「あらら。まだ帰ったばかりだというのに。」
体育祭が終了し、部屋に戻ってくる佐々木を待っていたかのように黒い靄が現れる。それをみて愚痴をこぼしながらもAFOの元に行く。
「やあ、体育祭お疲れ様、佐々木過渡君。」
「そんな労われる程の物でもないですよ。結果も出せてないですし。」
体育祭ベストエイトという結果は、普通科にしては破格の成果であるが、それを成果と考えるものはこの場にいない。
「今回は君らしからぬことをしたね。かなり目立ったみたいだ。」
「見てたんですか。」
勝手なことをしたと責められるかと、身構える佐々木をAFOは笑って流す。
「いや、責める気はないよ。確かにヒーローにはできないやり方で勝ち上がっていたけど最後に印象操作をして君が敵側だと思う人はいないだろうからね。」
「…それで今回はどのような要件ですか?」
当然のごとく見抜かれていることに底知れなさを感じつつ先を促す。しかし、それは佐々木の顔を驚愕に染めるものだった。
*
「先生はどこまで分かっているんだろうな。」
先生からの指示を受けて自室に戻ってきた佐々木は大きくため息をつく。先生が要求してきた内通者としての仕事はこれまでとは一線を画すものだった。
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「この少年の動向を可能な限りすべて把握し、僕に伝えてほしい。」
そう言って出された写真に写る少年は凄まじい成績をたたき出したわりに、自信のなさそうな表情を湛えた生徒、緑谷出久だった。
「緑谷出久ですか。しかし、僕の個性は過去を見るものであって未来を知るものではありません。あまり精度の高い情報を流せるとは思いませんが。」
そう言って難色を示すがAFOは微笑を湛えた笑みを崩さぬまま話す。
「可能な限りで構わないさ。期限は次の登校日から夏休みの林間合宿までだ。」
(つまり林間合宿がどこで行われるかも知りたいってことか。)
「繰り返すけど、可能な限りすべてで頼むよ。この任務中は僕との戦闘トレーニングや、個性伸ばしの訓練はしないから全力を注いでくれ。」
「っ!分かりました。」
口調が穏やかだというのに有無を言わせぬ圧があり、気づいたときには了承していた。
ー----
今まで先生から求められる情報は数日もかければ簡単に手に入る情報だったが、今回はそれとも状況が違う。しかも、可能な限りと言っておきながら先生が求めるのは緑谷出久すべての行動だ。ストーキングでもしろと言うのか。
(彼のすべてを把握するってのは出来なくはないが。それを先生は知らないはずだ。だとすれば本当に可能な限りでいいのか、いや、あの言い回しでそれはありえない。)
「まだ、二人の過去から得たいものが山ほどあるというのに。」
ステインの過去からはその身のこなし、そして思想。どうして彼はオールマイトを本物と断じて崇拝するのか。それが佐々木にはまだ理解できていない。対する黒霧は何か過去の記憶に靄がかかる部分があった。まるで脳みそを弄り回されているかのように、肝心のAFOの目的につながりそうな過去はうまく読み取れない。だからこそ、彼が脳無であることに気づけたのだが。
(対象のすべての過去を映し出す瞳の過去視も万能じゃない。)
片眼だけを対象の色に変化させる過去視では限界があることは感覚的に分かる。この力は本来一人に対して両目を使い両の瞳を変色させるべきなのだ。片眼だから過去の光景を追うことしかできない。それで今までは十分だった。いや、これからも十分であるはずだった。
「本当にどこまで知ってるんですか、先生。」
深くため息をついて、右目にストックしていたステインの過去を覗き見る。明後日には緑谷に付きっ切りになる。ステインの過去を覗きみることはできなくなるのだ。それは左目にストックしている黒霧も変わらない。佐々木は覚悟を決めた。
*
「今日は遅かったな。やっぱ、体育祭ベストエイトともなるといろんな人に声かけられたんだろ?他のヒーロー科の生徒が大変そうに登校してるの見たぜ。」
体育祭が終わって初の登校日、いつもより少し遅い時間に登校してきた佐々木に対して日色が声をかける。
「はは、まあそんなとこ。やっぱり普通科の癖に出しゃばりすぎたかなあ。」
そう言う佐々木の両の瞳は緑色に染まっていた。
ー----
ー君が、助けを求める顔してたー
ー笑って答えられるようなかっこいい人に、なりたいんだ!ー
ー余計なお世話ってのはヒーローの本質だ!-
ー----
うるさい、そんなのはくだらない。僕の邪魔をするな。笑顔の裏に頭に響く声を押しやる。
脳内に緑谷の思想が響く。両目で一人の過去を覗き見た副作用。対象も想い、思想、思念までもを再現する。
(僕は佐々木過渡だ。けれど緑谷出久であることも疑いようがない。でも…)
貴方はだあれと幻聴が聞こえる。
(僕は佐々木過渡だ。緑谷出久では断じてない。)
分かりにくいのは文章力が無いから。つまり私のせいです。最低な開き直りです。