「さて、学校にもそろそろ慣れてきたと思うが、そろそろ雄英体育祭の時期だ。」
先生がそう言った瞬間に生徒たちにざわめきが走る。
「知っての通り、雄英体育祭はかつてのオリンピックに匹敵するほどのビッグイベントで、注目度も高い。だが、あくまで体育祭。気負いすぎずに体育祭を楽しんでくれ。」
雄英高校には普通科が三組存在する。ヒーロー科を落ちたから入った人、いわゆる滑り止め合格者は一クラスにまとめられやすい。今年で言えば、普通科C組、サポート科F組、経営科I組にそう言う人が集まっている。だから、佐々木の所属するD組にはヒーロー科を目指そうとする人はいない。
「俺達ヒーロー科の引き立て役だからなあ。普通に楽しんでくれって言われても。」
「良いじゃないですか。そんなの気にしなければ。本選に関係ない普通の競技を楽しみましょうよ。僕たちⅮ組は。」
「それもそうか。俺たちにとっては普通の体育祭だもんな。楽しまなきゃ損か。」
「そうそう、見方を変えれば、本選だって超有名ヒーローの卵を視るいい機会ですし。」
「それは、まあ確かに?」
内通者は内通者なりに、体育祭を楽しむ。
*
「会って欲しい人がいるんだ。」
自宅の部屋の隅、いつものように黒い靄がかかる。
「その前に雄英襲撃の顛末を聞きたいのですけど。何事もないかのようにオールマイトが生きてますし、体育祭が普通に行われているのも意味が分からない。」
分かり切ったことを聞く。
「ずいぶんと意地の悪いことを聞くんだね。個性を使えば分かるだろうに。」
「ええ、分かりますけどね。貴方には秘密が多すぎることも。」
この言葉を振るためだけに、先の言葉を振った。それを聞いたAFOはただ一言だけ返す。
「…へえ。」
「あなたのことはほとんど知らないけれど、あなたの優秀な脳無のことなら何でも知ってる。」
「その最上位個体は残念ながらヒーロー側に拘束されてしまったんだけど。」
「今まさに使ってる黒霧さんのことですよ?」
「なんと」
そこまで話したところで黒霧に動揺が走る。部屋の隅に少しだけ存在していた靄が広がり人が通れるほどのゲートになる。
「厄介な存在になってしまったようだのお。」
黒霧の動揺を感知したかのように別の人間の声が割って入る。
「殻木先生じゃないですか。初めまして。」
「…本当に厄介じゃな。知りすぎるてもろくなことがないと、お前は知っているはずじゃが。」
声音に凄みがある。しかし、佐々木は意に返さずにワープゲートに体を突っ込んだ。
「中途半端に知ると、ですよ殻木先生。」
緊迫した空気間でありながら朗らかにそう言い放った。
「確かにそうじゃな。度を越えて知ってしまったお前をこちらに是が非でもこちらに引き入れなければならん。」
苦々しくそう言ったドクターを佐々木が見る。
「引き入れるだなんて、既に私は先生たちの従順な駒じゃないですか。裏切ったりはしませんよ。先生の元にいた方が都合がいいんです。この前提が壊れることはそれこそ先生が捕まるときくらいじゃないですかね。」
何の気なく言ったことである。佐々木はAFOが捕まることはないと考えていた。この先生を捕まえるには本物のヒーローでなければできない。そして、佐々木の英雄思想にかなうヒーローは今のところほとんどいない。英雄は不足しているのだ。英雄は無尽蔵に湧いてくる阿呆も悪意ある信念を持つ
「僕が捕まると、か。そうだね。そうなったときのために会わせたい人がいるんだ。僕の後継者、死柄木弔に。」
「へえ…先生の後継ですか。」
先生が自分が捕まることを想定していることに多少気圧される。それは佐々木の求める社会が実現したことと同義になる。真の
「そう!今は少し気が立っていてね。今すぐには会わせられないけど近いうちに君たちを引き合わせる。楽しみにしていてくれ。」
「ええ。分かりました。その後継者さん、死柄木さんに会えるのを楽しみにしておきます。」
そう言って佐々木はワープゲートを通って自宅に戻る。その場に黒霧と殻木、そしてAFOが残る。
「やつの個性では一日までしか巻き戻せないはずだったんじゃがな。奴は知りすぎた。いじった方が良いかもしれんぞ?」
「構わないさドクター。僕の最終目的が知られたとしても問題ない。何を知ったとしてもそれを実行に移す直前まで、彼は僕の優秀な駒であり続ける。彼は
もう完結するまで誰がスパイか分かりません。どうしましょう。