内通者   作:三軒過歩

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無個性の人間

ワープで移動して最初に目に入ったのは増えまくったトゥワイスに苦戦するイレイザーヘッドとプレゼントマイクだった。一人でもイレイザーの視線から外れていれば無限に増え続けるその凶悪性を前にトゥワイスを相手しながら抹消を死殻木にかけ続けるということはできなかったのだろう。雄英から死殻木と緑谷は飛び出していた。

 

「マイクと俺でトゥワイスを片付ける、五分はかけない。」

 

範囲攻撃に優れたギャングオルカがそう告げてトゥワイスの集団に超音波を撃ち込んだ。

 

「ゴフッ!」

 

イレイザーヘッドは転送の条件を満たしていたから、手元に呼び込む。なれない義足、安全圏から抹消をかけられるような状況じゃなくなり、今の彼は緑谷と死殻木の戦いには足手まといだ。

 

「イレイザーヘッド、まだ動ける人の手当てをお願いします。抹消は僕に任せて。」

 

あなたの役目を変わるとは言わない。僕は英雄のように振舞う気もなければそれ以前に資格もない。

 

「分かった。これをもってけ。」

 

悔しさをにじませた声音で耳に付けていた通信機とゴーグルを渡してくる。戦線を離脱するイレイザーと加わる佐々木、情報が必要なのがどっちかなんて明白だ。

 

「そうやって託せるところ、僕はカッコイイと思います。」

 

佐々木がそう残して戦いに赴いた。

 

 

「ルミリオン、サンイーターとねじれちゃんは!?」

 

「応急処置はしました、安静にしていられれば命は助かる。」

 

戦線復帰は不可能という宣言、ベストジーニストを横目で見れば彼は傷口を個性で縫合しているようで、まだ戦うつもりだろう。爆豪はもう動けるはずもなく、エッジショットも彼の処置に付きっきりで、ミルコも四肢全てを失った。佐々木の言う動ける人の処置は出来ないだろうと急いでミルコの処置に向かって、そして。

 

「イレイザー…お前のーー」

 

ミルコの姿を見て託せるところがカッコいいなんて俺は思えなかった。

 

 

「あ?」

 

急に死殻木の動きから精彩が消えて歪になる。急にそんな風になったなら、緑谷も罠を警戒するだろう。でもそうはならない。彼に送られた通信と、視界の端に移ったゲートがその歪な動きが自分の味方に作られたと知ることができたから。

 

「スマーッシュッ!」

 

隙のできた横腹に全力の拳を叩き込んだ。

 

「三十秒が限界ですから。」

 

通信が入る。瞼を閉じないでいられる限界の時間、イレイザーヘッドのように瞼を閉じないように苦心しながらの戦闘経験なんてない。瞼に意識を割いている間の動きは鈍り、インターバルはだんだんと短くなってくる。

 

「充分っ!」

 

ラッシュを撃ち込んでいく。二回目の加速を発動させてから五分以内に個性を使える死殻木を仕留めなければならなかった。それと比べれば個性が使えない状態に死殻木を三十秒していられるというのはこの上ないアドバンテージだ。緑谷の動きが()()する。

 

 

「やけに饒舌じゃねえか。この日が終わった後、お前はお前の旧友共々、裁かれるってのに。」

 

「はは…、やはり今日がその決戦の日じゃったか。」

 

とある場所の警察署、殻木が閉じ込められた部屋で、警官と二人、会話は続く。

 

「今更隠しても意味ねえ見たいだからな。その日が今日だっただけで、明日になることはあっても、その日が来ないことはありえない。」

 

「そうじゃな。ようやく証明される日が来た。わしが提唱した数々の説がこの戦いで証明されていく。」

 

忌々し気にそう言う警官に殻木は同意して、そして心底嬉しそうに言った。

 

「個性は混ざり合い複雑化して、さらに強力に、個性特異点を超えた者たちの戦いは想定を超えるものになるってか?」

 

「はは、想定を超えるじゃと?そんなレベルでは済まないじゃろうよ。この戦いのキーマンとなるのはAFOとOFA、元無個性同士の戦いなのじゃからな。」

 

「無個性同士だから何だってんだよ。」

 

無個性だったことが何の関係があるのかと不思議がる警官に殻木はさらに饒舌に話し続けた。

 

「第四世代の人間はほとんどが個性を持っている。総人口の八割が個性持ちなんて言うが、20歳以下で見れば九割九分は個性持ちじゃ。そんな中生まれた無個性がただ人類の進化に乗り遅れた旧人類なのか、わしは疑問に思った。」

 

「幸い旧友が協力してくれた。一分のサンプルもそれに個性を与えた時にどうなるかも、ありとあらゆることを実験できたのじゃ。」

 

倫理も道徳もないその実験で何人の命が死んだのだろうか。苦虫を噛み潰した顔で続きを促す。

 

「無個性の人間はな、個性の器としての適性が個性持ちの何倍もあった。二つや三つの個性なら余裕で使いこなせる。そのおかげで上位個体の脳無の研究は良く捗ったわい。」

 

「だから、大きな歪みを持って育ち、それも無個性である死殻木弔、最高の器じゃった。」

 

話がそれたなとつぶやいてまた話す。

 

「皮肉なもんじゃのう、個性社会と呼ばれるこの世界で最強の才能は無個性にしか宿らない。AFOかOFAか。それ以外は有象無象じゃ、相手になるまい。とにかく、二つや三つじゃない数の個性を併用した戦いになるんじゃ。この目でわしの正しさを見届けられないのだけが心残りじゃのう。」

 

 

佐々木過渡はその大量の共有(リンク)した個性によって単純なパワーだけならば全盛期のオールマイトすらも超える。スペックだけなら間違いなく世界最強だと、誰もが認める。

 

「目ざわりだよ、お前。」

 

「お前の相手は僕だろっ!」

 

瞬きをしないという縛りはあれど、それほどのスペックを持ちながら佐々木は緑谷と組んでさえも死殻木を圧倒できない。一度加速を体験したことによる純粋な成長、加速に食らいつくだけの肉体に死殻木の身体は変化した。

 

(くそっ、くそくそくそっ!)

 

まだ、食らいついているだけ。でも完璧に対応されるのも時間の問題だ。それでも佐々木が全力を出せるならばこの時間で倒しきれるはずだったのに、そうできていない。理由は明らかだ。佐々木は今、共有(リンク)した個性を重ね掛けできていないから。奥戸島での戦いでは意識せずともできたことが、ここにきてできなくなっていた。筋力増強やジェットを重ね掛けすることで得られる圧倒的なパワーとスピード、何重にも重ねることで誰もが予測できない回避性能を実現する変態、そして、死以外のダメージを一瞬で無に帰す重複された超再生。

 

(なんで今、急にできなくなるんだよッ!)

 

いままで出来たことができなくなる。何かに邪魔をされているようにすら感じた。先生に戦い方を習った。彼がさんざん重ね掛けする様を散々見てきていたのに。

 

「ッッ!」

 

顔を握り潰さんと迫る手のひらを紙一重で躱す。その瞬間瞼が落ちてくる、視界が少しずつ閉じていくのがまるでスローモーションのように感じられて、視界が悪くなっていく最中なのに、死殻木の口角が上がるところまで映ってしまって、

 

パッ!ダンッ!!

 

「ぐふッ!」

 

凄まじい出力で張り飛ばされる。瓦礫にぶつかって、自分が塵になっていない事実に驚愕する。崩壊で塵にされればそれだけで決着がついたのに。死殻木を見ると、彼は忌々しそうにイレイザーヘッドを睨みつけていた。

 

「なんだよ、今更カッコつけるのか、イレイザーヘッド」

 

「まだ、指導が必要な生徒が残ってるんでね。」

 

「ッ!」

 

その言葉が自分のことを指しているはずはないのに、それが自分に向けられた言葉だと錯覚仕掛けた。取り返しのつかないことをしてきた、そんな錯覚することなんて許されないのに。

 

 

「邪魔しないでよ。いまさら余計な感情に引っ張られたくないんだからさ。」

 

先ほど張り飛ばされた影響か、立ち上がった瞬間意識が朦朧とする。その隙間を縫って印照才加の人格が目の前に幻視された。乗っ取られてもおかしくないはずだったが、今自分の意識が主導権を握れているのは幸運だろう。

 

「…」

 

「分かってる、君に主導権を渡した方が良いってことくらい。」

 

本物と偽物、本物の限界を超えて、そして偽物では超えられない壁にぶつかった。

 

「この力は借りもので、君が使っても僕が使っても持ち主への冒涜だ」

 

だから僕が個性を上手く扱えないままに戦うのは合理的じゃない。印照才加の人格で戦ったほうが良い。

 

「でもこれは僕がしなければ意味がないんだ。僕が僕の意志で、使える手札でやらないと。」

 

正しいと思ったことをして、その結果罪を犯した。その罪を償うことはないからこそ、自分の犯した罪の一つとして、反省も後悔もしないために、君の人格で戦っちゃダメなんだよ。

 

「だから引っ込んでなよ。最高のヒーロー。」

 

そう言えば、印照の人格は靄となって消えた。立ち眩んでた数秒間の話だ。超再生が体を最適な状態まで戻してくれるまでの数秒間。今の僕にはこの数秒が数秒とは思えないくらい引き延ばされて感じていたけれど。

 

「筋力増強×2+ジェット×6+変態×2」

 

カチャンとはまるような、個性を完璧に扱えるという全能感に包まれる。強く踏み込んで、死殻木からの攻撃を守るようにイレイザーヘッドの方に飛び込む。個性の重ね掛けにより上げた速度によって死殻木の攻撃を十全に受け切った。

 

「+超再生×8」

 

受けた攻撃を超再生ですぐさま回復させる。

 

「なんだよ、今更来たって遅いってのにな、s…」

 

「スマーッシュ!」

 

攻撃を受け止めて死殻木の動きが止まったところに緑谷の蹴りが炸裂する。それと同時に、緑谷がうずくまった。加速の時間切れだ。

 

「一分間、俺達でしのぐ、次の五分で確実に決めろよ緑谷。」

 

「…ッ!でもっ…!」

 

二人だけではと何とか起き上がろうとする緑谷にイレイザーヘッドは続けて声をかけた。

 

「大丈夫だ、俺達は、ヒーローは全部拾う。」

 

その言葉に呼応するようにギャングオルカにプレゼントマイク、ミルコ、ルミリオン、そしてベストジーニストが空飛ぶ雄英から戦場に加わった。




個性二つ持ちである轟君は苦しい訓練の末に半冷半燃を使いこなしていますが、仮にそのへんの無個性の人に半冷半燃を移植したならばその日のうちに二つを完璧に使いこなせるイメージです。無個性が個性の扱いに長けているというのは原作にあったとしても話は矛盾しないですが独自設定です。
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