内通者   作:三軒過歩

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いろいろ考えてこねくり回した結果、最初に考えていた展開とはだいぶ違うものが出来上がってしまいました。


内通者と体育祭6

「ご苦労様。」

 

意識が戻った時には騎馬戦の決着はついていた。心操の首には鉢巻がまかれている。順位を見ると心操チームは三位と表示されていた。

 

「一時間ほど昼休憩挟んでから午後の部だぜ!じゃあな!」

 

プレゼントマイクがそう言うと、雄英生が校舎に戻っていく。その中で人気のないところに二人の男子が並んでいる。

 

「お前と話すことなんて俺にはないんだけど。」

 

「僕にはあるから呼び止めたんですけど。」

 

視線が絡み合う。

 

「で、話って何。洗脳したことについては謝罪はしないよ。」

 

観念したのか話始める。洗脳しても一時しのぎにしかならない。

 

「ああいや、それは…」

 

「その方が操縦しやすいと思った、勝算が高い選択をした結果だ。実際三位だし。お前も二次を通過できた。」

 

どうせ、洗脳したことを責めに来たんだろう。こういう時の謝罪は相手を余計に調子に乗らせるだけだ。

 

「いえ、それに文句言いたいわけじゃないんです。洗脳されたのは僕の落ち度です。でもそうですか、僕はてっきり…」

 

一度言葉を切る。少し間が空く。

 

「貴方の中にある地雷を踏み抜いたのかと。」

 

心操の顔が目に見えて不快に歪む。

 

「おまえ、わざと言ってるだろ。」

 

「あはは、人の心のうちに土足で入るのは得意なんですよ。」

 

「それが要件だとしたら結構悪趣味だね。」

 

人の心のうちに入り込むなんて、騎馬戦で初めて知ったような奴にされれば不快だ。

 

「まさか!なにか誤解してるみたいだから、訂正しておきたいと思ったんですよ。」

 

これが本題です、と前置きをして話始める。

 

「僕はあなたが俗にいうヒーローにはなれると思ってますよ。」

 

だから、あなたのチームに入ったんです。そう言ってもう言いたいことは言ったとばかりに翻して校舎に向かって行く。

 

「ほんっとうに悪趣味だな。」

 

角を曲がって姿が見えなくなったあと、声が届かぬようにしかし、はっきりと言葉に出す。出さずにいられなかった。手のひらを返した対応をする佐々木が本当に不快だ。お前俺を見極めるって言いかけただろ。それがたかが騎馬戦の結果を見てヒーローになれるなんて軽々しく言ってくれる。

 

 

本選組み合わせのくじ引きも尾白と庄田が棄権を申し出るというアクシデントがあったものの鉄哲と塩崎が繰り上がり、くじ引き自体はつつがなく終わる。

 

「芦戸さんだよね?佐々木です。第五試合、よろしく。」

 

そういって芦戸に手を差し出す。

 

「ん?ああ、普通科の!よろしくっ!」

 

屈託なく笑う芦戸に対して張り付いた笑みを向け、視線を交わした。

 

 

 

(個性は酸か。強い個性だし、身のこなしもなかなか。接近戦を仕掛けてくれればまず負けないだろうけど…)

 

他の人の一回戦を見ながら考えを巡らせる。

 

「普通に酸飛ばしてくるだけで、脅威なんだよねえ。」

 

「お前、このまま優勝できるんじゃねえの。」

 

こぼしてしまった独り言をクラスメイトが拾う。

 

「流石にそれは無理だよ。一回戦は組み合わせが良かったから何とかなる可能性があるけど、それこそ、切島とか鉄哲とかの個性と当たったら勝ちようがないし。今残ってる十五人の中で勝てる可能性がわずかでもある相手は…四人かな。」

 

「だったら組み合わせ次第じゃ優勝できるんじゃね。この組み合わせはどうなんだ?」

 

「運よく芦戸さんに勝てても、常闇君と当たって二回戦で負けるね。」

 

「へ、へえ。」

 

「だからこそ、一回戦は勝つよ。そうしたら普通科ナンバー1だ。」

 

そう言って控室に向かうべく席を立つ。第三試合の決着がつき、第四試合が始まろうとしていた。

 

 

「立て続けに行くぜえ。第五試合。普通科第二の星となるか、普通科佐々木過渡!バーサス、ねえその角から何かでんの?ねえでんの?ヒーロー科芦戸三奈!」

 

「悪いけど、速攻で勝たせてもらうよ。」

 

指を銃の形にして向けてくる。先制で仕掛けてくる気なのだろう。

 

「ええ、持久戦しましょうよ。」

 

対して佐々木は自信がなさそうに返すだけ。

 

「第五試合スタート!」

 

「先手必勝、アシッドショット!」

 

開始の宣言と同時に芦戸が酸を飛ばした。佐々木は持久戦のを望んでおきながらその攻撃をもろに食らいつつ接近する。

 

「え!?ちょっ、接近すんの!?」

 

(僕がどれだけ動けるか分からない以上、最初は様子見。)

 

服に飛び散った酸は服の色を黒く変色させるがそれだけだ。彼女が本気になれば障害物競走で出た仮想敵を溶かすことができるのだから、だいぶ気を使っているのだろう。

 

「あわわ、ちょっと!」

 

対戦前と打って変わって接近しようとする佐々木に対して、先ほどよりも強い酸を飛ばす。ジャージの袖部分で受け止めると触れた部分が溶ける。

 

「もっと強いのも打てるんだから!」

 

バックステップで距離を取りながら指を向けるが、だんだんと距離が近くなっていく。芦戸三奈の弱点は、個性が強力すぎるがゆえに対人戦で思うように使えないことだ。

 

「できるってのは、やらないとできるとは言いませんよ。」

 

ズルいことをしているとは思わない。彼女はヒーロー科なのだからハンデを背負うのは当たり前だ。僕程度の受難など軽く捌けなければ見込みはない。

 

「このっ!」

 

そのセリフと共に今までとは比較にならないほど大量に酸がばらまかれる。狙いは足だ。上半身には重要な器官が集中しているから当然の判断だろう。動きを止めれば勝負はついたようなものだ。でも、それは予測のしやすい動きである。であれば、当然対策も取れる。

 

「焦っているはずなのに、個性の溶解度は調整されている。よくできてます…ねっ!」

 

上着を脱ぎ捨て盾にして突っ込む。溶解液は液体である以上布に吸収される。一度切りとはいえ盾として十全に役割を果たす。

 

「わわっ!」

 

「やっ!」

 

左右に翻弄するような動きで翻弄し、蹴りを繰り出す。しかしその蹴りは芦戸の脇腹をかする程度に終わる。

 

(殴打だと距離が足りなかったから仕方ないけど、蹴りだと予備動作が大きくて避けられるな。)

 

「まだまだ!」

 

一度接近した隙を逃すまいと連撃を仕掛けてこようとする佐々木に対して芦戸は防御を選択する。

 

「アシッドベール!」

 

人ひとり分何とか回避行動と同時に距離を取った芦戸の打つは溶解液によるガード。実際には溶解度はほとんどないが、それを知るのは壁を展開した芦戸のみ。この障壁をつかって仕切り直しを試みる。

 

「できるってのは、やらないとできるとは言いませんってさっきも言ったんですけど?」

 

しかし佐々木はその障壁を怯みもせずに突っ込んでいった。全身が酸まみれになる。観客から悲鳴が上がる。

 

「ええ、なんで!?」

 

驚きで動きが止まる。致命的な隙になる。

 

「ハハッ!」

 

拳を振り上げる。生々しい一撃が入る。

 

「うぐっ…」

 

さらに隙が広がる。

 

「これで、終わり!」

 

「アグッ…!」

 

ハイキックを顔面に向かって繰り出す。両手で防ごうとするが防ぎきれるはずもなく膝をつく。追撃の拳が芦戸の顔面で止まった。それに気づいた芦戸の目が見開かれれる。

 

「ま、参りまし、た。」

 

「!!芦戸さんギブアップ!勝者佐々木君!」

 

その様子を見た主審のミッドナイトが高らかに宣言する。その宣言を聞き、佐々木は握りしめた拳を開き、芦戸は立ち上がらせようと手を差し伸べる。

 

「ありがとうございました。」

 

にこやかに試合後の挨拶をする。手を取り立ち上がった芦戸は不安そうに聞いた。大丈夫なのかと。芦戸の溶解液を全身に浴びて、髪は溶解液が滴り、全身溶解液まみれだ、当然顔にもだいぶかかっている。

 

「あはは、それは一番あなたが分かってるでしょうに。一応目はカバーしましたよ。皮膚がさっきからピリピリといたいのでとりあえずシャワーは浴びたいですし、体操着も新調しなければいけないですけどね。」

 

「っ!どうしてあんな危険なことしたの!一歩間違えば溶けてたんだよ!」

 

「はは、そんなのあなたがヒーロー志望なんだから当然でしょう。貴女は守るものが多いですもんね。死にかねない攻撃なんてできないでしょうし、そうでなくても人の皮膚がただれるような致命的な攻撃はできない。誓約はヒーローの原動力となりうるけれどもそれは制約である以上枷でもある。」

 

得意げにつらつらと言葉を重ねる。ヒーロー科が普通科に直接対決で負けたという事象に会場は盛り上がり、二人の会話を聞く者はごくわずかだ。

 

「それは、ずるいよ…」

 

呆然と、そう話す。彼女の言い分は間違っていない。一対一の直接対決。互角の条件に見えるこの形式は、明らかに芦戸が不利だったのだから。普通科に負けたとなればアピールとしては最悪だ。何なら予選落ちをした方が良いくらいに。

 

「ヒーローには受難を。こういうピンチを乗り越えてこそじゃないですかあ?」

 

くだらないと一蹴するような底意地の悪い笑みを向けてそう言い放ち、会場を後にした。

 

 

「おい、あいつすげえな、佐々木!芦戸に正面から戦って勝ちやがった。」

 

実況席でマイクをオフにした状態で隣に座るイレイザーにそう話す。しかし彼の顔は渋い。

 

「すげえと思うか、あんな反則勝ちみたいな勝ち方で。」

 

「反則ってどこがだよ?こんな正々堂々戦うしかないようなルールでずるなんてする余地ねえだろ。」

 

「よく考えろよ。芦戸の作った溶解液に飛び込むなんて普通の判断じゃできないし、そもそも芦戸の個性なら一撃でも食らったら終わりなんだよ。奴が勝ち上がったのは、芦戸がヒーロー科であることを利用した反則勝ちのようなものだ。」

 

敵みたいな戦い方をしやがるな、と声に出さずに続ける。

 

「そりゃあちょっと邪推が過ぎるんじゃねえのか?」

 

「…そうかもな。」

 

言われずともこれは邪推だ。口に出すことも憚られるほどの。教え子をやられたことに苛立っているのか。判断が合理的じゃないと自分を律する。

 

 

 

「ヒーローには受難を。こういうピンチを乗り越えてこそじゃないですかあ?」

 

 

 

それでもあの底意地の悪い笑みが頭に残った。

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