内通者   作:三軒過歩

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緑谷出久の証明

緑谷の思念を再現したとき緑谷のすべてを知った。それは知識として知っている範疇を超える。彼の原点となるその記憶、その場面を自分毎のように思い出せる。

 

「君はヒーローになれる」

 

あのオールマイトの言葉に嘘は一片たりともないと断言できる。緑谷出久の原点としてその言葉は生き続けている。だけどあの場を唯一部外者の人間として体験した僕は思うのだ。その言葉はオールマイトの個性が譲渡可能だったから言えた言葉なのではないかと。だって彼は無個性でもヒーローになれるとは言わなかった。彼が訂正したのは緑谷出久がヒーローになれないと言った事実だけで、無個性はヒーローになれるということは訂正してないのではないかと。

 

揚げ足取りと言えばそれまでで、実際OFAは譲渡できる個性だからこの思考は意味のないものだった。今この瞬間までは。

 

「ワープゲート」

 

黒霧の個性で作戦本部とつなぎ切り札を手に取る。

 

「おいおい、僕の前で個性を使えるとでも?」

 

抹消が発動するがワープゲートは消えない。これは予想通り。ワープゲートを抹消したいなら黒霧を視ないと意味がない。この場では共有(リンク)の個性を抹消しても目的は果たせるがその個性はAFOの中だ。

 

共有(リンク)は残る、だったね。半端者の君が僕に唯一抗える一人に選ばれてしまうなんて、フフ。でも残念だ、君では脅威たり得ないよ。」

 

それはそうだろう。本物の英雄(ヒーロー)にも(ヴィラン)にもなれない紛い物が本物を倒せるわけがない。だから。

 

「先生を倒すのはデクですよ。僕の全ては本物のために、ただ繋ぐだけです。」

 

ワープゲートを大きく広げアーマーのシステムを管理するエルクレスを連れてくる。

 

「エルクレス、これを一番使いこなせるのは製作者でもオールマイトでも、才能マン(爆豪勝己)でもない。」

 

身体は完成していた、最初からOFAを扱えたオールマイトは圧倒的な力で他者に対する分析なんていらなかったから。力を手にする前、そして力を手にしてからも、個性を分析し続けたー

 

「ー緑谷出久が一番使いこなせる。」

 

君はA組の個性を一番理解している人だから。

 

 

「あの二人に任せて良かったのか?」

 

警察の特殊部隊に指示を出した合間、アーマーを素直に渡したオールマイトに塚内が問う。

 

「正直私が行くべきだと思った。同じ無個性なら責を子供に負わせるべきじゃない。だけど私は()()()の彼に言ったんだよ。」

 

一度言葉を切って告げる。

 

「君はヒーローになれる、ってね。」

 

その言葉に不安はない。

 

 

個性を持って暴れる敵に相対出来るのは同じく個性を使えるヒーローだけ。それが世界の共通認識。警察が敵受け取り係と言われるのは警察が個性を使えないから。でもソレは無個性の人間が個性を使う人間に勝てないこととイコールじゃない。無個性でも棒切れの届く範囲は守れる。

 

「仕掛けるタイミングは向こうからの合図があった瞬間、或いは私が行くべきと判断したときだ。ただの一般人が君たちの上に立ってしまったけれどどうか迷わないでくれ。」

 

ヒーロー免許は返納した。それでも彼を一般人というものなどこの世界には存在しないだろうに、彼はそう自称する。平和の象徴が後継に引き継がれたと確信したから。

 

 

「ジェット×4+変態+筋力増強」

 

「シュガーマン、ウラビティ、インゲニウム!」

 

無数の攻撃手段を持ち、的確にそれを使い分けてくるAFOの動きを予測するのは不可能に近い。それでも初手だけはどう動くか、それはオールマイトから伝えられていた。

 

「初手は雑に遠距離攻撃って、確かに雑だけど!」

 

一気に接近した二人、遠距離攻撃を接近して躱そうとして、自分に向かった攻撃を佐々木君に出来る限り肩代わりしてもらって尚、エルクレスの装甲の二割が削れた。

 

「超再生がある限り、半端者でも肉壁くらいにはなれるもんな、それで繋ぐとは笑わせる。」

 

AFOの動きは予測できない、それでも期待してしまう、未来視染みた予測能力を持っている彼ならあるいは、動きを見切って動いてくれるのではないかと。

 

「筋力増強×8+変態+ジェット×4!」

 

「筋力増強」

 

彼の出来る限りの強化を施して放つ拳はAFOに受け止められる。

 

「+防音!」

 

「イヤホン=ジャック!」

 

「雑な遠距離攻撃の見本かな、九代目!」

 

佐々木君の援護へと打った攻撃はわずかに動きを鈍らせるだけ。反撃が来る。

 

「ッ、レッド!」

 

何とか烈怒頼雄斗の個性で防ぐ。その間にも戦況は動く。

 

 

新秩序という個性の存在を聞いたとき、まさしく神の如き個性だと思った。超常が日常に変わった社会で尚、その力は超常と呼ぶにふさわしくて、それとOFAが並ぶという先生の言は正直受け入れがたかった。OFAは継承者が英雄だから強いのであって個性自体は他より優れてはいれど、圧倒するほどではないと。

 

「僕を前にして個性を使えるからって勘違いしてしまったんだろう?君がただ人だってもう一回突きつけてあげよう。」

 

それが間違いだったと痛感する。OFAには他の個性にはない真価が隠されていた。

 

浮遊にジェットをも超える機動力を、ただ自分の身を隠す程度の煙幕に圧倒的な範囲と量を、人ひとりの体重程度しか支えられない耐久力の黒鞭に大型車を引っ張れるほどの強度を、物理的な危機しか感知しなかった危機感知に相手の悪意にも反応しうる精度を、力の蓄積でしかない発勁に溜めた力以上の力を放出させる力を、触れたモノの速さを変えるだけの変速に物理法則すら捻じ曲げる力を、OFAは個性の真価を引き出す個性だった。

 

そして、OFAの歴代の個性はそれ一つでは強力とは言えない物ばかりだ。では今この時、AFOが持っている単体でも強力な個性がOFAによって真価を引き出されたら、何が起こるだろうか。

 

「筋力増強×8+変態+ジェット×4」

 

「筋力増強」

 

自分の出来る限り最高の威力、筋力増強を八つ重ね掛けした拳がただの筋力増強一つの拳で受け止められている。

 

「OFA、弱個性を強力な個性に進化させる個性。」

 

ただひたすら傷つけられて、超再生で治り始めたと思えばすぐにまた痛めつけられる。戦闘というよりは拷問といった方が近い様相を呈していた。這う這うの体で逃げ出すこともできず、ただ睨みつける。視線が交わった。

 

「頭を潰せば済むのに、余裕…ですね」

 

手負いのヒーローが最も恐ろしいと先生は良く言っていた。だからまあ、ヒーローではない自分が手負いだからと言って恐れることはないのだろう。絶対に後悔させてやる。先生のような本物には考えつかないような、半端者のやり方で。

 

「君が懇願するなら終わらせてあげるよ?」

 

共有(リンク)が渡される。

 

「個性強制発動、共有(リンク)

 

超再生の共有(リンク)を全て切られて、再び共有(リンク)を奪われて殴打で吹き飛ばされた。

 

「うがっ…!」

 

「さあ、致命傷がちゃんと致命傷になる戦い、条件は九代目と一緒だ。でも半端者の君はもう戦えないだろう?降伏しなよ。悪いようにはしないから。」

 

「ハハ、悪辣ですね。先生ならそうしてくるって思ってましたけど。」

 

そう言った瞬間、AFOの皮膚が弾けた。

 

 

皮膚が弾ける感覚、この感覚には覚えがある。新秩序を奪った時と同じだ。だが確定的に違うことがある。それはキャスリンベイトーと違って佐々木過渡の精神世界での反逆は脅威足りえないということ。精神世界に意識を半分置いて、暴れている佐々木を捕える。

 

「精神世界の扱いになれているのは君だけじゃない。君はスターになれないよ。」

 

「そりゃそうでしょう。」

 

何を当たり前なことをと声音に乗せて言う。自分を半端者と表現したのは先生だろうにと。

 

「じゃあこの無駄に見える抵抗は布石なのか。九代目を随分評価してるみたいだね。」

 

「この戦いが終わったあと彼は必要ですから。後遺症が残ったらことです。」

 

勝つことを微塵も疑っていない。彼が信頼する英雄は自分がいなくても勝つと信じて、いや、確信している。

 

「その確信を砕いて…おっと。」

 

蹴りを受け止める。この精神世界で目の前の半端者以外に歯向かえるものがいるはずないと、声音には隠した焦りをもってその存在を見やる。焦りはすぐに晴れた。

 

「思念再現できるのは一人だけじゃないってことかな。」

 

気づけば十を超える佐々木に囲まれていた。

 

「視線を合わせたのは数秒程度だけど、何人送り込んだのやら。」

 

AFO精神世界には奪った個性の持ち主の人格がいる。彼等は僕の思うがままに操れる。囲んでいる佐々木達が送り込んだ全員ではないだろう。紛れ込んだ佐々木をあぶり出せと人格たちに指示を出して、その指示が通らない人格があることに気づく。

 

 

弾けた部位を確認する。右脚が弾けた。精神世界での奇襲は成功するだろうから右手が弾ければOFAを、左手が弾ければ抹消を破壊できた合図としていた。そして下半身が弾けた場合、その二つの個性破壊は難しいという合図。ここからは消耗戦だ。現実世界の意識の割合を増やさせて精神世界で叩く。

 

「前に出てもらうよデク。ここからは前衛二人だ。」

 

目線を合わせて指示をだす。エルクレスの防御機能は消耗品だ。だから攻撃をなるべく受けないように援護に徹してもらっていたが、ここに置いては少しでも苛烈に攻めなければならない。もとよりデクは近接戦の方が訓練してきている。

 

「ジェット×4+変態」

 

「ブラックウィップ、セロファン!」

 

高機動で撹乱し、タイミングを合わせて攻撃を差し込む。それをAFOはものともせずに受け止めた。

 

「筋力増強+変態×7」

 

「グレープジュース!」

 

変態で一瞬の拘束、振り払われる前にグレープジュースで数瞬の拘束、その隙にレ-ザーが襲う。

 

「CAN'T STOP TWINKLING!!」

 

AFOを留める光線と同時にX-66(エックス・ダブルシックス)もレーザーを集中させる。しかし彼らが集中させたレーザーはAFOを留め続けることはできない。本来ならば。

 

「イヤホン=ジャック、ピンキー、インビジブルガール!」

 

逃がさないために、さらに追撃をデクが打ち込んで、

 

「+防音」

 

佐々木が変態で拘束を維持して、体をレーザーに焼かれながらAFOを留め続けていた。

 

「小賢しい真似だ。哀れにすら思える。」

 

AFOが佐々木見下ろす。それが佐々木に致命的な反撃を許すことになると知らずに。

 

 

「精神世界の肉体は思念に引っ張られるってのは納得しやすいことではあるが、こうなるのか。」

 

囲んでいる佐々木を瞬く間に蹴散らして、その瞬間自分の中にストックされていた個性が消えた感覚があった。現実世界の肉体にもダメージが入る。精神世界に来た佐々木が奪った個性の人格に自分の人格を上書きしたことによってその肉体も佐々木のように変化し、自分に歯向かってくる。戦力としては雑魚だが、本物を殺さない限り永遠と増え続ける。それくらいこの体には大量の個性がため込まれている。だが、未だ抹消とOFAはこちらの手の中、してやられたことに憤りはあれど、今乗っ取られた個性を全て破棄して佐々木に変化した個性ごと佐々木を殺しても損害は少ない。そうするべきだと手をかざした瞬間。

 

「セントルイススマッシュ!」

 

DOMP!

 

「はは、ただ人となった君が自損覚悟の拘束なんてできるわけないと思ってたけど、そういうことか。」

 

送り込まれた精神体の姿は九代目の物だ。佐々木が今自分の肉体を緑谷の人格に操らせていることの証拠。疑問が一つ氷解して、そして九代目もこの精神世界で自分の脅威ではないという事実は先ほどの奇襲で分かった。攻撃にOFAは乗っていたが所詮は残り火、本体を奪った自分に通用するわけもない。だから、一瞬遅れた。佐々木が思念再現で個性すらも再現したという事実に気づくことに。英雄(ヒーロー)が脅威なのは限界を超えるから。道具を扱う九代目と、共有した(借り物の)個性で戦う半端者、道具に、借りもの、限界を超えることはない。唯一半端者の過去視だけが限界を超えうる可能性を秘めていたが、英雄(ヒーロー)ではない彼は過去視をplus ultra(さらに向こうへ)と導けない。だから過去視が限界を超える可能性を排除していた。過去視が自分の脅威たる(思念再現がAFOを再現する)事実にAFOは戦慄する。

 

(僕の中にあるAFOの個性因子が掴まれて…奪われれば僕の中にストックされた個性全てが牙をむくことになる…!!)

 

個性の綱引き、しかし対象はAFOだ。精神世界で決して負けられない戦いが展開される。

 

「英雄に対する狂気的な信頼、その信頼に応える狂気的なヒロイズムを持つ方も持つ方だけれど…!」

 

 

レーザーで焼かれて留まっているAFOの雰囲気が変わる。

 

「半端者がいつまでも足掻くな!」

 

レーザーに両腕を焼かれている。変態の個性でダメージは減らせていれども、この戦いが終わった後彼の両腕が残る保証はない。それは、飲み込んだ。犯罪者である彼に後遺症が残る事実、綺麗事を実践する者として許容できるのはそこまでだ。必ず彼は生かして罪を償わせる。それが緑谷出久が英雄としてこの戦いに掲げる決意。

 

「デラウェアスマッシュ・エアフォース!」

 

佐々木を殺そうと振り下ろされる攻撃を風圧による攻撃で防ぐ。

 

「小賢しい真似を…!」

 

今まで残り火による攻撃をしてこなかった。これは合図。X-66(エックス・ダブルシックス)に続いて、日本の対特殊部隊がAFOを狙撃する。

 

「危機感知でどこから飛んでくるか分かるのに遠距離狙撃が僕に通用するわけないだろ!?」

 

レディナガンのような危機感知範囲外からの超々遠距離射撃ならともかくせいぜい一キロに届かない距離からの狙撃は全て感知される。佐々木に振り下ろされた致死の攻撃をわずかばかり遅らせるだけで止めるに至らない。

 

ボッ!

 

「なに?」

 

ただ、一発を除いて。

 

「害意を消しての狙撃、君に対して危機感知をかいくぐれるのは私だけだよ、親友」

 

こめかみに突き刺さった銃弾が、AFOに止めをさした。

 

 

精神世界での綱引き、それは現実世界で本体が死ねば解決する。さっさと殺してしまおうという焦りが、防御を危機感知だよりにした。危機感知は進化した結果悪意や害意にすら反応するようになって、だから悪意のない一撃を危機感知は感知できなくなった。

 

脳が吹き飛ばされても核さえ無事ならやられることはない。そもそも銃弾は突き刺さっただけ、特殊な音波を発する銃弾だったらしく、意識が数秒飛ぶだけだ。復活まで数秒もかからない。それがこの場では致命的だとこの場の誰もが知っていた。

 

「ッ…!返せッ!それは、僕の物だ、与えられたものですらない、僕の、僕だけのッ!」

 

レーザーによる攻撃が止んで、その場に残るのは四肢が欠損した佐々木と全身の皮膚が破裂し始めたAFO。再現した緑谷の人格は自分から引っ込み、なぜこの局面で自分に主導権を渡してくれたのか、それを理解した。

 

「こんなことして、()()()()()()()()()、最期にとんでもないことをしてくれたなァ!」

 

ため込んだ個性をAFOなしでは支配出来ない。個性からの反逆にあって放っておいても一分と持たず、彼は死ぬ。

 

「そうですね、ここで生きて帰れないから僕は半端者なんです。でも、これで道連れだ。だから、もう…」

 

超再生を失った佐々木の肉体がレーザーの攻撃に耐えられるわけもなかった。失った血が多すぎる。今意識を保ててるのが不思議なくらいだ。

 

「佐々木君、変態で止血を!すぐに治療できるところに運ぶから!!」

 

変態で失った四肢を疑似的に再現、ジェットを使って飛び出す。死にかけとはいえAFOを前に彼は追ってこれないだろう。最期の時、罪のない人間を殺した罪人として一人で死ぬべきだと思った。いや、本当は本物の英雄と本物の敵、その場にいられなくなって逃げ出しただけなのかもしれない。もしくはー

 

「君に最期を看取ってもらうことになるとは思わなかった。」

 

ー内通者としてではなく、佐々木過渡としての未練がそうさせたのかもしれないと、目の前に現れた印照才加に告げたのだった。

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