「では、あとはよろしくお願いしますね。」
眠り香によってムーンフィッシュを昏睡させたミッドナイトがそう言った。
「ええ、あとは俺達に任せてください。」
ガベルがそう言ってミッドナイトを送り出す。ミッドナイトはその個性と奇抜な衣装からヒーローとして瞬く間に注目を集め、いろんなところから仕事の依頼が来る。
ムーンフィッシュを拘束し、二重構造になっている輸送車に入れる。
「眠り香を強めにかけてもらったが、効き目は数時間。ここからだとまずないとは思うが輸送途中に起きることがあるかもしれないから見張り役が必要だな。」
「じゃあ俺がムーンフィッシュと一緒にいるよ。俺ならムーンフィッシュの攻撃を自分の力に変えられる。」
ガベルがそう名乗りを上げ、バージルとランダーが周辺警護に当たる。
*
「四番目に出発する輸送車ですね、輸送中はガベルがずっと近くで警備しているみたいですので、少なくとも彼との戦闘は避けられなさそうです。」
「一度止まったタイミングでワープゲートをつないですぐにムーンフィッシュを回収する予定でしたがそう上手くは行かなさそうですね。なかなか厄介なようだ。」
「ムーンフィッシュが目を覚ましたタイミングで回収しに行ければ二対一にできますけど、確実性がないので私も強奪に参加します。数秒ガベルを食い止めるくらいであれば大丈夫でしょう。彼はヒーローですしね。」
ヒーローはその特性ゆえに枷が多い。ムーンフィッシュを強奪に来た犯罪者相手と言えども、殺しにかかってくることはありえない。
「時間稼ぎはあの方に手を回してもらっています。到着までに眠り香の効果時間外になることは間違いないのでそのタイミングを見計らえば大丈夫なのですが…」
AFOは佐々木が経路を教えた段階で、わずか数日でありながら、自身の駒を使って経路内で事故を起こさせる計画を立てた。
「ムーンフィッシュがこちらに抵抗しないとも言い切れない。」
「そうです。申し訳ありませんが、ご協力お願いします。」
「もちろんです。」
「では、未来の事故現場付近に行きましょう。」
*
「バージル、外の状況はどうなっているんだ。さっきから全く進んでないようだが。」
輸送車がほとんど進まなくなってから十分ほどたっただろうか、ムーンフィッシュの監視をしているガベルが様子を見に行ったバージルに通信を入れる。
「暴走車が玉突き事故を起こしたみたいだ。しかも運転手が恐怖のあまり増強の個性を暴走させたらしく、暴走に拍車がかかった。けが人も多い、俺は今から他の駆け付けたヒーローと事態の収拾を始める。ガベルとランダーは輸送任務を続行していてくれ。」
(今日はどうも様子が変だ。思えばこの大事故に会う前も少しばかりベースが遅れていたような気もする。大したことのない小競り合いにもよく出くわして些細な進路変更も多い。いつも以上に気を引き締める必要がありそうだな。)
「そうか、分かった。事態が収拾したら合流してくれ。俺たちは…」
そこまでガベルが言いかけたところでランダーが遮る。
「いや、待て、俺たちの任務はムーンフィッシュの輸送だ。戻ってこい。経路を変えてタルタロスに向かう。」
「!」
「いや、さっきも言ったがけが人も多いんだ。重傷者もいる。俺がいないことで救えない命があるかもしれないんだぞ。」
バージルの個性なら怪我人を救出することも入りにくい場所に入ることも可能だ。さらに言えば、一刻を争う重傷者ならば救急車よりも早く病院に連れていける。
「俺たちの仕事はムーンフィッシュの輸送だ。何度も言わせないでくれ。」
「なっ!らしくないぞランダー。いつもなら目の前の困った人を救うことがヒーローの本懐だと言っているじゃないか。」
苛立った様子で言うバージルをガベルが静止する。
「落ち着けよ、バージル、ランダーがここまで言うってことは何か懸念点があるんだろ。何が気になるんだ。」
「この事故に始まり、今日の輸送任務はそれ以外にも細かなアクシデントが多い。このペースならタルタロスに着く前に眠り香の効果は間違いなく切れるだろうし、何か杞憂で済まない何かが起こる気がする。」
「それは、不確定な懸念であって、確定している懸念ではないだろ。俺は助けに行くぜ。」
「おい、待て。勝手な行動をするな!」
「いや、かまわない。バージルには事態の収拾に向かってもらおう。大丈夫だ。俺たちは
「…分かった。二人で輸送仕事を続行する。緊急を要する人が終わったらすぐに合流しろ。」
「ありがとう。すぐに済ませる。」
*
「馬鹿ですね。三人のチームなのに別れちゃったら、力の半分も発揮できないでしょうに。」
「ここまであの方の読み通りですね。護衛が二人になったので、信号等、停止したタイミングでワープゲートを開きます。」
経路を変えた時の経路も佐々木の個性で読み取っている。黒霧の個性で先回りした二人がそう話していた。そう話しているうちに輸送車が目の前で信号待ちをし始める。
「さあ行きますか。」
黒霧のワープゲートを佐々木は通っていった。
*
「そっちの異常はないか?」
ガベルがランダーに連絡を取る。ガベルの場所からでは外の様子を伺うことはできない。
「今のところはな。だが、急に順調になりすぎてる気がする。」
「それは俺も感じた。俺達から足を奪うために事故を引き起こした可能性はあるな。」
「それだと、敵の本当の目的はムーンフィッシュの奪取か?いつ襲撃されてもおかしくないことになるぞ。もしくは、さらに俺たちを分断する策を用いてくるか。警戒は怠れないな。」
「ああ、周囲に怪しい人影がないか、よく気を配ってくれ。」
そう言って通信を切る。言いようのない不安に襲われて独り言をつぶやく。
「ここまで周到なことをしてくるなんて、厄介な仕事になりそう…」
「厄介な仕事じゃなくて、失敗する仕事です。」
その言葉と共にガベルの頭上に黒い靄が広がり、脳天に踵が振り下ろされる。
「なッ!」
何とか両腕で受け切ると、足を掴み強引に投げ飛ばした。輸送車の側面にたたきつけられた不意打ちを仕掛けた犯人は、十五、六の学生にしか見えない。
「よく防げましたね。さて、あなたはちゃんと
「いやな予感ほどよく当たる…!」
冷汗が流れる。今の一撃を防いだと目の前の少年は言ったが、実際には通信機をきっちりと破壊していた。車の壁にあてた音がランダーに届いていれば加勢に来てくれるだろうが、急に現れたことから、目の前の少年がワープをできることは想定しなければならない。そんな奴から数十秒間ムーンフィッシュを守るのは至難の業だ。
「あまり目立つのもよくありません。標的を回収し、すぐさま撤退します。姿を見られたこのヒーローを殺した後に、ですが。」
黒い靄から今度は黒い靄をまとった男が現れた。
ヒーローはかっこよく書きたい。というより書かなければならないと思うのです。ヒロアカの二次創作であるならば。でもうまくできないのがもどかしいです。