代わりの改革案は出なかった模様。普通は無理だわこんなもん。
・ゴルドルフ・ムジーク
カルデアのパパ……もとい司令官。ビビりながらも交渉し、食堂の使用と自炊の許可をもぎ取ったのはこの人。プレッシャーで5キロ痩せてドカ食いで8キロ太った。
・シャーロック・ホームズ
情報を惜しげもなく晒すコバヤシの意図を正しく見抜いており、そのせいでカルデアに対する便利な説明役をコバヤシに押し付けられて若干不貞腐れている。
「お前らに情報を渡すのはこんな理由だから。俺の代わりに説明しておいてね」
「…………」
あの男は探偵をなんだと思っているのか小一時間問い詰めたい。
・タマモヴィッチ・コヤンスカヤ
ミニ魔界でプリニー生活を送る元ビースト。会社も財産も強奪され、眷属となるはずだった生き物は尻尾ごと引き千切られて叩き売りに出された。村正との扱いの差に血涙を流す日々。
事情を知ったムリアンが何とか彼女を買い取ろうと準備中。コヤンスカヤの明日はどっちだ?
・ブリテン救済案
頑張って考えました。妖精を幽閉するのではなく普通に働かせているのも、いつか普通の生活に戻すので無駄に浪費させないため。
この作品の設定を使った別の小説をぼんやり考えてます。なんか面白そうだと思ったものがあれば、一票どうぞ。
-
転送事故でオラリオへ(ダンまち)
-
転送事故でワノ国へ(ONE PIECE)
-
汎人類史モルガンを陰から守る会
-
ゲーティア絶許・グランドオーダー
-
原作6章、カルデア殲滅ルート