内通者   作:三軒過歩

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前話と時系列ぐっちゃぐちゃですが今回は8月下旬のお話です。勢いに任せて前話を投稿したの今となってはちょっと扱いに困って後悔してます。


内通者と編入

「相澤先生それ、僕にも教えてくれませんか。」

 

「お前…」

 

夏休みももうすぐ終わるころ、イレイザーヘッドに指導してもらっているとその場に顔を出すものが一人。大学にも引けを取らず、むしろ凌駕している広大な敷地の中でこの二人を見つけ出すなんてのは普通はできない。しかも捕縛布にいいように弄ばれて無様を晒しているこの時に来るとはタイミングが悪すぎる。

 

「お前、どうしてここが分かったんだ。」

 

同じことをイレイザーヘッドも思ったのだろう。現れた生徒、佐々木に対してそう聞いた。

 

「答えたら捕縛布の扱いを教えてくれます?」

 

話にならないと首を振る相澤先生に対して佐々木は食い下がる。さっさと去って欲しい。誰かに捕縛布に絡まってもがいているこのざまを見られているだけでも心穏やかじゃないが、よりにもよってその誰かが佐々木だとはどんな辱めだ。

 

「心操君に教えているときだけでいいんです。」

 

必死にもがくが焦っても状況が悪化するだけだった。仕方なく恥に耐えながら少しずつ捕縛布を解いていく。二人の話を耳に入れる余裕ができた。

 

(今こいつは何を言っている…?)

 

捕縛布をほどき、二人の話を追いかける。俺に教えている時だけでいいとはまさか捕縛布の扱いを学ぼうとでも言うつもりか、何のために。

 

「今更ヒーロー科でも目指すつもりか?」

 

理解を拒絶していたが、イレイザーヘッドが放った言葉について否が応でも理解してしまう。無個性の癖に俺を上から目線で値踏みして、すり寄ってきたこいつがそれを目指すというのか。

 

「無個性がヒーロー科を目指すのはおかしなことですからね。否定するのは教師として当然です。」

 

(ああ、そうだよ。お前は無個性なんだ。無個性の癖に…)

 

気に入らない奴だけど、こいつが目指すというならばヒーローになってしまうのかもしれない。無個性なのに、それでもあの時お前が常闇相手に食い下がる姿を見て、その圧倒的な身体能力を見て、俺はヒーロー科志望なのが恥ずかしくなった。足りない物がはっきりわかってしまった。それが自覚できたから、イレイザーヘッドの元でヒーローへの道を突き進めている。だから。

 

「俺は構いません。こいつもクラスは違いますけど普通科でカリキュラムはほとんど一緒ですから。」

 

これくらいの援護くらいはしてやってもいいだろう。

 

 

「心操、お前本気で言ってるのか?」

 

その目が細められる。僕も驚いた、てっきり嫌がられると思っていたのにまさか肯定してくれるとは。その言葉は相澤先生の反感を買うことになりかねないのに。だからこそ切り札を用意してきたのだが。これなら切り札と合わせて目的は達せられるだろう。

 

「お前に割く時間は実質的に半減する。A組やB組の生徒と比べて出遅れているという自覚の上で言ってるんだろうな。」

 

「ええ、俺はヒーロー科の生徒たちと比べても何十歩も出遅れてます。でも二人なら先生の指導なくてもお互いに高め合える。自主練の効率は倍以上に跳ね上がります。」

 

「分かってるならいい。だがそれとこいつを練習に参加させるかは別問題だ。この練習はヒーローになるためのものだからな。」

 

交渉に使おうと思っていた利点を心操が先んじて言ってくれた。これなら畳みかけられる。

 

個性が発現した(ヒーローとしてのスタートラインに立った)んです。」

 

俺を説得させてみろと態度で語る先生にそう告げる。

 

「なに?」

 

「は?」

 

数秒の沈黙の後、二人が何とかそうこぼす。理解したようだ。スタートラインに立ったという言葉に込められた本当の意味に。だからこそ動きが止まり、簡単に相澤先生、イレイザーヘッドに触れることができる。

 

共有(リンク)

 

首筋に触れる。そうすれば共有(リンク)が完成する。

 

「目を閉じてみてください。私が視える世界が()()()()()。」

 

「何だ、これは…」

 

 

「何だ、これは…」

 

佐々木がイレイザーヘッドに触れたかと思うと少し混乱したようにうろたえた。こんなイレイザーヘッドを見るのは彼に師事してから初めてだ。

 

「明日の九時に職員室に来い。お前を見極めてやる。来なければ分かってるな。」

 

呆然としていると彼等の中で話が済んだようだ。結論は先送りになったようだが。

 

「ええ、それではまた明日伺います。」

 

去っていく佐々木を見送る、高校生にもなって個性が発現する前例など聞いたことがない。それはイレイザーヘッドもなのだろう。思うところがあってもおかしくないし、一教師の一存で決められることでもないはずだ。

 

「さて、すまん。時間を取らせたな。特訓を再開しよう。」

 

 

「失礼します。」

 

職員室にて相澤先生に会いに来た後、すぐに校長室に連れていかれた。

 

「よく来たのさ!簡単にだけど話は相澤君から聞いてるよ。その重要性もね。」

 

小さなネズミの根津校長、動物に個性が発動し、その個性が人間の知能をはるかに超えるという世界でも二度と起きないだろう奇跡の末に生まれた人間。

 

「そうですか、それで僕はこれからどうなるんですか?」

 

「その話のために是非僕にも相澤君にかけた個性を使って欲しいんだ。にわかには信じがたいよ。こんな話、普通は誰も信じない。」

 

「ええ、では失礼しますね。」

 

そう言って佐々木は根津校長に触れる。

 

 

「実際に視ても信じられない…けれど認めるしかないようだ。」

 

それはそうだろう。この切り札の前に要求は通される。

 

「君は心操君と同じように扱う。当面は相澤君の元で修練に励むといい。」

 

「分かりました。それでは失礼します。」

 

「特訓は今日からってわけじゃないんだろう?せっかく来てくれたんだ。君の話を聞きたいな。その個性を持ってどうなったのかとかさ。」

 

席を立ち、校長室を去ろうとするがそれを根津校長が呼び止める。

 

「えーっと…」

 

相澤先生に目線を送る。立ち去ろうとしていた先生が座りなおす様をみて逃げられないと悟った。あの相澤先生が逃げきれないのに僕が逃げることなんてできないだろう。噂に聞いたことがある。うちの校長は話が長いと。

 

 

「災難だったな、お前も。」

 

校長から解放されて相澤先生と二人廊下を歩く。

 

「せっかくの休日が丸っと潰れてしまって、それくらいはまあ覚悟もしてましたけど…もう日が落ちてだいぶ経ってますよ。」

 

なんとも言えない顔になっている相澤先生に礼をして踵を返す。

 

「まあ僕は帰ります。全寮制になっててよかったです、ホントに。」

 

「ああ、明日は始業式、学校が始まったら毎週水曜の朝と放課後、土曜の午前中に特訓を行う。場所は変わらずだ。時間は有限、合理的に使えよ。」

 

それから一ヶ月、心操と一緒に捕縛布に絡まれる日が続いた。




体育祭の話は私の中で完全な蛇足なのですがそのおかげで一部キャラを動かしやすくなったので無駄ではなかったなって。まあ当初の予定からするとこの話も蛇足っちゃ蛇足なんですけど。でもそんな蛇足回が意外と重要だったり?
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