内通者   作:三軒過歩

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内通者の切り札4

「さて、私も行かなくちゃ。」

 

筋肉増強+ジェット+剛腱

 

その場に衝撃波を残して飛び上がる。転送は自分自身を送れないから直接向かえない。転送で行ける範囲内のAFOを倒しに行くのが効率的なんだろうけど、抹消を持つ私が絶対に行かなきゃいけないところがある。戦局をたった一人でひっくり返せる個性を持つ敵、個性社会において最強の個性の一つ。

 

「間に合えばよし、大丈夫、ヒーローを信じなきゃね」

 

言葉とは裏腹にさらに速度を上げた。

 

 

「悪の親玉と必死に戦ってる人に対して随分な物言いだねえ。私の担当区域を忘れたのかな?」

 

「ヒーロー科編入と内通者を同時にやっていた者を知っているもので。」

 

「この状況で問答とか余裕あるねッ!」

 

エンデヴァーの炎に巻き込まれないように逃げながらそう言い放つ。実際にそれくらいの余裕はお互いにあるのだがAFOとの戦いに介入できるほどの余力はない。

 

「それはお互い様、…それで?」

 

皮肉の後に短く一言、たったそれだけで何が聞きたいのか分かってしまって、それがどうしようもなく嬉しくて、

 

「(信頼されてますね。羨ましい。)」

 

それをこいつに気取られることに思うところはあるけれど。

 

「私を信じてくれればいいよ。」

 

「オーケー、それじゃあ魔王討伐を始めようか。」

 

理由も聞かないで、ただ一年間同じクラスだっただけ、そのつながりだけで彼は受け入れてくれる、そんな…

 

「援護は任せな勇者様?」

 

そんな、私の英雄。

 

 

「(合同訓練の時から感じてたことなんだけど君は分割の仕方が甘いですよね。人に当たってもダメージが少ないように丸く分割してる。)」

 

コイツを信用すると決めた後、佐々木から言われた個性の使い方に対する警告。

 

「ヒーローは誰かを守る仕事だよ。私の個性は誰かを傷つける物じゃない。」

 

「(ヒーローは敵から誰かを守る者です。戦える方法がありながらそれを使わないなんてありえない。あなたが偽物なら僕は迷わず乗っ取るぞ。)」

 

口調が少し強まって佐々木の意識が強くなる。

 

「あんたに乗っ取られる程私は弱くない。そんなやり方も練習してきたさ。」

 

そう言って体を五十に分割させる。四面体のように四方が尖るように分割される肉片はそれ一つ一つが凶器だ。これを取蔭は相当な速度で動かせる。

 

「(へえ、目をつけてたんですね。速すぎる男のこと)」

 

「私と彼の個性って似てたからね。」

 

飛べて、感知できて、そして生え変わる個性。浮けて、感知できて、再生する個性。トカゲのしっぽ切りと剛翼の個性はよく似てる。ただ違うこともある。

 

「彼と比べて圧倒的に速さが足りない。手数も劣ってる。」

 

「(ふむ…)」

 

佐々木は思考する。彼女は劣化と自嘲するが再生速度では剛翼よりはるかに速い。なにより、トカゲのしっぽ切りは()()()()()のだ。

 

「(その肉片、半分だけ動かすんだったら速度上がりません?)」

 

「精度が上がるだけだよ。実験済み」

 

「(それじゃあ一片だけ、銃を打ち込むみたいに一発だけ射出するイメージだったら?)」

 

「それはやったことないな。一片だけじゃ手数が足りなすぎるし。」

 

そう言うと五十に分割させた体をもとに戻して一片だけ宙に浮かせた。

 

「(威力も気になりますから遠慮なく撃ち込んでみてください。そのための運動場です。)」

 

その言葉を受けて、取蔭は全力で肉片を撃ち込んだ。しかし多少速度が上がっただけで思ったほどの速度と威力が出ていない。

 

「(個性なんて超常現象、イメージ次第でどこまでも化けると思うんですけど、速度も威力も思ったほどでないですね。)」

 

「個性は身体機能だって。限度はあるでしょ。」

 

「(それは考えが古いですね。様々な個性が混ざり合った結果個性はより複雑に強固に、身体機能という理さえも超えて、発現します。)」

 

その言葉を聞いた直後右手の自由を奪われる。

 

「ちょっ!」

 

気づけば肉片は体育館のコンクリに突き刺さっている。

 

「(リソースが五十分の一でいいんだから単純に五十倍とは言わずともこれくらいは出来るでしょう。)」

 

先ほどよりもさらに凄まじい威力と速さ、速すぎる男にも匹敵するのではないかと思えるほどの。

 

「(さて、一片だけでなく十片くらいは同時にこのレベルで動かせるようにしましょうか。)」

 

「私、あなたがキライだ。」

 

「(ここは尊敬するとこでしょうに。)」

 

こともなく言い放った佐々木のせめてもの抵抗も軽く流されて、取蔭は深くため息をついた。

 

 

「世界中の未来を阻みたい、ただそうありたいと願っただけなんだ。」

 

「だったら僕はお前のような奴の未来を阻みたいと願っただけですねっ!」

 

最大火力は間違いなくエンデヴァーだ。だから時間を稼ごうとホークスが口を開いて、それにAFOが答えて、そしてそんな小細工は不要だと物間が殴り掛かる。

 

「物間寧人、下位とはいえ僕と互換性のある個性だ。先ほどの先制は見事だったね。」

 

簡単に受け止められた。

 

「君の個性は面倒だからね。もらっておくよ。」

 

「奪えるとでも?」

 

AFOをコピーする。個性を奪い合う綱引きが展開される。

 

「権力が弱いのがここでも響くか。」

 

「コピーした個性って使いにくいよねぇ!僕にとってはいつもの日常だけどさ!!」

 

腕をつかんで取っ組み合うAFOの背後に超速の肉片が浮遊して突き刺さる。それは肉を抉るだけ、それもすぐに再生した。

 

「(自滅覚悟の巻き戻し、一撃で決めなきゃ意味なさそうですね。)」

 

「残念ながら私達にそこまでの決定力はないでしょ。ここでそれが出来るのはエンデヴァーだけ。」

 

横目にエンデヴァーを見るが、動けるような様子じゃない。だとしたらAFOを倒せるのは一人だ。

 

「私とお前の同時使用で、物間とAFOを引きはがすよ。」

 

エンデヴァーの個性を物間にコピーしてもらうために援護するのが私の役目だ。

 

「(本物の要望とあらば。)」

 

肉片を最初は一片、そして二週間後には十片使えるようになった。そして、この決戦が始まるまで、彼女は僕の倍の二十の肉片を同時に扱えるようになっていた。発想とやり方は教えられたが、彼女は僕よりもはるかに上手くトカゲのしっぽ切りを扱った。そして、精神が同居している今、二人で三十の肉片をホークスの剛翼と同じ速度で扱える。

 

「羽虫をないがしろにしてしてやられたから、今度はそんなことないように入念につぶすよ」

 

何とか物間とAFOを引きはがして、ではなく、攻撃が来る前に取っ組み合いを避けたAFOを見て物間に口の部分を飛ばした。

 

「決定力がいる。」

 

それを聞いてすぐに動き出してくれた。

 

「させないさ、ヒーローの嫌がることをするのは敵の特権だ。」

 

()()()ビートウォール!

 

物間への追撃をイヤホンジャックが片耳で防いでさらなる追撃をホークスが止める。

 

「おや?動きが良くなったね。要は彼女か。」

 

ツクヨミの動きもホークスの動きも取蔭の肉片の援護によって数段階上の速度になっている。ホークスは速すぎる男に返り咲き、ツクヨミもそれに伍する速度を得た。その理由をありえないほど早く突き止めたAFOが取蔭に迫る。

 

「「リザーディ!」」

 

悲鳴のような声がツクヨミとイヤホンジャックから聞こえてくる。急旋回してホークスが助けに動くが間に合わない。

 

「本体はぁ囮っ!」

 

本体を分割させて、機能を停止させる。少しだけ離れた場所に大きめに分割させた肉片から再生が始まる。また一片だけ隠してAFOの前に出る。どうせ隠れても追って来る、戦局を見れる場所に居たかった。

 

「変わり身の術かな、便利だね。でもどうするのかな、君がここに戻ってくるまでにお友達はやられちゃったわけだけど。」

 

すぐに出来る限り早く、戻ってきたはずだ。それでは全く足りないのだと突きつけられる。煙が晴れようかという頃、物間の声が響いた。

 

「は、ハア!?まだ誰も死んでないんですけど!」

 

個性をコピーしてとんぼ返りしてきた物間がツクヨミとイヤホンジャックへの攻撃をその身で受けて、庇いきれずに後ろの二人はもう動けないだろうけれど、まだ死んでない。

 

「火傷したそばから超再生で復活、痛みが無いわけじゃないんだ、激痛だろうによくやるよ、そんな欠陥個性で。」

 

「何でも出来るスーパー個性でしょうがッ僕がこの個性をどれだけ羨んだか、あんた知らないでしょ!」

 

「それは悪かったね、最初で最後の機会だ、存分に身を焦がすがいいよ。」

 

「最後って、あんた何言って…」

 

目の前にはエンデヴァーの身体が横たわっている。心臓が、貫かれてた。

 

「コピーした個性とその小さな体で君は僕の攻撃を防げる気でいたのかな。僕は今、肉体の全盛期を迎えてるわけだけど。」

 

エンデヴァーがその炎と大きな体で攻撃を緩めてくれたから、後ろの二人を守ることができたのだと、痛感した。でもそれでも信じられなかった。あんなボロボロで、動くのもやっとなはずで、熱をその身にため込みすぎて個性もまともに使えないはずだったのに、脳無の個性とヘルフレイムをもった僕よりも早く動くなんてありえないって。

 

「ヒーローは守るもののためなら何度も限界を超えてくる。殺さないと何度でも立ち向かってくる。だから殺した。」

 

その薄笑いに恐怖で支配される。なあ佐々木、たかがハイエンド個性群如きでこの化け物に勝てると思ってたのか、お前はこれを予見してたんだろうけど、実際に全盛期のこいつと対面したことはあったのか、こんな化け物にどうやって勝てばいいんだよ。

 

 

「ツクヨミッ!イヤホンジャックッ!エンデヴァー!!」

 

「(動揺するなよ英雄、自分がああなることは覚悟してたのに、他のヒーローがそうなる覚悟は済ませてなかったのか?)」

 

「してたさっ、でもこれは違うだろ、まだ戦いが終わってないんだよっ!守れないまま死なせられない!道半ばで死ぬ覚悟は済ませてないんだ!!」

 

「(誰かを守って道半ばで死ぬことくらい想定してしかるべき、君の言ってることは綺麗ごと…)」

 

コイツはいつもそうだ。間違った道に進んだくせに正論をたたきつけてくる。

 

「物間ッ、追うよっ!」

 

叫ぶ。AFOが動き出してる。追い付ける速度を出せる人間はごく限られてて、私と物間はその限られた人間の内の一人、ここで止まることは許されない。きっと道半ばで死ぬエンデヴァーもここで私達が止まることを望まない。

 

「(いや、それも英雄たる素質なのかな。)」

 

飛び出そうとしたところでいくつかの肉片が分離する。佐々木が勝手に動かしてエンデヴァーの元に向かって行った。

 

「(英雄とはきれいごと実践する者のこと…か。延命させてエンデヴァーと追いかける。先行って。)」

 

思考をそれだけ受け取って、取蔭は飛び出した。

 

「時間を稼ぐよ、ほっときゃ消える!」

 

ホークスが物間たちにそう叫ぶ。これはブラフ、エンデヴァーの個性を物間が使えるうちでなければ彼を止められない。時間稼ぎと言いつつその逆、速攻にしか勝機はない。物間、ホークス、そして取蔭自身を含めた三人でAFOを囲む。

 

「誤解が無いよう言っておくけど、僕が羽虫と断じたのはエンデヴァーだけだ。君たち三人は羽虫程度の脅威も感じていない。仕掛けるならご自由に、エンデヴァーの個性があるうちが勝負だろう?」

 

見透かすようなことを言って、さらに速度を上げた。取蔭の援護を得てさらにそれよりも早く動いた三人が再び囲んだ。最初に仕掛けたのは取蔭だ。

 

「なくても余裕だけどね?」

 

ー赫灼熱拳

 

「ジェットバーン!」

 

AFOの周りにまとわりついて速度を落として鈍ったところに物間が最大火力をぶっ放す。それをAFOは避けない。押さえつけていた取蔭もろとも焼き払った。直前で肉片の機能を止めて、残した部分から再生を始める。さっき囮に使った二十片の肉片も再生しきらないままに、十片を燃やした。最高速度が出せる三十片は常に用意出来てはいるが、これ以上のダメージはそうそう負えない。

 

「容赦ないねえ。クラスメイトだけ燃やすなんてそれでもヒーローかな。彼女も無限に再生できるわけじゃないだろうに。」

 

ガキン!

 

矢継ぎ早に攻めたホークスが剣で首に切りかかるが逆に剣が折れた。

 

「あの少女の援護に適応した素晴らしい速度だ。でも残念、圧倒的に威力が足りない。」

 

「どんな硬さしてんすか!普通人は首切られたら死ぬでしょ!」

 

軽口叩きつつすぐに離脱する。ホークスでも攻撃力が足りないと分かった中で三人思考は一致する。ホークスと取蔭で片手ずつ抑えて物間がプロミネンスを撃ち込むしかないと。

 

(超再生があるとはいえ、エンデヴァーさんのような耐性のある体じゃないから全身が焼けこげる痛みを伴う、そんなことをさせないと止められないとは、情けなか。)

 

それでも任せるしかない。俺の背中じゃ安心させられんから。

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