「ごめんね、あれから三日もたってしまった。こっちにも事情があったこととはいえ、生徒を優先できないのは教師としては失格なのにさ。」
物間に会った次の日、ようやく根津校長と面会することに成功した。話の内容からして人払いが必須で、根津校長を一人にするということはこの情勢下ではありえないことだったけれど佐々木過渡が内通者であったと知るものが根津校長以外にもいたことでその人が根津校長の護衛に着くことになって、面会が実現した。そして秘密の共有者がもう一人増える。
「お前が佐々木過渡の秘密を知っているというのが真実ならば、お前がどっち側かこっちは判断がつかない。根津校長の護衛として俺は役不足だからお前の担任も呼んだ。俺達がいるのはそう言う都合だ。悪いがこの状況で話してもらうぞ。」
「(一対一に置いて無類の強さを誇るヒーロー、相澤消太、無事に守れて無駄死にを防げただけでも僕がいてよかったと思うんですよね。)」
よく言う。片足欠損で無事なんて言えるわけないのに。いやきっとこいつが言ってるのは彼ではなくて抹消という個性なのだろうけれど。
「ええ構いません。私が先生でもそうするでしょうし。お忙しい中時間を浪費したくないですから、合理的に行きましょう。」
話始める。三人の間に緊張が走った。
「全面戦争の時に私の脳内に佐々木の思念を再現されました。私が彼のことを知っているのはそう言う理由です。」
「思念再現、佐々木君からどんなものかは聞いている。だとすれば確認しなければならないね。君が取蔭切奈さんなのかそれとも佐々木過渡君なのか。」
どっちの精神が体を操っているのか、記憶を共有すればこそ佐々木過渡が取蔭切奈を演じるのは容易い。絶対にやろうとは思わないが取蔭切奈が佐々木過渡を演じることもできる。
「今のところは取蔭切奈です。ただ彼は常に頭にこびりついているような感覚で、ここでの話も精神体の彼には筒抜けです。彼に乗っ取られたとき私に抗う手段があるのかは分かりません。」
「(だから乗っ取るつもりがないと言っているじゃないですか。)」
「…本人にその気はないそうですけど。」
どこまで信用できるか分からない。この声を信じていいのか、それを判断するために、根津校長に会ってもらっている。
「まってくれ取蔭、お前は佐々木と会話できるのか?」
ブラトキングが驚いたように話す。確かに信じがたいかもしれない。きっと信じたくないんだ。そんなものと私が同居している事実を。私は悪魔に見初められちゃったみたいだから。もうただの学生ではいられない。
「貴方達は私がいま最も信頼できるヒーロー。だからあなたが佐々木過渡を信じるなら私も信じます。こいつを使い潰して、彼の傀儡になろうとも役に立ちますから。」
抹消が消えた。ブラトキングが言葉を失って、根津校長だけが何とか言葉を紡ぐ。
「取蔭さん、すまなかったね。そんなことになってるなら何を置いてでも優先すべきだったのに、無理をさせた。彼の思惑が私達ヒーローと同じところにはないのは事実だ。でも少なくとも彼は死殻木たちの敵でヒーローを勝たせたがってるその気持ちに嘘はない。」
一度言葉を切る。そして言い切った。
「彼の言葉は信用できる。だから何を知ったのか私達にも背負わせて欲しい。」
*
「内通者と言えどもしょせんはAFOの駒に過ぎないということですか。」
話をすべて聞いてイレイザーヘッドがそうこぼす。実際のところ佐々木が知っていることは敵の手に堕ちた佐々木の情報くらいで敵がどこに潜伏しているのかといった攻勢に転じられる情報はなかった。
「彼は連合の内通者ではなくAFOの内通者だったからね。AFOが捕まった神野区の戦い以降彼は連合との関わりを持っていない。こうなるのも仕方ないことではあるよ。」
「とはいえ佐々木過渡の状態が分かってるのはかなり大きいです。それに
「彼がこちら側なら話が早かったのだけどね。ない物ねだりはするだけ時間の無駄だ。とにかく今は相澤君の無事が確保されて何よりだよ。」
「これで対死殻木に俺が使えます。全盛期オールマイト級のパワーにAFOの個性群を同時に相手どれる戦力はこの日本にはありませんからね。」
OFA継承者緑谷出久、彼ならトップヒーローたちによる援護ありきならば死殻木とも渡り合えるかもしれない。それでも分の悪い勝負だ。
「まあ戦略が大きく変わることになるからね。塚内君たち警察に早急に共有するよ。君たちは来る日に備えておいてくれ。特に相澤君はね。」
義足に慣れる必要があるだろうからと言外に告げる。それに頷いて面会は終わった。
*
「学校側は内通者の存在を確信してたんだね。私からするといろいろと納得することもあったけど、向こうはそうでもないんだ。」
部屋に戻るとドアが直っていた。セメントス先生やエクトプラズム先生あたりがやってくれたのだろう。
「(内通者業はAFO逮捕後実質廃業してましたからね。僕が脅威なので僕の情報が有益になりましたけども。)」
「あんたがAFOの駒になってるって、詳細は分からないの?解除方法とかさ。」
「(残念ながら。)」
「あんたがこっち側に回るなら戦力差がマシになるんだけどな。」
この精神体が生きていることが佐々木がまだ死んでいないことの証明。生きているのにヒーロー側に来ないのは彼が犯罪者であるという理由ではなく、彼がAFOの駒になり下がったからだそうだ。話によれば佐々木の本体はハイエンド数体の個性をその身に宿しているらしい。戦力で言えばギガントマキアに匹敵するとか。個性ありきだから抹消で止められるのがせめてもの救いだ。
「(まあ、ともかくあなたが私を信頼してくれるようになったので個性の使い方について少しアドバイスしたいことと試してみたいことが…)」
話を変えてとかげのしっぽ切りの使い方について話してきた。今までの私では決してできないやり方。それでも出来るようになれば今までよりも強くなる。
「分かった分かった。やるよ。私にもっと力があればって思ったことは何度もある。やらせてもらいますとも。」
なんでもやるよ。勝つためなら。
この話書いてて思ったんですけど、佐々木って内通者の癖に敵の事情に全く精通してない。ちょっと書いてて恥ずかしくなりました。