「私はまだ、あなたと恋バナしてない!」
トガヒミコの敵意が奇跡を起こす。荼毘が持っていたトゥワイスの血を得て、無敵の物量を得た。
「出来たらよかったね。」
どこからか現れた黒霧に答えて、他の戦場に散ろうとする。それを、止める。
「いいじゃん恋バナ、していきなよ。」
戦場に最強の物量が加わる。
「この戦いが終わるまでさ。」
*
ワープゲートをくぐろうとした本体を掴んで叩き潰す。
「黒霧さん、行って、私が一人でも行けば状況は覆る。」
「させない!」
ワープゲートを通ろうとしている分身に抹消を発動させる。消えない。抹消では二倍は崩れない。何体かの分身体がワープゲートをくぐる。それで十分だ。戦況はひっくり返る。
「大丈夫、ヒーローは、どんな逆境もはねのける。」
分身に逃げられたことに対する舌打ち一つ、すぐに意識を切り替えて、転送を発動させた。
「姿見せてくれてありがとう。黒霧、あなたと佐々木君は一緒にヒーロー殺した仲だからね。転送の条件には十分だ。」
そう言って黒霧を手元に呼び込んで抹消を発動させて、開きっぱなしだったワープゲートが閉じられた。
「あれは…佐々木君!?」
「疑問は後にしましょ、お茶子ちゃん。頼もしい援軍がきた。今大切なのはその事実だけよ。」
そう言いながら残った脳無と増えたトガの分身たちに相対した。
*
佐々木過渡が内通者であると知るものはごく限られる。隣人が敵の手先かもしれない、その事実は市民を大混乱に陥れるからだ。だから佐々木過渡が内通者である事実は伏せられ、それを知るものはヒーローをやっている雄英教師、トップヒーロー、さらには公安、警察の一部、他例外的に数名いるのみだ。佐々木過渡という特大戦力にただ一人、物間寧人しかあてがわなかったのもその事実を伏せるためだ。そして今、奥戸島で佐々木過渡が内通者であることを知るのはその戦場を任されたトップヒーローのギャングオルカだけだ。
「ギャングオルカ!情報のない援軍が気になるのは分かりますけど、そんなに気にしてる余裕ないです!」
唯一彼が内通者であることを知っているからこそ、ギャングオルカの動きが鈍る。それでもこの場の誰より活躍しているが、全力のその先を求められる状況でその隙をカバーするのは至難の業だ。連携している他事務所のヒーローが集中してくれと苦言を呈す。
「しゃちょー、気になるなら抑えてきてください。こっちは俺達で何とかするんで。」
その苦言が聞こえていただろうに、ギャングオルカのサイドキックはこともなげに言い放つ。動揺と怒りで混ぜられた他事務所のヒーローの視線を一瞥してそれでも彼らは前言を撤回しない。
「分かった。すぐ済ませてくる。」
そう言って彼等を背に、佐々木過渡と黒霧に接敵する。
*
「お前はッどっち側だ!」
黒霧をおさえつけて数秒と立たず、ギャングオルカが接近する。その超音波攻撃は佐々木と押さえつけている黒霧とトガを囲っているトガの分身体を綺麗に破壊した。
「貴方達の味方、その証明をし続けているつもりです。」
その言葉を否定することはできない。トガの本体と黒霧を抑え込んでいるこの状況は、彼が敵側としてとる行動としてはありえなかった。それでもすぐには信じられる話じゃない。佐々木過渡は殺人者だ、それを印照才加は知ってしまった。知ってしまって、ヒーローに受け入れられないとしても、彼女はヒーローのために動くのだ。
「カッコイイねえ。佐々木クン、ステ様や出久クンみたい。ちょっと前までそんなふうじゃ無かったよね。何があったのかなぁ、気になるなぁ。」
トガの分身がうっとりとした目でそうこぼす。その言葉には余裕すらあった。
「今の彼がカッコいいわけないよ。」
分身体を各戦場に散らしてそれで既に黒霧の役割はほとんどこなせている。この戦場で勝てても他が負ければヒーローは負けだ。それを分かっているから、この場にいるトガには余裕がある。黒霧を抹消で無力化してもこの戦場以外で意味はないと知っているから。
「ガアアア!」
ギャングオルカが超音波を黒霧にぶつけた。その攻撃は密着していた佐々木にもある程度来るものではあるが、所詮は余波。音波による振動で気絶した黒霧に対して佐々木は少し頭を振るだけで思考を再びクリアにする。そしてその頭を振った瞬間に。
「隙ありです。」
舌を噛んで気絶を防いだトガが一斉に増える。群がる。哀れな行進を展開して、
物量が爆発する。
*
「伏せろッ!」
襲い掛かってくるトゥワイスに変身したトガから守るように、ギャングオルカが佐々木の身体に覆いかぶさる。強度は普通の人間のそれだからシャチの特徴を持つ彼の方が頑強で合理的ではある。超再生と筋肉増強、この二つに目を瞑ればの話だ。咄嗟に筋肉の肉壁を展開した印照の動きと破滅的にかみ合わなかった。ギャングオルカを弾き、ギャングオルカに明確な隙をつくる。
(不味いっ!)
咄嗟にはじかれたギャングオルカを守ろうと飛び上がる。しかしトップヒーローが隙を防ぐ術を持っていないわけもない。その算段と、助けようと動いた印照の動きがまたお互いを阻害する。
「動揺しちゃったねえ。動きが素人丸出しだよ?」
何らかの薬品をギャングオルカに投げつける。避けられたはずのその攻撃は印照の善意が仇となって避けられず、腕で弾く。薬品が彼に降りかかる。脳無が相手していたヒーローたちを押しのけてギャングオルカに群がる。
「ギャングオルカ!」
「今度は私が足止めする番」
ヒーロー側が唯一その命の有無を問わない敵。そんな相手に対して佐々木過渡が
「ああもうっ!」
苛立ちが募って、それでも動きは精密にしなければならない。己という巨大戦力がトガ一人に抑え込まれることの焦り。
状況を好転させるためには印照才加は潔癖すぎた。