内通者   作:三軒過歩

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内通者と心操人使3

「ヒーロー名は何かって?」

 

それはA組B組合同訓練の参加が決まり、二人で訓練をしていた時のこと。

 

「俺達はまだヒーロー科にすらいないんだぞ。そんなこと話してるのを聞かれたら笑われる。」

 

ヒーロー名を考えたことはあった。でも自分の個性も相まって、そんな話をするようなことはなかったし、それ以前にヒーローを目指してることを明かせた友人はいなかった。洗脳の分際でヒーローとかって馬鹿にされるから。ずっと言えなかった。

 

「君はヒーローになるんだから笑われるわけないじゃないじゃないですか。というか、ヒーローを目指す者ならヒーロー名を考えることくらいいくらでもあるでしょうに。」

 

一度は諫めようとしたけれど、諫めようとしたのが恥ずかしくなるほど真っ直ぐ彼は言い放ってくれて、だから口を滑らせた。

 

「ーーーー、とか?」

 

多少の気恥ずかしさを押し殺して、考えていたヒーロー名を口にする。

 

「仮面ヒーロー、個性にも似合ったいい名前じゃん。適度な厨二臭さも最高だね。男心をくすぐられるなあ。」

 

悪意なく厨二臭いと言い放つ佐々木にそういうお前はどうなんだと聞いた。

 

「へ?」

 

ぽかんとして考えたことなかったと言い放つ佐々木にあきれて一緒にヒーロー名を考えたりした。夢に向かって走り続けてた大変だけど充実した日々の一幕。佐々木との大切な思い出の一つ。

 

 

「イレイザー、その怪我は…!」

 

敵連合改め超常解放戦線との全面戦争はヒーローの敗北という形で幕を閉じた。その結果としてヒーローの信頼は地に落ちてヒーローを引退する者も後を絶たない。そしてヒーロー科を含む雄英生徒は寮内待機を命じられていた。そんな中心操の元を訪ねてきたのはA組担任のイレイザーヘッドだ。

 

「先の戦いでな。今はこの義足に一日でも早く慣れなきゃならない。悪いがリハビリに付き合ってもらうぞ。」

 

全面戦争からまだわずか一週間だというのに、この人は片足欠損の大けがから切り替えて次の敵へ備えている。

 

「これでもラッキーな方だったんだよ。嘆いてもどうにもならないし、そんなことに時間を割くのは不合理だ。」

 

目は残ったしなとゴーグルを手で弄びながら言う。

 

「準備ができたらいつもの場所に来てくれ、俺は先に行く。」

 

言葉を失っている俺にイレイザーヘッドはそれだけ告げると踵を返してC組の寮を去った。

 

 

なんとなく先に佐々木がいるんじゃないかと思っていた。あいつはいつも俺の先にいたから。でもその場に佐々木はいなくて、一緒に訓練するわけでもないらしいからイレイザーヘッドに佐々木はどうしているか聞いた。

 

「あいつの個性は内偵に向いてた。だから今は機密に関わってるよ。それ以上は教えられない。」

 

あいつに会って安心したかったけれど、それは許されないらしい。でも佐々木もヒーローとして頑張っていると知れて、少しはほっとした。追い詰められているようだったけれど、それでもあいつはどこまで行ってもヒーローで、はやく追い付かなければとイレイザーヘッドのリハビリにも身が入った。合間に俺の個性を強化する訓練も指導してくれて、彼のリハビリはそのまま俺の訓練にもなったから、たった一ヶ月弱にしては凄く強くなれたと思った。

 

ビシィッ!

 

「うわっ!」

 

模擬戦を繰り返し、イレイザーヘッドの捕縛布が俺を捕える。リハビリを始めて一週間もするころには義足ながら俺に勝ち始め、今や勝敗は俺の方が分が悪い。

 

「なかなか慣れないが、義足の強度は生身の足をはるかに凌駕する。悪いことばかりでもない、か。」

 

考え込むようにしながら捕縛布をほどいていくイレイザーヘッドにただただ感服するしかない。

 

「欠損を想定してでもいたんですか。」

 

感服ついでにポロリと漏れた言葉、失礼だったかと口を抑えるがもう遅く、気分を害したような様子もなくイレイザーヘッドは答えてくれる。

 

「いざって時のための引き出しは多ければ多いほどいいんだよ。幸いここにはいろんなヒーローがいて、それだけ引き出しが多かった。今回はその一つとかみ合ったってだけだ。」

 

脳裏にエクトプラズムが浮かぶ。彼も義足のヒーローだ。きっとイレイザーヘッドは雄英や他のヒーローからいろんな動き、技術を習得してきたんだろう。納得している俺にイレイザーヘッドは言葉を続けた。

 

「さて、状況が大きく動くことになってな。お前にもヒーロー活動をしてもらうための許可証を発行するために公安に会ってもらう。八時に迎えに行くから、明日は自室待機をしていてくれ。」

 

その言葉に熱くたぎる想いを感じた。ようやく佐々木に追いついたとそう信じられた。その想いは次の日のこの時間には砕かれていたけれど。

 

 

「先方の要望でここからは抹消を使わせてもらう。悪いな。」

 

雄英に一年以上過ごしてきて、それでも知らない道をいくつか通り、応接室の前に着いた。すまなそうにそう告げるイレイザーヘッドに構いませんと返事して失礼しますとドアを叩き中に入る。オールマイトと、心配そうな顔の警官と思しき男性、気の強そうな顔をして口元にほくろのある女性、そして根津校長、それに…

 

「こんにちは、心操人使君、私は警察関係者の塚内真です。急で悪いんだけど、どうか正直に答えてね。」

 

最初に話しかけてきたのは人の好い口調で手を差し出してきた塚内と名乗る女性。ほぼ無意識に握手を返して、意外にも強く掴まれたことに少し動揺する。

 

「貴方はこの人物に指示に従ったことがある?」

 

空いた手で写真を出される。会ったこともなくテレビで一度見ただけだが、忘れることなどできないような顔。一瞬どころか数秒思考が止まる。

 

「は?」

 

驚きがそのまま声に出てしまって動揺が伝わったのか補足をしてくれた。

 

「あるか、ないか。それを答えてくれればいいの。」

 

その言葉にとにかくありませんと答える。このオールマイトを終わらせた大犯罪者と俺には何の関わりもないし、指示されたって従うなんてありえない。

 

「俺は敵に屈したりはしません。俺の個性が洗脳だから、内通者とでも疑ってるんですか?」

 

努めて冷静に答ようとしたが言葉は自分の思った以上に刺々しいものになった。答えた後に目の前の人の顔が歪んでいるのを見て、怒りできつく手を握りしめていたことに気づき謝罪した。

 

「すいません、傷つけるつもりはなかったんです。ただ急なことに驚いただけで。」

 

「いえ、あなたの怒りは正当なものよ。こちらこそ踏み絵の真似事をさせてしまってごめんなさい。」

 

手を放し深々とお辞儀をする。

 

「そして、私達の力になってください。]

 

顔を上げてそして今度は力強く、宣言された。だから。

 

「俺の個性は人を助けるための物。力の限りやらせてもらいます。」

 

俺も応えなければとそう言った頃には抹消が切れていた。

 

 

「というわけでまだAFOの支配下にある内通者が見つかった。」

 

そう言って拘束されている青山優雅とその両親が映像に映し出される。

 

「彼等の話によれば内通者は複数いる。こちらで入手した情報とも相違ない。」

 

話が進んでいく中で気になることがいくつか飛び出す。なによりまさかヒーロー科にAFOの手先がいるという事実に驚きを隠せなかった。

 

「やつは万全を期してこちらに攻め込むだろう。だが、彼等を使えばAFOの出方を誘導できるかもしれない。そこで心操君、君の出番だ。」

 

「内通者を洗脳して偽の情報を流すってことですか。でも嘘がバレるんじゃないですか、話を聞くところによれば個性を奪えるのでしょう?裏切ったかどうかを判別できる個性があってもおかしくない、それこそ、この場にもいるじゃないですか。」

 

内通者はかなりの数が潜んでいると話の流れから推測できた。であれば言葉からそれの真偽を判別できても不思議じゃない。AFOを裏切った者を粛清して内通者を恐怖で支配出来たからこそ、相当数の内通者がいるのだろう。

 

「私達もそう思っていたのだが、どうやらAFOは悪意や害意を感じ取る個性はあれど思考を読めるような個性はないと情報を得てる。」

 

その情報が信用できるのか、疑問が顔に出たのだろう。補足が入る。

 

「情報元は明かせないが、信用にたる確度であることは確かだ。全面的に信頼するわけでもないがこちらの予測ともあっている。疑っていては話が進まない。」

 

その補足にかぶせるように口を開いたのは大人たちに交じっている自身を除けば唯一の生徒、取蔭切奈だった。

 

「情報元は僕ですよ。僕が確かめたんです。AFOの下で働く中でね。」

 

その声は取蔭の声だ。彼女のことなどほとんど知らないから、今みたいな話し方をするのが彼女にとっての普通なのかもしれない。なのに佐々木の声で再生された。

 

「は、おま…何言ってんだよ。お前も内通者だとでもいうのか、だったらお前は何でここにいる。」

 

その違和感に目を瞑り、取蔭に詰め寄った。笑えない、否、許せない冗談だ。

 

「君の存在は説明しても受け入れがたいだろう。彼に正体を明かす必要はなかったはずだ。」

 

「どうせそのうちバレること。彼なら、仮面ヒーロー()()()()ならすぐ納得してくれますよ。」

 

聞き逃せない言葉を放たれた。そのヒーロー名を知ってるのは、その二つ名を考えたのは、取蔭じゃない。それを知ってるのは俺と、佐々木しかいないはずだ。

 

「お前、その名前をどこで」

 

「どこでも何も、僕のヒーロー名を考えてくれたじゃないか。察しのいい君なら僕の正体に気づいたでしょ。」

 

理解を感情が拒む。だけど理性が理解を促してくる。

 

「じゃあその姿はなんだよ。お前の体はどこにある、取蔭の精神はどこに行った?」

 

「僕の体は敵の元、取蔭の精神はこの体に残ってるよ。肉片の一つ一つに精神は宿る。十片は取蔭が動かしてる。」

 

髪に隠されていた右目、本来あるはずべき場所になくて、そうしてみればところどころ欠けている。右目、右耳、それと目立たない部分から少しずつ。

 

「彼女は今個性の特訓をしてる。時間をかければかけるだけ良い類のものだ。だからここにはいない。情報は共有できるから呼び戻すことは出来るけど。」

 

「いい、これ以上会議を止めるべきじゃない。そう言うものだと飲み込んでおく。」

 

「ね、すぐに納得してくれた。」

 

警官に得意げに言う様は、合同訓練の時と見た目は違うのにそっくりだ。分断作戦の概要が語られ始めた。

 

 

「さて、これから忙しくなる。時間を作るのは今日が一番いい。聞きたい事、何でも答えるよ。いつからだとかね。」

 

会議が終わって、応接室に二人残った。監視の目はあるだろうが、むしろ安全なんだろう。

 

「この一件が片付いたとき、お前はどうなるんだ。」

 

さんざん悩んだ末、出てきた疑問はこの先の話。裏切られていたことにショックを受けてたけど、今のこいつは敵じゃない。だったら今は過去を振り返る時間ではない。

 

「僕の本体がないと今すぐに消すことはできない。ただ、この体は僕にとっては借り物。放っておいても時がたてば取蔭切奈の中の僕は消えるよ。そうだな、あと二ヶ月、長くても半年後には消える。これは確定事項だ。」

 

取蔭の体で取蔭の声で、でも佐々木だとすんなり受け入れていた。ふと、佐々木の本体がどうなってるのか疑問が膨れてきた。精神が抜けた抜け殻になってるのだろうか。それを察してくれたのか、佐々木が話し出す。

 

「本体にも僕の精神はあるよ。AFOになんらかの個性で彼の忠実な駒になってるけどね。そうなる前の精神を彼女の身体に再現したから今こんなふうになってる。」

 

敵との最終決戦で佐々木は敵としても立ちはだかるらしい。なるほどと納得して、恐ろしいことに気づいてしまった。

 

「お前、今相当強いだろ。誰が止める。」

 

共有(リンク)の個性で個性を複数所持出来る死殻木やAFOに次ぐ強さ。ただでさえぎりぎりの戦力、それを抑えられるヒーローはいない。

 

「物間に脳無の個性を与えてる。彼が僕本体を相手することになるんじゃないかな。初動で相澤先生が僕を視れれば勝てる分のいい勝負だよ。」

 

軽い口調で言うが、作戦会議で彼我の戦力差を知った俺は分かってしまう。それでもいま、俺は子供のように駄々をこねることしかできない。

 

「おまえ、分かってんのか、今のヒーローにお前ほどの戦力を無力化し続けるほど余裕はない。お前は物間に、同じ雄英生を殺せって言ってんだぞ。」

 

生徒同士の殺し合い。そんなことを物間にさせようって言うのか。

 

「嘘だろ、なァ、嘘って言ってくれよ。」

 

きっと物間には消えない傷が刻まれる。ああ違うな。俺が嫌がってるのはそれが主な理由じゃない。死ななけりゃならない状態になって、許されないことをしていて、そんなことになってるこいつの異変に気づけなかった。そんな自分を直視したくないから駄々こねてるんだ。

 

「心操、僕の目的は達せられるんだよ。この作戦に勝てれば本物だけが残る。満足してるんだ。」

 

そんな風に言わないでくれ。達観しないでくれ。お前は俺と同じ高校生に過ぎないだろう。俺に手を差し伸べさせてくれよ。

 

「上手くやれ。先手を打てるかどうか、君が鍵だ。」

 

差し伸べようとした手を押しとどめられて、発破かけられて、俺は前を見るしかなかった。




塚内真さん、個性嘘発見器(ポリグラフ)、アメリカにいたんですけど日本の状況を見てすっ飛んでくる肝っ玉お姉さんです。なお妹です。ヴィジランテから出張してきてもらいました。
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