文化祭当日、全ての準備を整えてD組全員で集まる。
「準備は完璧、もめごとの対処法はマニュアル通りに。さっ、文化祭良いものにしよう。」
「「「おうっ!」」」
クラスのまとまりは最高潮。きっとそれぞれが良い思い出を作れる。
*
「佐々木どこから回る?」
後半から企画に入る日色と佐々木は前半は暇なために一緒に文化祭を回ることにしていた。
「とりあえず、1-Cには絶対に行きたいから最初はそこがいいな。」
「おっけおっけ俺は特に行きたいとこないしそこから行こう。」
会場は隣だからすぐと言えればよかったのだが、広すぎる校舎であれば教室よりもお化け屋敷に合った場所がある。行きたい企画を厳選すれば見に行ける企画はそんなにない。
「いらっしゃいませ、心霊迷宮へようこそ!受付はこちらでーす。」
初っ端からお化け屋敷に行こうという人間はなかなかいないみたいで受付の人に歓迎された。
「お化け屋敷なのに受付こんなに明るくていいのか?」
「中身のギャップで二重に怖いってことだと思うよ。個性使わないでね。怖さ半減だから。」
明かりをつける個性をお化け屋敷で使えるのは強力だ。一応釘を刺してお化け屋敷への扉をくぐった。
「野郎二人でお化け屋敷、どうしてこうなった。」
「文句言うなよ。ここまで来たのに怖気づいた?」
「誰が」
ちょっとした恐怖裏返しなのか口数が増える日色を煽りつつお化け屋敷を進んでいく。
「バア!」
お化け屋敷の半分を過ぎたころには心操の担当場所に着いたらしい。もともとの目つきの悪さと特殊メイクと相まってなかなかのクオリティだ。
「「…」」
でも、お化け屋敷の本質は恐怖、内通者として本物の巨悪に接し続けてきた佐々木のとって反応するに値しないものだった。それに気づけたのはもうお化け屋敷に入って最初に驚かされたときで手遅れだったんだけど。
「…流石にそこまで無反応だと恥ずかしいんだけど。」
「えっと、心操君だよな?俺たちこういうのの耐性めっちゃ高かったみたいで。」
日色がお化け屋敷にここまで耐性があるのは驚きだった。故にC組会心のお化け屋敷で全く驚かない二人。自信を喪失してお通夜みたいになってるだろうC組のことを思うと少し悪い気もする。
「なんかごめん」
「お、おおそうか、気遣わせたな…」
すごすごと天井に戻っていく心操を何とも言えない気分で見つめた。
*
「なあ佐々木、文化祭って楽しいものだよな。なのにどうしてこんな気分になってんだよ俺達は。」
げんなりとした声で日色が愚痴る。
「とりあえず僕たちとお化け屋敷が最悪の相性だったことは分かった。なんかすごく後悔してるよ。」
舞台裏で自信を無くしているであろうC組に引けを取らないほど暗い雰囲気でお化け屋敷を後にする。
「もうやめやめ。落ち込んだって意味ない意味ない!A組の出し物見に行こうぜ。パリピ空間を提供してくれるらしいから気分変えようぜ。」
そうして佐々木の文化祭巡りが終わった。
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「前半お疲れ様、ここからは後半組の時間だ。前半楽しませてもらった分は働くから楽しんできてね。」
D組の屋台の裏口を通り、戻ってきた佐々木と日色が前半組のクラスメイトを労いつつ引継ぎをしていく。
「その理屈だと俺最初の三十分は頑張らなくてもよくね?」
「こらこら。」
「いてっ」
余計な屁理屈をこねかける日色にデコピンをかまして業務に取り掛かった。
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「バナナクレープにリンゴクレープですね。少々お待ちください。」
「千円お預かりでお釣りは…」
「クレープいかがですかあ!」
「クレープのメニューと値段はこちらですどうぞー」
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クレープ生地を焼き、中身を詰めて、時折売り子をしているとあっという間に時間が過ぎた。
「壊理ちゃん、クレープ屋さんだよ。」
「えっと…クレープ?」
少しだけ流れが落ち着いてきた頃、D組のクレープ屋さんに緑谷と通形そして壊理が現れる。
「フルーツや生クリームをクレープ生地、えっと…小麦粉で作った生地に包んだスイーツのことだよ。」
「リンゴ!リンゴクレープあるよ。壊理ちゃんリンゴ好きでしょ!どうかな?」
(ビックスリーの通形ミリオ、あんなことがあった後なのに凄いよなあ。)
ビッグスリーの突然の休学ともなれば学年が違っても話題になった。そして佐々木の個性を使えば簡単に真相に迫ることができる。事実を知ったときは歯噛みしたものだ。個性消失弾、存在を知っていれば是が非でも手に入れていた。
(それでこの子が消失弾の元となった個性の子。運がいいな。直に視れるとは思わなかった。)
瞳がクリーム色に変色する。それで佐々木は彼女の人生のすべてを得る。
「可愛い可愛いお嬢さん、ここではちょっと変わり種のクレープはいかがですか?」
そう言ってクレープのフードメニューを指す。
「え、あ、その…」
この子の境遇については通形の過去を視てある程度知っているから出来るだけ怖がらせないように。
「甘いものは後でもっといいものが用意されますから、どうですか?」
「じゃあ、これ買っていいですか?」
そう言って後ろにいる緑谷と通形を見る。もちろんだよと朗らかに笑う二人は正しく英雄の素質があるのだろう。
「(サプライズにりんご飴つくりませんか?リンゴ好きなこの子なら大好物になると思うんですよ。大丈夫材料はあります。)」
かなり強引だが、この機を逃したらつぎいつこの子に接触できるか分からない。この子とパイプは是が非でも繋いでおきたいしそのためにはこの選択がベストだ。こっそり緑谷に耳打ちする。
「(えっなんで知ってるの!?)」
「(え?いやこの子がリンゴ好きらしいからあったら喜ぶだろうなって思って。)」
「(偶然?そっか、でもちょうどよかった。材料はあらかた買ったんだけど食紅が無かったんだ。ありがとう。お邪魔させてください。)」
佐々木と緑谷が話をつけると、緑谷が通形と壊理ちゃんに話を通す。強引だったが緑谷の作戦にかみ合える。
「あれ、緑谷君?委員長、どうして彼がここにいるの?」
調理場に入れば当然クラスメイトからそんな疑問が出る。彼は体育祭の一件で有名人だから名前程度はうちのクラスにも知られている。
「ちょっと生い立ちが不幸なりんごが大好物の子にサプライズでリンゴ飴を用意したいらしくて。そう言うサプライズには一枚噛ませてもらおうかなと。」
「へえ、流石ヒーロー科とヒーロー科を目指す人は違うなあ。」
「え!?佐々木君ヒーロー科目指してるの?」
「あー、まあそうなる、かな?」
「そっか、じゃあ同じクラスになるかもしれないんだ。そしたらよろしくね!」
曇りなき目に屈託のない笑顔。それは少し僕に効く。
「僕の話はまあ置いといてください。早く作ってしまいましょう、二十分もあればできるでしょうし。」
そう言ってリンゴ飴を作り始めた。
*
「佐々木君本当にありがとう!これで壊理ちゃんも喜ぶよ。」
「いえいえ、それで何時渡すつもりですか?」
「別れ際に渡すよ。最高の思い出に最後のダメ押し!」
「そっか、じゃあこっちで保存しておくから別れ際に取りに来てください。壊理ちゃんに最高の思い出をプレゼントしてきてくださいね。」
「うん!本当にありがとう。」
こっちがお礼を言いたいくらいだ。別れ際なら僕も顔を出せる。そうすれば壊理ちゃんに顔を通すことができる。ここでパイプをつなげられる。
*
「壊理ちゃん、サプラーイズ!」
放課後の校門、通形先輩と相澤先生、そして壊理ちゃん。校門の陰には佐々木君。
「りんご飴!?売ってた?俺探したよ?」
「プログラムを見て無いかもと思ったんで、買い出しの時に材料をそろえたんです。食紅だけコンビニになかったので…」
視線を送ると佐々木君が校門の影から顔を出す。
「僕が食紅を提供したサプライズの共犯者ですっ!」
「クレープ屋さんぶりだね壊理ちゃん。リンゴ飴喜んでくれたかな。」
急な登場に驚いてる壊理ちゃんにこの人がりんご飴作るのに協力してくれたんだよと口添えする。
「さらに甘い…!」
この笑顔が引き出せたんだから、サプライズを企画した甲斐があったと思う。
「また作りますよ、ねえ緑谷君。」
「もちろん、楽しみにしてて。」
「ありがとうデクさんクレープ屋さん!」
この子にとって今日が最高の思い出になってくれたみたいで本当に良かった。
決めたぞ私は。ムーンフィッシュがいなくて佐々木と印照が雄英のヒーロー科に入った世界線の文化祭デートする話を番外で書く。お化け屋敷のネタを過去視で全部知ってて印照にかっこつけようとする佐々木は私に需要がある。間違いない。