「なあ、佐々木のおかげで心操の脅威が減ったけど、それでも心操からでいいんだよな。」
「うん。万が一佐々木君がやられると彼が一番の脅威になる。先に狙うのは心操君だ。といっても僕が全員の位置を都合よく見つけられれば、だけど。」
「まあ心操君は潜伏しそうだもんね。罠に嵌めて捕える。こっちで準備はしとくから見つけたらすぐ連絡してね。」
麗日がそう言ってすぐ、開始のアナウンスが響いた。
「あ、緑谷君!飛び出す前に右目貸してください。」
「へ?」
驚いている緑谷に触れて
「こっちは右目閉じておくので邪魔にはなりません。場所を把握できますし、見落とす可能性も減ります。」
「そっか、ありがとう佐々木君、それじゃあ行ってくる!」
そう言って緑谷が飛び出した。
*
「きゃあ!」
試合開始から五分、佐々木達の元に麗日の叫び声が届く。ぎょっとして麗日を見るが叫んだ様子はない。
「今の心操ですね。」
「あのけだるい顔できゃあって叫んでるとこ見たい。」
「多分後悔しますよ。今後電話とかの通信とか、とにかく声だけのコミュニケーションをとるとき彼がちらつくので。」
「うげ、想像するだけできつい」
想像してしまったか、峰田がげんなりとした。
「もっと言うと通信機先の声が綺麗であればあるほど鮮明に想像されますからね。」
「うん。なんかごめん。やめとくよ。」
「そうしてください。」
「こらこら三人とも、今訓練中!」
「あっ、なんかくっついた!」
麗日が気を引き締めさせるのと、何か動きがあるのは同時。
「下がって!」
佐々木が指示をだして三人が彼の後ろに逃げる。手近な鉄パイプを武器代わりに飛んできた物体を全て弾く。
「柳さんのポルターガイストだ!」
「この程度の大きさなら大丈夫ですけど…」
当てずっぽうで飛んできている器具を弾きながら不安を告げる。そしてその不安は的中する。
「ですよね!」
急に大きく、否、元のサイズにもどって巨大化した物体に芦戸と位置を交換する。芦戸の酸のバリアが器具を溶かす。しかしこちらに向かってこなかった弾が佐々木達を囲うように浮いている。
「おいらすっごい嫌な予感がするんだけど。」
「奇遇ですね。僕もです。」
残りの弾も全て大きくなったかと思うと先ほどよりもはるかに速い速度で吹っ飛んできた。
「どわぁあ!」
狙いが付けられていないことが幸いし、何とか全て躱す。
「ヤバイヤバイぜ。多分今ので位置バレた。第二陣が来るぞ!」
「こっちが先に見つかるなんて!向こうにも索敵個性なんていないのに!」
「索敵に不向きって油断した!上鳴君のポインターみたいなアイテムでいくらでも工夫できるのにっ!」
三人が三様の反応をしていると佐々木が叫ぶ。
「黒い鞭のような攻撃が来るッ!」
「へ?」
「うひゃあ!」
第二陣が来たわけではない。全く見たこともない黒い靄のような鞭が無差別に攻撃を始めたのが緑谷の視界を介して見えた。当然その攻撃の主は緑谷だ。
「個性の暴走!?何やってるんだもう!」
今切りたい札じゃないが、このままだと緑谷が危険だ。とにかく駆け付けようと走り出すその前に。ほとんど反射のような素早さで駆けだした麗日が佐々木の先を行く。
「麗日止まれ!」
今の緑谷に近づくのは自殺行為だ。今の彼に近づいて良いのは止められる人だけだ。そして少なくとも麗日は止められないはずだ。
(心操が近くにいる!)
走って麗日を追いかける最中、緑谷の視界に心操が映った。これ幸いと麗日を追いかけるのをやめて心操の方に駆ける。
「心操ッ!緑谷に洗脳かけろ!それで止まる!」
逡巡は一瞬。何を問うか、その答えが出たんだろう。
「緑谷ァ!!」
「俺と戦おうぜ!」
「~~~~~おーーーゔ!」
黒い鞭のようなものが伸びきって、そして止まった。
*
「止まった…」
緑谷の急な暴走。あれがブラフだったらいいようにやられたことになるが、まさかそんなことはないだろうと隠れなおそうとして、佐々木の存在に気づく。
「まだ終わってないのに、随分気を緩めたね。」
間合いを詰められてる。この距離は近接の間合いだ。誰かと片目を
「おいおい、俺が止めなきゃあいつを欠いた状態で勝負だったんだぜ。今は見逃せよ。」
引いてくれない。洗脳にも引っかかってはくれないだろう。この距離じゃ逃げきれない。
「まだ終わってないんだもんな!」
ズドンズドン!
巨大化したナットが二つ佐々木を襲う。物間が助けにきてくれた。これなら逃げきれる。
「逃がさない!」
「うげっ」
助けに来るのがこっちだけなわけがない。分かっていたのに、でもよりによって緑谷がくるか。
動きによどみがない。どっちを相手するのが勝率が高いのか、読まれている。
「さっきのあれはブラフかよ!二人して俺の気持ちを弄びやがって!」
この距離なら、うまくいけばあるいはと捕縛布を使って捕えにかかる。腕に捕縛布が巻き付く。でもそれだけだ。その程度なら逆に引っ張られてしまう。
「チッ!」
振りほどこうと引っ張ったら緑谷ごと引っ張れた。
(個性使ってない?なぜだ?)
疑問を振り払う。むしろチャンスだ。今の緑谷なら捕えられる。もう一度捕縛布を展開する。その瞬間。
「またかよ!?」
黒い靄のようなもので捕縛布を防がれたのみならず、捕縛しようとしたのに逆に捕縛される。
「心操君!うわっ!」
「捕縛完了!」
物間の方を見る。佐々木にとらえられたようだ。
(さっきまで暴走してたじゃないか。だってのに、この一瞬で自分のものにしてさ。どいつもこいつも留まることなく成長していく。やっぱすげえよ。お前等。)
二人して捕まった。もう勝てない、そこからは早かった。あれよあれよという間に投獄されて、気づけば完封されてた。
「第五セット、何だか危険な部分もあったけど4-0でA組の勝利よ!」
ミッドナイト先生の声が据え置きプリズンに届く。
*
決着のアナウンスが響いた後、佐々木達が捕縛布をほどいていく。
「お疲れ、なかなか善戦してたし、きっと大丈夫だよ。僕たちは受かる。」
「一人ではなにもできなかったしまだまだ力不足でしょ。」
「別に一人でなんでもできることが
「何だとぅ!聞き捨てならないなァ佐々木君!うぎゅぅ!」
近くで聞いていたのだろう。物間が食って掛かる。それをイレイザーヘッドに止められた。
「すぐ講評の時間だ。余計に騒ぐんじゃない。非合理だ。」
暗い顔をしている俺を見かねたのだろうか。ため息一つついて話始める。
「佐々木のいうこともあながち間違いってわけでもない。生徒の時点で一人でなんでもできるってのはそれこそオールマイト級だよ。全てのヒーローがオールマイトだったらヴィランなんて存在してない。」
「人のために、その思いばっかりが先行してても人は救えないんだ。だからその思いと実力を合わせる訓練をここでしているんだ。」
「その点で言えばお前は十分及第点だよ。」
ここからは総評の時とでもばかりに踵を返す。
「相澤先生相澤先生、僕は?」
「お前は
そう言って今度こそイレイザーヘッドは戻っていった。
「ほらね。大丈夫だった。」
得意げに笑いかけてくる佐々木に、俺はようやく笑顔を返せた。
*
「見てくれ。準備が整ったのじゃよ、ジョンちゃん。これで死殻木弔があの方の後継として完成するんじゃ。」
そこはとある研究室。ある病院の奥底に隠された秘密の場所。そこに暗号が届く。
「ほほう!佐々木がヒーロー科に編入するか!」
殻木が内通者から得られた情報は、AFOから聞いていた予想の一つ。佐々木はこのタイミングを選んだわけじゃ。
「滑稽じゃとは思わないか、のう?モカちゃん。…おっとまだモカちゃんは未完成じゃったわ、かっかっか。」
AFOが捕まってから話し相手もいない。孤独に研究を続けるうちにすっかり脳無に話しかけるようになってしまった。たまには人と話したい。ちょうど準備が整ったことだし。
「ジョンちゃん、よろしく頼むぞ?」
ジョンちゃんのダイヤルを捻る。転送の個性が発動し、死殻木弔たち敵連合が呼び出される。
「さあ、我が旧友の悲願を成就させるとしようかのう。」
そう言って死殻木たちに会いに行く。
原作だと黒鞭顕現、心操の隠れてる場所に突っ込む、暴走が激しくなって無差別攻撃、の流れでしたが、この小説では暴走が激しくなって無差別攻撃、心操の隠れてる場所に突っ込む、再びぶっ飛びながら個性を暴走させるの流れとしています。
それはそうと物間、いくつコピーできるんですか?三つ?四つ?