「取蔭ー具合でも悪いのかー?大丈夫?」
クラスメイトがドアを叩いて心配してくれているけどそれにぞんざいに返す。今は少なくともクラスメイトと関わるべきじゃない。
「(クラスメイトの好意を無下にしていいんですか?)」
「誰のせいでこうなってると思ってるのかな?」
全面戦争の時視覚と聴覚と一緒についてきた精神体。彼といっていいのか分からないがこいつは佐々木過渡を名乗って、彼しか知らないであろうことを次々と話していった。彼の視覚と聴覚から得られた情報とこいつが話す内容は一致してたし、それ以上のことも教えてくれた。それでも。
「(それはまあ…僕のせいか)」
「分かってるなら白々しく心配するふりしないでよ。」
「(わざわざ口に出さなくても僕との意志の疎通は出来ますから誰かに変な目で見られることはないと思いますけど。)」
コイツわざと言ってるんじゃないかと思うほど的外れで白々しい。そんなことが問題ではないことくらい分かるはずなのに。
「脳内で君と二人きりは嫌だなあ。既に何をしでかすか分からない裏切り者の精神と同居してるなんておかしくなりそうなのにさ。」
能に巣食う精神体との会話は確かに口に出す必要はない。自分の頭で思うことが相手に伝わるのだから。でも彼に近づきすぎると体の主導権を乗っ取られてしまうのではないかという不安が頭から離れない。おかげで寝不足だ。
「(乗っ取る気は全くないんですけど、信用ないのは仕方ないか。だったらこう考えたらどうでしょう。体に不調をきたしてるやつの身体を乗っ取っても使えなくて意味ないって。だから休息はとって欲しいです。)」
「体が正常なら乗っ取るとも取れるね。やっぱり体はある程度追い込んどいた方がよさそうだ。」
逆効果だったか、と残念がるその様は合同訓練の時の佐々木と変わりないように思える。君はどんな気持ちでヒーロー科編入とか言ってたのかな。私達を死んでもおかしくないような状況に追い込んだ張本人の癖に。
「(どんな気持ちってそんなの決まってるでしょう。僕は…)」
思考が読まれる。そのことに対するストレスは大きい。それが身体の不調に一役買ってくれるのは皮肉だ。
「言わなくていいよ。」
このやり取りも既に何回も繰り返している。その考えが理解ができるかどうかは置いておいて理解したくないから。こいつはまたそうですか、とだけ返して話題を変えた。
「(しかしまあ、根津校長もだいぶ忙しいみたいですね。雄英バリアの全容を把握できてるのが彼だけである以上仕方ない気がしますが。)」
「佐々木過渡の秘密について話がしたいと言えばすぐに会ってくれるって話だったのにもう三日だよ。忙しいのは分かってたけどここまで時間を空けられるならお前の存在を明かせばよかったかな。」
「(それはそうでしょう。僕があなたの中にいるって分かれば根津校長は君のことを何よりも優先してくれたはずです。今のところ君は内通者の佐々木過渡の個性を知っている程度の認識でしょうし。だとすれば対応が遅くなるのも頷けます。)」
対応がされてないわけではない。根津校長が対応できないだけで、その話をした直後から、監視の目は強くなってる。少なくとも、取蔭切奈は寮の外に出ようとすれば根津校長の手の者が監視するだろう。寮の中で、しかも部屋に閉じこもっているからこそ、それを感じることはないだろうが。
「校長に会えばお前の身分が保証されるってのもまだ半信半疑だよこっちは。根津校長が佐々木過渡を内通者だと知っていたならどうして今まで野放しにしていたのかだって気になるし。」
「(何事にも保険はかけておくものでしょう。僕が根津校長にそうしたように、彼も僕に保険をかけたんですよ。いざというときの切り札としてね。)」
「だとすれば今は君が魅了にかかって戦力外どころか敵に回ってしまったわけだから最悪の状況ってことか。」
「(力になれなくてそれは申し訳ないと思ってますよ?でもまあこうして切り札も二つ残してきたんでそれでなんとかとんとんくらいにはなったと思ってます。)」
その言葉に呼応するかのように扉が破壊された。
「(話をすればほら、僕が残したもう一つの切り札が来たみたいですよ?)」
そう言って引っ込む佐々木に取蔭は深いため息をついて声を発した。
「物間…鍵かけてたはずなんだけどな。」