内通者   作:三軒過歩

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印照才子のキャラは体育祭前後の八百万をトレースしてちょっと私の趣味を加えるとそれっぽくなると勝手に思ってます。


内通者と印照才子

「おばあさん、荷物持ちますよ。」

 

歩道橋の階段の前で辛そうに荷物を運んでいる人を見て声をかける。普段の佐々木ならしない行為。緑谷の人格が入っているその副作用。

 

「あら、そうかい?ありがとうねえ。」

 

個性が広がり、ヒーローが浸透した社会、誰もがヒーローを一度は志し、困っている人を助ける人は少なくない。であればこそ、いぶかしむことなく親切を素直に受け入れる人が多い。最も、この場に限っては雄英高校の制服でいることが最も大きい要因であるだろうが。

 

「いえいえ。これくらいお安い御用です。」

 

本来の自分なら見過ごしているんですけどね、と心の中でつぶやく。流石に声をかけておきながら発言を翻すほど薄情ではなかった。

 

「…お前、やっぱりヒーローに向いてるよ。本気で目指したらいいんじゃね?今のままでいるの、もったいない気がする。」

 

おばあさんを助けるその一部始終を見ていた友人に言われる。最近になって言われる頻度が増した。

 

「いや、たまたま気が向いただけだって。そんな高尚なヒーロー精神を持ってるわけじゃないってば。」

 

そのうちにこんな精神性は消え失せる。夏季休暇に入ったのだ。思念再現を使う任務はなくなった。毎日緑谷の精神を受け入れていた故に、体にこびりついているが、少しずつ消えていく感覚があった。

 

 

「過渡君は面白いなあ。」

 

「多重人格の患者じゃろう、どう見ても。」

 

佐々木過渡の動向はある程度AFO達に把握されている。使い捨てのライター(彼の友達)によって。

 

 

「一ヶ月ぶりかな。最近来てなかったけど、そっちは変わらないね。やつれてはいるけど。」

 

綺麗なままだ。という言葉は口に出さず、出しても聞くやつは自分以外にはいないのに。

 

「一年以上こんなままなんてさ、もったいないよ。」

 

もし、もしも今彼女が目を覚ましたら今の僕を見て何を思うだろうか。ヒーローを粛清して回る僕を、少なくとも好意的には思わないだろう。だったらずっと寝たきりでいて欲しいと思う自分がいることに驚いた。

 

「ヒーローは心配をかけるのではなく払う者ですから、ヒーローとしては失格ですものね。早く目を覚まして欲しいのですけれど。」

 

「!」

 

思わず後ろを振り返る。目の前で寝たきりになっている少女とよく似た、凛とした声を持つ少女、印照才子がいた。

 

「…お久しぶりです。」

 

彼女と会うのもそれこそ一年振りだ。あの時彼女の勧誘を蹴って以来会っていない。

 

「ええ、お久しぶりです。ご活躍はわたくしも聞き及んでいますわ。雄英体育祭ベスト8、あなたなら取れても不思議はないと思っていましたけれど。」

 

「ずいぶんと僕を高く評価してくれているんですね。」

 

「わたくしの妹の目が間違っているはずがありませんもの。」

 

いつかと同じ言葉を返してくる。

 

「ああ、そうですか。」

 

この人の前になると、自分は途端に余裕が無くなるようだ。普段どんなに余裕ぶって達観したふりをしていてもこの人を前にすればあの時の無力な子供に戻ってしまう。相性の問題なのだろうか。自分はあの時とは何もかも違うはずなのに、この人はあの時と変わらないままだからか。あの時と同じように紅茶を取り出してきた。それを受け取る。少しだけ瞳が見開かれた。

 

「紅茶には様々な健康効果があるんですの。気分を落ち着けリラックスさせたり、健康にもいいんです。」

 

少しばかりテンションが高くなり、嬉しそうに話し出した。

 

「でもこれは賄賂でしょう。何か僕に望むことがあるんじゃないですか。」

 

主導権を握られていたくないから、カマをかける。少し間が開いた。その間が自分に余裕を作る。

 

「…なぜ、そう思うのです?」

 

「この紅茶は僕なんかには銘柄も分からないような凄い物だ。」

 

ゴールドティップスインベリアル、過去視で購入するところを見たが、いわゆる上流階級が飲むような紅茶の値段だ。少なくともただの知り合いに提供するような代物じゃない。

 

「貴方は変わったんですね。わたくしは全く変わっていないのに。」

 

暗に個性を使うようになったことを指摘する。その声には陰りがある。

 

「素晴らしい出会いがありまして、価値観を塗り替えられたんです。」

 

「まあ、是非そんな出会いをしてみたいものですわ。」

 

この人は本調子でないと確信した。だから何だと思う。この人がどうあろうと僕にはなんの関係もないし、なによりこの、印照に似た彼女とはあまり関わっていたくはなかった。だから、

 

ー貴方にもきっとそんな出会いがありますよ。ー

 

と中身のない定型文を言うだけでこの場から去れたはずなのに。

 

「らしくないですね。」

 

なぜかそんな言葉が出てきた。いや、理由なんてわかり切ってる。困った人をみかけたら手を指し伸ばさずにはいられないという、高尚な英雄(緑谷)の精神。僕にそんなものは余りあるというのに、なかなかこびりついて離れてくれない。

 

「そう、でしょうか。」

 

「ええ、一年前のあなたならそんなことは言わない。」

 

”貴方にとって素晴らしい出会いはわたくしの妹に出会ったことでしょう?”

 

なんの衒いもなく、当然だとばかりに言っていたはずだ。

 

ー貴方の原点は何ですか、何のためにあなたはヒーロー科にいるんです?

 

続けて吐こうとした言葉を飲みこむ。

 

「そ、れ、は…」

 

こびりついているものを引きはがす。ヒーローを目指す彼女にとっては緑谷の言葉が必要だと思うけれど、こんなとこで躓くやつが英雄にはなれないだろうから。

 

「貴方にヒーローは向いてないんですよ。」

 

この言葉が彼女を焚きつけることになるのならまた改めて見極めてやろう。

 

 

「向いてないことくらい分かっていますわ。」

 

佐々木が去った病室で印照才子はそうこぼす。わたくしの代わりを妹が務められないように、妹の代わりはわたくしに務まらない。それでも、

 

「もう後には引けないのです。」

 

さあ根回しを始めましょう、わたくしに尽くしてくれる彼女たちの意図を酌んで。夏休みが開ければすぐに仮免試験。必ず通って見せましょう。

 

意識のないはずの妹の顔が今にも泣きだしそうな顔になった。




印照才子がなんで雄英たった四人をあそこまで大がかりな作戦で仕留めようとしたのかという理由付けをこの話でしたつもりです。うまく本文中には載せられなかったので活動報告でその辺の考察を書いてみることにしました。興味あれば是非。
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