妖精魔界戦記ディス・アヴァロン   作:サンダーボルト

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今後の投稿予定。

今話でバーゲスト。

次回メリュジーヌ。

次々回アルトリア・キャスターの予定です。





妖精騎士が堕ちるまで(前編)

 どうも最近、バーゲストが俺を自分の領地に連れて行きたがっている。残してきた恋人に会いたいってのが半分、規律を守って人間達と暮らしている妖精を俺に見せたいのが半分の理由ってとこか。

 バーゲストのいう弱肉強食ってのは俺も理解はできる。レベルが高ければ高いほど良い経験値になるし、弱い奴なんか延々と狩ってもしょうがないからな。

 

 って話したら、「そういう話ではありませんわ……」とむくれてしまった。何か間違っていただろうか?

 

 ま~こいつらがここに来てからそこそこ時間も経ったし、ぶっちゃけ行きたくもないが好意を受け取らないのも持ち主として気が引ける。俺はバーゲストに付き添い、こいつの領地マンチェスターに行くのを決めた。

 

 

 

 

 マンチェスターに着くまでの僅かな旅路の中で、バーゲストは自分の話を俺に聞かせた。

 

 自分より強い、愛したものを食らい続ける中で出会ったアドニスという弱い人間。弱いから守る対象であるアドニスは、自分の捕食衝動に引っ掛からないと嬉しそうに語っていた。特殊性癖過ぎて俺は引いたがな。アドニスは相当、懐の深い人間だったに違いない。

 

 マンチェスターはそんな自分がルールを敷いて、暴力の無い街にしたのだという。妖精が人間を隣人として扱う街。どこか誇らしげに語るバーゲストだが、俺が顔を顰めているのに気付いたらしい。

 

 

「どうしてお前は妖精の在り方を理解していて、そんな街作ったんだ?」

 

 

 そう問いかけても、バーゲストは困惑して答えを返さない。こいつは分かってないんだ。

 

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 バーゲストみたいなのは例外中の例外。衝動を理性で抑え込めるのなら問題ないが、大半の妖精はそれが出来ないって事に考えついてない。

 

 マンチェスターが見えるくらいに近づいてきて、最初は表情の明るいバーゲストだったが、徐々に怪訝、険しくなっていって最後は思いっきり走り出した。

 

 領地の異変を察知したんだろう。住んでる連中からすれば、別に異変でもなんでもないんだろうけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………なに、これ?」

 

 

 呆然と呟くバーゲスト。広間にあるのは大勢の人間の死体。綺麗な街だったろうマンチェスターは鮮やかな赤色に飾られていた。

 

 ああ、趣味の悪い見世物だ。だから嫌だったんだ、こんなとこ来るの。今更人間の死体見て吐くようなメンタルしちゃいないが、好き好んで見たいとも思わねえ。

 

 

「胸を一突き。その後もひい、ふう、みい……こりゃそうとう嬲られたな。ああ、嫌だ嫌だ」

 

 

 近くに転がっている人間の死体を観察するに、完全に遊び目的で殺されたのは明らかだ。一発で死んだのなら寧ろ幸福だろうが、急所を突かれた死体は少ない。

 

 どこを刺したら死ぬのか学習したんだろうよ。殺すのだけが目的なら、何十ヵ所も刺す必要はない。

 

 

「……どうして。一体、誰が、こんな惨い……!!」

 

「そんなの、マンチェスターの住人に決まってんだろ。そこの納屋からも酷い臭いが漂ってるぜ」

 

「……っ!!!」

 

 

 バーゲストが俺の指差した納屋の扉を、ぶっ壊しかねない勢いで開けた。腐臭が更に強くなる。バーゲストは口元を押さえて後退った。

 

 山のように積み重なる、腐りかけて蠅のたかる人間の死骸の山。外の連中が殺されるずっと前に殺されたんだろう。

 

 哀れなバーゲストは目の前の光景が信じられないようだった。この虐殺のきっかけはバーゲストが魔界へ消えた事だろうが、その前からここの妖精は裏で人間どもを殺して遊んでたんだろう。納屋に残った血肉のこびりついた檻がそれを物語ってる。

 

 

「コバ、ヤシ、違うんです……。私、私は……こんな事、望んでは――」

「分かってるよ。お前は本気で人間と共生を目指してた。()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 モルガンといいバーゲストといい、統治しようとしてる割にやり方が手緩いんだよな。あの妖精達にこんなルール定めて本気で守ると思ってたんだろうか?

 

 自分のしてる事が良い事か悪い事か考えない。自分のやった事が良い方向に向かうのか悪い方向に向かうのかすら理解しない。狭い自分の世界で自分の楽しい事を優先する連中がこの世界の妖精どもだ。

 

 自らが起こした行動がどんな未来へ繋がるのか、それを考えないような奴等をどう信用しろというんだ?

 

 世界を回す歯車にすらならない害悪だ。こいつらに比べたらプリニーの方がまだマシだ。

 

 

「此の分じゃ、お前の恋人もどうなってるか分からんな」

「……そうだ、アドニス……。せめてアドニスだけでも……」

 

 

 失意のどん底にいたバーゲストの目に僅かな光が戻る。どうやらバーゲストの屋敷は妖精には荒らされていないようだ。

 

 

「流石に、私の屋敷までは踏み込まれていないようですね……良かった……」

 

 

 安心した様子を見せるバーゲストだが、俺には別の疑問が残っている。

 

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「魔王コバヤシ……不躾な願いで申し訳ないのですが、貴方の魔界にアドニスを連れて行ってもよろしいでしょうか?もうここに置いていく事はできませんし、彼も転生すれば丈夫な体を手に入れられますよね?」

「あ?それはまあ……構わないけど」

「ありがとうございます……!彼の部屋はこっちです。早く連れていってあげないと……!」

 

 

 焦った様子のバーゲストに特に考えずに返事してしまったが……まあ、気が利くこいつの事だし備え付けの食い物とか水くらいあるんだろう。

 

 屋敷の奥、庭に花が植えてある部屋にたどり着いたバーゲストは扉を開ける。

 

 そこは――

 

 

「――――え?」

 

 

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「……」

 

 

 流石にこれは予想外だ。

 

 部屋を見渡してみても、荒らされた様子も争った形跡もない。

 

 ……穏やかな日常の中、忽然と消えてしまったように。

 

 どこまでも救われない女だ、バーゲスト。お前、とっくの昔に食っちまってたんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ――あ、あ――」

 

 

 目の前の非情な現実が私の脳裏を犯していく。偽りの幸福が消え、真の記憶が戻ってくる。

 

 

 どんなに泣いていても、どんなに情けなくても。いつも優しく慰めて、話を聞いてくれたベッドの上の少年。

 

 

 彼は違うと信じていた。自分は強い者だけを食べる。弱い彼は守るべき存在だからきっと大丈夫。

 

 

 ベッドの上から動けない彼の為に、窓から見える場所に花を植えた。あらん限りの愛を彼へ注いだ。

 

 

「あ――あああぁぁ――」

 

 

 楽しい円卓の騎士の話をした。その在り方に憧れて、自分もそうなりたいと願っていた。

 

 騎士になりたい。弱きを守る、物語の中の勇ましい彼等のようになりたかった。

 

 愛する者を食べてしまう自分を変えたかったんだ。

 

 

 

 

 …………でも

 

 

「あ――ああああああああああああああああああああああ!」

 

 

 すべては無駄だった。

 

 私が定めた秩序など守られていなかった。ただ私の目に見える場所だけ綺麗なだけだった。

 

 弱いアドニスを食べた。守りたかった筈のアドニスを、自分で、食べた。

 

 

 私は。

 

 

 わたし、は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 酷く取り乱したバーゲストが部屋を飛び出し、花が植えてある庭の前で蹲って泣きじゃくっている。ここからだと部屋の窓からベッドまでしっかり見えるな。その逆も然りか。そのアドニスとやらに向けた愛は間違いなく本物のようだ。

 

 だがそれは、部屋の中が外から丸見えだという訳で……だから何だと言う気も無いが。

 

 原因までは分からないが、バーゲストから自分がアドニスを食った記憶が消えていた。いや、生きてるような話をしてたから、幻でも見ていたと言うべきか……。

 

 

「魔王、コバヤシ。私に、慈悲を下さい」

「あぁ?」

 

 

 泣いているバーゲストが剣を置き、俺に対して首を垂れた。

 

 

「私は、ただの獣でしかなかった。愛しいものを食べたいだけの、卑しい獣でしかなかった

 私は、死のうとした。でも、どういう訳かできなかった

 ………どうか、貴方の手で終わらせてほしい」

「甘えるな、バーゲスト」

 

 

 地面の剣を蹴り飛ばし、地を見るままの顔を上げさせる。

 

 酷い顔だ。絶望しきった、終わったような顔だ。

 

 

「お前は俺の物だって言っただろうが。俺が許してないのに、勝手に死ぬような選択するな」

「……そん、な」

「そもそもお前に自分から死ぬなんて選択権無いんだよ。他者を食らって自分の糧にしたんなら、何があろうが生き続けるのが食った強者の責任だろうが」

 

 

 自決なんてのは責任を取る行為じゃない。責任からの逃避だ。自分の為に他の命を食い物にしたならば、しぶとく生き続けろ。

 

 魔界では命の価値なんてずっと安い。でもその理由は、この考えが悪魔全体に染みついているからではないかと俺は思う。

 

 だから魔界でも、自分の為に破壊や殺戮を楽しむ悪魔は疎まれる。踏みにじった者の責任を自覚しない無責任な野郎には、死の制裁が待っている。

 

 

「バーゲスト。どんなに苦しくたって生きるしかねえんだ。食ったのが強者だろうと弱者だろうと。愛した者なら尚更だ。俺達は生き続けるしか道は無いんだ」

「――――――」

 

 

 バーゲストが俺の話を完全には飲み込めなくとも、俺にはこいつを立ち上がらせる必要がある。

 

 偶然とはいえ、こいつを拾ったのなら面倒は見なくちゃならん。捨てるなんてもってのほかだ。

 

 

「――ァ、ア――」

「おい、バーゲスト。聞いてるのか……バーゲスト?」

「――アアアアアアアアァァァァァ!!!!!」

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 ――妖精騎士バーゲスト。

 

 

 その身に宿る呪いは全てを食らいつくす黒い厄災。

 

 

 魔界で転生し、騎士として強く生まれ変わった彼女は、内なる衝動を十分抑えこめていた。

 

 

 だが、守っていたものを全て失ってしまった彼女は、騎士としての自分を見失ってしまう。

 

 

 卑しい獣でしかなかった自分。醜い妖精の本性。全てを目の当たりにして正気を失い、絶望から破壊衝動を抑えるのを止めてしまった。

 

 

 “この地に生きる妖精を皆殺しに。”

 

 

 黒い厄災が彼女の体から膨れ上がるように出現する。

 

 

 妖精國の全てを殺し尽くす為に。

 

 

 獲物を求めて獣の姿を現した黒い厄災は、バーゲストの体から――

 

 

 

 

「おい」

 

 

 

 

 ――飛び出す事は叶わなかった。

 

 

 黒い厄災、何するものぞ――

 

 

 世界を壊し、神すら殺す。

 

 

 魔王の座まで成り上がった人間が、それが解き放たれるのを許さない。

 

 

 恨み妬みを押し潰す”圧”をかけ、むき出しの牙を素手で掴む。

 

 

 ――逆らえない。逆らってはいけない。

 

 

 食おうとすれば潰される――!!

 

 

 皮肉な事に獣となってしまった黒い厄災は、目の前の者がどういう存在か本能で理解してしまった。

 

 

「立場を勘違いしてんじゃねえ

 

 お前は所詮飼い犬で、バーゲストはお前の主だ

 

 そもそも、誰の目の前で出てこようとしてんだ、テメエ?」

 

 

 黒い厄災を押さえたまま、魔王は獣の瞳にギリギリまで顔を近づけた。

 

 

 自分の姿しか映さないように。

 

 

 自分の立場を骨の髄まで分からせるように。

 

 

 「自分がどういう物か分かったんなら引っ込んでろ。バーゲストに呼ばれるまで出て来るな

 

 ――――でないと、今まで食ったモン、全部吐くような目に遭わすぞ、この犬ッコロが」

 

 

 ――汗腺の無い体から、全ての水分が吐き出されるような錯覚に襲われた。

 

 

 血も凍る恐怖に身も呪いも萎んでいく。

 

 

 覚醒した黒い厄災は、逃げ帰るようにバーゲストの中へ戻っていった。

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

「帰るぞ、バーゲスト」

「……は、はは」

 

 

 最早、乾いた笑いしか出てこない。呪いを力づくでどうにかしてしまう人間なんているものか。

 いや、いるのだ。目の前にいるのだ

 食物連鎖の最上級の位にいるのではないか?誰だ?人間を弱いなんて言ったのは?

 

 あっ、私自身だった。

 

 

「コバヤシ……貴方は、私が卑しい獣に過ぎないと知っても、まだ……」

「腹に何飼ってようが関係ねーよ。お前もいい加減分かれよな」

 

 

 この魔王からは逃げられそうにない。自分が犯した罪からも……。

 

 心身ともに疲弊した状態では、己の欲求に抗う事も出来ない。

 

 私は私の感情に正直になり、彼に抱き着いて首筋に噛みついた。

 

 ……少ししょっぱい。そして血の味を僅かに感じるだけだった。

 

 

「……ぅ……グスッ……私に食べられない人……私が愛する人……」

「分かったから。お前の性癖は十分わかったから。離れろ」

「ご、ごめんなさい」

 

 

 離れた首筋に残った傷痕。愛おしくてたまらなくて、優しく舐める。

 

 

「…………おい?」

「ひうっ」

 

 

 僅かにドスを効かせた声に思わず飛びのく。……調子に乗り過ぎたかしら……?

 

 

「おら、とっとと帰るぞ。ホントろくでもない世界だ……」

「待ってください。領主として、最後の仕事をさせてもらえませんか?」

「……ああ、いいよ」

 

 

 郊外に出て、自分の街を見渡す。

 

 ……あの頃の、綺麗だった景観は見る影もない。少なくとも私はもう、この街を綺麗だとは思えなくなってしまった。

 

 

「……そういえば、ここに住んでいた妖精はどこに行ったのでしょうか……?」

「お前がいなくなったから出て行ったんじゃない?他の街にでもいるとか。何にせよ、もうお前が気にする事でもないだろ」

「まあ、そうですわね」

 

 

 流石に自分から出て行った妖精に対してまで気に掛ける必要はありませんね。

 

 ――覚悟を決め、魔力を炎として噴出した私の体は街の遥か上空まで飛んでいく。

 

 

「(ごめんなさい、マンチェスターの人間達。さようなら、アドニス)」

 

 

 心の中で謝罪と別れを済ませ、私の体はマンチェスターへと向かっていく。

 

 その身に暴力的な熱と力を宿しながら。

 

 

 「――飛天無双斬ッッッッ!!!!」

 

 

 大地を削り、街を焼く炎の轟音。

 

 私は、私の創った街にその幕を下ろした――

 

 

「――帰りましょうっ、コバヤシ。今夜の食事は私が腕を振るいますわっ!」

「お、おー……」




・妖精騎士バーゲスト

 肉 食 系 女 子 爆 誕。
 過去を吹っ切るのではなく、飲み込んで生きる事を決める。自分の持ち主に甘噛み(本人基準)しつつ、鍛え抜かれた女子力で嫁の座を狙い始める。開き直ったともいう。
 そして魔奥義”黒い災厄ブラックドッグ”を獲得。自分と同じステータスのブラッグドッグを呼び出して相手を襲わせる。
「だって、たまには何か食べさせてあげないと可哀想なんですもの…」


・魔王コバヤシ

 俺の知ってる飛天無双斬と違うんだけど…。


・ムリアン

 え?マンチェスターの住人がここに?でも妖精しかいない…あっ(察し)
 何だかトラブルの香りがするし、ソールズベリーに送っちゃえ☆


・オーロラ

 マンチェスターから妖精達が?まあ…きっと騎士の皮を被った卑しいケダモノの街にいるのが耐え切れなかったのね。
 分かりました、ソールズベリーは彼等を受け入れましょう。
 …どうしたの、コーラル?顔色が良くないわ?


・ウッドワス

 マンチェスターの難民を受け入れたとオーロラから連絡があったから来てみれば……町が丸ごと消し飛んでいるだと!?ブリテンに何が起きている!?!?
 何なのだ、これは!どうすればいいのだ!?

この作品の設定を使った別の小説をぼんやり考えてます。なんか面白そうだと思ったものがあれば、一票どうぞ。

  • 転送事故でオラリオへ(ダンまち)
  • 転送事故でワノ国へ(ONE PIECE)
  • 汎人類史モルガンを陰から守る会
  • ゲーティア絶許・グランドオーダー
  • 原作6章、カルデア殲滅ルート
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