内通者   作:三軒過歩

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内通者の切り札3

「やあっと、乗っ取れた。」

 

君は最悪の犯罪者になってしまったんだねと、感傷に浸りたくなるけれどそれに割ける時間はないと思考を切り替える。

 

「形勢逆転か、僕の負けだ。煮るなり焼くなり好きにしなよ。」

 

何のことはない。脳無が物間を襲っただけ。物間がペルソナコードをワープで取りに行こうとしたとき、佐々木は電波で脳無に指示を出していた。物間が脳無を無力化すると未来視染みた予測能力によって先手を打っていただけのこと。佐々木の狙った展開にならないようにこちらからも干渉したが、物間が私の想像以上に上手で結果として佐々木の思い通りになった。完全な不意打ちは物間の抹消を途切れさせるのに十分で、でも皮肉なことに、勝利に緩んだのは佐々木君も一緒だった。だからこそ私が彼の意識を乗っ取れたのだ。

 

「手荒な真似してごめん、すぐに開放するからもう少しだけ待って。」

 

私が前に出て居られる時間はそんなに長くない、と思う。乗っ取ったと言えどもこの体はやっぱり佐々木君のものだし、彼にばれないように隠れて機を伺っていた私では彼を押し込み続けられない、そんな感覚がある。

 

「面白い冗談だね。命を助ければ君の元に下るとでも思ってるのかな?」

 

言葉こそ軽いがその声音には怒気が含まれている。ヒーローを侮辱するなとそういう怒りが。

 

「いやいや、ごめん説明が足りなかった。私はヒーロー側だよ、といっても信じてくれないだろうけど…どう説明すればいいかな…」

 

過去視のことを佐々木君は目の前の子…物間君に明かしていないみたいで、それが状況をより悪化させてる。それでも彼ならこういう状況も想定していそうなものなんだけどと佐々木君の記憶を思い返していく。心当たりが一つあった。

 

「見つけた。へえ、取蔭さんっていうのか、裏で活動するのにもってこいの個性で、信頼も厚そうだ。」

 

転送を発動させる。比較的この体の近くにいてくれたことに感謝しつつ、物間君を送り込む。

 

「ごはっ、ごぼっ、これはッ…転送!?」

 

「取蔭さんのとこに送る。彼女なら佐々木君の事情を今の私以上に知ってるはずだ。」

 

「ま、までっ、佐々木ッ!」

 

物間が転送の個性から抜け出そうともがくがそんなものは何の意味もない。ワープの劣化と思われがちだけれど、転送にしかない利点も存在する。その一つが強制的に移動させることができること。もちろん発動条件はあるけれど。

 

「ヒーローを信じてる。でもだからこそ、AFOを倒す援護に行って。そして必ず、佐々木過渡を裁きに戻って来てね。」

 

物間君単体で佐々木過渡という巨大戦力と戦わせたんだ。戦力がどこも足りてないんだろう。それでもきっとヒーローは勝つ。だからこそAFOは奥の手を使うだろう。そうしたら流石に勝てない。戦局を覆しかねないその戦場で彼ならそれを止めるピースの一つになるだろう。

 

「面倒な説明を任せてごめん。」

 

取蔭切奈と物間寧人二人に思いを馳せる。佐々木君の記憶で知ってしまった。殻木がつくった巻き戻しの薬、それを使用されたとき、二人が加われば止められるのか、勝算は高くない。それでも送り出してしまったのは彼等が佐々木君が認めた英雄であるからか。

 

「さて、私も行かなくちゃ。」

 

筋肉増強+ジェット+剛腱

 

その場に衝撃波を残して飛び上がる。転送は自分自身を送れないから直接向かえない。転送で行ける範囲内のAFOを倒しに行くのが効率的なんだろうけど、抹消を持つ私が絶対に行かなきゃいけないところがある。戦局をたった一人でひっくり返せる個性を持つ敵、個性社会において最強の個性の一つ。

 

「間に合えばよし、大丈夫、ヒーローを信じなきゃね。」

 

言葉とは裏腹にさらに速度を上げた。

 

 

 

「なにこれくっさ!」

 

敵との最終決戦、戦っていたところ急にどぶのような異臭を発する液体が現れた。

 

「いきなりその反応は傷つくよ取蔭。」

 

「物間!」

 

無事だったことに喜ぶべきか、迷う。佐々木の情報によれば今物間はAFOの個性である転送によってここに送られてきたことになる。魅了を食らってAFOの駒にされていても不思議はない。

 

「(誰に送られたか聞いて。AFOなら敵に堕ちてるし、僕からなら僕が何らかの手段で魅了を破ったことになる。)」

 

脳内に佐々木の声が響く。その声に従うのは癪だが、それが最善、自分の感情は二の次だ。

 

「ごめんね、まさかこんな得体の知れない登場で味方が来るとは思えなかったんだ。どうしてここに来たのかな。」

 

「佐々木に事情を聞けって言われた。彼の言葉を借りるなら佐々木過渡の事情を佐々木以上に把握してる、らしい。どういうことかな。僕はB組のクラスメイトだけは疑いたくなかったんだけど。」

 

ああもう、佐々木に関わるとろくなことが無いと自分の脳内に現れた者に特大のため息をついた。

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