内通者   作:三軒過歩

64 / 71
内通者と総力戦

「今度は一分、倒さなければならなかった先ほどまでと比べて随分楽になったじゃないか。」

 

「それならこの体でも十分だなあ!」

 

ベストジーニストが、ミルコが、

 

「デクにだけ戦わせるわけには行かないよね!」

 

「お前を倒して総決算といこう。」

 

ルミリオンが、ギャングオルカが、

 

「俺達が共闘するなんて、インターン(あの時)以来じゃねえか。」

 

「そうかもな。何の因果か、お前がワープで来ちまった。」

 

プレゼントマイクとイレイザーヘッドが、それぞれ一言ずつ言って臨戦態勢を取った。

 

 

「YEAGHHHHHHHH!」

 

「ガアアアアアア!」

 

プレゼントマイクとギャングオルカの波状攻撃で死殻木の動きを鈍らせる。

 

「+防音」

 

防音の個性で爆音波の影響を受けず、さらに一切の音を立てずに筋肉増強で強化された蹴りを撃ち込んで、それを死殻木は右腕で受け止める。

 

「不意打ちしないと時間稼ぎすらできないもんなあ!」

 

そう言いながらベストジーニストのワイヤーを左腕で受け止めて、ワイヤーごとベストジーニストを投げ飛ばす。

 

「+変態」

 

足を変形させて右腕に絡みつかせる。

 

「前に出張ってくるのかよ、イレイザー。」

 

左腕はジーニストのワイヤーで動きが鈍くなっていてイレイザーヘッドが右腕を捕縛布で固定した。五人で作り出したその隙をルミリオンを目くらましにミルコが突撃する。

 

踵半月輪(ルナアーク)!」

 

ゴツッ!

 

兎の耳は人間よりも何倍も優れていて、こんな爆音波の中突撃したら耳がまともに機能しなくなる。兎にとって聴覚がどれほど大切なものか、聴覚を捨てないだろうという先入観が不意打ちを今度こそ完璧に成功させる。

 

「あがっ!」

 

それだけじゃない。イレイザーヘッドの捕縛布で右腕と左脚それぞれに義手と義足を無理やり括り付けて、そして彼女の圧倒的センスを持って、四肢欠損時では考えられない速度と威力をもって蹴っていた。

 

「こっちに!」

 

二発目の蹴りを打つ隙は与えずに立て直して反撃をしようとする死殻木をみて叫ぶ。プレゼントマイクとギャングオルカの爆音波は終わり、彼を止めおく物はない。まだ十秒程度しか稼いでないんだ。戦力は減らせない。

 

「一番弱いのに面倒だな、イレイザー。」

 

イレイザーヘッドは要だ。彼を守るようにプレゼントマイクがヴォイスで応戦する。防音を持つ佐々木と透過を持つルミリオンが死殻木を留めようと動く。

 

「ちゃんと庇えよ。」

 

「出力上げろ!」

 

プレゼントマイクに言葉を飛ばし、個性を重ね掛けする。

 

「筋力増強×8+防音!」

 

dump!

 

「往生際が悪いな、もう俺は()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「うッ、ぐぅ…!」

 

自分でも不思議な感覚。さっきまで出来なかった個性重ね掛けが当たり前のように、奥戸島の時よりもはるかに高精度で出来る。それでも死殻木の攻撃を受け止めるので精一杯だ。単純なパワーなら負けていなくともその圧倒的パワーを佐々木は持て余す。

 

「あたしらもッ!」

 

「無視しないでもらおうか!」

 

筋肉の張替の隙を埋めるようにベストジーニストとミルコが割って入る。遠距離攻撃に徹していたギャングオルカも前線に加わって、死殻木の攻撃をいなし、躱し時間を稼ぐ。

 

「一撃離脱の時間稼ぎ、デクに繋ぐためだけの戦闘、どうして戦闘になると思った?すべてを壊す、俺とは戦いのスケールが違う、そんなざまで。」

 

爆音波の中、その言葉を聞く者はいない。だけれど、その言葉の前と後で、ヒーロー側は大きく変化する。死殻木がヒーローたちの攻撃を振り払ってギャングオルカ接近する。

 

「ギャングオルカッ!」

 

ルミリオンの悲鳴染みた警告が響く。

 

「ジェット×8+変態×3!」

 

飛び出すも間に合わない。死殻木の拳がギャングオルカの胴体を貫く。

 

「う、ぐぅ…」

 

「後衛が前衛に出張るからこうなる」

 

うめき声をあげるギャングオルカが、その実、最期の抵抗をしようと深く息を吸い込むその姿を目にして、佐々木は動き出す。

 

「うおおおおおおお!」

 

「ッ!防音壁!」

 

捨て身の爆音波をより効果的に与えるように、死殻木とギャングオルカを音を反射する壁で囲う。

 

「ぐ、あ゛あ゛…」

 

「防音+筋力増強×4!」

 

己の両耳に防音の個性を施して、防音壁の中に入っていく。防音壁、壁とは言えど、留めるのは音だけ、入ることも出ることも自由。だから死殻木はその場を離れようとしていると思っていた。

 

「あぐっ」

 

爆音に悶えながらも死殻木が顎を強打する。佐々木は意識が飛びかける。待ち構えていた死殻木に先手を打たれてしまって、その隙に追撃ができただろうに死殻木はそれをしなかった。ギャングオルカがまだ()()だったから。はじける視界がギャングオルカの首が刎ねる瞬間を映した。

 

(…ッ!)

 

情けなさが、自分への怒りが、ふつふつと湧いてくる。自分よりも瀕死のギャングオルカの方が脅威と判断された。その事実にどうにかなりそうだ。でもどうにかなっていられるほど現状に余裕はない。まだ四十秒ある。

 

「ここにきて聴覚を大事にするやつなんかいないか。」

 

防音壁の中に入ってこようとしているヒーローたちを見て死殻木がその壁から飛び出て応戦する。前衛が一枚減った、その隙は同じく前衛のルミリオンとミルコ、そして佐々木に集中する。

 

「変態+空気凝固!」

 

空気の壁をミルコの前に張って、一瞬のラグを生み出して躱させる。

 

「足場ァ!」

 

一瞬だけルミリオンと目線を合わせる。どちらが足場を用意するかの疎通を済ませて、佐々木は死殻木の動きを封じにかかる。

 

「筋肉増強×4+変態×4!」

 

月頭鋏(ルナティヘラ)!」

 

ズドンという衝撃の直後、土煙からミルコが飛び出してくるが、その表情は渋い、よく見れば義足が両方とも外れていた。

 

「義足じゃ万全な攻撃にはならないだろう」

 

土煙のなかからそんな言葉が聞こえてくる。そんなことはこっちも知ってて、目的は土煙で視界を悪くすることだ。ギャングオルカが遺した超音波はいまだ防音壁の中で荒れ狂っている。その音波に指向性を持たすことの出来る唯一のヒーローがこの場に居た。

 

「ラウドウェイブ!」

 

その叫び声と同時に防音壁を解除する。荒れ狂う音波の塊が死殻木を襲った。

 

「あッ!がッ!グッ…」

 

「ヒーローは何度でも限界を超えるッ!死にながらもだッ!」

 

ベストジーニストがその場から逃れようとする死殻木の両足を縛る。

 

「筋肉増強×4+ジェット×8+変態+防音!」

 

筋肉増強で威力をジェットで速度を、変態でさらに効果的な形態を。腕を鋭利な刃物のように変えた攻撃はスパンという音と共に、死殻木の薬指と小指を切り落とす。その攻撃を加えるためだけに、ギャングオルカは命を懸けた。

 

「成長の免罪符で再生する暇は与えんぞ」

 

イレイザーが佐々木が付けた傷口に短刀を投げ刺し、刺さった短刀をルミリオンが引き裂くように振りかぶる。

 

「ああ…一人殺すたびにこんな抵抗をされるのかよ。つくづくヒーローってやつは俺の想像をゆうに超えやがる。」

 

そう言ってにやりと笑うその姿に危機感を覚えたイレイザーヘッドが叫ぶ。

 

「山田叫べ!」

 

(間に合え!)

 

ルミリオンがカバーに入ろうと、透過で瞬間移動する。動きを制限する超音波を打てるヒーローが一人欠けてしまっている。その瞬間移動は。

 

 

俺は生まれた時から個性が発動していて、産声でお袋やその場にいた看護師の鼓膜を破った。俺の個性は使い方を間違えれば人を傷つけるものだったが、この個性は俺のアイデンティティそのもの。この個性であることを後悔したことは一度も無い。ただそれでも。

 

「やっすい音だなあ。」

 

耳郎響香、個性イヤホンジャック、期末試験で戦った時には既に感じていた。彼女の個性は俺の上位互換になりうると。

 

「まーだでーすかー!」

 

あんたは俺の上位互換だよ。だって、のどがつぶれても、()()()()()()()()()()()()、お前は攻撃できるんだ。心臓が動く限り、()()()()()()()、イヤホン=ジャックはヒーローであれる。それが頼もしいと同時に、羨ましい。

 

 

間に合わない。

 

「Agh...カフッ!」

 

「肺が無ければ声は出せない。」

 

今俺はなにもできないでやられる。ギャングオルカのように残すこともできない。ただ、足手纏いにはならないために。胸に刺さった片腕を掴む。残りは二十秒。

 

「筋肉増強×4+変態×5!」

 

稼ぐはコンマ数秒、腕が俺の身体から引き抜かれる前に、死殻木の指を落としきるための時間。ばねのように足をしならせて飛び込んできた佐々木がブレードのようにした腕で死殻木の指をプレゼントマイクの胴体ごと切りかかり指を一本飛ばす。その攻撃のためだけに、プレゼントマイクは命を懸けた。

 

「筋力増強×4+超再生×8+…」

 

肉体強化で死殻木の殴打を受け止め切る。右手も左手も指が欠けているのに、そんな枷がないかのような威力が襲う。痛みに瞬きを一つ。その瞬間はイレイザーヘッドが瞬きする瞬間と同じ。

 

「なるほどな!ちゃんと勝ちに来てたのかよ!」

 

脳無の個性をいくつも重ね掛けて、オールマイトを超えるパワーを持っても殺しきれない。OFAを完全に使いこなせていた緑谷出久ですらも、死殻木を倒すには至らなかった。そんな怪物、スーパーヴィランを一撃のもとに屠る方法が一つだけある。

 

共有(リンク)+崩壊!」

 

死殻木の持っている超再生がちぎれた指を復活させる。すぐさま再生した五指で崩壊の個性を発動させようとするが、再生の分一瞬佐々木の方が早い。

 

「んなっ!」

 

受け止め掴んだ左腕を崩壊させようと崩壊を発動させた瞬間、死殻木は迷いなく自分の左腕を肩口からちぎって崩壊の伝播を防いだ。尋常じゃない判断力に動きが鈍る。

 

ゴン!

 

「うごっ…!」

 

強烈な一撃を食らい視界が弾けてうずくまり意識が飛びかける。

 

「やっぱりお前よりイレイザーの方がよっぽど面倒だな。」

 

崩壊を死殻木にかける作戦が失敗したことを瞬時に判断し、再び死殻木に抹消を掛けた。そのおかげで佐々木は塵にならずに済んだ。半端に再生を止められた左腕を見ながらそう言った。

 

(イレイザーが無防備だ、ヤバイ!)

 

本物ヒーローの命をチップに使った作戦だ。仮に死殻木を殺せたとしても釣り合うとは言えないがだからこそ最低限致命傷は与えなければならなかった。それができなかったことのしわ寄せをヒーロー側は受けなければならない。

 

「私を投げ飛ばせ!」

 

イレイザーヘッドに向かって行く死殻木を見たミルコが叫びベストジーニストがミルコを死殻木の方に回転を加えて投げ飛ばす。欠損により不足した威力を補うように回し蹴りをー

 

「三人目。」

 

ミルコの命の最後の輝きが

 

「超再生+ジェット+変態+剛健!」

 

佐々木が死殻木の一撃のダメージを押してイレイザーを守る時間を稼ぎきった。死殻木の攻撃からイレイザーヘッドを逃がし、そして。

 

「イレイザーヘッドだけは潰しておきたかったんだけどな。」

 

緑谷出久が戦場に舞い戻り、

 

「そうだね。この戦いに僕達以外は相応しくない。」

 

AFOが佐々木に施した切り札が発動する。




今回初出の共有(リンク)した個性が暴れまくっててご都合感があって少し申し訳ない感じがしてますが自作品とのクロスではあるので許してください。この展開のためにあっちの作品を生み出したんです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。