内通者   作:三軒過歩

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佐々木の名前をソウジロウにしなかったことを今更すごく後悔してます。個性の元ネタなんです。


内通者と体育祭7

「佐々木君凄いね!ヒーロー科に勝っちゃったよ!!」

 

「お前あんなに動けたのか!てっきりがり勉で運動は苦手だと思ってたぜ!」

 

「心操を超える普通科の星だな、佐々木!」

 

試合を終えて席に戻るとクラスメイトに囲まれる。それに応対した後、席について一息つく。隣に座るクラスメイトからの追及は止まらない。

 

「無茶したよな、お前。」

 

「ん?どこが?」

 

少し不満げに言う彼に対してすっとぼける。

 

「あの芦戸とかいうやつ、個性は酸だろ。溶けたらどうするつもりだったんだ?」

 

「もし仮に僕に消えない傷が残るほどの攻撃をしたら、その時点で経歴に大きな傷がつくでしょ。」

 

ヒーロー科は人気商売、そんな話を彼とはよく話した。彼とは価値観が面白いほどに合った。

 

「それでも命をチップに出すには薄すぎる根拠だろ。そもそも防御に使った酸だし。」

 

しかし今回はそうではなかったようだ。珍しく食い下がる。

 

「そうでもないさ。ここは最高峰のヒーロー科なんだからさ。」

 

「最高峰、ね。まあそうかもな。ヒーローとしての前提はもうクリアしてるやつばかりか。」

 

「そうそう。」

 

納得する友人に対してそう言って笑った。

 

 

「二回戦第三試合、普通科の星となった新生、佐々木過渡、バーサス、この個性やっぱり無敵だよなあ!ヒーロー科、常闇踏陰!」

 

「手加減も油断もせず、全力で行く。」

 

「そう言うのを弱い者いじめって言うんですよ。」

 

「第三試合、スタート!」

 

「ダークシャドウ!」

 

「アイヨ!」

 

「ッ!」

 

黒影が飛び出してくる。佐々木はその黒影を真っ向から蹴り飛ばす。

 

「オット!」

 

「はっ!」

 

「ソラ!」

 

異形の物と形容するにふさわしい強敵に対して佐々木は徒手空拳による接近戦を展開する。黒影の攻撃は鋭い爪による引き裂くような攻撃が主体となっており、新調した体操着に傷が入っていく。

 

「せっかく新しくしたのに!これ高いんですけど!」

 

「戦いの途中でそんなことを気にするとはなかなか余裕だな。」

 

「この劣勢で余裕があるように見えますか!」

 

体操着に傷が入るのは相当だ。この雄英の体操着は普通の高校の体操着とは一線を画する。普通の裁ちばさみでは切ることができず、多少の衝撃など無効化する。故に佐々木は一回戦の止めに顔面の前で拳を止めたのだ。

 

「見えるな。」

 

そう言った途端に黒影のギアが一段上がる。素早さが上がり対応し損ねる。腹に三本のひっかき傷ができる。

 

「ずいぶんと高く評価してくれたみたいで!」

 

 

「一回戦を驚異的な身体能力で突破した佐々木も常闇の個性に防戦一方だ!常闇の個性の弱点はどこにあるんだあ!?」

 

「やっぱり勝てないか。いや。」

 

観客席で佐々木の戦いを見ているクラスメイト、日色(ひいろ)(ともしび)は独り言つ。佐々木は自分に似た価値観を持ち、気の合う友人だ。彼は多芸で聡明で、頼りになる委員長で、クラスメイトのみんなから慕われている。そんな奴の一番の友人というポジションを得られたのは幸運だとも思う。しかし、だからこそ彼が自分も含めたクラスメイトから何か一線を引いていると気づけてしまう。

 

(何も抱えていない、秘密のない人なんて珍しいが。)

 

一線を引いている理由に心当たりがないでもない。彼は先読み能力が凄まじい。まるで未来が見えるかのようだ。彼が勝てると言ったら勝てるし、負けると言ったら負ける。彼の予測が外れることは少なくとも今までなかった。だから彼は思う。佐々木はそう言う類の個性を持っているのではないか。個性を隠していることが負い目となっているのだと。そんなこと気にしなくていいと思う。もっと重大な秘密を抱えた人間なんて五万といる。そんな奴がクラスになじんでいたって不思議じゃない。だから、一線を引いた親友からその距離を払うためにも。

 

「佐々木!頑張れ!」

 

今は全力で応援しよう。勝てないといいながら、あいつは珍しく自らの予想に抗っているみたいだから。

 

 

鋭い爪による攻撃に佐々木の身体に切り傷が入る。息が荒い。一回戦の爆豪、麗日のこともあり、観客からブーイングは起きないが状況は一方的だった。

 

「降参しろ。これ以上は無意味だ。」

 

常闇が佐々木にそう言い放った。

 

「貴方の戦いは短期決戦で情報が無いから、ここで引き出さないといけない。必要だからやってるんです。」

 

そう言って頬の切り傷からにじみ出る血をぬぐう。

 

「無意味だといった。」

 

「冗談。個性は身体機能ですよ。弱点、制限がない個性なんて存在しない。」

 

先生にだって何らかの制限はあるはずだ。そう心の中で口にして、黒影に向かってさらに攻撃を仕掛ける。

 

 

 

「試合展開がそっくりだな。」

 

実況席でイレイザーヘッドがそう話す。

 

「麗日、爆豪戦とそっくりな戦いだ。佐々木に策はあるのかぁ!?」

 

実況を交えながらプレゼントマイクがそう返す。

 

「そうじゃねえよ。そっくりなのは緑谷、轟戦だ。」

 

「どこがだ?地味に佐々木が削られ続けているだけじゃねえか。それも一方的に。」

 

「違う。常闇も轟と同じように短期決戦で戦ってるから情報が少ない。だからそれを引き出すための戦いをしてる。急所を避けて、持久戦を仕掛けて常闇に個性を使わせてるんだ。」

 

「なるほど。ナイス解説。確かに試合時間も最長だあ。もうすぐ二十分経過する!」

 

内心で舌を巻く。佐々木と緑谷は似ている。個性に対する理解の仕方、そして、自分の身体を顧みない戦い方。だというのにこの二人は根本で決定的に違うと感じる。

 

「ではそろそろ決着をつける!黒影!」

 

「アイヨ!」

 

黒影の攻撃を飛び蹴りで防ぐ。鈍くなっていた佐々木の動きがここで急に俊敏さを取り戻し、威力に至っては初撃よりも高い。

 

「ンナ!」

 

一瞬黒影をひるんだすきに、すぐさま身をひるがえし、常闇に接近する。

 

「動きがわずかに鈍くなった!それにも体力があるんだろ!」

 

「ほう…」

 

何のことはない。最初のハイキックは全力ではなかった。体力を温存し、相手の個性が疲弊してくるタイミングをひたすら待っただけのこと。接近戦で黒影が使えないならば佐々木が圧倒的に優利。黒影が戻ってくるまでの数発で決められれば勝てる。蹴りを入れる。両腕で防がれる。この程度は想定内。拳を繰り出す。

 

「ウゴクナ」

 

しかしその拳が常闇に届くことはない。背後からの爪が佐々木の首に添えられる。

 

「ッ!」

 

「アブナカッタナ、フミカゲ」

 

「よくやった、黒影。」

 

黒影は得意げに、常闇は当然とばかりに話す。

 

「…戻ってくるの早すぎです。」

 

「お前の見立ては正解だ。確かに黒影にはずっと出し続ければ一度体力()を回復するためにわが身に戻す必要がある。」

 

だがなと一度区切って言い放つ。

 

「この程度では黒影はやられない。」

 

「動きが鈍ったのはブラフですか。」

 

「この終盤でお前の動きが想像以上に俊敏だったから、一撃耐えることになったがな。腕がしびれてる。」

 

試合の決着はついた。そう判断して両手を振った。しかし佐々木は止まらない。

 

「ああそう!」

 

首に爪を添えられた状態で右足を踏み込む。狙いは顎。左脚での蹴りがあたれば数瞬で意識を刈り取れる。うまくすれば引き分けに持っていけると。

 

「オット!」

 

蹴りが常闇に届くことはない。首にあてられた爪はと逆の腕で佐々木は場外に投げ飛ばされた。

 

「そう来るかもなと思ってたよ。」

 

「しまっ!」

 

「俺は反則勝ちのような勝ち方すらも許さないぞ。」

 

受け身を取るが、落ちた場所は場外。佐々木の負けだ。

 

「佐々木君場外!常闇君、三回戦進出!」

 

ミッドナイトの宣言が高らかに響く。

 

「ずいぶん嫌われたみたいですね。」

 

場外であおむけになりながらそうこぼすと常闇から手が差し伸べられる。

 

「少なくともヒーローのやり方ではないな。」

 

「私がヒーロー科編入を狙っているなんて言いましたっけ?」

 

差し伸べられた手を取り起き上がるとそう疑問を投げかける。

 

「戦いを見れば分かる。勝ちに貪欲な姿勢は悪くはないがヒーローとしては最悪だ。編入を志すなら別のやり方を模索すべきだろう。それだけ動けるんならなおさらな。」

 

「ハハッ!ご忠告、感謝いたします。」

 

舞台に戻り、礼をして観客席に戻った。内通者の体育祭はここで終わる。

 

 

「お疲れ様、珍しくかなり頑張ってたな。」

 

「いつも手を抜いてるみたいな言い方はひどいなあ。」

 

観客席に戻ると最初に声をかけてくるのは日色だ。このクラスで一番仲がいい人と言ったら間違いなくこの日色だろう。

 

「お前が勝てないって言っていたやつにあそこまで粘るとは思わなかったよ。」

 

「まあ、たまには自分の個性(予想)を上回って見たかったからね。」

 

過去視の個性は未来を見通せないが、過去は無数に見通せる。そんな佐々木が想定する未来は必然だ。

 

「来年は目指せベスト4で表彰台だ。」

 

「簡単に言ってくれる。」

 

あまり堪えてないような、少なくともそう振舞える佐々木の様子に安心したように日色は笑った。

 

 

「あいつが、先生のお気に入り、いわゆる高級なライターってやつか。」

 

テレビ中継を消して先生にそう語りかける。画面の向こう側では先生は笑みを湛えているのだろう。

 

「そう。佐々木過渡君だ。なかなかやるだろう?」

 

「俺は嫌いなタイプだ。先生のお眼鏡にかなってしまったのが悲しくてしょうがないよ。」

 

嫌いなタイプと言いながら優秀であることは否定しない。死殻木は佐々木を先生が気に入ることが理解できる。

 

「それで、いつになったら俺たちは引き合わされるんだ?」

 

先生が自分を後継としているのは知っている。であれば間違いなく佐々木に会う日が来る。

 

「それはそのうち。しばらくは会わせられないな。あと数週間のうちにきっと状況が大きく動く。それ次第でもあるけどね。でも今は勢力を拡大する時期だ。そろそろ黒霧が連れてくるはずだよ。佐々木過渡君が信奉している男、ステインをね。」

 

「佐々木が信奉してるって時点でろくでもないことになりそうで、会う前からげんなりだよ。」

 

そう言って言葉が切れる。ステインが来たのだろう。

 

「佐々木は珍しく目立った行動をしたな。最後も勝てないと分かっていながら随分と粘っていた。」

 

「僕も少し驚いたよ。とはいえ、想定の範囲内だけれどね。」

 

ドクターにそう返事をして画面越しに移る佐々木を見る。体育祭はヒーロー科が彼の言う本物かどうか見極める絶好の機会なのだ。見極めるためには敵のような行動が伴う。そうしたら目立ってしまうことは必然だ。そうして生じた疑惑と呼ぶにはあまりにも小さい種を払うために最後の戦いで佐々木は勝つために全力をつくしているだけの善良な生徒だという意識を植え付けた。

 

「やっぱり彼は優秀な駒だよ。優秀ゆえに癖もあるけどね。」




原作の爆豪と戦うコマで黒影の体力を回復させる暇がないみたいなこと言ってたのでこういう設定を付けました。
よく話すクラスメイト君の名前は日色灯君です。親が殺された結果歪んたヒーロー観を持つに至りました。
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