「ムーンフィッシュの回収、ご苦労だったね。これで君との約束の一つ目は果たしたことになるんだけど、まずは僕とムーンフィッシュで話がしたいんだ。このままだとすぐ暴れそうだしね。」
「いえ、洗脳でもなんでもしてもらって構いませんがそうであれば最初に僕と一対一で話をさせてもらいます。」
「佐々木過渡、それは危険ではありませんか。目を覚ましてすぐに攻撃されてもおかしくないです。」
今されている口元の部分の拘束などは気休めに過ぎない。それで死ぬようなことはないだろうが、大けがをする可能性はある。
「構いません。変わってしまった後のムーンフィッシュに意味はないんです。」
「分かった。そう言うのならば君の好きにすると良い。」
*
「誰なんてひどいじゃないですか。僕はあなたのことなら何でも、それこそあなた以上に知ってるっていうのに。」
「ダレでも、イイや。久しぶりの肉ダ。」
歯牙を生やし、佐々木に距離を取らせ拘束器具をすべて破壊する。そしてその言葉を聞いた佐々木は心底嬉しそうに言った。
「ああ、良かった。やっぱりあなたはなんにも変わってない。あの時僕たちを手にかけようとした社会のゴミだ。」
自由になったムーンフィッシュを前にしても一向に焦った様子はない。襲い来る歯牙をすべて躱して見せた。
「アレ?当タラナイ。コンナニ近いノニ?」
「でもだからこそ残念です。そんな貴方に会ったら何か変わるかと思いましたけど、期待外れでした。」
「アグッ!」
接近して顎を砕く。
「貴方はもう僕に何ももたらさない。」
その言葉に呼応するかのように象牙色に変化していた左目の色がただの黒色の瞳に戻った。
「ヤメて。せっかく逃げれたのに、お願い、コロサナイデ…」
そう話すムーンフィッシュの顔には恐怖しか読み取れない。
「殺しませんよ。貴方には僕が手を下す価値なんてないのだから。」
*
「もういいのかい?」
ムーンフィッシュとの対話を終えて、AFOの元に戻る。
「ええ。彼はもう十分です。わざわざありがとうございました。ステインの方もよろしくお願いします。」
「もちろん。」
*
ー------
「あ、ああごめんなさい、そんなつもりはなかったんです。ただ、少し疲れていたから…」
「耐えられないんです。この衝動が。肉が、綺麗な断面が見たい!」
「この人の肉はキレイだなあ。」
「来ルナア!僕ハモット肉を、ミル!」
ー------
ムーンフィッシュがいかにして殺人鬼になったのか、彼の過去だけは一日という枠にとらわれずに視ることができた。彼に会えば、自分の個性について何か分かるかと期待したが、結果は何も変わらない。瞳がもとにもどったことに呼応して、彼は佐々木の特別ではなくなった。
*
「おら、エヴィバディハンズアップ!盛り上がっていくぞ!」
内通者の役目は隠密が基本。だからあまり目立つことは良しとされない。しかし、目を視ることが個性の発動条件となる佐々木は教師と関わる機会を敢えて増やしていく。
「Hey!佐々木、答えは何番だ?」
「関係詞の場所が違うので④番です。」
「OK、正解だ!次いくぞ!」
要するに、授業には積極的に参加する。そして…
「今日のHRでは学級委員長を決めてもらう。そんなに大変なことはない。ちょっとした雑務を任せるくらいだ。やってくれる者はいるか?」
ヒーロー科では全員がこぞってやりたがる役だが、普通科では自分からやろうという人はいない。雄英に来る以上、中学時代ではそう言う任を任された人も多いが、最高峰の場で最高峰の人間の上に率先して立とうとする者は少ない。
「僕にやらせてください。」
そんな中、佐々木は迷わずに手を挙げる。教師と関わる回数を増やすためだ。
「おっ、佐々木やってくれるか。他にはいないか、全員ができることではないぞ?」
しかしそれ以上名乗り出る者はいない。
「それじゃあ頼むぞ。佐々木。」
「はい。」
その口元がにこやかに歪んだ。
*
「どうだい、情報収集はうまくできてるかな。」
自室の隅にある黒い靄。そこに向かって話す必要すらもない。ただ小さくつぶやくだけで会話は成立する。
「問題ありません。普通科にもヒーロー科の教師は来ますし、職員室に出入りすれば過去を視ることも簡単なので。」
「それなら良かった。任務を達成できないとなれば、わざわざリスクを冒してまでムーンフィッシュやステインに引き合わせる意味が無いからね。」
「ムーンフィッシュと会って感じたんですけど、この個性って意外と優れた個性みたいなんですよ。」
それを聞いたAFOは嬉しそうに話す。
「キミも自分の個性の真価に気づいてくれて嬉しいよ。」
「それで、ステインにはいつ合わせてくれるんですか?」
「焦らないでくれ。そのことについて話に来たんだ。」
そう言うと黒霧が現れ、AFOとつながっていたワープホールが消える。
「お久しぶりです。佐々木過渡。奪取任務の時はお世話になりました。」
「ええ、お久しぶりです、黒霧さん。今日もよろしくお願いしますね。」
挨拶もそこそこに移動を始めようとする。
「ステインの居場所は特定しています。私の個性ならすぐにでも連れて行けますが、その前に注意を。私からあまり離れすぎないようにしてください。私はAFOほど動けるわけではないので。あまり離れすぎると守れない可能性があります。ステインの身体能力はムーンフィッシュをはるかに上回りますから。」
ワープゲートを作ろうとしている黒霧を押しとどめて言う。
「いえ、黒霧さんはステインと少し離れたところで待っててください。ステインには一対一で会いたいんです。」
「しかし、あなたに何かあっては。」
「別に問題ないでしょう。内通者は
「どうしてそれを…!」
「僕が嘘ですねって言ったのは合格かどうか位簡単に分かることではなく、僕を前にすればの方ですよ。さあ、ゲートを開いてください。ステインから少し離れたところにお願いします。」
ずっと変だと思ってた。個性伸ばしと身体能力向上の特訓でAFOの隠れ家に行ったとき、僕はAFOの仲間の誰にも会えていない。それは多分過去視を使われたくないからだ。この人たちは僕に隠していることがある。だから、僕の方からAFOに接触する方法がない。それが示すことは、僕がたくさんある駒に過ぎないということだろう。であれば予備があるはずだ。僕の方が予備かもしれないけれど。
「分かりました。」
黒霧は今度こそゲートを開いた。
*
「あの小僧、予想以上だのう。」
「ああ、驚いたよ。内通者を他にもストックしていることがバレるとは思わなかった。」
「カマかけただけかもしれないがの。もう少し脳をいじっておくべきだったか。人間らしくなったが動揺が出すぎるのは良くない。」
「いや、これでいいさ。内通者がストックされていることがバレても問題はないからね。しかし、彼を駒扱いするには惜しいな。弔にも会わせようか。」
「会わない方が良いじゃろう。あいつらはとことん相性が悪い。ステインを引き入れるのもわしとしては危ない気がするが、やるのか?」
「ああ、ステイン、赤黒血染は必ず敵連合を拡大する糧になり、弔を大きく成長させる。是非とも引き入れたい人材だ。なに、ずっと弔と一緒にいる必要はない。ヴィラン連合に彼が在籍していると他の者に知れ渡ればいいんだ。」
*
「では、帰るときはまたここに戻ってきます。一時間たっても戻ってこなかったら私は死んだと思ってもらって構いません。では。」
「佐々木過渡、お気をつけて。」
黒霧の声を背に廃ビルの屋上に向かって行った。
「こんなところに何の用だ。子供か?」
屋上のビルを開けた瞬間に短剣を突きつけられる。
「お久しぶりです。ステイン。」
あくまでも冷静にステインに対して返した。しかし、その言はステインの警戒を引き上げる。首筋に剣が浅く食い込み血がにじむ。
「貴様のような奴は知らない。」
「もう絶対にあなたに勝てないので、その剣離していただけませんか。」
「これほどの胆力を持つやつなら忘れたりしない。何者だ、貴様は。」
短剣を手放し距離を取る。その剣には血が滴っている。
「ムーンフィッシュを覚えていますか?その時あなたに助けられた子供ですよ。」
「そうか。あの時の子供か。俺に何の用だ。」
ステインが佐々木を睨みつける。
「あなたに聞きたいことがあるんです。」
「貴様に教えられることなど何もない。貴様の個性が成長したのは貴様のみに依存した結果だ。俺には何の関係もない。」
「関係ないことはないでしょう。僕はあなたの…」
「ハア、後援者の仲間…とでも言うつもりか?」
「はは、やっぱりあなたは特別だ!きっと答えを持ってる!」
ムーンフィッシュとの邂逅が一瞬で終わってしまって何とかならないかと試行錯誤しましたが全くダメでした。超便利キャラムーンフィッシュ。雑に扱ってごめんよ。